5 / 32
4話 はた迷惑な家庭訪問。
しおりを挟む
帰宅した浩二は、なんとなくラインを確認した。今のところ、誰からもトークが来ていない。
両親の画面を見ても、一週間前に送ったメッセージは、まだ未読のままだった。
「ま、期待して無いけどさ」
リビングに鞄を投げ捨て、浩二はカレンダーにバツ印をつけた。
浩二の両親は海外で活躍するビジネスマンだ。最後に話をしたのは、半年前だっただろうか。今はどこをほっつき歩いているのか、想像もつかない。
もういつもの事だから、浩二は何も思わない。二人に対する感情は、非常に希薄な物だ。
まだ痛む肩に氷嚢を当て、浩二はばるきりーさんの起こした惨状を思い返した。
確かに助けてくれはしたが……あのワルキューレは、琴音が居た事に気付かなかったのだろうか。それだけじゃない、あの住宅街には自分の学校の生徒が多く住んでいる。奴は教師であるにも関わらず、生徒の住む場所をめちゃくちゃに壊しやがったのだ。
「……大人に期待するほうがおかしいか」
浩二は腕を動かした。多少痛むが、どうにか支障は無さそうだ。
嘆息し、浩二はテレビ台に飾ってある写真に目をやった。
小さな頃、近所の幼なじみ連中と撮った写真だ。そこに居るのは浩二と琴音と、もう一人の少女だ。
浩二はその少女を見つめ、奥歯を噛み締めた。ばるきりーさんのせいで、昔の事が鮮明に蘇ってくる。あんな奴が担任をしているなんて、考えるだけでも虫唾が走った。
「そうだ……」
浩二は思い立ち、スマホを出した。怒って帰ってしまったけど、琴音をほったらかしにしてしまった。
あいつ、大丈夫かな。あれだけ恐い目に遭って……いかれた巨人に絡まれるなんて、心に傷がついていてもおかしくない。
「これくらいしか出来ないけど」
せめて声はかけなければ。何もできず後悔するなんて、もうごめんだ。
浩二は幼なじみを救うべく通話を開始した。きっと落ち込んで、元気も失っていることだろう……。
「あ、やっほーこうちゃんアイラビュー!」
んでもって声を聞いた瞬間、直立不動の姿勢でどごんっと真後ろに倒れる浩二であった。
「なんでめっちゃ元気なんお前!?」
「えぇー? 元気ないほうがいいのぉー?」
「そうじゃないけどテンションが鬱陶しいんだよ! 何? カンフル剤でも脳みそに直射したのかてめー!」
心配していた分、思いっきり損した浩二である。想像を一周した元気さ加減に、さっきまでの薄ら暗い空気が木っ端微塵にぶち壊された。
「お前なぁ、さっき巨人に襲われて恐い思いしただろ? よくそんな元気で居られるな?」
「心配して電話してくれたんだ。やっぱ口は悪いけど優しいよね、こうちゃん」
「それ貶してんの、褒めてんの?」
「両方」
「おい」
ドスを利かせるも、琴音は全然意に介さない。むかっと来る反面、いつも通りで安心できた。
ただ……ちょーっと気になる点が。かっ飛んだブースト状態の琴音は何度も目にしている。誰かに頼られた時、そんな時、琴音は無駄に暴走してしまうのだ。
そしてその暴走状態のツケを支払う事になるのが、何を隠そう浩二なのだ。
「琴音。誰のおせっかいを焼いたんだ?」
「……秘密」
「言え」
「ヤダ」
よどみの無い即答だった。それだけで浩二は理解した。
こいつ、絶対俺に飛び火が来るタイプのおせっかいを焼いていると。
「琴音、一たす一は?」
「え? 二でしょ?」
「誕生日は?」
「七月七日」
「今居る場所は?」
「お家」
「名前は?」
「水橋琴音」
「違う違う。さっきまで一緒に部屋に居た人の」
「ばるきりーさんだけど……あ!」
単純な誘導尋問に引っかかり、琴音は電話越しにも分かるくらい動揺した。
