「くっ、殺せ!」と屈服した女騎士を拾ったので虐待することにした。

歩く、歩く。

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2話 得体のしれない餌を与え、粗末な部屋に閉じ込めてやった

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「さぁ、早く口にしろ」
「くっ……まさかこんな屈辱を与えるとは……!」
「ならばその手はなんだ、嫌ならば止めていいんだぞ」
「悔しい、だが、感じてしまう……!」

 なんたる屈辱だろう、騎士たる自分が魔王を前に屈し、このような辱しめを受けるなんて。
 けどだめだ、手が止まらない。口に運ぶたび、熱い汁が出てたまらない。肉の快感が、彼女を侵食していた。
 もっと、もっと欲しい! セレヴィは心からその熱い物を欲していた。

「欲しければねだるがいい、無様に物乞いする姿を俺に見せてみろ」
「くそぉ……おかわりを頼む!」

 セレヴィは皿を出し、小籠包を要求した。
 彼女は現在、夕餉を取らされていた。体を魔族にしたばかりだからか、とにかく腹が減っていた。
 それにしてもなんたる美味さだ、むっちりとした皮を噛む度に熱い汁が迸り、うまみが口いっぱいに広がる。肉の餡もジューシーで、ついつい手が伸びてしまう。

 セレヴィの心を蝕むのは小籠包だけではない。目の前には麻婆豆腐や回鍋肉、青椒肉絲と言った、見た事も聞いた事もない、この世の物とは思えないほど美味い夕餉が並んでいる。
 敵の施しを受けるなど騎士の恥だが、悪魔的な料理を前にセレヴィの心は折れていた。ガレオンの命令のまま、ただひたすら料理をむさぼる無様を晒していた。

 いいや、これは私が悪いのではない。ガレオンが食えというから仕方なく食べているだけだ。私は奴隷だから、仕方なく主の命令に従っているだけなのだ。

「というか、なんだこの食事は……」
「奴隷の分際で文句か、貴様は己の身分を分かっていないようだな」
「ならばなぜこんな豪奢な食事を出すんだ、奴隷が食べるものではないだろう」
「馬鹿めが、魔王たる俺が奴隷の扱いを心得ていないとでも?」
「! まさかこの食事の中に毒が」
「一人でも腹を空かせた奴隷が居ては俺の品格が落ちるだろうが!」
「至極まともな返事に驚きを隠せんぞ私は!」

 こいつ本当に魔王なんだろうか。否、だまされるな。こいつは私を魔族に変え、誘拐してきた男だ。どうせどこかで本性を現し、欲望のまま私を襲うに決まっている。
 警戒しながら、セレヴィは脱出できないか部屋を見渡した。

 周囲はメイド達が包囲しており、一部の隙も無い。誰かを人質にしようにも、全員の首に奴隷のマークが施されている。奴隷を盾にしても、ガレオンには何も響くまい。
 それ以前に騎士として、人質を取るなんて卑怯な真似はできない。

 窓から出て行くにも、無理がある。何しろここは魔王城の上層部だ、飛び降りれば確実に死ぬ。セレヴィは魔法が使えないから、空を飛べないのだ。
 今の所、ここから出る事は出来なさそうだ。

「さて、食事を終えた所で、改めて思い知らせてやろう。お前が魔界へ来た現実をな」
「……やはりここは、人間界ではないか……」

 魔王城に連れ込まれた時点で薄々予想はしていた。これだけ横暴な男が統治している世界だ、さぞかし荒れた土地なのだろう。
 バルコニーから魔界を一望したセレヴィは、言葉を失った。

 なんと豊かな世界だ。地平線を望めば人間界よりも美しい草原が広がり、眼下には発展した城下町がある。リティシア王国が霞むほどの荘厳な造りをした街には、魔族の住民が活き活きと生活している姿が見えた。
 それに澄み切った空気……呼吸をするだけで肺が清められていくかのようだ。夕暮れに沈んでいく太陽が、どこか名残惜しい。

