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2話 神話的な日常
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空を飛ぶペガサスを眺めながら、浩二は琴音と二人で帰路についていた。
浩二は当たり前の光景として受け入れているが、電柱上にてサンダーバードが群れでトーテムポールを作っていたり、きわどい衣装のニンフらが女子高生に混じって恋バナをしていたり、アスモデウスが警官姿で見回りをしていたりと、日常に神話があふれかえっている。そもそもてめー悪魔だろってのが一人居るが、まぁ気にしない。
神話が溢れる以前を知る人の中には、未だにこの光景を受け入れられない人も居るらしい。彼らにしてみれば、伝説の存在が目の前に居るのは受け入れがたい事のようだ。
物心ついた時から神話が身近な浩二にしてみれば、あまり理解は出来ない感覚だったのだが、最近はちょっとだけ分かりつつある。主に某ばるきりーさんとか言うワルキューレのおかげで。
「考えてみりゃ、いつ牙をむくか分からない連中と一緒に居るんだよな、俺達……」
「それはちょっと考えすぎだと思うよぉ?」
琴音は鞄からパンを出しながら言った。
「だって伝説の動物とか可愛いの一杯居るんだもん。可愛いは正義だよこうちゃん!」
「お前、前ハーピィに青木ヶ原の樹海まで誘拐されたことなかったっけ?」
「うん。危うく食べられそうになっちゃったよぅ」
んなほわわんと言える事件じゃないのだが、琴音はのほほんとパンをちぎって、高らかに口笛を吹いた。
「でも助かったからいいでしょ。その時助けてくれたのもゴーゴンさんとペルセウスさんだったんだし、神話の人だって悪い人ばっかりじゃないんだよ」
「それは分かる……ってその二人がタッグ組んで助けたのかよ」
二人の弁では「殴り合う事で互いを理解した」そうなのだが、あの人らの場合殴り合うどころか首を刎ね合う血みどろ大合戦だったはずでは?
冷や汗を流す浩二をよそに、琴音は口笛で呼び寄せたトモダチに手を振っていた。
「私達ってさ、まだ神話の人達の事、全然わかってないでしょ? そりゃ、「お前を殺す」とか言う恐い人も居るよ。でも皆そうじゃないんだよ。私を助けようとしてくれる人も居るし、ばるきりーさんみたいに私達を知ろうとしてくれる人も居る。だから、神話の人達の一部を見てこうだって決め付けるのは、もったいないと思うんだ」
「まぁ、そうだけどな」
トモダチにパンを与える琴音を眺めつつ、浩二はばるきりーさんの顔を思い浮かべた。
琴音の言う事は間違ってはいないけど、正解とも言いがたい。それに浩二は当たり前のものとして受け入れているが、神話の存在を信用しているかと問われると、答えは異なる。
それに……人間にだって、同じような事が言える。
「だからさ、もうちょっと見てみようよ。ばるきりーさんだって、悪い人じゃないんだし」
「……善処はしてやるさ」
「それって結局しないでしょ。私達を見てよ! こーんなに仲がよくて分かりあふっ」
渋る浩二に抗議しようと琴音が両手を広げた途端、琴音のトモダチが牙をむいた。
頭から琴音を齧り、あぐあぐと嘴で噛み締め出したのだ。……人間が(食物連鎖的に)大好きなオトモダチ、グリフォンのぐりちゃんが。
「おごぉっ! いひゃひゃひゃひゃ!」
「説得力皆無すぎるだろおめーの交遊録っ」
グリフォンの嘴をこじ開けて琴音を救出し、浩二は鼻っ柱に鞄をたたきつけて追い払った。
飛び去るグリフォンを涙目で見送り、琴音はぱんぱんと制服を払って一言。
「あう~……ぐりちゃん行っちゃった……」
「自分が餌になりかけてよくそんな事が言えるよな……」
この幼なじみ、メンタルがカーバンクルの宝石張りに硬いらしい。実際カーバンクルの宝石がどれだけ硬いか知らんが。もしくは単なるドMだろうか。
「ともあれっ、人は見かけで判断しちゃいけないよって事だよこうちゃん!」
「お前はもう少し見かけで判断してくれ」
