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41話 新しい女騎士を拾った
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朝からガレオンの顔が見れない。昨日口走った恥ずかしいセリフが尾を引いていた。
ガレオンは特に変わった様子はない。これでは恥ずかしがってる自分がバカみたいではないか。
それに……意識されていないのかと思うとちょっと残念な気持ちになる。
ガレオンにとってセレヴィとはどんな存在なのか聞いてみたい。ガレオンの口から、セレヴィがどんな女なのかを知りたかった。
『役に立つ秘書、それだけだ』
本気でそう言いそうだから聞けないのだけど。
そもそもガレオンは特定の誰かを好きになったりするのだろうか? 誰に対しても平等に接する男が、たった一人を特別扱いしたりしないだろう。あくまでセレヴィの印象でしかないが。
ガレオンを知っているようで、セレヴィは全然彼を知らない。彼がなぜそうまで完璧な魔王であろうとするのかも。
いかんいかん、仕事に集中しなければ。頬を叩き、セレヴィは顔を上げた。
今来ているのは鉄鉱山である。シトリー領内最大の鉄の産地なのだが、まるで整備されておらず、鉱夫達は杜撰な環境での労働を強いられていたようだ。
資源の埋蔵量はガレオン領の鉱山よりも抜き出ている。きちんと整備すれば、より多くの鉄を採取できるだろう。
指示を仰ごうとしたら、ガレオンと目が合った。脳裏に過ぎる昨日のやり取り。赤くなった顔に手を当て、「ぴぃ~……」と奇妙な鳴き声を上げてしまった。
と、頭上から落石が。セレヴィは反応が遅れ、逃げられない。けど問題はなかった。
ガレオンが岩を受け止め、守ってくれたから。肩に腕を回して、万一の際は自分が盾になるようにしていた。
「ぼさっとしていると怪我をするぞ」
「申し訳ございません……」
だからこういう所が問題だというのに。この魔王、自然にセレヴィを揺さぶってくる。
「開発中のアレを量産するには大量の鉄が必要になる、ここが正常に稼働できれば、十分な鉄を確保できるな」
「鉱夫の方々は、ご家族を残して仕事に来られていたようです。きちんと働かねば家族を投獄する。そう脅されていたそうです」
「理解できないやり口だ。しっかり豚箱で反省してもらうとしよう」
シトリーは現在、政治犯を収容する監獄に収監している。そこでの扱いがどうなのかは、あえて語らないでおこう。
「ここに町を造る、鉱夫どもの家族を呼んで住まわせろ。その方が生産力が増す」
「かしこまりました」
ガレオンの指示を伝えると、すぐさま兵が飛んできて建築の用意を始める。あまりにフレキシブルな行動に鉱夫達は目を丸くしていた。
セレヴィは鉱夫達の家族が来れるよう書類を用意し、速やかに手続きを進めていく。ガレオンが領民のために行動するならば、秘書としての役目を果たさなければ。
線路も早急に敷けるよう手はずを整えた所で、一区切りついた。ガレオンに目配せすると、小さく頷いてくれる。
「喜べ奴隷ども! 貴様達の家族を住まわせてやる、今後より一層働ける環境をくれてやるから、俺に従え! 俺の管轄下に入った以上、簡単に休めると思うなよ。万全な安全対策と就労体制を整え、貴様らが永遠に働き続けられるようにしてくれるわ!」
うん、優しすぎて恐ろしい発言だ。もはやテンプレになりつつある。
仕事の安全面を高めるため、岩盤を補強する木材に、粉塵やガス対策の空気を循環させる機材、新式の掘削道具やマスクを提供し、医者が常駐できる詰所も設置、更には作業ルートの見直しが入る等、見る間に労働環境が整えられていく。
鉱山の仕事は非常に危険だ。粉塵爆発及びガス爆発、落盤……発生する事故は災害に等しく、一瞬で多くの命が奪われる。加えて密閉空間によって空気が悪いため、肺炎などの病気も引き起こしやすい。
産業を支える大事な場所だからこそ、安心安全に働けるよう、ガレオンは投資を惜しまない。領民……もとい奴隷の命を尊重し、一切の手を抜かなかった。
「きちんとした成果が出るまで、四年と言った所か。この先が楽しみだ」
ガレオンは常に未来を見据え、現在に種をまき続けている。その手伝いが出来るのは、やっぱりやりがいがあった。
◇◇◇
鉱山を回った後は農地の視察に向かうが、やはりというか荒れ果てている。農民の住処は今にも崩れそうなあばら家だし、土地はやせ細っていた。これでは碌な作物も育つまい。
農民も皆健康状態が思わしくなく、栄養失調になっていたり、病気で動けなかったり、目も当てられなかった。
セレヴィは言葉を失っている。地方である産業地域に行くほど、人々の生活は困窮していた。魔王やその側近達が既得権益を貪り、搾取を続けた究極系の姿だ。
早く助けてあげたいけど、まずどこから手を付けるべきか……!
