「くっ、殺せ!」と屈服した女騎士を拾ったので虐待することにした。

歩く、歩く。

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42話 新しい奴隷候補は随分とアホなようだ

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 セレヴィは一足先にグングニルへ戻り、ノアを介抱していた。
 疲労と軽度の脱水症状を起こしているが、幸い命に別状はないそうだ。病衣に着替えたノアの額を撫で、セレヴィは目を閉じた。
 村で聞き取りをした所、ノアは一週間ほど前にあの村に流れ着いたそうだ。酷く衰弱していたそうだが、ゴブリンの農婦に助けられ、事なきを得たという。それからは体を休めつつ、農作業の手伝いをしていたそうだ。
 ひと月前に魔界へ来て以来、ずっとセレヴィを探していたらしい。見知らぬ世界へ降り立った不安から、縋りつける存在を求めていたのだろう。
 だが、なんで私がこの世界に居ると分かったんだ?
 疑問が浮かぶも、ノアが生きていてくれた喜びが勝る。よくぞ生きていてくれた。
 ほっとすると、医務室へガレオンとルシファーが訪ねてきた。

「具合はどうだ?」
「多少の衰弱はありますが、無事なようです」
「今日はもういい、早退にしてやる。ノアの傍に居てやれ」
「……すまないな」
「セレヴィ嬢、私に彼女を紹介してくれないかな。主様は君の記憶を覗いているから彼女を知っているけれど、私は全く分からないからね」
「ああ、すまん。ノアは私の、一つ下の幼馴染だ。父が運営していた孤児院で暮らしていてな、何度か遊びに行く内仲良くなって、私を慕うようになってくれたんだよ」

 十二歳で孤児院を出たノアはセレヴィを支えるべく、そのまま騎士団の養成所へ入った。彼女曰く、みなしごの自分を救ってくれた恩返しがしたいとの事だ。
 そもそもノアが孤児院に入れたのも、道端で倒れていた所をセレヴィが見つけてくれたからだ。もしセレヴィが見つけていなければ、ノアは病で死んでいただろう。
 以来ノアはセレヴィを命の恩人と呼び、孤立していくセレヴィの唯一の味方となってくれていたのだ。

「まぁ、お世辞にも剣の才能はなかったから、私と一緒に任務をする事はなかったが。敵だらけの人間界でたった一人、私が信用していた友達なんだ」
「なんて素敵な話なんだ。是非ともノア君とお近づきになって、私好みの女王様に育て上げたいものだねぇ」
「お前話聞いてたか?」

「ぅ……セレヴィ……様……?」

 ノアが目を覚ました。彼女はぼんやりした目で辺りを見渡すと、はっとしてセレヴィを見やった。

「セレヴィ様……なのですね……よかった、無事で生きて……ノアは、ノアは嬉しゅうございます……!」
「私もお前に会えて嬉しいよ。よくぞ生きてくれていた」

 セレヴィとノアは抱き合い、再会を喜んだ。ノアはセレヴィをまじまじと見て、彼女の変化に驚いた。

「一体、その首の入れ墨はなんですか? それに耳も尖って牙も生えて……まるで魔族のようではないですか」
「話すとややこしくなるんだが……今の私は魔族になっているんだ」
「えっ!? な、なんでです? まさか魔王ガレオンの仕業ですかっ!?」
「仕業って程じゃないんだが、うんまぁ、彼のおかげというかなんというか……ガレオンに今の体をもらったんだ」
「くっ、あの魔王め! セレヴィ様になんたる狼藉を働いたのですか! こうしちゃいられない、今すぐ彼奴めを討伐しに向かいましょう!」
「ほう? 俺をどうやって討伐するのか聞かせてもらおうか?」

 やっとノアはガレオンに気づき、悲鳴を上げてベッドから転げ落ちた。セレヴィに夢中で目に入らなかったようだ。
 鎧のつもりなのかシーツを纏い、バケツを被ってモップを装備する。それで戦うつもりかおのれは。

「ででででででで出たな魔王めっ! こっここここここのノア・ラモードがお相手いたす! どこからでもかかってこいっ! リティシア騎士団の名に懸けてセレヴィ様をお救いいたしますっ!」
「落ち着けノア、ガレオンは敵じゃない。というか前見えてないだろ」

 ノアがモップを突き付けているのは掃除用具入れである。はっとしバケツから顔を出すも、ガレオンを前にまたへにゃへにゃとへたり込んでしまった。
 こいつ本当に騎士なのか? ガレオンがそう言いたげにセレヴィを見やった。

 無理もない、ノアはセレヴィと違い単なる一兵卒。平均より下程度の実力しか持たない雑兵でしかないのだ。そんな雑魚がガレオンの威圧を受ければ、騎士としての心を砕かれて当たり前である。

「才能がないか、確かにそうだな。とうに俺に対して心が折れているじゃないか」
「うーん、主様に凄まれただけで失禁してしまっただけはありますねぇ」

 ガレオンがルシファーの口を塞ぐも、遅かった。

「失禁? ……あ……ひぃぃ~~~……!」

 自分の粗相を思い出し、ノアが撃沈してしまう。ガレオンとセレヴィから激怒されるも、ルシファーはご褒美として受け取っていた。
 こいつ、怒られようとわざと言いやがったな。

「に、逃げましょうセレヴィ様……こ、こんな恐ろしい魔王と居ては、いずれ殺されてしまいますよ……!」
「だから落ち着け、私を見ろ。ガレオンから酷い目に遭わされているように見えるか?」

「見えますとも! やいガレオン! よくもセレヴィ様に酷い目を遭わせてくれたな! お前のせいでセレヴィ様はこんな変わり果てた姿になってしまったんだぞ! 前よりすっごく綺麗になってるし、なんかいい匂いがするようになってるし、肌も髪もツヤツヤになってるし、体つきも女性らしくなってるし、ストレス無くなったようにすっきりした顔してるし! お前が虐待したせいで充実した日々を送っているとしか思えないじゃないか!」

「そいつは悪い事をしたな。で? 何か問題でも?」
「……あれ?」

 セレヴィは顔に手を当て、ガレオンも眉間に皺をよせ、ルシファーですら苦笑いした。
 こいつ、オツム弱すぎるだろ。

「ノア、紅茶を淹れてやるから、ゆっくり話そう」
「ノア君、美味しいスコーンがあるんだ。是非堪能してくれたまえ」
「セレヴィ、明日有休をとっていい。そいつの世話をしてやれ」
「あの、なんで皆さん私を憐れむような目で見るんですか? ねぇ、なんで?」

 どうしてだろう、別の意味で涙が止まらないセレヴィであった。
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