お笑い芸人並みに体を張り過ぎな幼なじみを案じつつ、浩二は頬をかいた。
琴音にそう言われても、浩二は考えを改める気なんて無かった。人だろうが伝説の存在だろうが、出来るだけ信頼しないに越したことはない。信頼するだけ無駄なのだから。
「もぅ……頑な、偏屈、ムッツリ、脳みそアンリ=マユ」
「うるせ……って誰の脳みそが絶対悪だコラ」
琴音の頬を軽く引っ張り、浩二はため息をついた。
ばるきりーさんに琴音と、俺の身の回りに居る女は面倒な奴しかいないのか。浩二は頭の上にぐるぐると渦巻きを浮かべた。
「もー、そんな風にため息ついたら不幸が落ちてくるよ?」
「もう落っこちてるようなもんな気もするけどな」
「もっとおっきな不幸だよ。たとえば……」
琴音はこめかみに指を当て、ぽくぽくと考え出した。
「いきなり突風が起こったと思ったら、空から巨大な鷲の巨人が降りてきて、私達をぺろりんちょと食べてきたりとか!」
「そんな具体的かつ都合の悪い事がそうそう起こるかよ」
巨人族は意外と温厚な連中が多く、人間と一番友好的に過ごしている種族だ。実際浩二の隣にも住んでいるのだが、毎朝掃き掃除をして近所を綺麗にしてくれるいい奴である。
琴音を笑い飛ばし、浩二はさっさと帰宅しようとした。
ふわっと風が吹き、浩二の髪を揺らす。やや砂塵の香り漂うこの風は、エジプト神話のアメンが起こしているのだろう。各神話の風神がローテーションで世界中に風を送っているのだが、神々によって風の匂いが違うのは興味深いものである。
鼻一杯に匂いをかぐと、ちょいと、硬く焼きしめたパンが恋しくなる。これもお国柄の風のせいだろうか。
「……ふぐっ」
風にむせ、浩二は咳き込んだ。なんか心なし……風が強くなっているような?
鼻をこすり、浩二は首を傾げた。おいおいアメン、張り切りすぎだ。大丈夫か? 腕を組み、浩二は姿を見た事のない風神に聞いてみた。
いや、聞くまでもなく大丈夫ではない。段々風が強くなってきている。勢いは増しに増して突風に変わりつつあり……浩二は不安になってきた。
「琴音」
「何?」
「お前……突風が起こったら、次に何が来るって言ったっけ?」
「えっと、空からね、鷲の巨人が降ってくる」
琴音が言うなり、浩二は目を凝らした。
視線の先に、随分大きな影が見えた。その影は徐々に大きくなり、着実に二人の下へ向かおうとしていた。
喉を鳴らし、浩二はよーく観察してみた。どうもその影は羽毛で身を包んでいるようで、背中に立派な翼を携えているようなのだ。しかも……頭は鳥の形をしているらしい。
「……もう一度聞くぞ、琴音。何が来るって?」
「……鷲の巨人」
琴音の予言、見事に的中。
影との距離は、完全に姿が視認出来るほどまでに接近した。体躯は十五メートルほど。影の正体は、鷲がそのまま人の形を成した、鷲の巨人フレースヴェルグであった!
「え?」
浩二が呆気に取られた隙に、フレースヴェルグは二人の前に着地した。
ヤンキー座りで顔を近づけ、まじまじとこちらを見下ろしている。目はちょっとイッちゃってて、シャブかなんかでも打ったみたいにラリっているようだった。
少なくとも、お友達になれそうな感じじゃあない。
「……んで、この後どうなるって?」
「えっと、私たちを食べちゃった……り?」
琴音が首をかしげた瞬間、フレースヴェルグが琴音をつまみ上げた。
そして大口を開け、いきなり琴音を食おうとした!
「ってなぁ!?」
浩二は落ちていた空き缶をフレースヴェルグに投げつけ、目に直撃させた。フレースヴェルグは拍子に琴音を取りこぼし、浩二はジャンプして琴音をキャッチした。
「い、いきなり食べにきたぞこいつ!」
「逃げようこうちゃん!」
琴音を担いだまま、浩二は全速力で駆け出した。がしかし、相手は巨人である。
手をちょいと伸ばせば、簡単につかまってしまう。しかも今度は浩二が捕まった。
小さく放り投げられ、直接口に入れられた。そのまま飲み込まれそうになるが、浩二はTシャツにつぶされたカエル顔負けのど根性で踏みとどまり、
「ふんぬっ!」
閉じようとする嘴を、気合で押し止めた!
