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11話 ワルキューレ・ブートキャンプ
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ばるきりーさんによるヴァルハラ移送事件から次の日、ようは翌日の体育館。
この日を浩二は楽しみにしていた、なにしろ初めての部活参加の日なのだから。小学校の時から続けているバスケは、浩二にとっちゃ最大の趣味の一つだ。
それだけに、今目の前で起こっている事実が信じられない。むしろ信じたくない。なんだってこんな部活動にまで、こいつがでしゃばらねばならないのだ。
「では、改めて紹介しようか」
随分と消耗しきった様子の顧問が、ぐったりしながら横にいる、ジャージ姿のワルキューレを紹介してくれた。
「皆ご存知、ラーズグリーズ先生だ。今日からその……この部活の顧問になる」
「うむ! よろしく頼むぞ皆の衆!」
不安ばかりしか出来ない新顧問、ばるきりー顧問先生誕生の瞬間だった。
「瞬間だった。じゃないわ! なんだってあんたが顧問!?」
「なぁに。私もちょっとこの手の競技に造詣があったからな、力を貸そうと思ったまでよ」
絶対嘘だろ。浩二はそう思った。それは先輩も、自分を含めた新入部員も同じだろう。大方、入職の時と同様の手口で顧問の座を手に入れたのだ。
どうせあれだ、琴音と木下の差し金に決まってる。なにせマネージャーとして二人でこの場にいるのだから。
「……木下、なんで止めなかった」
「ブレーキかけて止まるようなタマだと思うかい?」
「思わないな」
完璧な答えである。浩二はぎろりとばるきりーさんを睨んだ。
「付け焼き刃の知識で顧問が務まるような競技じゃないぞ。分かってんのかあんた」
「それを言われると自信はない」
「ボロ出るの早いな」
「まぁ最後まで聞け。無論そんな物で受け入れられるとは思っちゃいないさ、新参者の信用なんぞそんな物だからな」
ばるきりーさんは魔法でボールを引き寄せた。
「だから、まずは君達を信用させたいと思う。レギュラー諸君、ちょっといいかな?」
ばるきりーさんはコートに三年の先輩方を呼びつけると、ハーフライン上に立った。
「君達五人を相手に、五ゴールを入れて見せよう。さすれば君達も私を認めるだろう?」
で、この発言だ。自信満々に、バスケ部の最高戦力五人に対し、堂々と喧嘩を吹っかけやがったのだこの先生は。
「無論人間相手に合わせて手加減はする。その上で私が勝てば、君達も安心して指導が受けられるだろう?」
忌憚無い発言の連続が先輩方のプライドを刺激したようで、先輩方の顔付きが、敵意むき出しになった。
全員凶悪な顔になって、「なめやがって」だの、「完膚なきまでに叩きのめす」だの、「負けたら全裸で校内一周させてやる」だの、穏やかではない発言を繰り返している。
こいつ、正気か?
いくらワルキューレでも、バスケを三年間続けてきた先輩達五人を相手に勝てるわけがないだろう。奴は所詮素人、それに櫻田高校バスケ部は強豪として名をはせている。どう考えても勝敗は目に見えていた。
この勝負、絶対ばるきりーさんの負けだ!