「ちょっ……卑怯だ卑怯! ひきょーもの!」
「かかる方が悪い。てかお前、何もされなかったか!? あのアホ家に連れ込んでなんとも無いわけ無いだろうに!」
別件の心配に浩二の不安が急上昇、でもって無言でシラをきろうとする琴音。この無言で察せるのが幼なじみというやつで。
「……なんかあったんだな。なんかあったんだろ!」
「何にもないよ。むしろしたっていうか」
「考えうる限りの最悪の返答ありがとう」
つまりこうか。琴音はばるきりーさんに頼られ、そのまま変な事を吹き込んだと。それを察するなり、浩二は受難の風が吹き込んだのを感じた。
「何をした? 何を言った? それ確実に俺関連だよな? うぬぼれじゃなく確信を持って聞けるぞおい!」
「う、うぬぼれる浩二は嫌いじゃなくってよ!」
「何キャラだおめーは!」
「え……あ! ば、バイトの時間だ! じゃーねー!」
「江頭みたいな逃げ方すんな! こら待て!」
残念、琴音は通話をぶっちぎって逃げ出した。
ツーツー呻るスマホを耳元から離し、浩二は青ざめた。
あの羅針盤が狂ったお節介の事だ。確実にばるきりーさんに余計な物を伝授したに決まっている。誓いたくないが神に誓って間違いない。ワルキューレって一応下級の女神なので。
「な、何をする気なんだあいつ……」
猛烈に嫌な予感がした。あの先生の行動力は常軌を逸している。今頃こっちに向かってきているに決まっている!
そいでもって浩二の予感は、
「わーたーしーがー! キターーーーーーーーーーーー!」
窓ガラスに直撃したばるきりーさんのごとく的中した!
窓を割って入ったばるきりーさんは隕石に乗り、スーパーボールみたく室内を跳ね回り、薬をキメたかのようなテンションではしゃぎまわっている。うん、琴音のテンションが伝染しているのが丸分かりだ。
浩二はピキピキッと青筋を立てつつ、フライパンを手に取った。
「人ん家に何特攻してんだゴリラ女ぁ!」
跳ね回るばるきりーさんにスマッシュ一閃! ばるきりーさんをお外へかっ飛ばした!
「なんって迷惑な突入を試みてんだコラぁ! ワルキューレの辞書に迷惑って単語は」
「残念だったな。私はここだ」
背後から声をかけられ、浩二は振り向いた。そこにはたたき出したはずのばるきりーさんが、車田〇美の画風で鳳凰座のお兄さんみたいに仁王立ちしていた。
「え!? あれ!?」
「ご苦労、パリカー」
画風を元に戻したばるきりーさんは、窓の外に手を振った。そこには隕石を担いだ、古典的な魔女の格好をした芋っぽい女の子がたんこぶさすをさすって会釈をする姿が。
「……パリカー?」
「ゾロアスターの魔女でな、隕石に乗って迷惑な登場をするのが特技なのだ。ノック代わりに私に化けて突入させ、その隙に玄関から私が入ったという寸法だ」
「回りくどい!」
なら普通にノックしろや。浩二でなくてもそう思うダイナミックなおじゃましますだった。
「まぁとにかく、邪魔するぞ、浩二」
ばるきりーさんはパリカーを見送ってから、魔法で窓を元に戻した。マジで回りくどいが、何がしたいのこの先生。
浩二はイラつきながらも、一応客なのでお茶を用意した。勿論渡す時は湯飲みをテーブルにハンマーパンチでたたきつけるのを忘れない。
「んで、何の用だ。それ飲んだらさっさと帰れよ」
「うむ。ではそうしよう」
言われたとおり、ばるきりーさんはさっと飲んで席を立とうとした。
「いや帰るなや! マジで何しに来たのあんた!」
「だって君が帰れって言うから……」
「乙女かっ! あ、乙女だった……」
繰り返すが、ワルキューレは戦「乙女」である。
「とにかく、何の用だよ。まずは用件から言え用件から」