映画のワンシーンみたいな急展開に混乱し、浩二は目を回した。けどパニックになっている場合じゃない、早く逃げねば!
「鶏肉ごときが……人を食おうなんざぁ……!」
巨人との力比べに互角を演じる浩二だが、分が悪すぎる。フレースヴェルグが手を使えば、浩二なんぞあっという間に食われてしまう。
そう思った直後にやってくる、巨人の腕。浩二は最後の力を振り絞り、フレースヴェルグの口を押し返した。
「百年早いわぁっ!」
気合の咆哮を出し、浩二はついに口をこじ開け、自力で脱出してしまった! スレスレのところで腕を避け、受身を取って地面を転がり難から逃れた。一応浩二は普通の人間、特別な訓練など積んでいない。
その証拠に消耗しきって立ち上がれず、腕も足も痺れて動けない。行動不能の浩二に、またしてもフレースヴェルグの腕が迫った!
「んの……やろぉっ!」
浩二は立ち上がり、逃げようとした。けど無理だ、歩く事すら出来ない!
フレースヴェルグの手が、浩二をつかみ掛ける。浩二が諦めかけた次の瞬間、銀の閃光が走るなり、フレースヴェルグの腕が切断された。
急転直下の展開に思考が追いつかず、浩二は目を点にした。でもって落ちた巨人の腕が近くのブロック塀をぶっ壊し、でかい破片が浩二の右腕に直撃した。
ごきっと嫌な音がして、右腕に激痛が走る。もしかしたら、肩が外れたかも。
けど今は、痛みよりも別の事が気になっていた。浩二は顔を上げ、フレースヴェルグの前に立つ、銀髪の戦乙女の背中を見上げた。
そのワルキューレは、大型の槍を担いでいた。鍵爪のような穂先を持ち、柄が青く、怪しく光っている。あの槍はワルキューレの真名を冠した、彼女の魔力が具現化した物だ。
「待たせたな、助けに来たぞ、浩二」
槍を振り、フレースヴェルグに突きつけたワルキューレは、頼もしい笑みを浮かべた。笑顔の中には、自分の居場所に戻ってきたかのような喜びを携えている。
しかし助けが来たにも関わらず、浩二は戦々恐々としていた。だってこの救援、確実にやりすぎるのが目に見えているのだもの。
「ふっふっふ……教師生活二週間、ようやく本来の力を振るえるわ!」
「ならとっとと退職して本来の役職に戻れよ!」
ほらやっぱりやりすぎる。絶対にやりすぎる!
最恐の恐師、ばるきりーさんがここに降臨してしまった。あまりにも頼もしく、だがあまりにも危険なヒロインに、浩二は別種の脂汗を噴出していた。
「さぁて、見せてやろう浩二。この私がどれだけの力を持つか、その目に焼き付けるがいい!」
大声を出して威嚇するフレースヴェルグに、
「ラーズグリーズ、いざ参る!」
ラーズグリーズことばるきりーさんが、意気揚々と飛び掛った!