「さぁて、始めようか」
ばるきりーさんは不敵な笑みで、試合開始の合図をした。
そこからは地獄絵図である。
ばるきりーさんは変幻自在の動きでアンクルブレイクをいく度も起こし、NBL選手ですら不可能なジャンプ力で豪快なダンクを放ち、反対側のゴール下から3Pシュートを決めれば、ありえない体勢からシュートを放り込む。
先輩五人はファウル覚悟で飛び込むも、あざ笑うかのように回避してゴール裏から投げ入れて、トドメにレーンアップから体を捻り、バック・ポーズハンドのウィンドミルダンクと明らかに人間離れ(※人間ではない)した大技を叩き込まれ、勝負はついた。
ちなみにこれ合計で二十四秒、しかも手抜きでこの惨状、ついでに言うとズルもない。バスケ部の完全敗北だった。
完膚なきまでに叩きのめされ、レギュラー達は心をへし折られていた。全員涙を流し、その場に崩れ落ちて立ち上がれずにいた。
浩二は愕然とした。いやだって、この人バスケのバの字も知らない素人のはずなのに、身体能力だけで圧倒してしまったのだから。
えっへんと胸をはるばるきりーさんに、琴音は思いっきり飛びついた。
「すっごーいばるきりーさん! 昨日バスケ漫画読んだだけなのに!」
「一度見れば簡単な物だったぞ。しかしそれなりに面白かったな」
ばるきりーさんは屁でもないように言うが、浩二としてみればショックだった。だってばるきりーさん、バスケ上手いもの。小学生からずっと続けてきた浩二よりも、はるかに。漫画を読んだだけで習得してしまうその力には嫉妬すら覚えた。
「な、なんちゅうこったい……」
これだけの物を見せられたら認めるっきゃない。普段の授業じゃ失態を晒すのに、なんでこの、一番触れられたくない部分でヒーローになっちまうのだこのワルキューレは。
「さて、これで安心して指導を受けられるだろう?」
ドヤ顔で尋ねるばるきりーさんがなんかむかつくが、目の当たりにしてしまった以上、認めざるをえまい。バスケ部の皆も、顧問の先生も、ばるきりーさんを受け入れない理由が見当たらないようだった。
「……しょうがないか……」
「うむ! これでようやく教師として初めての成功だな!」
ばるきりーさんは嬉々として言い、バスケ部の連中に向かった。
「では諸君! 今日よりよろしく頼む。私が君達を、最強のバスケ部集団に生まれ変わらせてやるからな!」
ばるきりーさんは相当調子に乗っているようで、頬が真っ赤になっていた。こうなったばるきりーさんは大抵ろくな事をしないので、
「先に言っとくけど、またヴァルハラにつれてったり、変な奴召喚したりするのはなしだぞ。くれぐれも、人間に教えるって認識を持って指導してくれよ」
「それくらい分かっている。何度も失敗しているのだ、もう同じような事はせんよ」
それが信用できないんだよ。浩二は心底そう思った。
「ただし、甘やかしはせん」
ばるきりーさんは表情を変えた。
「競技である以上、手抜きは許さん。勝負とは勝たねば意味が無いのだ。なればこそ、鍛錬は厳しく、そして身になる物でなければならん! さぁいくぞ若人達よ。私が諸君を勝利へ導く女神となろう!」
マジもんの女神にそう言われ、やや引き気味だったバスケ部員達がその気になっていく。伊達に戦の神をしているわけではなく、士気を高めるのはお手の物らしい。
ただ、耳聞こえのいい事を言われても、やっぱイヤーな予感はする。だってこの人調子に乗ってるんだもん、自分に酔って変な自信に満ち満ちているんだもん。こんな時、この人は確実に失敗するんだもの!