「……ここ、どこ?」
「俺の領土だ。ふん、愚民どもめ。今日も今日とて俺のために働いているようだな。その調子で馬車馬のように働くがいい」

 本性が出たな。こいつは民の人権などまるで考えていない、冷酷無比な男なんだ。

「労働時間内でな! 残業する無能者はとっとと家に帰れ!」
「人権尊重してるぅ!? そこは役に立たねば死ねとか言うべき所だろう!?」
「過労死したら税収減るだろう馬鹿が」
「よかった、魔王らしい面残ってた」

 どうせこいつの事だ、相当額の税を搾取して私腹を肥やしているに違いない。必要経費と称して美術品などを買い占めていたりするのだろう。

「今日は下がれ、明日は城内引き回しだ、精々覚悟しておくことだな。マステマ! こいつを連れて行け」
「うーっす」

 あのダークエルフが手招きしてくる。指示には従いたくないが、セレヴィには奴隷のマークがある。命令に逆らえない。

「改めまして、マステマっすー以後よろしく。それとあーしがあーたの付き人になったんで、よろしくお願いしやーっす。なんかあったらまぁ、てきとーに申し付けくだせーっす」
「やる気のない態度だな、よくガレオンが許しているものだ」
「まーやる事ちゃんとやってるっすから。あ、ここあーたの部屋っすよ。奴隷の部屋っすからまぁ、そこそこ粗末なんで」
「覚悟している」

 奴隷にあてがわれる部屋、多分牢獄のような場所だろう。冷たい石の部屋が私を待っている……。
 かと思いきや。

「……何だ、ここは」
「あーたの部屋っす」

 天蓋付きのベッドに、見事な造りの椅子とテーブル。窓には格子ではなく、格子模様のレースカーテンがついていた。暖炉も完備で、魔法で火がついているのか、室温を完璧にコントロールしている。
 絨毯が柔らかい、雲の上にでもいるのだろうか。かなり上等な物だぞこれは。なんと温かな部屋なのだろうか。しかも寝間着まで用意されている。

「これ客間? 貴賓室? 何ここ?」
「あーた貴族っすよね? 元居た部屋に比べりゃ粗末じゃないっすか?」
「基準そこぉ!?」

 ボーダーラインが高すぎる、なんだこの高待遇は。

「なぜ私にこんな部屋をあてがった! 私は奴隷だろう、だったら奴隷らしい部屋と食事と服を用意せんか! 私をこれ以上愚弄するな!」
「あーた頭湧いてんすか? 普通なら喜ぶべきでしょうが」
「敵からの施しを受けて喜ぶ騎士が居るものか! 何が目的だ、私を利用してリティシア王国を脅迫するつもりか!? まさか後で拷問とかするつもりなのか! おい答えろ!」

「すいやせーん、あーし終業時間なんで帰るっす。そんじゃごゆっくりー」
「仕事しろぉ! 帰るの? 付き人なのにもう帰っちゃうの!?」
「だってあーたのためにあーし残業しちまったんすもん。だいじょーぶっす、夜勤担当メイドが居るんでそっちに頼んでくれっす。ちょっと頼めば紅茶と菓子が出るっすよ」

「夜勤担当メイド!? ここ交代制勤務なのか!?」
「そうっすよ。きちんと仮眠時間を確保してくれる上に、結構な額の手当ても出るんで割いいんすよ。んじゃまたっすねー」
「ああ、また明日……じゃなくて待て!」

 宣言通り退勤してしまった。しっかりしているメイドだ。
 一人残されたセレヴィは唖然とし、ベッドに倒れ込んだ。

「なんなんだここは……異常なまでにその、優しすぎやしないか?」

 しかし明日は城内引き回しを宣告されている。そうだ、これは希望を与えた後、屈辱的な刑を執行して絶望に叩き落とす作戦に違いない。
 ならば、この希望に甘んじるわけにはいかない。
 明日はきっと奴隷らしい服に着替えさせられ、手と首を木枷に繋がれ、鎖で引っ張られながら引き回されるのだろう。

 負けるものか、私は誇り高きリティシア王国騎士だ。
 どのような屈辱も堂々と受けてやる、たとえ体は自由にできたとしても、心まで犯せると思うなよ。
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