「うむ。フレースヴェルグの件の後、私は琴音に教師とはなんぞやと言うのをレクチャーしてもらったのだ」
よりによって最悪の即答だ。多分あの訪問、琴音の家で読んだ漫画に影響されたのだろう。一体奴はなんのレクチャーを施したんだ。
「私は戦士としては熟練だが、教師としては新米だ。故に至らぬ点が多すぎる。だからこそ、全部は出来なくとも、一つずつ自分に出来る事をしていこうと思ってな。そこでまず、琴音に言われた課題を片付けようと至ったのだ」
「……意外とまとも」
琴音のアドバイスにしてはえらく普通である。行動の是非は決してまともじゃないが。
「で……その課題ってなんだよ」
「それは、生徒を知る事だ」
ばるきりーさんはまっすぐな瞳で見つめた。
「君を助けた時、私は怒られた。その理由が未だに掴めずにいるのだ。それを琴音に話したら、浩二をもっと知るようにアドバイスを受けてな」
「なら先に琴音につけばよかったんじゃないのか?」
「いいや、君が先だ」
ばるきりーさんは即答した。
「君は私に言ったな。戦士であって、教師ではないと。その言葉が、未だに頭を離れんのだ。そしてそう言われたからには、真っ先に君に認めてもらいたい。そう強く思うのだ」
「……で?」
「そこで、この家庭訪問という奴だ。教師はこれを生徒の理解のためにするものなのだろう?」
ばるきりーさんにしては間違っていない解釈だ。琴音はとりあえず、それなりのレクチャーを施したようである。ただし、この馬鹿をけしかけた事はあとでしっかり説教して、しかるべきお仕置きをしなければ。
「浩二、話してくれるか? 君の事を。なぜ怒ったのかを」
「断る」
浩二は首を振った。
「話す理由が無いし、そのつもりもない。理解なんてしてもらわなくていい。大体なんであんたにそんな事を話さなきゃならないんだよ」
「それは私が」
「教師だからって何していい理由にはならない。大体信頼も何もない奴に、はいそうですかと自分の事を話す奴がいるか?」
「う……居ないな……」
「なら分かるだろ。俺はあんたと話す気は無い。必要以上に、人の領域に入ろうとするな!」
浩二は怒鳴り、ばるきりーさんを拒絶した。
強い拒絶を受け、ばるきりーさんはしゅんと縮こまった。互いに黙ったまま時間が過ぎ、埒が明かないと浩二はため息をついた。
「……とりあえず、もう帰れ。これ以上居たって、俺は何も話さないからな」
「……分かった。ではまた明日も来る」
ばるきりーさんはすごすごと立ち上がり、浩二も玄関まで見送った。
何度食い下がろうと、浩二は話すつもりなど無い。相手がワルキューレだろうがなんだろうが、こればかりは譲らない。
大人なんて、誰も頼りにならないのだから。
「それでは浩二、また明日、朝七時にな」
「おう」
浩二は憮然とした態度で返し、ばるきりーさんに背を向けた。
また明日、会うと思うと気がめいる。なんだって大嫌いな馬鹿とそんな朝から一緒に……。
「って待てぃ!」
あまりに不自然すぎる流れにようやく浩二は踏みとどまった。ばるきりーさんは悪人面で舌打ちした。
「くそ、もう少しだったのに」
「何をした? なんで俺は明日会うこと前提で話を進めた? 何しやがったモルドレット!」
「判断が狂うようパニックの魔法を使っただけだ、私は悪くヌェー」
「開き直るな!」
浩二は完全に魔法を振り切っていた。琴音も大概だが、この男も中々骨太メンタルである。
「兎にも角にも、私は来るぞ、絶対来るぞ、ほら……来るぞ。君を理解しきるまで、私は必ず来てやるぞ!」
「どうでもいいからさっさと帰れやコンチクショー!」
ピラニアのごとき食い付きを続けるばるきりーさんに、浩二は渾身のドロップキックをぶちかましてたたき出したのだった。
