「くっ、殺せ!」と屈服した女騎士を拾ったので虐待することにした。

歩く、歩く。

文字の大きさ
61 / 93

61話 過去の女がどうしてここに

しおりを挟む
 午後の業務も終わり、ガレオンとセレヴィが仕事から解放された。
 城下町も宴もたけなわと言った様子で、屋台は畳み出し、飾りの明りも消え始めている。人々は祝日の余韻に浸り、最後のイベントを始めようとしていた。
 皇霊祭は祭りの終了と同時に灯篭を飛ばす。祭りで配られた灯篭にはマナを込めると火が付き、浮遊するギミックが仕込まれていて、淡い灯かりで灯された空はそれはもう幻想的な眺めとなる。
 告白するには、絶好のロケーションだ。
 ガレオンとセレヴィは灯篭を持ち、話を切り出すタイミングを計っていた。最初に切り出したのは……。

「時間があるなら、バルコニーに来い」

 ガレオンである。セレヴィの答えは当然「yes」、断る理由がない。

「先に行ってくれないか? 準備がしたいんだ」
「構わん」

 セレヴィは足早に去っていく。ガレオンは壁に寄りかかり、長い息を吐いた。
 セレヴィを誘うなんていつもの事だろうに、今日は異様に緊張してしまった。約束を取り付けた以上、もうガレオンは逃げられない。

「無論、逃げるつもりはないがな」

 セレヴィとの将来を考えた時、自然と風景が浮かんだ。イナンナとの夢を実現し、その景色を彼女と共に見る風景が。
 ……セレヴィを選んだ事、イナンナはどう思うだろうか。

「お前への感情が薄れたわけではない、俺はお前を愛している。だがお前以上にあいつを……愛してしまったんだ」

 死んだ者では生きる者を支えられない。以前マステマから言われた言葉だ。
 まさにその通りだ。セレヴィとの時間の方が短いのに、イナンナ以上に彼女はガレオンを支えてくれているのだから。
 セレヴィを待たせるわけにはいかんな。
 拳を握り、ガレオンは待ち合わせの場所へ向かった。
 一方のセレヴィも、アバドンからタルトを受け取っていた。加えて紅茶セットも用意した上でバケットに入れてくれている。細やかすぎる気遣いだ。

「気分はどうアルか」
「凄くドキドキしているよ。……最悪の返事が来たらどうしようか……」
「紅茶に合うお菓子で何が好きアルか?」
「え? ああ……スコーンかな」
「なら明日作っとくアル」

 アバドンが関係のない質問をしてくれたおかげで、肩の力が抜けた。
 箱を抱えて飛び出すなり、マステマとルシファー、それにノアが待ち構えていた。

「ガレオン様はもう待っていますよっ、急いで急いで」
「何、心配する事はないさ。私からも援護させてもらったからね」

 ノアとルシファーに背を押され、最後にマステマが服を直してくれた。

「慰めとか必要っすか?」
「要らないよ」
「ん、そんじゃ魔王倒しに行ってこいっす」

 マステマとハイタッチし、セレヴィはガレオンの下へ走っていった。

  ◇◇◇

 バルコニーにて、ガレオンはセレヴィを待ちわびていた。
 緊張で喉が渇く。男として重大な決断をしようとしているから当然か。
 懐に忍ばせた箱に手を当て、深呼吸する。急ごしらえだから、セレヴィが喜んでくれるかどうか不安だ。
 ノアの助言を受け、ガレオンはある物を探してセレヴィへの贈り物を制作した。彼女を自分の物にするに相応しい逸品だ。

「待たせたな」

 息を切らせてセレヴィがやってきた。大事に抱えたバケットから箱を出すなり、ややぎくしゃくしながら彼に突き出した。

「これは?」
「察しろ。皇霊祭では世話になった者へ、贈り物を渡すんだろう?」
「他の意味もあるが、分かっているんだろう」
「ぐっ、皆まで言わせるな、こっちはいっぱいいっぱいなんだ」

