「くっ、殺せ!」と屈服した女騎士を拾ったので虐待することにした。

歩く、歩く。

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23話 女騎士からやり甲斐を取り上げ、追い出した。

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「以上が、本日の進捗となります」

 任された仕事の状況を伝えると、ガレオンは満足気に頷いた。
 マステマ達が手伝ってくれたおかげで、先々が見通せるくらいまでプランが立てられた。初日から幸先のいいスタートだ。

「随分と張り切っているもんだ、そんなに楽しいか」
「はい、やり甲斐を持ってとくりま……取り組ませていただいています」

 うっかり嚙んでしまった。赤面しつつも取り繕い、通常業務もこなしていく。
 単純に仕事量が増えたものの、苦ではない。自分のやる事が多くの人々のためになると思うと、力が湧いてくる。
 元々、誰かのために動くのが好きな性分だ。ラーゼフォン家が抑え込まれてから思うように行動できなかったからか、こうして仕事が出来るのが、嬉しくて仕方なかった。

「おい、もう終業だぞ」

 時間を忘れて取り組んでいたからか、気付けば夕方だ。でももう少し、進めておきたいし……こっそり持ち帰ってしまおうか。

「言っておくが、仕事の持ち帰りは許さんからな」
「ですが……」
「丁度キリがいい所で終わったんだ、明日にしておけ」
「はい……でも」

 ガレオンは決して残業や仕事の持ち帰りを認めてくれない。勿論そうならないようマネジメントしているのだが、丁度いい所だしもっと進めておきたい。
 なのに、そんな気持ちを無視して、ガレオンに追い出されてしまった。首根っこまで掴まれて、私は猫か。

「何度も言わせるな、お前が潰れたらどれだけ周りに迷惑が掛かると思っている。体調管理くらいちゃんとしろ馬鹿が」
「うぐぅ、ケチめ」
「ふん。だがまぁ、随分明るくなったもんだ。やる気だけは評価してやる」
「結果でも評価させてやる。絶対、驚かせてやるからな」
「やれるのならな」

 憎まれ口の叩き合いも慣れたものだ。それだけガレオンとの関係も築けてきたということか。
 そのためか、ガレオンの僅かな変化に気づけた。

「おい、少し顔色が悪くないか。お前こそ体調管理は出来ているのか?」
「問題ない、今日はそういう日だからな」

 ガレオンは空を見上げた。
 つられて見れば、空には星々の淡い光しかない。月の姿が見えなかった。

「今日は、新月か。何か関係が」
「おしゃべりはここまでだ、じゃあな」

 ガレオンは目頭をつまみながら去っていく。何か怪しいな。
 後をついて行くと、時間が経つ毎にガレオンは調子が悪くなっていく。とてもじゃないが見ていられない。

「おい、体調が良くないなら無理をするな。肩を貸してやる」
「奴隷が魔王に気遣うな」
「言ってる場合か、ほら!」

 ガレオンの腕を肩に回し、運んでいく。セレヴィは魔王の騎士だ、主が苦しんでいるのならば、御身を気遣うのが務め。

「……お前と言う奴は。ここで構わない、少し座らせろ」

 ガレオンは苦笑し、ベンチに腰掛けた。気だるげな姿に心配してしまう、こんな弱ったガレオンは初めて見た。

「お前も座れ、ぼさっと立ってられると落ち着かない」
「ああ……本当に大丈夫か?」
「問題ない、単に力が弱まっているだけだ」
「なんだと?」
「もう隠せないから教えてやる、新月の日は、俺の力が半減するんだよ。そのマークの力が弱まったのを、感じた事はないか」

 思い返せば、新月の日だけは確かに弱くなっていた気がする。それにガレオンも、早々に部屋へ引っ込んでいたし……。

「辛いみたいだな」
「大した事じゃない、多少の倦怠感がある程度だ。ただ、この状態になると力が半減するからな。あまり知られたくないんだよ」
「そうか、他の魔王から狙われるものな」
「弱みは知られれば面倒になる、言いふらすなよ」
「するものか、なぜ騎士が主君の危機になるような真似をしなければならない、見くびるな」

 腕を組み、セレヴィは鼻を鳴らした。
 早くガレオンを部屋まで運んでやらなければ。それに、夜が明けるまで守らなければ。
 今までずっと守られてきたから、借りを返すチャンスだ。騎士としての役目を果たすんだ。

「今は私に頼れ、このセレヴィ・F・ラーゼフォン、全力でお前の護衛を務めさせてもらおう」
「お前に守られるほど落ちぶれていない、余計なお世話だ」

 意気込むセレヴィの頭に、ガレオンの手が乗った。
 大きな手だ。それに、暖かい。熱が伝わって、セレヴィも赤くなった。

「で、どうするんだ。新月の夜なら隙が出来るぞ? 人間界へ戻るチャンスが見えたんじゃないのか?」

 セレヴィははっとする。奴隷の証の力が弱まっているのなら、脱出の糸口になるはず。なるはず……なのに、セレヴィの心は動かない。
 むしろ、ガレオンを心配する気持ちの方が強かった。