両親の画面を見ても、一週間前に送ったメッセージは、まだ未読のままだった。
「ま、期待して無いけどさ」
リビングに鞄を投げ捨て、浩二はカレンダーにバツ印をつけた。
浩二の両親は海外で活躍するビジネスマンだ。最後に話をしたのは、半年前だっただろうか。今はどこをほっつき歩いているのか、想像もつかない。
もういつもの事だから、浩二は何も思わない。二人に対する感情は、非常に希薄な物だ。
まだ痛む肩に氷嚢を当て、浩二はばるきりーさんの起こした惨状を思い返した。
確かに助けてくれはしたが……あのワルキューレは、琴音が居た事に気付かなかったのだろうか。それだけじゃない、あの住宅街には自分の学校の生徒が多く住んでいる。奴は教師であるにも関わらず、生徒の住む場所をめちゃくちゃに壊しやがったのだ。
「……大人に期待するほうがおかしいか」
浩二は腕を動かした。多少痛むが、どうにか支障は無さそうだ。
嘆息し、浩二はテレビ台に飾ってある写真に目をやった。
小さな頃、近所の幼なじみ連中と撮った写真だ。そこに居るのは浩二と琴音と、もう一人の少女だ。
浩二はその少女を見つめ、奥歯を噛み締めた。ばるきりーさんのせいで、昔の事が鮮明に蘇ってくる。あんな奴が担任をしているなんて、考えるだけでも虫唾が走った。
「そうだ……」
浩二は思い立ち、スマホを出した。怒って帰ってしまったけど、琴音をほったらかしにしてしまった。
あいつ、大丈夫かな。あれだけ恐い目に遭って……いかれた巨人に絡まれるなんて、心に傷がついていてもおかしくない。
「これくらいしか出来ないけど」
せめて声はかけなければ。何もできず後悔するなんて、もうごめんだ。
浩二は幼なじみを救うべく通話を開始した。きっと落ち込んで、元気も失っていることだろう……。
「あ、やっほーこうちゃんアイラビュー!」
んでもって声を聞いた瞬間、直立不動の姿勢でどごんっと真後ろに倒れる浩二であった。
「なんでめっちゃ元気なんお前!?」
「えぇー? 元気ないほうがいいのぉー?」
「そうじゃないけどテンションが鬱陶しいんだよ! 何? カンフル剤でも脳みそに直射したのかてめー!」
心配していた分、思いっきり損した浩二である。想像を一周した元気さ加減に、さっきまでの薄ら暗い空気が木っ端微塵にぶち壊された。
「お前なぁ、さっき巨人に襲われて恐い思いしただろ? よくそんな元気で居られるな?」
「心配して電話してくれたんだ。やっぱ口は悪いけど優しいよね、こうちゃん」
「それ貶してんの、褒めてんの?」
「両方」
「おい」
ドスを利かせるも、琴音は全然意に介さない。むかっと来る反面、いつも通りで安心できた。
ただ……ちょーっと気になる点が。かっ飛んだブースト状態の琴音は何度も目にしている。誰かに頼られた時、そんな時、琴音は無駄に暴走してしまうのだ。
そしてその暴走状態のツケを支払う事になるのが、何を隠そう浩二なのだ。
「琴音。誰のおせっかいを焼いたんだ?」
「……秘密」
「言え」
「ヤダ」
よどみの無い即答だった。それだけで浩二は理解した。
こいつ、絶対俺に飛び火が来るタイプのおせっかいを焼いていると。
「琴音、一たす一は?」
「え? 二でしょ?」
「誕生日は?」
「七月七日」
「今居る場所は?」
「お家」
「名前は?」
「水橋琴音」
「違う違う。さっきまで一緒に部屋に居た人の」
「ばるきりーさんだけど……あ!」
単純な誘導尋問に引っかかり、琴音は電話越しにも分かるくらい動揺した。
「ちょっ……卑怯だ卑怯! ひきょーもの!」
「かかる方が悪い。てかお前、何もされなかったか!? あのアホ家に連れ込んでなんとも無いわけ無いだろうに!」
