14 / 32
13話 最悪の輩
しおりを挟む
帰っていく二人を見送りながら、ラーズグリーズは不思議な感覚に浸っていた。
琴音からお礼を言われた時、言葉にできない感情がわいてきた。数億もの時を生きてきた中で、初めて味わう感情だった。
ありがとう。この言葉がラーズグリーズに与えたのは、一体何なのか。しかし悪い気分ではない。むしろ嬉しい。琴音からのお礼が、たまらなく嬉しかった。
なんだこれは。戦士として味わう快感ではない、別種の快感だ。
「これが、教師の快感か」
体がむずむずしてきた。この感覚、もっと味わいたい。もっと欲しい!
教師としてがんばれば、この感覚をさらに味わえるのか? さらなる充足感を得られるのか! 初めての成功にラーズグリーズは有頂天になりそうだった。
「さて、と」
ひとしきりはしゃいだ所で、ラーズグリーズは槍を出した。まだ一つ、殺り残しがあるから。
ぷかぷかと浮かぶ黒い霧を見上げ、ラーズグリーズは首を鳴らした。アルミラージを消してから、ずっと残っている霧だ。
最後のアルミラージだけ、様相が違っていたから、すぐに気づけた。大量のアルミラージは囮で、本命は最後の一羽だ。そいつだけ、あの霧が憑依していたのだから。他のアルミラージはすべて、奴によって操られていた。
近くに人間が居ないのを確かめ、ラーズグリーズは槍を向けた。
「見た所、私と同じ世界の出自らしいな」
霧は答えず、うごめくばかり。ラーズグリーズは威嚇も兼ね、槍を振り回した。
柄が伸び、切っ先が霧を断つべく振り下ろされる。すると霧は避け、球体になってラーズグリーズと対峙した。
ラーズグリーズは続けて目を見開き、霧に爆発魔法を仕掛けた。だが霧には何も変化がない。内部に仕掛けた魔法が打ち消されたようだ。
ラーズグリーズが使う魔術を相殺できる者など、そうは居ない。
「なるほど、フレースヴェルグを操ったのもお前か」
正体までは分からないが、相当な使い手なのは違いない。それも、至極危険な思考を持った存在だ。
ラーズグリーズは長く息を吐いた。
「少々手荒だが、これ以上、事件は起こしたく無いし、起こされたくもないのでな」
この場で殺す。それだけだ。
ラーズグリーズは槍の機能をアンロックし、真正面から突進し、全開の一撃を繰り出した!
ラーズグリーズ、すなわち「計画を壊す者」の槍は反射の力を持つ。切っ先でも触れれば、内部から敵を爆散させられるのだ!
魔術では勝てずとも、体術ならばどうだ!
全力の突きが霧を襲う! ところが。
槍が刺さる前に霧は消えてしまい、気配もなくなった。
索敵をするも、完全に見失っている。ラーズグリーズから逃げ切れるとは、只者ではない。
「なぜあの二人を狙う? すまないが、聞こえていたら答えてくれ」
やや低い姿勢の尋ね方だが、これでいい。問答術は、こちらが低姿勢であれば効果が高くなる性質を持っているから。
そしてようやく、ラーズグリーズの声が届いた。
『狙う、理由、は、話、さん』
掠れるような、響かない声だ。問答術に抗う敵に、ラーズグリーズは眉をぴくりと動かした。
「貴様……」
聞き覚えのある声だった。ラーズグリーズの記憶の中でも、最悪の輩だ。
まさか、まだ生きていたとは……。
「主様に潰されたと思っていたが、無様な姿で生き延びていたようだな」
『左様、これ、では、貴様、にも、殺、られ、るだ、ろう、な。だが、しか、し』
敵は不適に笑った。
『貴様、には、でき、やし、ない。弱く、なる、貴様、には』
「どういうことだ、それは」
『理解、など、不要。貴様、は必、ず、弱く、なる。教師、など、に、現、をぬ、かす、愚、かな、戦士に、吾は、殺れ、ぬ』
ラーズグリーズを挑発するかのように、敵はあざ笑った。
『また、会う、だろう。次の、出会い、を、楽、しみ、にし、て、おけ。教師、の、ばる、きりー、さん』
声は、聞こえなくなった。
ラーズグリーズは槍をしまい、拳を握り締めた。
どうやら、教師の他にも、戦士としてやらねばならない事ができたようだ。奴があの二人を狙う以上、見過ごす事はできない。
「しかし、なぜだ」
なぜあの二人を付けねらうのか。自分がここに来た事といい、どうにも都合が良すぎる気がする。様々な事柄が、ある目的に向けて進められているのを感じるのだ。
無理かもしれないが、今一度主様に聞くべきだろう。ラーズグリーズには、知る権利がある。
ようやく教師としてスタートラインに立てた。ならば生徒を守るのは、教師としての最初の使命だ。奴がなんと言おうが関係ない。二人は、自分が守らなければならないのだ。
「そうそう、思い通りに行くと思うなよ……ヘル」
戦うべき敵が見え、ラーズグリーズは空を見上げた。
地獄の支配者は、どこにも見当たらなかった。
琴音からお礼を言われた時、言葉にできない感情がわいてきた。数億もの時を生きてきた中で、初めて味わう感情だった。
ありがとう。この言葉がラーズグリーズに与えたのは、一体何なのか。しかし悪い気分ではない。むしろ嬉しい。琴音からのお礼が、たまらなく嬉しかった。
なんだこれは。戦士として味わう快感ではない、別種の快感だ。
「これが、教師の快感か」
体がむずむずしてきた。この感覚、もっと味わいたい。もっと欲しい!