「新月なんて、いつだって来る。それに言っただろう、お前に「ぎゃふん」と言わせるまでは居てやると。まだお前に、何もできていない。こんな中途半端で逃げられるものか。だから……そんな事を言うな。私が不要だと言われているようで、いい気がしない」

「深読みしすぎだ、お前が居なければ俺も困る。毎朝紅茶が飲めなくなるのは大きな損失だ」
「そう言うなら一言でも美味いと言え、一度も言われた事ないぞ」
「なら言わせるように努力するんだな」
「ふん! 明日こそ言わせてやるから心しておけ」

 気づけばいつもの口喧嘩になってしまう。そうじゃない、私が言いたいのはそうじゃないんだ。
 ただ「ガレオンが心配だ」と言いたいだけなのに、片意地張ってつい言葉が荒くなる。どうしてこうなってしまうんだ、自分が憎らしい。

「お前と話していたら、少し気がまぎれた。礼は言ってやろう」
「部屋まで付き添うぞ、今夜は傍に居てやる」
「馬鹿が、女が気安く男の部屋に入るんじゃない」
「私は騎士だ、男だと思ってくれて構わない」
「余計なお世話だと言っている。どうせ一晩寝れば元に戻るんだ、そんな事してお前が明日動けなくなったらどうする、とっとと戻って寝ろ」

 残念ながらガレオンが正論である。けど強引に彼の部屋まで同伴してやった。

「無駄な所で騎士根性燃やして、明日遅刻するなよ」
「そっちこそ、寝坊するなよ」

 ガレオンも無事に送り届けたし、私も帰るか。と思った時だった。
 小さな殺気を感じ、セレヴィは剣を抜いた。
 気のせいじゃない、確かに今、鋭い殺意に射抜かれた。
 どこだ? 周囲を探るが、どこにも、誰も居ない。痕跡すら残っていなかった。

「何者だ、出てこい!」

 そう言った所で出てくる相手なわけがない。やっぱり、心配だ。
 セレヴィは引き返し、ガレオンの部屋の前に座った。
 今夜はここで待機だ、ガレオンが弱っている今、襲撃を受けたらひとたまりもない。僅かでも懸念が残るのならば、摘み取らなくては。

「だから、何をしているんだお前は」

 なんて意気込んだら、ガレオンが青筋を立てて出てきた。

「今殺気がした、何者かが侵入している可能性がある以上、やはり油断できない。ここは私に任せて、お前は寝ろ」
「寝れるか。第一お前が感じられる殺気を俺が感じられないわけないだろうが」
「弱った今は感じられないかもしれないじゃないか」
「俺を甘く見るな、いいから帰れ!」
「いーやーだ! 私からやり甲斐を奪うな!」

 結局また喧嘩になってしまった。どうにも不器用なのがセレヴィの欠点である。

  ◇◇◇

 結論から言えば、セレヴィの勘は当たっていた。
 魔王城から、小さな影がひっそりと抜け出した。暗闇に紛れて兵士の目を掻い潜り、安全圏へと離脱する。
 中々勘の鋭い女だった。気配は完全に消していたはずなのに、存在に気付くとは。ガレオンの前に奴を無力化しなければならないだろう。

 それに……セレヴィを上手く利用すれば計画を有利に運べそうだ。
 一息ついたところで、通信用の魔法具が起動した。依頼人からの連絡に影はため息をつく。

「あまり連絡はしないで頂きたい、居場所がバレる」
『すまない、新月の日だから朗報が聞けると思ってな』

 連絡してきたのは、魔王シトリーだった。彼から聞いた魔王ガレオンの情報は、確かに正しかった。

「新月の夜、ガレオンの力は確かに弱まるようだ。こちらの気配を感じられなかったらしい」
『ではなぜ仕留めなかった、お前なら出来るんじゃ』
「より利用できそうな物を見つけた。あれを使えば成功率が上がる、使わない手はない。それにそちらこそ、例の物が完成していないのに事を起こされては困るのでは?」
『確かに……あとは最終調整だけだが、二ヶ月は必要だな』

「なら実行は再来月の新月だ、その日にガレオンを仕留めると約束しよう。こちらとしても、相手が相手だからな。万全の準備を整えた上で仕事にかかりたい」

 シトリーの奥の手は見せてもらったが、あれは大したものだ。完成すれば、ガレオンであろうともひとたまりもないだろう。

『必ずやれよ、私の明日はお前にかかっているからな』
「誰に向かって言っている。ではな」

 魔法具を止め、影は魔王城を見上げた。
 魔王ガレオン、裏の世界に生きる者として、誰もが憧れる存在だ。最強の男に挑む機会を与えてくれたシトリーには、感謝しなければならない。
 自身のプライドに賭けて、必ずやガレオンを仕留めてやる。魔界一の殺し屋として、最高の仕事をしてやろう。
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