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13話 最悪の輩
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帰っていく二人を見送りながら、ラーズグリーズは不思議な感覚に浸っていた。
琴音からお礼を言われた時、言葉にできない感情がわいてきた。数億もの時を生きてきた中で、初めて味わう感情だった。
ありがとう。この言葉がラーズグリーズに与えたのは、一体何なのか。しかし悪い気分ではない。むしろ嬉しい。琴音からのお礼が、たまらなく嬉しかった。
なんだこれは。戦士として味わう快感ではない、別種の快感だ。
「これが、教師の快感か」
体がむずむずしてきた。この感覚、もっと味わいたい。もっと欲しい!
教師としてがんばれば、この感覚をさらに味わえるのか? さらなる充足感を得られるのか! 初めての成功にラーズグリーズは有頂天になりそうだった。
「さて、と」
ひとしきりはしゃいだ所で、ラーズグリーズは槍を出した。まだ一つ、殺り残しがあるから。
ぷかぷかと浮かぶ黒い霧を見上げ、ラーズグリーズは首を鳴らした。アルミラージを消してから、ずっと残っている霧だ。
最後のアルミラージだけ、様相が違っていたから、すぐに気づけた。大量のアルミラージは囮で、本命は最後の一羽だ。そいつだけ、あの霧が憑依していたのだから。他のアルミラージはすべて、奴によって操られていた。
近くに人間が居ないのを確かめ、ラーズグリーズは槍を向けた。
「見た所、私と同じ世界の出自らしいな」
霧は答えず、うごめくばかり。ラーズグリーズは威嚇も兼ね、槍を振り回した。
柄が伸び、切っ先が霧を断つべく振り下ろされる。すると霧は避け、球体になってラーズグリーズと対峙した。
ラーズグリーズは続けて目を見開き、霧に爆発魔法を仕掛けた。だが霧には何も変化がない。内部に仕掛けた魔法が打ち消されたようだ。
ラーズグリーズが使う魔術を相殺できる者など、そうは居ない。
「なるほど、フレースヴェルグを操ったのもお前か」
正体までは分からないが、相当な使い手なのは違いない。それも、至極危険な思考を持った存在だ。
ラーズグリーズは長く息を吐いた。
「少々手荒だが、これ以上、事件は起こしたく無いし、起こされたくもないのでな」
この場で殺す。それだけだ。
ラーズグリーズは槍の機能をアンロックし、真正面から突進し、全開の一撃を繰り出した!
ラーズグリーズ、すなわち「計画を壊す者」の槍は反射の力を持つ。切っ先でも触れれば、内部から敵を爆散させられるのだ!
魔術では勝てずとも、体術ならばどうだ!
全力の突きが霧を襲う! ところが。
槍が刺さる前に霧は消えてしまい、気配もなくなった。
索敵をするも、完全に見失っている。ラーズグリーズから逃げ切れるとは、只者ではない。
「なぜあの二人を狙う? すまないが、聞こえていたら答えてくれ」
やや低い姿勢の尋ね方だが、これでいい。問答術は、こちらが低姿勢であれば効果が高くなる性質を持っているから。
そしてようやく、ラーズグリーズの声が届いた。
『狙う、理由、は、話、さん』
掠れるような、響かない声だ。問答術に抗う敵に、ラーズグリーズは眉をぴくりと動かした。
「貴様……」
聞き覚えのある声だった。ラーズグリーズの記憶の中でも、最悪の輩だ。
まさか、まだ生きていたとは……。
「主様に潰されたと思っていたが、無様な姿で生き延びていたようだな」
『左様、これ、では、貴様、にも、殺、られ、るだ、ろう、な。だが、しか、し』
敵は不適に笑った。
『貴様、には、でき、やし、ない。弱く、なる、貴様、には』
「どういうことだ、それは」
『理解、など、不要。貴様、は必、ず、弱く、なる。教師、など、に、現、をぬ、かす、愚、かな、戦士に、吾は、殺れ、ぬ』
ラーズグリーズを挑発するかのように、敵はあざ笑った。
『また、会う、だろう。次の、出会い、を、楽、しみ、にし、て、おけ。教師、の、ばる、きりー、さん』
声は、聞こえなくなった。
ラーズグリーズは槍をしまい、拳を握り締めた。
どうやら、教師の他にも、戦士としてやらねばならない事ができたようだ。奴があの二人を狙う以上、見過ごす事はできない。
「しかし、なぜだ」
なぜあの二人を付けねらうのか。自分がここに来た事といい、どうにも都合が良すぎる気がする。様々な事柄が、ある目的に向けて進められているのを感じるのだ。
無理かもしれないが、今一度主様に聞くべきだろう。ラーズグリーズには、知る権利がある。
ようやく教師としてスタートラインに立てた。ならば生徒を守るのは、教師としての最初の使命だ。奴がなんと言おうが関係ない。二人は、自分が守らなければならないのだ。
「そうそう、思い通りに行くと思うなよ……ヘル」
戦うべき敵が見え、ラーズグリーズは空を見上げた。
地獄の支配者は、どこにも見当たらなかった。
琴音からお礼を言われた時、言葉にできない感情がわいてきた。数億もの時を生きてきた中で、初めて味わう感情だった。
ありがとう。この言葉がラーズグリーズに与えたのは、一体何なのか。しかし悪い気分ではない。むしろ嬉しい。琴音からのお礼が、たまらなく嬉しかった。
なんだこれは。戦士として味わう快感ではない、別種の快感だ。
「これが、教師の快感か」
体がむずむずしてきた。この感覚、もっと味わいたい。もっと欲しい!
