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22話 面倒な仕事を押し付けてやる
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城下町の外に馬車の団体が並んでいた。なにやら大型の荷物を備えた彼らの登場に、領民達がにわかに活気付いている。
浮足立つ奴隷を後目に、ガレオンは彼らの下へ向かった。団体の責任者らしき、獅子の獣人がガレオンに恭しく首を垂れた。
「お久しぶりです魔王様、今年も無事、ここへ戻ってこれました」
「ふん、息災なようで何よりだ。で? 連中の状態は」
「皆此度の公演に備えていますよ、本番には最高のパフォーマンスを披露できるかと」
「そいつは重畳。精々見世物として恥じない働きを見せろよ」
ガレオンは口角をくいと持ち上げた。馬車の一団を眺め、セレヴィは小さくため息をつく。
彼らはサーカス団だ。ガレオンが奴隷達の娯楽として設立した団体で、領内を興行して回っているのだそうだ。
今回、城下町で興行を行うのは三年ぶりとの事。城下町の人々は久方のサーカス団の来訪に目を輝かせていた。
と言っても、公演までまだ時間はかかる。
今回来たのは、先乗りと呼ばれる者達だ。次の公演場所へ乗り込み、場所の確保やテントの設立、興行計画の設定など、次回公演の下準備を行うのである。
本隊が来るまで後二ヶ月、やる事は山積みだ。
「ところで、そちらのお嬢様は?」
「秘書だ、数ヶ月前から使っている」
「おお、そうなのですね。初めまして、私は座長を務めるブラフマンと申します。貴女のような美しい方と出会えて光栄です」
ブラフマンは熱烈な握手をしてきた。アバドンを越える大柄な獅子に迫られ、セレヴィは少し恐がった。
ガレオンは悟ったのか、やんわりと間に入ってくれる。セレヴィはほっとし、襟を正した。
「貴様らに最高の娯楽を用意してやる、震えて待てよ奴隷ども!」
相変わらずの俺様節で領民を喜ばせ、ガレオンは次の仕事へ向かった。ちょっと遅れてから、セレヴィは彼を追いかけた。
「随分サーカスを気にしていたが、何か思い出でもあるのか」
「昔、両親と見た事があって。あの時は凄く、楽しかったなと」
「人間界にも娯楽の概念はあるみたいだな」
「ここまで大きくはありませんでしたが。本当に、懐かしいです」
小さな頃、両親が貧民達のためにサーカス団を呼んだ事がある。
ほんのわずかな時間味わう非日常の世界は、セレヴィは勿論、多くの人々に夢と希望を与えた。心が満たされて、明日を生きる力をくれたのだ。
腹だけ満たしても、人は生きていけない。心が満ちていなければ、死んでいるも同じだ。両親からそう教わったのを、覚えている。
「興味があるならやってみるか?」
「え……私が、サーカスの計画を?」
「御託はいい、やるのか? やらないのか?」
突然の提案に戸惑ったが、昔両親がやったように、自分も誰かの心を満たせるのならば、やってみたい。
「秘書の仕事に、該当するのでしょうか」
「俺がやる予定の仕事をお前主体にするだけの事だ、業務に差し支えはない」
「でしたら、やらせてください。やってみたいです」
「いい返事だ。必要な事があれば言え、融通してやる」
ガレオン直々に任され、セレヴィは拳を握った。
運よく巡ってきたチャンス、絶対成功させてやる。
◇◇◇
「へー、大きな仕事任されたじゃねっすか」
「ああ、普段の業務と同時並行で進めないといけないから大変だが、なんとしてもやり遂げなければな」
マステマと昼食を取りながら、セレヴィは今後の仕事を整理した。
まず土地使用の許可を出さなければならないし、テントや団員用の宿泊施設の設置に人手を配置しなければならないし、それが終わったら本体の受け入れ、興行の具体的な内容の立案と、やる事は山積みだ。
でも不思議と、やる気が湧いていた。
「主様直々に任命されたからうれしーっすよね、あーた分かりやすいったらー」
「そういうんじゃない、父と母がやっていた事を私も出来るから、それだけだ」
「そー言う事にしておくっすよ。んで、進捗はどーなんすか」
「土地使用の許可はすでにガレオンから貰っている。設備の人手もルシファーを通して用意したから、とりあえず基礎は出来ているかな」
「あれま、仕事早いっすね。ちゃんと主様の秘書出来てるんすか」
「それも抜かりはない。今の所、順調だ」