そんな浩二の予感は、悲しいかな現実になるのだった。
「さて、では始めようか。まずは皆に、これを付けてもらおう」
ばるきりーさんは指を鳴らし、浩二達の足に直接何かを召喚した。
浩二達の足に直接装着させられたのは、枷だった。しかもただの枷ではなく、尋常じゃないくらい重い。めちゃくちゃ重い。足が動かせないくらい重い! オマケにこの枷、どんどんきつく締め付けてくるではないか。
「それはレージングという枷だ。フェンリルを押さえつける道具だから気をつけろ、変に動くと膝から下がもげるからな」
「いきなりハードル高すぎない!?」
「あ、あとなんで私達にもつけるのばるきりーさん!?」
浩二ははっとした。気が付いたら琴音達マネージャー部隊にまで枷がつけられている。
「当たり前だろう。マネージャーとは言え君らも部員、体は鍛えて損無いぞ」
「容赦なさすぎやしないかいあんた!」
木下も反論するが、ばるきりーさんは聞く耳持たずだ。
「これつけて何をさせるつもりだ!?」
「決まっているだろう、ランニングだ」
ばるきりーさんは鼻を高くした。
「スポーツはまず足腰からだ。見たところ君達の足腰は弱い、それを鍛えるためには、レージングをつけて走るのが一番の近道! どうだ、合理的だろう?」
「合理性の極み過ぎて人間の体じゃ耐え切れないのですが!?」
「さらに効果を高めるべく、こんな場所も用意しよう!」
ばるきりーさんが指を鳴らすと、体育館の床が急に砂場に変わった。かなり熱されていて熱く、とてもじゃないが立っていられない! しかもよく見りゃサソリがそこらに徘徊しているではないですか。
「サハラ砂漠の一部を転送してきた。砂地でのトレーニングはより強い足腰を生み出すぞ! 足かせに砂地と、トレーニングにはうってつけの環境ではないか! あとちゃんと走らないとサソリやサハラツノクサリヘビにやられるからしっかりやれよ!」
「人間の限界を超えるような環境を用意すんなぁ!」
居ても立ってもいられず、浩二達は逃げ出した。がしかし! それを見逃すばるきりーさんではない。
浩二達が逃げ出そうとするや否や、魔法で巨大な壁を生み出し、体育館を封鎖してしまった。壁は無数の目がついていて、浩二達をしっかりと見張っていた。こいつら、妖怪ぬりカベだ。
「逃げるのは許さん。私がいる以上、貴様らに安寧の二文字はない!」
ばるきりーさんは、愛用の槍を取り出した。
「ちょ、ちょっとまてばるきりーさん……なにを……」
「何をとはなんだ? 私は君達の顧問、君達を強くするべくこの役を任された者だ。怠け者のケツをひっぱたく役目ならば喜んで受けるぞ」
ばるきりーさんの目にサディスティックな光が浮かぶ。浩二はぞぞっと背筋を泡立てた。
そうだ、いつも一緒に居るから忘れてしまっていた。ばるきりーさんはワルキューレ、ワルキューレって事は神話の戦士、ようは軍人だ。この手の訓練なんかやらせたら……。
「さぁ走れ木っ端ども! このラーズグリーズ直々の訓練だ、むせび泣いて喜ぶがいいわ!」
アメリカ海兵も真っ青な、超弩級スパルタトレーニングになるに決まっていた!
槍を振り上げ襲って来るばるきりーさんから、浩二達は泣き叫んで逃げ出した。それを追うばるきりーさん、上手く走れずずっこける部員、構わず魔法でぶっ飛ばすばるきりーさん、コメディチックに空飛ぶ部員! ワルキューレ・ブートキャンプの洗礼に次々やられていく!
「どぉぉぉぉぉぉ!?」
火事場の馬鹿力と言う奴だろう。重くなる枷を軽々持ち上げ、浩二達は走りまくった! 体育館内をぐるぐるぐるぐる駆け回り、恐怖のワルキューレから懸命の逃走を続ける! サソリもヘビも襲って来るし、楽しいはずの部活がいつの間にか阿鼻叫喚の地獄と化していた!
