「くっ、殺せ!」と屈服した女騎士を拾ったので虐待することにした。

歩く、歩く。

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60話 女騎士を奴隷と呼べなくなってきた

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 城下町は色鮮やかに飾り付けられ、上空でガレオン軍のドラゴンが曲芸飛行を披露している。所せましと露天が並ぶ中を踊り子によるパレードが行進し、にぎやかな音を奏でていた。
 皇霊祭のせわしない一日が始まったのだ。人々にしてみれば楽しい休日であるが、ガレオンとセレヴィにとっては大事な仕事がいくつも入った労働日である。

 各行事への参加や挨拶回りは勿論、ガレオン領各地からエリアの管理者がやってくるので彼らからの報告を受けたりと、やる事が山積みだ。
 いつも通り、魔王と秘書としての時間である。ガレオンとセレヴィは互いに意識せず、普段通りに過ごしていた。
 休む間もない怒涛のスケジュールだが、ガレオンは何食わぬ顔でさらりとこなしていく。そのおかげで隙間時間が出来てしまうあたり、やっぱこいつ傑物だ。

「二時間空きが出来ましたが、いかがいたしましょうか」
「お前の好きに使え。せっかくの行事なんだ、少し外を見て回ったらどうだ」
「かしこまりました、では」

 セレヴィは一礼するなり、小走りに厨房へ駆け込んだ。
 本当はガレオンを誘って一緒に回りたい、でもまだ、解決していない問題があるのだ。

「待たせた! すまない時間を取ってくれたのに!」
「構わないアル。今日は城を閉めてるから暇アルからして」

 新聞を読んでいたアバドンは、ゆっくりと立ち上がった。
 普段は解放している魔王城だが、皇霊祭の時は外部の警備に人手を回す関係上閉鎖している。おかげで誰の邪魔も入らず準備が出来る。茶々は入るかもしれないが。

「時間勿体ないアルから、下ごしらえだけは済ませておいたヨ」
「ありがとう、助かるヨ……あ」

 つい口調が移ってしまった。でもアバドンは特に反応しないから助かる。
 気を取り直して、セレヴィは調理に取り掛かった。
 アバドンと入念に話し合い、出来上がったレシピを頼りに作っていく。ガレオンに渡すタルトだ。
 彼に喜んでもらえるよう、全力で集中し作業に没頭する。アバドンの手も借りながら、オーブンへ生地を入れた。
 あとは焼きあがるのを待つばかり。小さく息を吐きながら座ると、目隠しをされた。

「だーれだ」
「マステマだな? 仕事はどうした」
「休憩っすよ。腹減ったし昼飯食うくらいいいじゃねっすか」
「そっちも大変だな、大きな行事の時も仕事とは」
「メイド長が率先して休むわけにゃいかねっすからねー。んで、進捗どうっすか」
「まずまずかな、アバドンも手伝ってくれたし上手くいくよ。そうだ、それとは別に、ほら」

 マステマとアバドンに小さい包みを渡した。昨日ノアと共に焼いたクッキーだ。
 マステマには青、アバドンには赤のリボンを結び、メッセージカードも添えていた。二人は「おおっ」と声を上げ、

「ワタシ達の魔法属性に合わせたリボンを使ってるアルな。これは細やかな気遣いアル」
「うは、カードも一人一人内容考えてあんすか? ご苦労なこって。こいつは嬉しいっすね」
「ノアも同じ包装にしているんだが、まだ貰ってないのか」
「ノアなら休日にしたっすよ。魔界に来て初めての娯楽日っすからね、遊ばせてやるっす」
「どうりで朝遅いと思った。そろそろ出来上がるかな」

 オーブンを開ければ、アーモンドのいい香りが漂ってくる。生地を冷やしている間にカスタードを始めとした具を作って、仕上げに取り掛かった。
 ……よし、上手く出来たぞ。
 ナパージュを塗り終え、セレヴィはようやく一息ついた。あとは梱包すれば完成だ。

「おおー、こいつはまた、気合の入った逸品っすねぇ。んじゃあ預かるのはあーしが」
「保存はワタシに任せるアル。責任もって預かるアルよ」
「アバドンなら信頼できるよ、頼む」