「ふーん、ぶっ倒れないよう気を付けるっすよ、あーたが潰れたら遊び相手居なくなって暇になるっすから」
「いつも人をおもちゃにしといて何を言っているんだ」
「そうだとも、弄ぶならぜひ! この私にしてくれたまえ!」
片膝を突いてマステマに手を伸ばす変態、ルシファーが現れる。マステマは無言でルシファーの顔面を踏みつけた。
「あっあっあっ、このぞんざいな扱い方、やっぱり君は分かっているねマステマ!」
「んで、何の話だったっすかね」
「いやそんな状況で普通の会話に戻れるか、やめてやれ、注目されてるぞ」
「構わないでくれセレヴィ、むしろ君からも踏みつけて欲しいんだ、美女二人から足蹴にされる喜び、おおおなんたる幸福かっ。もっと、もっと強く頼む!」
「……兵の派遣、感謝する。おかげで無事にサーカス団の拠点を作れそうだ」
「礼には及ばないさ、こんな時のための兵士だからね。ではお礼も兼ねて思い切り殴ってくれ、そうこの横っ面に渾身の一撃を! 君の腕力がゴリラ並なのはマステマから聞いている、それ以来君に殴られるのがもう楽しみで楽しみで!」
「不必要な暴力は振るわない主義だ、すまないな」
「えーならなんであーしには必要以上に暴力振るうんすかー」
「人を煽っていいのは殴られる覚悟がある奴だけだ」
「なら君を煽れば殴ってもらえるのだね!」
「そういう事じゃない」
こいつ、後でガレオンに言いつけてやる。と言うかルシファーのせいで収集つかなくなっているんだが。
「これ食べるアル、ワタシ自信作の回鍋肉アルヨ」
女三人騒がしくしている中に、アバドンが割り込んできた。
いい香りのする肉料理が運ばれてくる、キャベツと豚肉を炒めた物だ。不意に出てきたご馳走にマステマとルシファーは話を止め、手を伸ばした。
アバドンのおかげで助かった。感謝しつつも、つい彼を見上げてしまう。
……豚肉使うのにほんと躊躇いが無いなこの人。
「サーカス団来る時、ワタシいつも屋台出してるヨ。皆楽しみにしてるアル、今回も是非出したいアルネ」
「あーしも思い出したっす、今までのサーカス開催の資料、確か倉庫に残ってたっすよ。参考にするなら探してくるっす」
「今後も人手が必要なら私を通してくれたまえ、いくらでも兵を派遣するよ。主様には私が話をしておくさ」
「すまない、助かるよ。……本当に、助かるよ」
人間界に居た頃、誰も味方は居なかった。
たった独り、家を守るのに奔走して、疲れ切って、苦しんで、幾度も死のうと思った。
でも今は、助けてくれる人が居る。それがなんだか、嬉しかった。
浮足立つ奴隷を後目に、ガレオンは彼らの下へ向かった。団体の責任者らしき、獅子の獣人がガレオンに恭しく首を垂れた。
「お久しぶりです魔王様、今年も無事、ここへ戻ってこれました」
「ふん、息災なようで何よりだ。で? 連中の状態は」
「皆此度の公演に備えていますよ、本番には最高のパフォーマンスを披露できるかと」
「そいつは重畳。精々見世物として恥じない働きを見せろよ」
ガレオンは口角をくいと持ち上げた。馬車の一団を眺め、セレヴィは小さくため息をつく。
彼らはサーカス団だ。ガレオンが奴隷達の娯楽として設立した団体で、領内を興行して回っているのだそうだ。
今回、城下町で興行を行うのは三年ぶりとの事。城下町の人々は久方のサーカス団の来訪に目を輝かせていた。
と言っても、公演までまだ時間はかかる。
今回来たのは、先乗りと呼ばれる者達だ。次の公演場所へ乗り込み、場所の確保やテントの設立、興行計画の設定など、次回公演の下準備を行うのである。
本隊が来るまで後二ヶ月、やる事は山積みだ。
「ところで、そちらのお嬢様は?」
「秘書だ、数ヶ月前から使っている」
「おお、そうなのですね。初めまして、私は座長を務めるブラフマンと申します。貴女のような美しい方と出会えて光栄です」
ブラフマンは熱烈な握手をしてきた。アバドンを越える大柄な獅子に迫られ、セレヴィは少し恐がった。
ガレオンは悟ったのか、やんわりと間に入ってくれる。セレヴィはほっとし、襟を正した。
「貴様らに最高の娯楽を用意してやる、震えて待てよ奴隷ども!」
相変わらずの俺様節で領民を喜ばせ、ガレオンは次の仕事へ向かった。ちょっと遅れてから、セレヴィは彼を追いかけた。
「随分サーカスを気にしていたが、何か思い出でもあるのか」
「昔、両親と見た事があって。あの時は凄く、楽しかったなと」
「人間界にも娯楽の概念はあるみたいだな」
「ここまで大きくはありませんでしたが。本当に、懐かしいです」