 証拠にセレヴィはいきなり箱を渡してしまった。本当は彼に一言二言伝えてからにしようと思ったのに、ガレオンを前にしたら全部吹っ飛んでしまった。
 勿論彼女の心境を察せないほど、ガレオンは鈍くない。礼をしながら受け取り、多くを語らなかった。

「開けても?」
「どうぞ……」

 セレヴィは息を呑み、ガレオンの顔色を窺った。箱の中身が現れるなり、ガレオンから簡単としたため息が零れる。
 セレヴィが用意したのは、いちごをふんだんに使ったタルトだ。彩にブルーベリーも散らし、艶出しのナパージュによって文字通り輝いて見えた。

「ほら、ガレオンっていちごとか好きだろう? 前にストロベリーパフェ食べてたし、それでこんなのとかどうかと思ってな」
「俺は一度もいちご好きだと言った覚えも、お前の前でストロベリーパフェを食べた覚えもないが?」
「ぎくっ」
「さて、どこでそんな情報を仕入れたのやら。アバドン以外にあの部屋を知っている者は他に居ないはずなんだがな」
「…………(滝汗)」

 思い切り墓穴を掘ったセレヴィだった。ガレオンも知った上でいじわるしているのだが。
 にしても、随分と俺の好みを研究してきたようだ。
 アバドンの手も借りたセレヴィは、ガレオンの趣向に合致したタルトを作っていた。それだけ自分を想ってくれた事には、素直に喜んでいた。

「タルトに免じて許してやる。それより、茶菓子には紅茶が必須だと思わないか」
「今すぐ用意させていただきます……」

 主導権をすっかりガレオンに取られ、言われるがまま用意するセレヴィ。でも緊張は大分解けてきた。
 ガレオンのために紅茶を淹れる時間は、セレヴィが一番好きな瞬間でもある。それはガレオンも同じだった。
 二人でタルトを分け、暫し歓談した。すると淡い光が照らし始める。

 気が付けば、沢山の灯篭が浮かんでいた。夜空にオレンジの光が流れていく景色は神秘的で美しく、つい息を呑んでしまった。
 見惚れるセレヴィの横で、ガレオンは灯篭を準備している。急いでセレヴィも用意し、一緒に飛ばした。
 二つの灯篭が、光の大河へ合流していく。セレヴィは見送りながら、唇を噛んだ。

「ガレオン、お前の中に彼女が……イナンナが居るのを承知で、大事な事を伝えさせてくれ」

 彼の手を握るも、振り払われる気配はない。強く握りしめ、ついにセレヴィは決意を口にした。

「お前が好きだ。私は女として、男のガレオンに恋してしまったんだ。だから私と……恋仲になってくれないか……?」

 言葉としては短く、しかし大きな意味を込めた言葉だった。ガレオンは噛み締めるように目を閉じ、セレヴィの肩に手を置いた。
 セレヴィに先に言わせてしまった大事な言葉を、今度はガレオンが返す番だ。セレヴィは彼の言葉を待ち……ふと、彼の視線が別の方を向いているのに気付いた。

「ガレオン?」
「……馬鹿な……なぜ……」

 彼の視線は階下に向いている。追いかけると、そこにはうすぼんやりとした、女性の影が彷徨っていた。
 どこか戸惑っている様子の女性を、ガレオンはよく知っていた。
 一まとめにされた金と銀のメッシュの髪、日焼けした褐色肌に凛々しい面立ち。今日までずっとガレオンを支え続けた、大事な人だった。
 ガレオンはバルコニーから飛び出した。セレヴィも急いで彼を追いかけ飛び降りる。
 着地直前に風魔法で勢いを殺し、最短距離を走り抜ける。ガレオンは驚愕した顔で、女性と向き合っていた。

「なぜ……ここに居る……」
『お前、もしかして……アスタか?』

 ガレオンをそう呼ぶのは、セレヴィが知る限りたった一人しかいない。
 彼と共に激動の魔界を駆け抜けた、イナンナ・レ・アシュトレトだった。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

処理中です...