別件の心配に浩二の不安が急上昇、でもって無言でシラをきろうとする琴音。この無言で察せるのが幼なじみというやつで。
「……なんかあったんだな。なんかあったんだろ!」
「何にもないよ。むしろしたっていうか」
「考えうる限りの最悪の返答ありがとう」
つまりこうか。琴音はばるきりーさんに頼られ、そのまま変な事を吹き込んだと。それを察するなり、浩二は受難の風が吹き込んだのを感じた。
「何をした? 何を言った? それ確実に俺関連だよな? うぬぼれじゃなく確信を持って聞けるぞおい!」
「う、うぬぼれる浩二は嫌いじゃなくってよ!」
「何キャラだおめーは!」
「え……あ! ば、バイトの時間だ! じゃーねー!」
「江頭みたいな逃げ方すんな! こら待て!」
残念、琴音は通話をぶっちぎって逃げ出した。
ツーツー呻るスマホを耳元から離し、浩二は青ざめた。
あの羅針盤が狂ったお節介の事だ。確実にばるきりーさんに余計な物を伝授したに決まっている。誓いたくないが神に誓って間違いない。ワルキューレって一応下級の女神なので。
「な、何をする気なんだあいつ……」
猛烈に嫌な予感がした。あの先生の行動力は常軌を逸している。今頃こっちに向かってきているに決まっている!
そいでもって浩二の予感は、
「わーたーしーがー! キターーーーーーーーーーーー!」
窓ガラスに直撃したばるきりーさんのごとく的中した!
窓を割って入ったばるきりーさんは隕石に乗り、スーパーボールみたく室内を跳ね回り、薬をキメたかのようなテンションではしゃぎまわっている。うん、琴音のテンションが伝染しているのが丸分かりだ。
浩二はピキピキッと青筋を立てつつ、フライパンを手に取った。
「人ん家に何特攻してんだゴリラ女ぁ!」
跳ね回るばるきりーさんにスマッシュ一閃! ばるきりーさんをお外へかっ飛ばした!
「なんって迷惑な突入を試みてんだコラぁ! ワルキューレの辞書に迷惑って単語は」
「残念だったな。私はここだ」
背後から声をかけられ、浩二は振り向いた。そこにはたたき出したはずのばるきりーさんが、車田〇美の画風で鳳凰座のお兄さんみたいに仁王立ちしていた。
「え!? あれ!?」
「ご苦労、パリカー」
画風を元に戻したばるきりーさんは、窓の外に手を振った。そこには隕石を担いだ、古典的な魔女の格好をした芋っぽい女の子がたんこぶさすをさすって会釈をする姿が。
「……パリカー?」
「ゾロアスターの魔女でな、隕石に乗って迷惑な登場をするのが特技なのだ。ノック代わりに私に化けて突入させ、その隙に玄関から私が入ったという寸法だ」
「回りくどい!」
なら普通にノックしろや。浩二でなくてもそう思うダイナミックなおじゃましますだった。
「まぁとにかく、邪魔するぞ、浩二」
ばるきりーさんはパリカーを見送ってから、魔法で窓を元に戻した。マジで回りくどいが、何がしたいのこの先生。
浩二はイラつきながらも、一応客なのでお茶を用意した。勿論渡す時は湯飲みをテーブルにハンマーパンチでたたきつけるのを忘れない。
「んで、何の用だ。それ飲んだらさっさと帰れよ」
「うむ。ではそうしよう」
言われたとおり、ばるきりーさんはさっと飲んで席を立とうとした。
「いや帰るなや! マジで何しに来たのあんた!」
「だって君が帰れって言うから……」
「乙女かっ! あ、乙女だった……」
繰り返すが、ワルキューレは戦「乙女」である。
「とにかく、何の用だよ。まずは用件から言え用件から」
「うむ。フレースヴェルグの件の後、私は琴音に教師とはなんぞやと言うのをレクチャーしてもらったのだ」
