「くっ、殺せ!」と屈服した女騎士を拾ったので虐待することにした。

歩く、歩く。

文字の大きさ
1 / 93

1話 女騎士を拾ったので虐待する事にした。

しおりを挟む
 圧倒的な力の差だった。鎧は砕け、剣は折れ、茶色の髪は自らの血で汚れてしまった。
 セレヴィ・F・ラーゼフォンは膝を突き、絶望をにじませた瞳で男を見上げた。彼はオールバックの黒髪を撫でながら、悠然と目を細めた。

 燕尾服を纏った、気品ある男である。嘲るような笑みを浮かべているが、それすらも見惚れてしまうほどの美に満ちた、人ならざる存在だ。
 魔王ガレオン、それが奴の名である。

 突如として人間界に現れた脅威に、リティシア王国は王国騎士団を派遣した。セレヴィ率いる、国内最強の精鋭部隊による討伐戦である。
 しかし、ガレオンには勝負にすらならなかった。

 奴が手を振るだけで大地が抉れるほどの衝撃波が起こり、睨まれるだけで足がすくんで動けなくなる。一分も持たず百人の騎士が倒れ、壊滅に陥っていた。
 このままでは、皆が殺される……!

「総員撤退! 一刻も早くここを去れ、私が時間を稼ぐ!」
「しかしそれでは、セレヴィ様が!」
「私にかまうな! 行け!」

 セレヴィは一人剣を取り、ガレオンへ立ち向かった。
 仲間達はセレヴィを置いて撤退を始める。一秒でも時間を稼ぐべく、セレヴィはガレオンに食い下がった。
 たとえ剣が折れても、誇りまでは折れやしない。ラーゼフォン家の名に懸けて、なんとしても魔王を止めなければ。

 使命感が、貴族の誇りが、セレヴィに力を与えたのだろうか。ガレオンと互角の戦いを繰り広げ、見事仲間達が撤退するまでの時間は稼げた。
 しかしセレヴィは力尽き、とうとう倒れてしまった。

 指一本も動かない……ガレオンを前に逃げるなんて無理だ。でも、仲間は逃がせた。私の使命は、果たせたのだ。
 ガレオンはセレヴィの頬に手を伸ばした。ああ、自分はもう、死ぬのか……。
 魔王の手にかかるくらいなら、自ら命を絶つ。だがもう、自決するだけの力は残っていない。奴のなすがままだ。



「くっ、殺せ……!」



「それはお前の命を、俺に渡すという事か? 潔い女だ、気に入ったぞ、その高潔なる魂を」

 ガレオンは邪悪な笑みを浮かべるなり、セレヴィに深いキスを落とした。
 あまりに濃密なキスにセレヴィは仰天した。直後、体に異変が起こる。
 心臓が激しく動き、痙攣が起こる。まるで自分が別の何かに作り替えられてしまうような恐怖を感じ、セレヴィは青ざめた。

「望み通り、お前を殺してやろう。契約は成立した!」
「く……そぉ……!」

 意識が薄れていく。ガレオンの高笑いが、いつまでも耳に響いている。
 セレヴィの命は途絶え、闇に堕ちていった。

  ◇◇◇

 桃の香りに誘われ、セレヴィは目を覚ました。
 体が軽くて温かい、ふわふわする。なんだかいい気分だ。
 誰かが肌を撫でているのか、少しこそばゆい。でもとても心地よくて、また眠ってしまいそうだ。
 大事な何かを忘れているような気がするけれど、なんだったっけ。
 そうだ、私はガレオンと戦って、奴に殺されたはず。じゃあここは、天国なのだろうか。

「はーい頭洗うっすよー」

 間延びした声の後、わしゃわしゃと髪を撫でられた。頭にお湯を掛けられて、やっとセレヴィは覚醒した。
 どこだここは、なんで私は湯あみをしているんだ?
 セレヴィが居るのは浴場だった。桃色の湯に満ちたユニットバスへ入れられ、多数のメイドに洗身されている。
 それも、ダークエルフのメイドにだ。
 その中の一人が顔を覗き込んでくる。うすぼんやりとした目をした、気だるげなダークエルフだ。