「動けない奴はグングニルに運べ、飢えている連中にはまず栄養食を与えろ。即席でもいい、療養施設を建てて安静にできる場所を確保しろ」
ガレオンは迷わず人命を優先した。同時進行でボロボロの土地にガレオン領から運んできた、栄養満点の土をばらまき、即座に土地を肥やしていく。
魔王自ら先頭に立って指示していくから、行動が早い事この上ない。矢継ぎ早に飛んでくる要請を片付ける内に、農地が見違えるように生まれ変わっていった。
「休憩を取っておけ、俺も後で入る」
「はい、では先に失礼します」
この調子であと何か所も回らなければならない、所々で休んでいかないと。
にしても、こうまで順調に開拓が進むなんて。というかこれ開拓と言えるのだろうか。
よほど念入りに下準備をしていたのだろう、下地を整えずに領地を広げるのは繁栄ではなくただの膨張、いずれ破裂するだけ。人間界でもそうして滅んでいった国や商家が数多く存在しており、歴史が証明していた。
先を見越して行動しているから迅速に動けるし、大胆な政策をしても領地全体に問題が出ない。地に足付けた運営をしていると強く思う。
ガレオンが居る限り、この領地は安泰だ。
「あ、あの……ガレオンの秘書様、ですよね」
ゴブリンの女性が話しかけてきた。酷く焦った様子で、ただ事ではない気配を感じた。
「実は、私の娘が昨日から森に行ったきり、戻っていないんです……もし、もし出来るのでしたら、兵隊様に探していただきたいのですが……」
「なぜ早く言わないんだ、緊急事態ではないか!」
「こ、恐くて言い出せなくて、すみません……!」
シトリーの圧政に怯えていたから、領主に頼る選択肢を取れなかったのだろう。
騎士として見過ごせない、すぐに捜索隊を派遣させよう。
「それに、行き違いになってしまったのですが、娘を探しに出て行ってしまわれた方が居まして……その方も、心配で……ノア・ラモードと言う方なのです、その方もどうか……」
「……ノア・ラモード?」
セレヴィは耳を疑った。女性の肩を掴み、
「今、ノア・ラモードと言ったか? 」
「は、はい! 数日前に来られた旅の方でして……」
「背格好は? 性別は? そもそも種族はなんだ?」
「種族は、見た事がないのでわからないのですが、栗毛の小柄な女性です。なんでも、リティシア王国と言う所から来られたようなのですが……」
間違いない、彼女だ。なんでノアが魔界に居る?
居ても立っても居られなくなり、セレヴィは駆け出した。
◇◇◇
「ノア! どこだノア!?」
森を駆け回り、セレヴィはノアを探し続けた。
リティシア騎士団に入る以前からの付き合いがある幼馴染だ。多くの人が離れていく中で、彼女だけは唯一慕ってくれた、セレヴィのたった一人のオアシスだった騎士だ。
なんでノアがここに居るのだろう、いや、まずはノアと合流しないと。この辺りは獣の気配が強い、ノアの実力では太刀打ちできずに殺されてしまうだろう。
『獣どもめ、どけぇ!』
大声が聞こえてきた。この声、ノアだ!