「よしいいぞ! 次は走ったままこいつでパス練習だ!」
ばるきりーさんは浩二に向けて何かを投げつけ、それを受けた浩二は押しつぶされた。
なんじゃいこりゃあと手に取ってみれば、球体に触手がついた気味悪い代物だった。うねうね動く触手が明らかに生き物だと示している。
「それはヨグ=ソトースだ、気をつけて扱えよ」
「へ……え……え!?」
ヨグ=ソトース、クトゥルフ神話最強の神性を持つどえらいモン。要約すると、ヤバくて死ねる系の奴。
「さぁやれ浩二、ほらパスだ!」
「やれるかぁ!」
もはや即死レベルの無茶振りを敢行した馬鹿野郎に対し、浩二は鮮やかなパスを顎に叩き込み、強烈なカウンターをお見舞いしたのだった。
この日を浩二は楽しみにしていた、なにしろ初めての部活参加の日なのだから。小学校の時から続けているバスケは、浩二にとっちゃ最大の趣味の一つだ。
それだけに、今目の前で起こっている事実が信じられない。むしろ信じたくない。なんだってこんな部活動にまで、こいつがでしゃばらねばならないのだ。
「では、改めて紹介しようか」
随分と消耗しきった様子の顧問が、ぐったりしながら横にいる、ジャージ姿のワルキューレを紹介してくれた。
「皆ご存知、ラーズグリーズ先生だ。今日からその……この部活の顧問になる」
「うむ! よろしく頼むぞ皆の衆!」
不安ばかりしか出来ない新顧問、ばるきりー顧問先生誕生の瞬間だった。
「瞬間だった。じゃないわ! なんだってあんたが顧問!?」
「なぁに。私もちょっとこの手の競技に造詣があったからな、力を貸そうと思ったまでよ」
絶対嘘だろ。浩二はそう思った。それは先輩も、自分を含めた新入部員も同じだろう。大方、入職の時と同様の手口で顧問の座を手に入れたのだ。
どうせあれだ、琴音と木下の差し金に決まってる。なにせマネージャーとして二人でこの場にいるのだから。
「……木下、なんで止めなかった」
「ブレーキかけて止まるようなタマだと思うかい?」
「思わないな」
完璧な答えである。浩二はぎろりとばるきりーさんを睨んだ。
「付け焼き刃の知識で顧問が務まるような競技じゃないぞ。分かってんのかあんた」
「それを言われると自信はない」
「ボロ出るの早いな」
「まぁ最後まで聞け。無論そんな物で受け入れられるとは思っちゃいないさ、新参者の信用なんぞそんな物だからな」
ばるきりーさんは魔法でボールを引き寄せた。
「だから、まずは君達を信用させたいと思う。レギュラー諸君、ちょっといいかな?」
ばるきりーさんはコートに三年の先輩方を呼びつけると、ハーフライン上に立った。
「君達五人を相手に、五ゴールを入れて見せよう。さすれば君達も私を認めるだろう?」
で、この発言だ。自信満々に、バスケ部の最高戦力五人に対し、堂々と喧嘩を吹っかけやがったのだこの先生は。
「無論人間相手に合わせて手加減はする。その上で私が勝てば、君達も安心して指導が受けられるだろう?」
忌憚無い発言の連続が先輩方のプライドを刺激したようで、先輩方の顔付きが、敵意むき出しになった。
全員凶悪な顔になって、「なめやがって」だの、「完膚なきまでに叩きのめす」だの、「負けたら全裸で校内一周させてやる」だの、穏やかではない発言を繰り返している。
こいつ、正気か?
いくらワルキューレでも、バスケを三年間続けてきた先輩達五人を相手に勝てるわけがないだろう。奴は所詮素人、それに櫻田高校バスケ部は強豪として名をはせている。どう考えても勝敗は目に見えていた。
この勝負、絶対ばるきりーさんの負けだ!