小さな頃、両親が貧民達のためにサーカス団を呼んだ事がある。
ほんのわずかな時間味わう非日常の世界は、セレヴィは勿論、多くの人々に夢と希望を与えた。心が満たされて、明日を生きる力をくれたのだ。
腹だけ満たしても、人は生きていけない。心が満ちていなければ、死んでいるも同じだ。両親からそう教わったのを、覚えている。
「興味があるならやってみるか?」
「え……私が、サーカスの計画を?」
「御託はいい、やるのか? やらないのか?」
突然の提案に戸惑ったが、昔両親がやったように、自分も誰かの心を満たせるのならば、やってみたい。
「秘書の仕事に、該当するのでしょうか」
「俺がやる予定の仕事をお前主体にするだけの事だ、業務に差し支えはない」
「でしたら、やらせてください。やってみたいです」
「いい返事だ。必要な事があれば言え、融通してやる」
ガレオン直々に任され、セレヴィは拳を握った。
運よく巡ってきたチャンス、絶対成功させてやる。
◇◇◇
「へー、大きな仕事任されたじゃねっすか」
「ああ、普段の業務と同時並行で進めないといけないから大変だが、なんとしてもやり遂げなければな」
マステマと昼食を取りながら、セレヴィは今後の仕事を整理した。
まず土地使用の許可を出さなければならないし、テントや団員用の宿泊施設の設置に人手を配置しなければならないし、それが終わったら本体の受け入れ、興行の具体的な内容の立案と、やる事は山積みだ。
でも不思議と、やる気が湧いていた。
「主様直々に任命されたからうれしーっすよね、あーた分かりやすいったらー」
「そういうんじゃない、父と母がやっていた事を私も出来るから、それだけだ」
「そー言う事にしておくっすよ。んで、進捗はどーなんすか」
「土地使用の許可はすでにガレオンから貰っている。設備の人手もルシファーを通して用意したから、とりあえず基礎は出来ているかな」
「あれま、仕事早いっすね。ちゃんと主様の秘書出来てるんすか」
「それも抜かりはない。今の所、順調だ」
「ふーん、ぶっ倒れないよう気を付けるっすよ、あーたが潰れたら遊び相手居なくなって暇になるっすから」
「いつも人をおもちゃにしといて何を言っているんだ」
「そうだとも、弄ぶならぜひ! この私にしてくれたまえ!」
片膝を突いてマステマに手を伸ばす変態、ルシファーが現れる。マステマは無言でルシファーの顔面を踏みつけた。
「あっあっあっ、このぞんざいな扱い方、やっぱり君は分かっているねマステマ!」
「んで、何の話だったっすかね」
「いやそんな状況で普通の会話に戻れるか、やめてやれ、注目されてるぞ」
「構わないでくれセレヴィ、むしろ君からも踏みつけて欲しいんだ、美女二人から足蹴にされる喜び、おおおなんたる幸福かっ。もっと、もっと強く頼む!」
「……兵の派遣、感謝する。おかげで無事にサーカス団の拠点を作れそうだ」
「礼には及ばないさ、こんな時のための兵士だからね。ではお礼も兼ねて思い切り殴ってくれ、そうこの横っ面に渾身の一撃を! 君の腕力がゴリラ並なのはマステマから聞いている、それ以来君に殴られるのがもう楽しみで楽しみで!」
「不必要な暴力は振るわない主義だ、すまないな」
「えーならなんであーしには必要以上に暴力振るうんすかー」
「人を煽っていいのは殴られる覚悟がある奴だけだ」
「なら君を煽れば殴ってもらえるのだね!」
「そういう事じゃない」
こいつ、後でガレオンに言いつけてやる。と言うかルシファーのせいで収集つかなくなっているんだが。
「これ食べるアル、ワタシ自信作の回鍋肉アルヨ」
女三人騒がしくしている中に、アバドンが割り込んできた。
いい香りのする肉料理が運ばれてくる、キャベツと豚肉を炒めた物だ。不意に出てきたご馳走にマステマとルシファーは話を止め、手を伸ばした。
アバドンのおかげで助かった。感謝しつつも、つい彼を見上げてしまう。
……豚肉使うのにほんと躊躇いが無いなこの人。
「サーカス団来る時、ワタシいつも屋台出してるヨ。皆楽しみにしてるアル、今回も是非出したいアルネ」
「あーしも思い出したっす、今までのサーカス開催の資料、確か倉庫に残ってたっすよ。参考にするなら探してくるっす」
「今後も人手が必要なら私を通してくれたまえ、いくらでも兵を派遣するよ。主様には私が話をしておくさ」
「すまない、助かるよ。……本当に、助かるよ」
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