もしも北欧神話のワルキューレが、男子高校生の担任の先生になったら。

歩く、歩く。

文字の大きさ
11 / 32

10話 ワルキューレがバスケ部の顧問になって大丈夫?

しおりを挟む
「というわけで、浩二どころか生徒達との軋轢がより一層酷くなったのだが」
「当たり前だわスカポンタン!」

 どうにか無事に帰還した放課後、社会科準備室にて琴音と木下にそう話したラーズグリーズは、ものの見事に的確なツッコミを受けていた。琴音はまだぐたっとしていて会話に参加する元気は無さそうだった。

「あたしも死ぬかと思ったわ! ヴァルハラってあんだけ危険な場所だったのかい!?」
「以前は本拠地として使っていたのだが、最近は世間がうるさくてな、エインヘリャルの収容が主な役割になっている」
「ある種理想的な監獄じゃないかい!」
「監獄とはなんだ監獄とは! あそこはわが主オーディンの居城だぞ!」
「それがどうした!」

 木下は定規でラーズグリーズをひっぱたいた。
 この叱責にラーズグリーズは納得がいかなかった。ちゃんと言われたとおりにしたはずなのに、なんでこんな仕打ちを受けねばならないのやら。

「ではどうすればよかったのだ?」
「だから普通でいいんだよ普通で。途中まではちゃんと出来てたじゃないか。ヴァルハラに人を連れて行く事事態が普通じゃないからな」
「そうなのか……」

 ラーズグリーズとしてはあそこで生徒が戦うのがベストだったのだが、どうも人間達には、神々の常識が通用しないらしい。こちらの常識に合わせようとしても、かえって不評を招くだけのようだ。

「では人類の常識に合わせた授業でなければならないのか……教師とは難しいな」
「うんまぁ、気付くのが遅すぎると思うけどね」

 木下は心底呆れた様子で、ラーズグリーズはへこんだ。
 しかしへこんでばかりもいられない。一度の失敗で躓いていては、永遠に前に進めないのだから。

「それにしても……」

 ラーズグリーズは耳をほじくり、如意棒を出した。
 ヴァルハラの壁に飾られた武器は全て、ラーズグリーズの主でなければ壁から剥がす事も出来ない。主の許可がなければ、ヴァルキュリアですら使えないのだ。

「汝が真の姿に戻れ」

 ラーズグリーズの命令に従い、如意棒は元の長さに戻った。ラーズグリーズも使えるようになっている。
 なぜ使えるようになった? ラーズグリーズは如意棒をよく観察して、極僅かに血がついているのに気付いた。そういえば、浩二はこれを取る前に怪我を拭っていた。その血でも付いたのだろう。主様の物なので、ラーズグリーズは血をふき取った。

 すると急に、如意棒が小さくなり、窓から飛び出してしまった。

 一瞬の出来事に、琴音と木下は気付いていない。それほどの速さだった。飛んでいった場所は、方向からしてヴァルハラだ。浩二の血を拭った途端、使用不能になったのだろうか?

「どういう事だ?」

 人間の血で使えるようになったとは考えがたい。だが現に、如意棒は使えなくなった。浩二の血がなくなった途端にだ。
 彼の血に、秘密でもあるというのだろうか。

「おいこら、ばるきりーさん。何ぼーっとしてんのさ」

 木下に肩を叩かれ、ラーズグリーズは我に返った。

「しっかりしてくれよ。あんたがやんないとこっちも手伝えないんだから」
「うむ、すまんな」

 ラーズグリーズは一旦、疑問を置く事にした。まずは生徒との軋轢を解消する方法を探すのが先だ。
 ただし、ここで問題発生。生徒との軋轢を解消するにはどうすればよいのでしょうか。
 出来る限り人間の常識に乗っ取った方法でコミュニケーションをとらねばならないのだが、そんな事がラーズグリーズに出来るはずも無いので。

「恐縮だが……生徒と距離を詰める方法を教えて欲しいのだが……」
「心が折れるの早いなあんた、ちょっとは自分で考えるとかしなよ」
「だってだって! 自分で考えたら人間なんかあっという間に壊れる方法しか思いつかないんだもん!」
「キャラがぶれる程に難しい問題かなそれ!」

 涙目で木下に泣き付くラーズグリーズに威厳のいの字もない。これでも一応ヴァルキュリア軍じゃ最上位に入るエリート中のエリートなのですが。

「……それじゃあ、部活の顧問とかどうかな」

 ようやく元気を取り戻した琴音が、会話に一石を投じてくれた。

「部活? 顧問……? なんだそれは?」
「えっとぉ、部活は私達にとって楽しみにしている事で、顧問はそれを見守る先生だよ。先生はただ勉強を教えるだけじゃなくて、私達の楽しみを見守るのもお仕事なんだ」
「楽しみにしている事……なるほど、レクリエーションか」

 確かに、それはいいかもしれない。生徒と教師、同じ土俵で遊びを楽しめば、距離は確実に縮まるはずだ!

「こうちゃんも部活やるから、その部活の顧問になれば……」
「浩二の信頼も得られて一石二鳥、と言う奴だな!」

 となれば、ラーズグリーズの行動は早い。早速顧問になるよう掛け合うべく立ち上がろうとした。

「って待てやあんた」

 予期していたかのようにストップをかける木下。何事かと首を傾げると、

「まずあんた、ムロ公が入る部活とか把握してんのかい?」
「あ」

 そういやそうだ。浩二がどの部活に入っているのか全然わかんない。琴音に助けを求めると、彼女は快く応えてくれた。

「バスケットボール部だよ。実は私もマネージャーとして入部届け出してるから一緒なの」
「ばすけっとぼーる? なんだそれは」
「こうちゃんの趣味だよ。こうちゃんね、中学の全国大会で優勝するくらい上手なんだよ」
「ぜんこくたいかい? 優勝……?」

 いまいち話がつかめないラーズグリーズでも、浩二が凄い奴だというのだけはわかり、彼が妙に強いのはバスケットボールとやらで訓練していたからなのだろうと解釈した。

「なるほど……ではそのバスケットボール部で顧問を務めればいいというわけだな!」
「その前にまずルールを理解した方がいいんじゃないのかい?」

 木下の指摘は勿論、それ以外にも色々クリアすべき関門が多すぎるのだが、そんなもんで挫けるようなラーズグリーズでは無い。

「よし琴音! 早速バスケットボールとやらを教えてくれないか!」
「オッケーばるきりーさん! じゃあまた私の家に来て、みっちりとレクチャーしてあげる!」

 琴音も一緒に巻き込んで、バスケットボール部の顧問になるべく動き出したのだった。

「……ムロ公、明日ドリンク剤奢ってやるよ……」

 哀れな浩二に同情した木下の呟きが、社会科準備室に空しく消えていった。
 余談だが、琴音が入るという事で、この後木下も入部届けを出しに行ったそうである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」 高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。 そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。 見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。 意外な共通点から意気投合する二人。 だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは―― > 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」 一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。 ……翌日、学校で再会するまでは。 実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!? オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...