声のする方へ走っていくと、狼の首が斬り飛ばされてきた。その先にはゴブリンの娘と、剣を掲げた小柄な女騎士、ノア・ラモードの姿があった。
ノアは全身傷だらけで、酷いダメージを負っている。娘は倒れて、気を失っているようだ。周囲には多数の狼が取り囲み、二人を食らおうと涎を垂らしていた。
「この人には、断じて近づけさせないぞ! リティシア騎士団の誇りにかけて、何としても守ってみせる! だから、どこからでもかかってこい! 私は絶対に逃げたりしないぞ!」
ノアは声を張り上げて自身を鼓舞し、恐怖を堪えている。彼女は体力も気力も限界に達していた。
刹那、狼が一斉に襲い掛かった。セレヴィは抜剣し、ノアの背後に迫る狼へ切りかかった。
三頭の狼を断ち、ノアの背を守る。援軍にノアは驚くも、眼前の敵の対応に手一杯でセレヴィに気づかない。
ノアと娘を守るには、一撃で多数を薙ぎ払わなければだめだ。剣一本では出来ないが、魔法ならば出来るはず。
昨夜ルシファーから教わったコツを思い出す。意識を左腕に集め、マナを凝縮させたら……掌から一気に解放させる!
左腕を突き出すなり、突風が飛び出した。狼は吹っ飛んだが、セレヴィも踏ん張れず転んでしまう。
くそ、制御できないか……!
まだセレヴィは魔法を使い始めたばかりで加減が分からず、べた踏みでしか使えない。そのせいでたった一発の魔法で、一気に体力を持っていかれてしまった。
もう魔法は使えない、稼げた時間はほんの数秒で、狼は体勢を立て直し襲ってくる。
でも数秒でいい、きっともうすぐ、彼が来てくれる。
「いい身分だな狼ども、俺の秘書とそんなに戯れたいのか?」
森全域に轟くような威圧感がのしかかり、セレヴィは勿論、ノアも狼もひれ伏した。
セレヴィの信頼通り、ガレオンが助けに来てくれた。
「二度は言わん、消えろ」
ガレオンが一声かけただけで、狼達は猛然と逃げ出した。本能の底から悟ったのだろう、逆らえば殺されると。
「あ、あぁ……あ……!」
それはノアも同じだったようだ。ガレオンの威圧に当てられて、顔が青くなっている。へなへなと腰砕けになって、あまりの恐怖から失禁している。
このままではノアが壊れる。セレヴィはノアを抱きしめた。
「大丈夫だノア、私が居る、私を見ろ。ほら」
「へ……あ……セ、レヴィ……様……?」
「そうだセレヴィだ、よく頑張った、よくやったぞ。もう安心だからな」
「わた……わたし……ぃ……」
ノアは意識を手放した。ふと娘を見ると、気絶こそしているが怪我はない。必死になって彼女を守ってくれていたようだ。
「知り合いか。ノア・ラモードだったか」
「はい。騎士団の同僚で、昔から親交のある人です。本当なら、ここに居るのはあり得ないのですけれど……」
「確かにな。人間どもに魔界へ来る技術はないし、あっても体が持たない。俺でもお前の体を作り変えないと連れてこれないからな。だが妙だ、そいつは人間のまま魔界へ来ている。どんな裏技を使ったのか知らないが、まずはそいつの治療が先だな」
兵達が遅れてやってきた。彼らに二人を任せた所で、やっとセレヴィは自分の過ちに気づいた。
ガレオンに相談もなしに、飛び出してしまった。
「あの、お手を煩わせて申し訳ございません……」
「人間界の知り合いが来ていたのなら仕方ないだろう、お前は間違った事はしていない。だから謝る必要もない。いいな」
「……ありがとうございます」
「一旦仕事は中断だ。ノアだったか、そいつの傍に居ろ。この程度の遅れ、いくらでも取り返せるからな」
「はいっ」
ガレオンの優しさに感謝しつつ、セレヴィは急いで農村へ戻っていった。
ガレオンは特に変わった様子はない。これでは恥ずかしがってる自分がバカみたいではないか。
それに……意識されていないのかと思うとちょっと残念な気持ちになる。
ガレオンにとってセレヴィとはどんな存在なのか聞いてみたい。ガレオンの口から、セレヴィがどんな女なのかを知りたかった。
『役に立つ秘書、それだけだ』
本気でそう言いそうだから聞けないのだけど。
そもそもガレオンは特定の誰かを好きになったりするのだろうか? 誰に対しても平等に接する男が、たった一人を特別扱いしたりしないだろう。あくまでセレヴィの印象でしかないが。
ガレオンを知っているようで、セレヴィは全然彼を知らない。彼がなぜそうまで完璧な魔王であろうとするのかも。
いかんいかん、仕事に集中しなければ。頬を叩き、セレヴィは顔を上げた。
今来ているのは鉄鉱山である。シトリー領内最大の鉄の産地なのだが、まるで整備されておらず、鉱夫達は杜撰な環境での労働を強いられていたようだ。
資源の埋蔵量はガレオン領の鉱山よりも抜き出ている。きちんと整備すれば、より多くの鉄を採取できるだろう。
指示を仰ごうとしたら、ガレオンと目が合った。脳裏に過ぎる昨日のやり取り。赤くなった顔に手を当て、「ぴぃ~……」と奇妙な鳴き声を上げてしまった。
と、頭上から落石が。セレヴィは反応が遅れ、逃げられない。けど問題はなかった。
ガレオンが岩を受け止め、守ってくれたから。肩に腕を回して、万一の際は自分が盾になるようにしていた。
「ぼさっとしていると怪我をするぞ」
「申し訳ございません……」
だからこういう所が問題だというのに。この魔王、自然にセレヴィを揺さぶってくる。
「開発中のアレを量産するには大量の鉄が必要になる、ここが正常に稼働できれば、十分な鉄を確保できるな」
「鉱夫の方々は、ご家族を残して仕事に来られていたようです。きちんと働かねば家族を投獄する。そう脅されていたそうです」
「理解できないやり口だ。しっかり豚箱で反省してもらうとしよう」
シトリーは現在、政治犯を収容する監獄に収監している。そこでの扱いがどうなのかは、あえて語らないでおこう。
「ここに町を造る、鉱夫どもの家族を呼んで住まわせろ。その方が生産力が増す」
「かしこまりました」
ガレオンの指示を伝えると、すぐさま兵が飛んできて建築の用意を始める。あまりにフレキシブルな行動に鉱夫達は目を丸くしていた。
セレヴィは鉱夫達の家族が来れるよう書類を用意し、速やかに手続きを進めていく。ガレオンが領民のために行動するならば、秘書としての役目を果たさなければ。
線路も早急に敷けるよう手はずを整えた所で、一区切りついた。ガレオンに目配せすると、小さく頷いてくれる。
「喜べ奴隷ども! 貴様達の家族を住まわせてやる、今後より一層働ける環境をくれてやるから、俺に従え! 俺の管轄下に入った以上、簡単に休めると思うなよ。万全な安全対策と就労体制を整え、貴様らが永遠に働き続けられるようにしてくれるわ!」
うん、優しすぎて恐ろしい発言だ。もはやテンプレになりつつある。
仕事の安全面を高めるため、岩盤を補強する木材に、粉塵やガス対策の空気を循環させる機材、新式の掘削道具やマスクを提供し、医者が常駐できる詰所も設置、更には作業ルートの見直しが入る等、見る間に労働環境が整えられていく。
鉱山の仕事は非常に危険だ。粉塵爆発及びガス爆発、落盤……発生する事故は災害に等しく、一瞬で多くの命が奪われる。加えて密閉空間によって空気が悪いため、肺炎などの病気も引き起こしやすい。
産業を支える大事な場所だからこそ、安心安全に働けるよう、ガレオンは投資を惜しまない。領民……もとい奴隷の命を尊重し、一切の手を抜かなかった。
「きちんとした成果が出るまで、四年と言った所か。この先が楽しみだ」
ガレオンは常に未来を見据え、現在に種をまき続けている。その手伝いが出来るのは、やっぱりやりがいがあった。
◇◇◇
鉱山を回った後は農地の視察に向かうが、やはりというか荒れ果てている。農民の住処は今にも崩れそうなあばら家だし、土地はやせ細っていた。これでは碌な作物も育つまい。
農民も皆健康状態が思わしくなく、栄養失調になっていたり、病気で動けなかったり、目も当てられなかった。
セレヴィは言葉を失っている。地方である産業地域に行くほど、人々の生活は困窮していた。魔王やその側近達が既得権益を貪り、搾取を続けた究極系の姿だ。
早く助けてあげたいけど、まずどこから手を付けるべきか……!