光のごとき速さで飛んだばるきりーさんは、巨人の顎に痛烈な飛び膝蹴りをぶちかまし、眉間を槍でぶん殴った。そしたらフレースヴェルグはたたらを踏んで、近隣民家を潰しながら倒れてしまった。
浩二は「げっ」と潰れた悲鳴を上げた。パラパラ散りゆく木片が頭に降りかかり、浩二の顔がもう一度青くなる。木片は琴音にも降りかかり、大きな欠片が落ちてくるのが見えた。
ばるきりーさんはそんなもんお構い無しに槍を振りかぶった。魔力を込めたのか、槍の光が激しくなる。
「ちょ、やめ……」
浩二は止めようとするも、既に遅い。急いで琴音の下へ走ったが、間に合わない。
「くらえっ!」
ばるきりーさんは渾身の力を込め、全力で槍をぶん投げた。
ばるきりーさんの投げた超音速の槍の一撃は、二人を巻き込んで、閑静な住宅街に大爆発を引き起こした。
浩二は当たり前の光景として受け入れているが、電柱上にてサンダーバードが群れでトーテムポールを作っていたり、きわどい衣装のニンフらが女子高生に混じって恋バナをしていたり、アスモデウスが警官姿で見回りをしていたりと、日常に神話があふれかえっている。そもそもてめー悪魔だろってのが一人居るが、まぁ気にしない。
神話が溢れる以前を知る人の中には、未だにこの光景を受け入れられない人も居るらしい。彼らにしてみれば、伝説の存在が目の前に居るのは受け入れがたい事のようだ。
物心ついた時から神話が身近な浩二にしてみれば、あまり理解は出来ない感覚だったのだが、最近はちょっとだけ分かりつつある。主に某ばるきりーさんとか言うワルキューレのおかげで。
「考えてみりゃ、いつ牙をむくか分からない連中と一緒に居るんだよな、俺達……」
「それはちょっと考えすぎだと思うよぉ?」
琴音は鞄からパンを出しながら言った。
「だって伝説の動物とか可愛いの一杯居るんだもん。可愛いは正義だよこうちゃん!」
「お前、前ハーピィに青木ヶ原の樹海まで誘拐されたことなかったっけ?」
「うん。危うく食べられそうになっちゃったよぅ」
んなほわわんと言える事件じゃないのだが、琴音はのほほんとパンをちぎって、高らかに口笛を吹いた。
「でも助かったからいいでしょ。その時助けてくれたのもゴーゴンさんとペルセウスさんだったんだし、神話の人だって悪い人ばっかりじゃないんだよ」
「それは分かる……ってその二人がタッグ組んで助けたのかよ」
二人の弁では「殴り合う事で互いを理解した」そうなのだが、あの人らの場合殴り合うどころか首を刎ね合う血みどろ大合戦だったはずでは?
冷や汗を流す浩二をよそに、琴音は口笛で呼び寄せたトモダチに手を振っていた。
「私達ってさ、まだ神話の人達の事、全然わかってないでしょ? そりゃ、「お前を殺す」とか言う恐い人も居るよ。でも皆そうじゃないんだよ。私を助けようとしてくれる人も居るし、ばるきりーさんみたいに私達を知ろうとしてくれる人も居る。だから、神話の人達の一部を見てこうだって決め付けるのは、もったいないと思うんだ」
「まぁ、そうだけどな」
トモダチにパンを与える琴音を眺めつつ、浩二はばるきりーさんの顔を思い浮かべた。
琴音の言う事は間違ってはいないけど、正解とも言いがたい。それに浩二は当たり前のものとして受け入れているが、神話の存在を信用しているかと問われると、答えは異なる。
それに……人間にだって、同じような事が言える。
「だからさ、もうちょっと見てみようよ。ばるきりーさんだって、悪い人じゃないんだし」
「……善処はしてやるさ」
「それって結局しないでしょ。私達を見てよ! こーんなに仲がよくて分かりあふっ」
渋る浩二に抗議しようと琴音が両手を広げた途端、琴音のトモダチが牙をむいた。
頭から琴音を齧り、あぐあぐと嘴で噛み締め出したのだ。……人間が(食物連鎖的に)大好きなオトモダチ、グリフォンのぐりちゃんが。
「おごぉっ! いひゃひゃひゃひゃ!」
「説得力皆無すぎるだろおめーの交遊録っ」