「さぁて、始めようか」
ばるきりーさんは不敵な笑みで、試合開始の合図をした。
そこからは地獄絵図である。
ばるきりーさんは変幻自在の動きでアンクルブレイクをいく度も起こし、NBL選手ですら不可能なジャンプ力で豪快なダンクを放ち、反対側のゴール下から3Pシュートを決めれば、ありえない体勢からシュートを放り込む。
先輩五人はファウル覚悟で飛び込むも、あざ笑うかのように回避してゴール裏から投げ入れて、トドメにレーンアップから体を捻り、バック・ポーズハンドのウィンドミルダンクと明らかに人間離れ(※人間ではない)した大技を叩き込まれ、勝負はついた。
ちなみにこれ合計で二十四秒、しかも手抜きでこの惨状、ついでに言うとズルもない。バスケ部の完全敗北だった。
完膚なきまでに叩きのめされ、レギュラー達は心をへし折られていた。全員涙を流し、その場に崩れ落ちて立ち上がれずにいた。
浩二は愕然とした。いやだって、この人バスケのバの字も知らない素人のはずなのに、身体能力だけで圧倒してしまったのだから。
えっへんと胸をはるばるきりーさんに、琴音は思いっきり飛びついた。
「すっごーいばるきりーさん! 昨日バスケ漫画読んだだけなのに!」
「一度見れば簡単な物だったぞ。しかしそれなりに面白かったな」
ばるきりーさんは屁でもないように言うが、浩二としてみればショックだった。だってばるきりーさん、バスケ上手いもの。小学生からずっと続けてきた浩二よりも、はるかに。漫画を読んだだけで習得してしまうその力には嫉妬すら覚えた。
「な、なんちゅうこったい……」
これだけの物を見せられたら認めるっきゃない。普段の授業じゃ失態を晒すのに、なんでこの、一番触れられたくない部分でヒーローになっちまうのだこのワルキューレは。
「さて、これで安心して指導を受けられるだろう?」
ドヤ顔で尋ねるばるきりーさんがなんかむかつくが、目の当たりにしてしまった以上、認めざるをえまい。バスケ部の皆も、顧問の先生も、ばるきりーさんを受け入れない理由が見当たらないようだった。
「……しょうがないか……」
「うむ! これでようやく教師として初めての成功だな!」
ばるきりーさんは嬉々として言い、バスケ部の連中に向かった。
「では諸君! 今日よりよろしく頼む。私が君達を、最強のバスケ部集団に生まれ変わらせてやるからな!」
ばるきりーさんは相当調子に乗っているようで、頬が真っ赤になっていた。こうなったばるきりーさんは大抵ろくな事をしないので、
「先に言っとくけど、またヴァルハラにつれてったり、変な奴召喚したりするのはなしだぞ。くれぐれも、人間に教えるって認識を持って指導してくれよ」
「それくらい分かっている。何度も失敗しているのだ、もう同じような事はせんよ」
それが信用できないんだよ。浩二は心底そう思った。
「ただし、甘やかしはせん」
ばるきりーさんは表情を変えた。
「競技である以上、手抜きは許さん。勝負とは勝たねば意味が無いのだ。なればこそ、鍛錬は厳しく、そして身になる物でなければならん! さぁいくぞ若人達よ。私が諸君を勝利へ導く女神となろう!」
マジもんの女神にそう言われ、やや引き気味だったバスケ部員達がその気になっていく。伊達に戦の神をしているわけではなく、士気を高めるのはお手の物らしい。
ただ、耳聞こえのいい事を言われても、やっぱイヤーな予感はする。だってこの人調子に乗ってるんだもん、自分に酔って変な自信に満ち満ちているんだもん。こんな時、この人は確実に失敗するんだもの!