教師としてがんばれば、この感覚をさらに味わえるのか? さらなる充足感を得られるのか! 初めての成功にラーズグリーズは有頂天になりそうだった。
「さて、と」
ひとしきりはしゃいだ所で、ラーズグリーズは槍を出した。まだ一つ、殺り残しがあるから。
ぷかぷかと浮かぶ黒い霧を見上げ、ラーズグリーズは首を鳴らした。アルミラージを消してから、ずっと残っている霧だ。
最後のアルミラージだけ、様相が違っていたから、すぐに気づけた。大量のアルミラージは囮で、本命は最後の一羽だ。そいつだけ、あの霧が憑依していたのだから。他のアルミラージはすべて、奴によって操られていた。
近くに人間が居ないのを確かめ、ラーズグリーズは槍を向けた。
「見た所、私と同じ世界の出自らしいな」
霧は答えず、うごめくばかり。ラーズグリーズは威嚇も兼ね、槍を振り回した。
柄が伸び、切っ先が霧を断つべく振り下ろされる。すると霧は避け、球体になってラーズグリーズと対峙した。
ラーズグリーズは続けて目を見開き、霧に爆発魔法を仕掛けた。だが霧には何も変化がない。内部に仕掛けた魔法が打ち消されたようだ。
ラーズグリーズが使う魔術を相殺できる者など、そうは居ない。
「なるほど、フレースヴェルグを操ったのもお前か」
正体までは分からないが、相当な使い手なのは違いない。それも、至極危険な思考を持った存在だ。
ラーズグリーズは長く息を吐いた。
「少々手荒だが、これ以上、事件は起こしたく無いし、起こされたくもないのでな」
この場で殺す。それだけだ。
ラーズグリーズは槍の機能をアンロックし、真正面から突進し、全開の一撃を繰り出した!
ラーズグリーズ、すなわち「計画を壊す者」の槍は反射の力を持つ。切っ先でも触れれば、内部から敵を爆散させられるのだ!
魔術では勝てずとも、体術ならばどうだ!
全力の突きが霧を襲う! ところが。
槍が刺さる前に霧は消えてしまい、気配もなくなった。
索敵をするも、完全に見失っている。ラーズグリーズから逃げ切れるとは、只者ではない。
「なぜあの二人を狙う? すまないが、聞こえていたら答えてくれ」
やや低い姿勢の尋ね方だが、これでいい。問答術は、こちらが低姿勢であれば効果が高くなる性質を持っているから。
そしてようやく、ラーズグリーズの声が届いた。
『狙う、理由、は、話、さん』
掠れるような、響かない声だ。問答術に抗う敵に、ラーズグリーズは眉をぴくりと動かした。
「貴様……」
聞き覚えのある声だった。ラーズグリーズの記憶の中でも、最悪の輩だ。
まさか、まだ生きていたとは……。
「主様に潰されたと思っていたが、無様な姿で生き延びていたようだな」
『左様、これ、では、貴様、にも、殺、られ、るだ、ろう、な。だが、しか、し』
敵は不適に笑った。
『貴様、には、でき、やし、ない。弱く、なる、貴様、には』
「どういうことだ、それは」
『理解、など、不要。貴様、は必、ず、弱く、なる。教師、など、に、現、をぬ、かす、愚、かな、戦士に、吾は、殺れ、ぬ』
ラーズグリーズを挑発するかのように、敵はあざ笑った。
『また、会う、だろう。次の、出会い、を、楽、しみ、にし、て、おけ。教師、の、ばる、きりー、さん』
声は、聞こえなくなった。
ラーズグリーズは槍をしまい、拳を握り締めた。
どうやら、教師の他にも、戦士としてやらねばならない事ができたようだ。奴があの二人を狙う以上、見過ごす事はできない。
「しかし、なぜだ」
なぜあの二人を付けねらうのか。自分がここに来た事といい、どうにも都合が良すぎる気がする。様々な事柄が、ある目的に向けて進められているのを感じるのだ。
無理かもしれないが、今一度主様に聞くべきだろう。ラーズグリーズには、知る権利がある。
ようやく教師としてスタートラインに立てた。ならば生徒を守るのは、教師としての最初の使命だ。奴がなんと言おうが関係ない。二人は、自分が守らなければならないのだ。
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