もしも北欧神話のワルキューレが、男子高校生の担任の先生になったら。

歩く、歩く。

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7話 誰か二人を止めてくれ!by浩二

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「というわけで、アメリカンホームコメディで距離をつめよう作戦は見事に失敗したわけだが」

 昼休み。社会科準備室でぼこぼこに伸された顔のまま、ラーズグリーズは琴音に顛末を話していた。
 普通に考えりゃあんな作戦で心を開くなんざ千パーセント無理なのだが、琴音は本気で成功すると思っていたようで、心底がっくりしていた。

「うーん……こうちゃんアメリカのホームドラマ好きなんだけどなぁ……何がいけなかったんだろ」
「私も疑問だ。できる限り忠実に人間の朝の生活風景を再現したはずなのだがな」

 忠実の向かうべき着地点が迷子である事に気付かぬ二人だった。
 この手の作戦立案能力のない人間とヴァルキュリアが頭をひねった所で出てくるのは知恵の水ではなくただの汚水だろう。

「しかし琴音よ。このような手段で本当に浩二を理解できるのか? 自白術で胸中を話してもらえばすぐに済む問題だと思うのだが」
「それ先生がやったら一発解雇物の大犯罪だよ」
「そしたらチャームでごまかせば」
「罪を余分に上塗りしていくスタイルちょっとタンマ!」

 琴音に止められ、ラーズグリーズは不満げに唇を尖らせた。このヴァルキュリアが本気を出したら完全犯罪も容易である。

「ばるきりーさん、相手は人間なんだよ。人に合わせた対応をしないと。魔法をそんな風に使うのは反則」
「ならば君が浩二の事情を話せばいいだけだろう。なぜそこまで頑なに話そうとしないのか、私としても理解に苦しむぞ」

 琴音が浩二について教えてくれれば、それなりの対応はできよう。その方がよっぽど効率的である。
 しかし琴音は首を振り、やんわりと断った。

「それはばるきりーさんが聞き出さないとだめ。何度も言ったでしょ」
「なぜだ? なぜ君もそうまで頑なに話そうとしない? 話してくれねば解決せんだろうに」

 悩むラーズグリーズに、琴音は微笑んだ。

「こうちゃんにも、触れられたくない事の一つや二つ、あるんだもん。それを信頼していない人に知られるのは……とっても嫌だと思うの」
「浩二も同じ事を言っていたが、なぜ彼はそこまで不信を抱く?」
「それは……あのね」

 琴音は言いよどんだ。

「こうちゃん自身がその、大人の人を全然信頼してないの。むしろ、嫌ってるくらいなんだ」

 琴音は髪を指に巻きつけた。

「こうちゃんは、心を閉ざしてるから」
「心を、閉ざす?」

 耳慣れない言葉に、ラーズグリーズは険しい顔になった。

「こうちゃんは昔、すごく嫌な事を経験しているの。そのせいで、大人の人に対して、心を閉ざすようになっちゃったの。だからばるきりーさんは、こうちゃんの心を開いて初めて、こうちゃんの事を知る権利があるんだよ」
「ではそれまでは、浩二を知る事ができないと?」
「できないんじゃなくて、できるようにするの」

 琴音はウインクした。

「それが先生のお仕事。生徒の心を開くのも、先生の大切な役目なの」
「むぅ……」

 ラーズグリーズは理解に苦しんだ。ヴァルハラには、そんな奴なんて一人も居なかった。皆胸襟を開き、互いに心をぶつけ合って過ごしていたのだから。
 心を閉ざす? なぜ彼はそんな馬鹿な真似をしている? そんな事をして何が楽しいのか? そんな生き方、つまらなくはないのか? 様々な疑問が出てくるも、ラーズグリーズは何一つとして答えを導き出せなかった。

「……ダメだ、わからん」
「わからなくてとーぜん。人の心は複雑なのです」

 琴音は鼻高に言い、弁当を出した。

「とにかく今はお弁当食べたーい。お腹すいちゃったよぅ」
「うむ、自由に食せ。今日は私しか居ないのだ、ゆっくりしろ」

 ラーズグリーズは左手に炎のダーツを作り、扉にかけてある的に狙いをつけた。
 浩二の心を開く……それが教師になるための一歩ならば、やるしかない。
 しかしどうした物だろうか、浩二とのコミュニケーションがまるで掴める気がしない。相手がこちらを拒絶しているから、なおさらだ。心を開こうにも、歩み寄ってくれなければ、突破口はない。
 どう近づくべきだろうか。ラーズグリーズは悩みながら、何気なくダーツを投げた。

「琴音ー」

 そしたらドアが開いて、女子生徒が入ってきた。
 二人で「あっ」と言うも、時すでに遅し。

「頼まれてたノート持ってきタガメッ!?」

 炎のダーツが顔面で爆発し、女子生徒は当たり前だが撃沈してしまったのだった。
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