そんな浩二の予感は、悲しいかな現実になるのだった。
「さて、では始めようか。まずは皆に、これを付けてもらおう」
ばるきりーさんは指を鳴らし、浩二達の足に直接何かを召喚した。
浩二達の足に直接装着させられたのは、枷だった。しかもただの枷ではなく、尋常じゃないくらい重い。めちゃくちゃ重い。足が動かせないくらい重い! オマケにこの枷、どんどんきつく締め付けてくるではないか。
「それはレージングという枷だ。フェンリルを押さえつける道具だから気をつけろ、変に動くと膝から下がもげるからな」
「いきなりハードル高すぎない!?」
「あ、あとなんで私達にもつけるのばるきりーさん!?」
浩二ははっとした。気が付いたら琴音達マネージャー部隊にまで枷がつけられている。
「当たり前だろう。マネージャーとは言え君らも部員、体は鍛えて損無いぞ」
「容赦なさすぎやしないかいあんた!」
木下も反論するが、ばるきりーさんは聞く耳持たずだ。
「これつけて何をさせるつもりだ!?」
「決まっているだろう、ランニングだ」
ばるきりーさんは鼻を高くした。
「スポーツはまず足腰からだ。見たところ君達の足腰は弱い、それを鍛えるためには、レージングをつけて走るのが一番の近道! どうだ、合理的だろう?」
「合理性の極み過ぎて人間の体じゃ耐え切れないのですが!?」
「さらに効果を高めるべく、こんな場所も用意しよう!」
ばるきりーさんが指を鳴らすと、体育館の床が急に砂場に変わった。かなり熱されていて熱く、とてもじゃないが立っていられない! しかもよく見りゃサソリがそこらに徘徊しているではないですか。
「サハラ砂漠の一部を転送してきた。砂地でのトレーニングはより強い足腰を生み出すぞ! 足かせに砂地と、トレーニングにはうってつけの環境ではないか! あとちゃんと走らないとサソリやサハラツノクサリヘビにやられるからしっかりやれよ!」
「人間の限界を超えるような環境を用意すんなぁ!」
居ても立ってもいられず、浩二達は逃げ出した。がしかし! それを見逃すばるきりーさんではない。
浩二達が逃げ出そうとするや否や、魔法で巨大な壁を生み出し、体育館を封鎖してしまった。壁は無数の目がついていて、浩二達をしっかりと見張っていた。こいつら、妖怪ぬりカベだ。
「逃げるのは許さん。私がいる以上、貴様らに安寧の二文字はない!」
ばるきりーさんは、愛用の槍を取り出した。
「ちょ、ちょっとまてばるきりーさん……なにを……」
「何をとはなんだ? 私は君達の顧問、君達を強くするべくこの役を任された者だ。怠け者のケツをひっぱたく役目ならば喜んで受けるぞ」
ばるきりーさんの目にサディスティックな光が浮かぶ。浩二はぞぞっと背筋を泡立てた。
そうだ、いつも一緒に居るから忘れてしまっていた。ばるきりーさんはワルキューレ、ワルキューレって事は神話の戦士、ようは軍人だ。この手の訓練なんかやらせたら……。
「さぁ走れ木っ端ども! このラーズグリーズ直々の訓練だ、むせび泣いて喜ぶがいいわ!」
アメリカ海兵も真っ青な、超弩級スパルタトレーニングになるに決まっていた!
槍を振り上げ襲って来るばるきりーさんから、浩二達は泣き叫んで逃げ出した。それを追うばるきりーさん、上手く走れずずっこける部員、構わず魔法でぶっ飛ばすばるきりーさん、コメディチックに空飛ぶ部員! ワルキューレ・ブートキャンプの洗礼に次々やられていく!
「どぉぉぉぉぉぉ!?」
火事場の馬鹿力と言う奴だろう。重くなる枷を軽々持ち上げ、浩二達は走りまくった! 体育館内をぐるぐるぐるぐる駆け回り、恐怖のワルキューレから懸命の逃走を続ける! サソリもヘビも襲って来るし、楽しいはずの部活がいつの間にか阿鼻叫喚の地獄と化していた!
「よしいいぞ! 次は走ったままこいつでパス練習だ!」
ばるきりーさんは浩二に向けて何かを投げつけ、それを受けた浩二は押しつぶされた。
なんじゃいこりゃあと手に取ってみれば、球体に触手がついた気味悪い代物だった。うねうね動く触手が明らかに生き物だと示している。
「それはヨグ=ソトースだ、気をつけて扱えよ」
「へ……え……え!?」
ヨグ=ソトース、クトゥルフ神話最強の神性を持つどえらいモン。要約すると、ヤバくて死ねる系の奴。
「さぁやれ浩二、ほらパスだ!」
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