「動けない奴はグングニルに運べ、飢えている連中にはまず栄養食を与えろ。即席でもいい、療養施設を建てて安静にできる場所を確保しろ」
ガレオンは迷わず人命を優先した。同時進行でボロボロの土地にガレオン領から運んできた、栄養満点の土をばらまき、即座に土地を肥やしていく。
魔王自ら先頭に立って指示していくから、行動が早い事この上ない。矢継ぎ早に飛んでくる要請を片付ける内に、農地が見違えるように生まれ変わっていった。
「休憩を取っておけ、俺も後で入る」
「はい、では先に失礼します」
この調子であと何か所も回らなければならない、所々で休んでいかないと。
にしても、こうまで順調に開拓が進むなんて。というかこれ開拓と言えるのだろうか。
よほど念入りに下準備をしていたのだろう、下地を整えずに領地を広げるのは繁栄ではなくただの膨張、いずれ破裂するだけ。人間界でもそうして滅んでいった国や商家が数多く存在しており、歴史が証明していた。
先を見越して行動しているから迅速に動けるし、大胆な政策をしても領地全体に問題が出ない。地に足付けた運営をしていると強く思う。
ガレオンが居る限り、この領地は安泰だ。
「あ、あの……ガレオンの秘書様、ですよね」
ゴブリンの女性が話しかけてきた。酷く焦った様子で、ただ事ではない気配を感じた。
「実は、私の娘が昨日から森に行ったきり、戻っていないんです……もし、もし出来るのでしたら、兵隊様に探していただきたいのですが……」
「なぜ早く言わないんだ、緊急事態ではないか!」
「こ、恐くて言い出せなくて、すみません……!」
シトリーの圧政に怯えていたから、領主に頼る選択肢を取れなかったのだろう。
騎士として見過ごせない、すぐに捜索隊を派遣させよう。
「それに、行き違いになってしまったのですが、娘を探しに出て行ってしまわれた方が居まして……その方も、心配で……ノア・ラモードと言う方なのです、その方もどうか……」
「……ノア・ラモード?」
セレヴィは耳を疑った。女性の肩を掴み、
「今、ノア・ラモードと言ったか? 」
「は、はい! 数日前に来られた旅の方でして……」
「背格好は? 性別は? そもそも種族はなんだ?」
「種族は、見た事がないのでわからないのですが、栗毛の小柄な女性です。なんでも、リティシア王国と言う所から来られたようなのですが……」
間違いない、彼女だ。なんでノアが魔界に居る?
居ても立っても居られなくなり、セレヴィは駆け出した。
◇◇◇
「ノア! どこだノア!?」
森を駆け回り、セレヴィはノアを探し続けた。
リティシア騎士団に入る以前からの付き合いがある幼馴染だ。多くの人が離れていく中で、彼女だけは唯一慕ってくれた、セレヴィのたった一人のオアシスだった騎士だ。
なんでノアがここに居るのだろう、いや、まずはノアと合流しないと。この辺りは獣の気配が強い、ノアの実力では太刀打ちできずに殺されてしまうだろう。
『獣どもめ、どけぇ!』
大声が聞こえてきた。この声、ノアだ!