「あー、目ぇ覚ましたんすねー。グッドモーニン、髪切った?」
「切ってない! なんだ貴様ら、私に触れるな!」
「おーおーサービスしてやってるっつーのに、随分な言い草っすねぇ。つーかこんな状況で暴れてどうにかなると思ってんすか? 脳みそちゃんと入ってるっすかー?」
「この不届き者! たたっ切ってやる!」

 勇ましい声に反して体が動かない。まさか、この湯のせいで動けないのか。
 特殊な毒薬でも入れているのだろう。私をなぶり殺しにするつもりだな、卑怯者め。

「なんか勘違いしてるみたいっすから言っとくっすけど、単にあーたが変異したばかりで動けないだけっす。これアロマ風呂、リラックス効果の高い薬草てきとーにぶち込んでるから疲れ取れるっすよ」
「いやきちんと分量守って風呂を焚け……変異?」
「そーっす。あーた、主様に体作り替えられたんすよ。鏡で確認してくださいっす」

 鏡を見るなり、セレヴィは目を見開いた。
 耳が魔族のように尖り、小さな牙が生えている。首には黒い入れ墨のような模様が入り、喉元にひし形のマークが刻まれていた。

「な、なんだこれ……!」
「さーなんすかね、面倒くさいんで主様から聞いてくださいっす。それよかかゆい所とかねーっすかー?」
「もうちょっと右。じゃなくて! ここはどこだ! 私はどうして湯あみなんぞしているんだ! ガレオンはどこだ!? 貴様は何者だ! 私の体に何をした! 質問に答えろ!」
「あーうるさ。とりあえず眠ってくださーいっす」

 エルフが指を鳴らすなり、睡魔に襲われる。セレヴィは懸命に堪え、意識を保った。
 しかし、悔しいが気持ちがいい。アロマ風呂は想像以上にセレヴィを癒し、体も動けるようになった。
 湯あみ後に着替えを渡されるなり、セレヴィは絶句した。

「な、なんだこれは」
「何って、服っすよ。文句あるんすか奴隷のくせに」
「奴隷って言った? 今奴隷って言ったよな?」
「その首のマークは主様の奴隷の証っす。今のあーたはあーしより身分低いんすよ、奴隷の分際であーしに逆らうなークソ女がーやーいやーい」
「いやお前だって奴隷じゃないのか、同じマーク付いてるし。じゃなくて、だったらなんでこんな服を用意する!?」

 上質な布で作られた服だった。肌ざわりは絹よりも滑らかで、とても軽く、上品な装飾が施されている。貴族のセレヴィでも、これだけの品は見たことがない。

「こんなの申し訳なくて着れるか! もっと簡素なの持ってこい、奴隷らしいの寄越せ!」
「ぐだぐだ言わずにとっとと着ろっす」

 有無を言わさず着せられた。奴隷なのにこんな服、罰が当たってしまうぞ。

「なーんでそんなにびくびくしてんすか、いーじゃねーっすかぼろ布纏うより」
「奴隷なのにこんなの着せられて、落ち着いていられるか……なんのつもりだ、こんな上等なのを着せて私を辱める気か」
「奴隷だろうが身なりを整えろ、俺の品位に関わる」

 はっとし、セレヴィは振り返った。
 いつの間にかガレオンが居る。セレヴィを見下すように眺め、顎に手を掛けられた。

「貴様、私を愚弄する気か。私は騎士だ、私を奴隷としたのなら、それらしく扱え」
「黙れ」

 マークが光り、セレヴィは話せなくなる。マークがある限り、ガレオンに絶対服従するようだ。

「どうやら、自分の身分を思い知ってもらわねばならないようだな。覚悟しておけ」

 何をする気だ。ガレオンの不敵な笑みを前に、セレヴィは震えた。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

処理中です...