「おうこら、あーしじゃ信頼出来ねっすか?」
「うん」

 キャットファイトに発展するも、アバドンに止められた。

「ま、あんだけ気合の入ったもん渡されたら主様もその気になるっすよ。あと仕事に戻る前に化粧直すのお勧めするっす」
「お前のせいだろうが。あとついでに」

 魔法でマステマの疲労を癒し、着崩れた服を直してあげた。

「メイド長が乱れた姿じゃ格好着かないぞ?」
「あーたのせいっすけどね。一緒に飯でもどうっすか」
「そうするよ」

 マステマと共に腹ごしらえして、セレヴィは英気を養った。
 勝負は終業後、今から緊張してきた。

  ◇◇◇

 ガレオンはと言うと、ドン・マイケルに扮して市井に紛れ込んでいた。
 奴隷達が穏やかに過ごしている様子を見て目を細めつつ、散見するある光景が気になった。
 皇霊祭での贈り物交換だ。親しい者同士だったり、家族だったりならば微笑ましいのだが、想い人へのプレゼントがやけに目につく。ガレオンが自然と目で追ってしまうのだ。

 セレヴィが裏でこそこそやっているのは知っていた。彼女は多分隠し通しているつもりなんだろうが、魔王を甘く見すぎである。
 確実にセレヴィはガレオンへプレゼントを贈ってくるだろう。ならば彼女へのお返しを用意しておくべきではないか。

 けど、何を用意すればいいのやら。彼女への答えもまだ考えていないというのに。
 物思いにふけっていたせいか、誰かとぶつかってしまった。謝ろうと顔を上げると、

「おや、ドンさんではありませんか」

 さわやかな笑顔でルシファーと、ノアが会釈をしてきた。
 ルシファーは巡視の途中、ノアは休日だったか。たまたま会ったから話をしていたのだろう。

「いやはや、ノア君が迷子になってしまったようでね。一緒に連れを探している最中なんですよ」
「チョコバナナに夢中になってたら置いて行かれました……それより、どなたですか?」

 ノアの間抜けっぷりに呆れつつ、ドン・マイケルとして自己紹介をする。そういえば、ノアにこの姿で出るのは初めてだったか。

「旅の方なんですかぁ。なんというか、いなせな格好ですね」
「ありがとな。丁度いい、俺も探してやろう」

 ノアに会えたのは好都合かもしれない。セレヴィが好みそうな物を聞き出せそうだ。
 他愛ない話をしながら、さりげなくセレヴィの話を出してみた。ノアは首を傾げ、

「セレヴィ様に贈り物をされるんですか?」
「単に女心の研究って奴さ。お前さんならどうなんだい?」
「そうですねぇ……私は飾り物なんて触った事もないですから、貰えればなんでもいいです。多分セレヴィ様も同じだと思いますよ。セレヴィ様は人間界の貴族出身ですけど、あんまり宝飾品は身に着けない方でしたし」
「うーん、確かにセレヴィ嬢が指輪やらイヤリングやらを着けている姿は見た事がないね」
「ですです。大事なのは、物よりもお気持ちですね。どんな思いを持って贈ってくれたのかを重視する方ですから、手作りのアクセサリなんかは凄く喜ぶかと思います」
「手作りか……ありがとよ、参考になった」

 ガレオンの技量なら数分で作れる。あとは何を作るかだ。
 程なくしてノアの連れ、先輩メイド達を見つけて彼女と別れた。腕を組むガレオンに、ルシファーは苦笑した。

「まだ、お気持ちが定まっていないご様子で」
「そうだな……俺ともあろう者が、小娘への返事一つにこうまで悩まされるとは思わなんだ」
「それだけセレヴィ嬢を大事に想っていらっしゃる証拠だと思います。イナンナ様と同じくらいに」
「……ああ、そうだな」

「でしたら、答えはシンプルですよ。主様がセレヴィ嬢とどうありたいのか、ありのままに伝えるべきです。イナンナ様を愛されているのは、私も勿論分かっています。ですが、そろそろ主様もご自身のお幸せを望んでもいい頃だと思いますよ」
「俺の幸せか……」

 ガレオンは奴隷達への幸せを考えるばかりで、自分の幸せに関しては考えた事はなかった。イナンナとの夢の実現が自分にとっての幸せだと信じていたから。
 でもセレヴィと接している内に、それ以上の幸せを感じるようになっていた。なぜなら、セレヴィもイナンナの夢に共感して、ガレオンの隣に立ってくれているから。
 俺がセレヴィに望んでいるのは……ただ一つだ。

「勿論、決断されるのは主様です。どのような結果になろうと、我々は主様の意思を尊重いたします。イナンナ様も、きっと同じ気持ちになられると思いますよ」
「……参考にはしておこう」

 イナンナへの罪悪感は残っている。だけども、セレヴィへの想いは少しずつ強くなっていた。
 拳を握り、ガレオンは歩き出した。ルシファーは微笑みながら、警備へ戻っていった。
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