グリフォンの嘴をこじ開けて琴音を救出し、浩二は鼻っ柱に鞄をたたきつけて追い払った。
飛び去るグリフォンを涙目で見送り、琴音はぱんぱんと制服を払って一言。
「あう~……ぐりちゃん行っちゃった……」
「自分が餌になりかけてよくそんな事が言えるよな……」
この幼なじみ、メンタルがカーバンクルの宝石張りに硬いらしい。実際カーバンクルの宝石がどれだけ硬いか知らんが。もしくは単なるドMだろうか。
「ともあれっ、人は見かけで判断しちゃいけないよって事だよこうちゃん!」
「お前はもう少し見かけで判断してくれ」
お笑い芸人並みに体を張り過ぎな幼なじみを案じつつ、浩二は頬をかいた。
琴音にそう言われても、浩二は考えを改める気なんて無かった。人だろうが伝説の存在だろうが、出来るだけ信頼しないに越したことはない。信頼するだけ無駄なのだから。
「もぅ……頑な、偏屈、ムッツリ、脳みそアンリ=マユ」
「うるせ……って誰の脳みそが絶対悪だコラ」
琴音の頬を軽く引っ張り、浩二はため息をついた。
ばるきりーさんに琴音と、俺の身の回りに居る女は面倒な奴しかいないのか。浩二は頭の上にぐるぐると渦巻きを浮かべた。
「もー、そんな風にため息ついたら不幸が落ちてくるよ?」
「もう落っこちてるようなもんな気もするけどな」
「もっとおっきな不幸だよ。たとえば……」
琴音はこめかみに指を当て、ぽくぽくと考え出した。
「いきなり突風が起こったと思ったら、空から巨大な鷲の巨人が降りてきて、私達をぺろりんちょと食べてきたりとか!」
「そんな具体的かつ都合の悪い事がそうそう起こるかよ」
巨人族は意外と温厚な連中が多く、人間と一番友好的に過ごしている種族だ。実際浩二の隣にも住んでいるのだが、毎朝掃き掃除をして近所を綺麗にしてくれるいい奴である。
琴音を笑い飛ばし、浩二はさっさと帰宅しようとした。
ふわっと風が吹き、浩二の髪を揺らす。やや砂塵の香り漂うこの風は、エジプト神話のアメンが起こしているのだろう。各神話の風神がローテーションで世界中に風を送っているのだが、神々によって風の匂いが違うのは興味深いものである。
鼻一杯に匂いをかぐと、ちょいと、硬く焼きしめたパンが恋しくなる。これもお国柄の風のせいだろうか。
「……ふぐっ」
風にむせ、浩二は咳き込んだ。なんか心なし……風が強くなっているような?
鼻をこすり、浩二は首を傾げた。おいおいアメン、張り切りすぎだ。大丈夫か? 腕を組み、浩二は姿を見た事のない風神に聞いてみた。
いや、聞くまでもなく大丈夫ではない。段々風が強くなってきている。勢いは増しに増して突風に変わりつつあり……浩二は不安になってきた。
「琴音」
「何?」
「お前……突風が起こったら、次に何が来るって言ったっけ?」
「えっと、空からね、鷲の巨人が降ってくる」
琴音が言うなり、浩二は目を凝らした。
視線の先に、随分大きな影が見えた。その影は徐々に大きくなり、着実に二人の下へ向かおうとしていた。
喉を鳴らし、浩二はよーく観察してみた。どうもその影は羽毛で身を包んでいるようで、背中に立派な翼を携えているようなのだ。しかも……頭は鳥の形をしているらしい。
「……もう一度聞くぞ、琴音。何が来るって?」
「……鷲の巨人」
琴音の予言、見事に的中。
影との距離は、完全に姿が視認出来るほどまでに接近した。体躯は十五メートルほど。影の正体は、鷲がそのまま人の形を成した、鷲の巨人フレースヴェルグであった!
「え?」
浩二が呆気に取られた隙に、フレースヴェルグは二人の前に着地した。
ヤンキー座りで顔を近づけ、まじまじとこちらを見下ろしている。目はちょっとイッちゃってて、シャブかなんかでも打ったみたいにラリっているようだった。
少なくとも、お友達になれそうな感じじゃあない。
「……んで、この後どうなるって?」
「えっと、私たちを食べちゃった……り?」
琴音が首をかしげた瞬間、フレースヴェルグが琴音をつまみ上げた。
そして大口を開け、いきなり琴音を食おうとした!