声のする方へ走っていくと、狼の首が斬り飛ばされてきた。その先にはゴブリンの娘と、剣を掲げた小柄な女騎士、ノア・ラモードの姿があった。
ノアは全身傷だらけで、酷いダメージを負っている。娘は倒れて、気を失っているようだ。周囲には多数の狼が取り囲み、二人を食らおうと涎を垂らしていた。
「この人には、断じて近づけさせないぞ! リティシア騎士団の誇りにかけて、何としても守ってみせる! だから、どこからでもかかってこい! 私は絶対に逃げたりしないぞ!」
ノアは声を張り上げて自身を鼓舞し、恐怖を堪えている。彼女は体力も気力も限界に達していた。
刹那、狼が一斉に襲い掛かった。セレヴィは抜剣し、ノアの背後に迫る狼へ切りかかった。
三頭の狼を断ち、ノアの背を守る。援軍にノアは驚くも、眼前の敵の対応に手一杯でセレヴィに気づかない。
ノアと娘を守るには、一撃で多数を薙ぎ払わなければだめだ。剣一本では出来ないが、魔法ならば出来るはず。
昨夜ルシファーから教わったコツを思い出す。意識を左腕に集め、マナを凝縮させたら……掌から一気に解放させる!
左腕を突き出すなり、突風が飛び出した。狼は吹っ飛んだが、セレヴィも踏ん張れず転んでしまう。
くそ、制御できないか……!
まだセレヴィは魔法を使い始めたばかりで加減が分からず、べた踏みでしか使えない。そのせいでたった一発の魔法で、一気に体力を持っていかれてしまった。
もう魔法は使えない、稼げた時間はほんの数秒で、狼は体勢を立て直し襲ってくる。
でも数秒でいい、きっともうすぐ、彼が来てくれる。
「いい身分だな狼ども、俺の秘書とそんなに戯れたいのか?」
森全域に轟くような威圧感がのしかかり、セレヴィは勿論、ノアも狼もひれ伏した。
セレヴィの信頼通り、ガレオンが助けに来てくれた。
「二度は言わん、消えろ」
ガレオンが一声かけただけで、狼達は猛然と逃げ出した。本能の底から悟ったのだろう、逆らえば殺されると。
「あ、あぁ……あ……!」
それはノアも同じだったようだ。ガレオンの威圧に当てられて、顔が青くなっている。へなへなと腰砕けになって、あまりの恐怖から失禁している。
このままではノアが壊れる。セレヴィはノアを抱きしめた。
「大丈夫だノア、私が居る、私を見ろ。ほら」
「へ……あ……セ、レヴィ……様……?」
「そうだセレヴィだ、よく頑張った、よくやったぞ。もう安心だからな」
「わた……わたし……ぃ……」
ノアは意識を手放した。ふと娘を見ると、気絶こそしているが怪我はない。必死になって彼女を守ってくれていたようだ。
「知り合いか。ノア・ラモードだったか」
「はい。騎士団の同僚で、昔から親交のある人です。本当なら、ここに居るのはあり得ないのですけれど……」
「確かにな。人間どもに魔界へ来る技術はないし、あっても体が持たない。俺でもお前の体を作り変えないと連れてこれないからな。だが妙だ、そいつは人間のまま魔界へ来ている。どんな裏技を使ったのか知らないが、まずはそいつの治療が先だな」
兵達が遅れてやってきた。彼らに二人を任せた所で、やっとセレヴィは自分の過ちに気づいた。
ガレオンに相談もなしに、飛び出してしまった。
「あの、お手を煩わせて申し訳ございません……」
「人間界の知り合いが来ていたのなら仕方ないだろう、お前は間違った事はしていない。だから謝る必要もない。いいな」
「……ありがとうございます」
「一旦仕事は中断だ。ノアだったか、そいつの傍に居ろ。この程度の遅れ、いくらでも取り返せるからな」
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