よりによって最悪の即答だ。多分あの訪問、琴音の家で読んだ漫画に影響されたのだろう。一体奴はなんのレクチャーを施したんだ。
「私は戦士としては熟練だが、教師としては新米だ。故に至らぬ点が多すぎる。だからこそ、全部は出来なくとも、一つずつ自分に出来る事をしていこうと思ってな。そこでまず、琴音に言われた課題を片付けようと至ったのだ」
「……意外とまとも」
琴音のアドバイスにしてはえらく普通である。行動の是非は決してまともじゃないが。
「で……その課題ってなんだよ」
「それは、生徒を知る事だ」
ばるきりーさんはまっすぐな瞳で見つめた。
「君を助けた時、私は怒られた。その理由が未だに掴めずにいるのだ。それを琴音に話したら、浩二をもっと知るようにアドバイスを受けてな」
「なら先に琴音につけばよかったんじゃないのか?」
「いいや、君が先だ」
ばるきりーさんは即答した。
「君は私に言ったな。戦士であって、教師ではないと。その言葉が、未だに頭を離れんのだ。そしてそう言われたからには、真っ先に君に認めてもらいたい。そう強く思うのだ」
「……で?」
「そこで、この家庭訪問という奴だ。教師はこれを生徒の理解のためにするものなのだろう?」
ばるきりーさんにしては間違っていない解釈だ。琴音はとりあえず、それなりのレクチャーを施したようである。ただし、この馬鹿をけしかけた事はあとでしっかり説教して、しかるべきお仕置きをしなければ。
「浩二、話してくれるか? 君の事を。なぜ怒ったのかを」
「断る」
浩二は首を振った。
「話す理由が無いし、そのつもりもない。理解なんてしてもらわなくていい。大体なんであんたにそんな事を話さなきゃならないんだよ」
「それは私が」
「教師だからって何していい理由にはならない。大体信頼も何もない奴に、はいそうですかと自分の事を話す奴がいるか?」
「う……居ないな……」
「なら分かるだろ。俺はあんたと話す気は無い。必要以上に、人の領域に入ろうとするな!」
浩二は怒鳴り、ばるきりーさんを拒絶した。
強い拒絶を受け、ばるきりーさんはしゅんと縮こまった。互いに黙ったまま時間が過ぎ、埒が明かないと浩二はため息をついた。
「……とりあえず、もう帰れ。これ以上居たって、俺は何も話さないからな」
「……分かった。ではまた明日も来る」
ばるきりーさんはすごすごと立ち上がり、浩二も玄関まで見送った。
何度食い下がろうと、浩二は話すつもりなど無い。相手がワルキューレだろうがなんだろうが、こればかりは譲らない。
大人なんて、誰も頼りにならないのだから。
「それでは浩二、また明日、朝七時にな」
「おう」
浩二は憮然とした態度で返し、ばるきりーさんに背を向けた。
また明日、会うと思うと気がめいる。なんだって大嫌いな馬鹿とそんな朝から一緒に……。
「って待てぃ!」
あまりに不自然すぎる流れにようやく浩二は踏みとどまった。ばるきりーさんは悪人面で舌打ちした。
「くそ、もう少しだったのに」
「何をした? なんで俺は明日会うこと前提で話を進めた? 何しやがったモルドレット!」
「判断が狂うようパニックの魔法を使っただけだ、私は悪くヌェー」
「開き直るな!」
浩二は完全に魔法を振り切っていた。琴音も大概だが、この男も中々骨太メンタルである。
「兎にも角にも、私は来るぞ、絶対来るぞ、ほら……来るぞ。君を理解しきるまで、私は必ず来てやるぞ!」
「どうでもいいからさっさと帰れやコンチクショー!」
ピラニアのごとき食い付きを続けるばるきりーさんに、浩二は渾身のドロップキックをぶちかましてたたき出したのだった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる