「くっ、殺せ!」と屈服した女騎士を拾ったので虐待することにした。

歩く、歩く。

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78話 お忍びで市井に出るとしよう

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 夜明け前の事である。
 鏡を前にセレヴィは服装を確認した。ガレオンから「これを着てこい」と言われたものの、如何せん初めて着る物だから、ちゃんと着れているか不安だ。
 ガレオンが市井に出る際、変装で使っている服、袴だ。髪もリボンで留め、アップに纏めた姿は、まるで別人のようだった。

「マステマから教わった通りにしたが、これでいいんだよな……?」

 恐らく、セレヴィだとは気づかれないはずだ。新しい服にワクワクしながら、セレヴィは窓へ走った。
 迎えに行くから窓で待てって……何するつもりなんだか。

「悪い事するつもりなんだよ」
「ぴっ!?」

 いきなり窓が開いたかと思うと、ガレオンが顔を出してきた。
 ドン・マイケルに変装していて、セレヴィとリンクコーデになっている。予想はしていたが、お揃いの恰好を改めて見ると中々の威力だ。

「驚かせるな、というかなんでこんな所に迎えに来る」
「この格好は幹部以外に伝えていないからな、ドン=俺とばれたら、市井に出られなくなるだろう」
「ああ、それで……いつも窓から出ているのか?」
「今後はセレヴィにもそうしてもらうかもな。お前も領内で随分顔と名が広まっている、そのうち普通にプライベートを楽しめなくなるぞ」

「はは、ガレオンと交際しているとなると、余計に注目されるものな」
「さて、無駄話はここまでだ。日が昇る前に出ていくぞ、今なら誰にも気づかれずに出ていけるからな」
「まるで夜逃げだな」
「だから言っただろ? 悪い事をすると」

 ガレオンが差し出した手を、セレヴィは握りしめた。
 彼に抱き寄せられ、首に腕を回すと、ガレオンの顔がすぐ近くになった。紅潮した顔を見られないよう背けるけど、高鳴る鼓動は隠しきれない。

 ガレオンはセレヴィをしっかり抱き留め、夜空へ飛び上がった。ボサツ戦でも見せた飛翔と見紛う跳躍にセレヴィは目を見開き、ガレオンにしがみついた。
 最初こそ恐かったが、ガレオンが傍にいるからか、段々安心してきた。眼下に広がる雄大な景色を眺めていると、鳥になったような気分になってきた。

「恐くはないか?」
「うん、ガレオンが支えてくれているから、かな」
「あまり男をやる気にさせるな、調子に乗ると碌な事にならんぞ」
「私は構わないよ、ガレオンになら何されてもいい」

 ガレオンの胸板に頭を預け、幸せを噛み締める。まだ始まったばかりだというのに、こんなに幸せでいいのだろうか。
 二人で取った二日間の休日、当然利用しない手はない。一泊二日の泊まり込みデートへ出発である。今日は朝から、存分に遊ぶとしよう。

  ◇◇◇
 
 ガレオンは領地の東へ向かっていた。この辺りは深い森と標高500メートル程の山が連なり、ガレオン領の中でも自然がとみに豊かな場所だ。日が昇り始め、朝日に照らされた森が白銀に光っている。
 木々に囲まれるように街が存在していて、ガレオンはその手前、人気のない場所に着地した。

「ここからは歩いて行くぞ」
「直接行かないのか?」
「あんな無茶な入り方をしたら流石にバレるだろ。今の俺は旅人ドン・マイケルの設定だからな、それらしく振る舞う必要がある」
「妙なこだわりはなんなんだ。案外子供っぽいな」
「遊ぶのに大人っぽく振る舞ってどうする。オフをとことん楽しむのが人生のコツだ」

 セレヴィはつい笑った。普段は魔王らしくカリスマ溢れる存在であろうとするガレオンだが、素の顔はノリが良く、悪ふざけが好きなガキ大将みたいな男だ。

「で、いいのか? 何もしなくて」

 それでも本質は変わらない。さりげなく手を出し、セレヴィをリードしてくれている。
 恥じらいつつ触れると、指を絡めてくれた。大事にされている気がして、この時点で燃え尽きそうになる。
 未経験故主導権を握られっぱなしで、セレヴィは翻弄されるがまま。ガレオンから与えられる甘い刺激の数々に参ってしまいそうだ。

「と、ところでだ。ここにはまだ来た事がないが、どんな場所なんだ?」
「自然公園だ。少々特殊な遺跡がある場所でな、調査と保護のために整備していく内に、奴隷どもの憩いの場に変わってしまってな。森林浴がてら、見物しに行くぞ」
「遺物か、いいな。まだまだ魔界について知らない事だらけだし、色々教えてくれ」

 セレヴィは結構歴史好きでもある。幼き頃に両親に連れられ、いくつかの遺跡を見せてもらった思い出があった。
 自然公園の傍にある街は、木造のコテージが並ぶ落ち着いた場所だ。到着と同時に空腹を感じ、朝食も取らずに出たのを思い出す。
 そしたらガレオンは、迷いなくカフェに足を運んだ。

「ここのモーニングが好きでな、セレヴィも試してみろ」
「ガレオンが言うなら余程美味なんだろうな。しかしなんだ、紅茶とは違ういい匂いがする……」
「城下町でも扱っているはずだぞ? マステマやノアとよくカフェに行くだろう」
「紅茶しか頼まなくて。なんだか落ち着く香りだ」
「人間界にコーヒーはないか。試してみるか?」

 コーヒーとはなんぞや。未知の飲み物にセレヴィは興味津々だ。
 ガレオンに導かれるまま注文を取ると、出てきたのは大きなオムレツと分厚いハム、サラダの充実したモーニングだ。パンは焼き立てで、皮がぱりぱりと香ばしかった。
 一方のガレオンはベリーソースのかかったパンケーキを頼んでいる。これまた綺麗に盛り付けられており、艶のあるソースが光ってとても美しい。ガレオンが太鼓判を押すだけあって、文句なしの出来栄えだ。

 その中で一つ、異彩を放つのが、初めて見るコーヒーだ。
 濃いキャラメル色をしていて、紅茶とはまた違う、深掘りしたようなコクのある匂いがした。セレヴィは未知の液体に警戒心を抱くも、蠱惑的な香りに惹かれた。恐る恐る口を着けると……。

「……これは、ミルクとシロップで味付けているのか。うん……うん。ほろ苦くて、酸っぱくて、ちょっと渋みがあって……不思議な味だ」
「悪くないだろう。まぁセレヴィの紅茶には負けるがな」
「当然だ、誰のために丹精込めていると思っている。ただ、コーヒーにも少し興味が出てきたな」
「気になるなら教えてやるぞ、これが中々奥深い」
「どれだけ趣味趣向の幅が広いんだ」
「ま、あちこち回っていれば自然と身に付くもんだ。コーヒーを淹れるなら、茶請けも知っておくといい。例えば、パンケーキとの相性もいいんだぞ」

 ガレオンはセレヴィにパンケーキを差し出した。これは所謂、「あーん」と言う奴だろうか。
 開店直後で客もおらず、人目をはばかる必要もないから、こんな事をするのだろうが……照れつつもセレヴィは、魔王直々に食べさせてもらった。
 確かに美味い、美味いのだが、ものっそい甘く感じる。舌がだれてしまいそうだ。

「くくっ、お気に召したようだな」
「ずるいな、いつも……」
「ならやり返せばいいだけだろう? まぁセレヴィにそんな度胸があればの話だがな」
「なめるな、私だってやろうと思えば……」
「ではどうぞ、やれるものならな」

 ガレオンは頬杖を突き、待ち構えた。余裕たっぷりな彼にセレヴィは反撃に出ようとしたが、悲しいかな、羞恥心が上回って頭から湯気を出し、撃沈してしまった。
 くそぅ、やっぱガレオンには敵わないのか……テーブルに突っ伏し、セレヴィは悶えまくった。

「なんでお前は的確に私の弱点突いてくるんだ……なんか手品でもやってるのか……?」
「さて、どうだろうな。タネも仕掛けもあるのは確かだが」

 悪戯っぽく笑うガレオンを見上げ、セレヴィもつられて笑った。この魔王はどこまで自分を惚れさせてくれるのだろうか。
 ガレオンと談笑しつつ、自然豊かなカフェテリアで過ごす穏やかな時間。そっと足を絡ませると、ガレオンも返してくれた。セレヴィのツボを的確に突いてくる。
 これだけでも最高の贈り物なのだが、ガレオンは今日が何の日か、気づいているのだろうか。
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