「ってなぁ!?」
浩二は落ちていた空き缶をフレースヴェルグに投げつけ、目に直撃させた。フレースヴェルグは拍子に琴音を取りこぼし、浩二はジャンプして琴音をキャッチした。
「い、いきなり食べにきたぞこいつ!」
「逃げようこうちゃん!」
琴音を担いだまま、浩二は全速力で駆け出した。がしかし、相手は巨人である。
手をちょいと伸ばせば、簡単につかまってしまう。しかも今度は浩二が捕まった。
小さく放り投げられ、直接口に入れられた。そのまま飲み込まれそうになるが、浩二はTシャツにつぶされたカエル顔負けのど根性で踏みとどまり、
「ふんぬっ!」
閉じようとする嘴を、気合で押し止めた!
映画のワンシーンみたいな急展開に混乱し、浩二は目を回した。けどパニックになっている場合じゃない、早く逃げねば!
「鶏肉ごときが……人を食おうなんざぁ……!」
巨人との力比べに互角を演じる浩二だが、分が悪すぎる。フレースヴェルグが手を使えば、浩二なんぞあっという間に食われてしまう。
そう思った直後にやってくる、巨人の腕。浩二は最後の力を振り絞り、フレースヴェルグの口を押し返した。
「百年早いわぁっ!」
気合の咆哮を出し、浩二はついに口をこじ開け、自力で脱出してしまった! スレスレのところで腕を避け、受身を取って地面を転がり難から逃れた。一応浩二は普通の人間、特別な訓練など積んでいない。
その証拠に消耗しきって立ち上がれず、腕も足も痺れて動けない。行動不能の浩二に、またしてもフレースヴェルグの腕が迫った!
「んの……やろぉっ!」
浩二は立ち上がり、逃げようとした。けど無理だ、歩く事すら出来ない!
フレースヴェルグの手が、浩二をつかみ掛ける。浩二が諦めかけた次の瞬間、銀の閃光が走るなり、フレースヴェルグの腕が切断された。
急転直下の展開に思考が追いつかず、浩二は目を点にした。でもって落ちた巨人の腕が近くのブロック塀をぶっ壊し、でかい破片が浩二の右腕に直撃した。
ごきっと嫌な音がして、右腕に激痛が走る。もしかしたら、肩が外れたかも。
けど今は、痛みよりも別の事が気になっていた。浩二は顔を上げ、フレースヴェルグの前に立つ、銀髪の戦乙女の背中を見上げた。
そのワルキューレは、大型の槍を担いでいた。鍵爪のような穂先を持ち、柄が青く、怪しく光っている。あの槍はワルキューレの真名を冠した、彼女の魔力が具現化した物だ。
「待たせたな、助けに来たぞ、浩二」
槍を振り、フレースヴェルグに突きつけたワルキューレは、頼もしい笑みを浮かべた。笑顔の中には、自分の居場所に戻ってきたかのような喜びを携えている。
しかし助けが来たにも関わらず、浩二は戦々恐々としていた。だってこの救援、確実にやりすぎるのが目に見えているのだもの。
「ふっふっふ……教師生活二週間、ようやく本来の力を振るえるわ!」
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ほらやっぱりやりすぎる。絶対にやりすぎる!
最恐の恐師、ばるきりーさんがここに降臨してしまった。あまりにも頼もしく、だがあまりにも危険なヒロインに、浩二は別種の脂汗を噴出していた。
「さぁて、見せてやろう浩二。この私がどれだけの力を持つか、その目に焼き付けるがいい!」
大声を出して威嚇するフレースヴェルグに、
「ラーズグリーズ、いざ参る!」
ラーズグリーズことばるきりーさんが、意気揚々と飛び掛った!
光のごとき速さで飛んだばるきりーさんは、巨人の顎に痛烈な飛び膝蹴りをぶちかまし、眉間を槍でぶん殴った。そしたらフレースヴェルグはたたらを踏んで、近隣民家を潰しながら倒れてしまった。
浩二は「げっ」と潰れた悲鳴を上げた。パラパラ散りゆく木片が頭に降りかかり、浩二の顔がもう一度青くなる。木片は琴音にも降りかかり、大きな欠片が落ちてくるのが見えた。
ばるきりーさんはそんなもんお構い無しに槍を振りかぶった。魔力を込めたのか、槍の光が激しくなる。
「ちょ、やめ……」
浩二は止めようとするも、既に遅い。急いで琴音の下へ走ったが、間に合わない。
「くらえっ!」
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