教師としてがんばれば、この感覚をさらに味わえるのか? さらなる充足感を得られるのか! 初めての成功にラーズグリーズは有頂天になりそうだった。
「さて、と」
ひとしきりはしゃいだ所で、ラーズグリーズは槍を出した。まだ一つ、殺り残しがあるから。
ぷかぷかと浮かぶ黒い霧を見上げ、ラーズグリーズは首を鳴らした。アルミラージを消してから、ずっと残っている霧だ。
最後のアルミラージだけ、様相が違っていたから、すぐに気づけた。大量のアルミラージは囮で、本命は最後の一羽だ。そいつだけ、あの霧が憑依していたのだから。他のアルミラージはすべて、奴によって操られていた。
近くに人間が居ないのを確かめ、ラーズグリーズは槍を向けた。
「見た所、私と同じ世界の出自らしいな」
霧は答えず、うごめくばかり。ラーズグリーズは威嚇も兼ね、槍を振り回した。
柄が伸び、切っ先が霧を断つべく振り下ろされる。すると霧は避け、球体になってラーズグリーズと対峙した。
ラーズグリーズは続けて目を見開き、霧に爆発魔法を仕掛けた。だが霧には何も変化がない。内部に仕掛けた魔法が打ち消されたようだ。
ラーズグリーズが使う魔術を相殺できる者など、そうは居ない。
「なるほど、フレースヴェルグを操ったのもお前か」
正体までは分からないが、相当な使い手なのは違いない。それも、至極危険な思考を持った存在だ。
ラーズグリーズは長く息を吐いた。
「少々手荒だが、これ以上、事件は起こしたく無いし、起こされたくもないのでな」
この場で殺す。それだけだ。
ラーズグリーズは槍の機能をアンロックし、真正面から突進し、全開の一撃を繰り出した!
ラーズグリーズ、すなわち「計画を壊す者」の槍は反射の力を持つ。切っ先でも触れれば、内部から敵を爆散させられるのだ!
魔術では勝てずとも、体術ならばどうだ!
全力の突きが霧を襲う! ところが。
槍が刺さる前に霧は消えてしまい、気配もなくなった。
索敵をするも、完全に見失っている。ラーズグリーズから逃げ切れるとは、只者ではない。
「なぜあの二人を狙う? すまないが、聞こえていたら答えてくれ」
やや低い姿勢の尋ね方だが、これでいい。問答術は、こちらが低姿勢であれば効果が高くなる性質を持っているから。
そしてようやく、ラーズグリーズの声が届いた。
『狙う、理由、は、話、さん』
掠れるような、響かない声だ。問答術に抗う敵に、ラーズグリーズは眉をぴくりと動かした。
「貴様……」
聞き覚えのある声だった。ラーズグリーズの記憶の中でも、最悪の輩だ。
まさか、まだ生きていたとは……。
「主様に潰されたと思っていたが、無様な姿で生き延びていたようだな」
『左様、これ、では、貴様、にも、殺、られ、るだ、ろう、な。だが、しか、し』
敵は不適に笑った。
『貴様、には、でき、やし、ない。弱く、なる、貴様、には』
「どういうことだ、それは」
『理解、など、不要。貴様、は必、ず、弱く、なる。教師、など、に、現、をぬ、かす、愚、かな、戦士に、吾は、殺れ、ぬ』
ラーズグリーズを挑発するかのように、敵はあざ笑った。
『また、会う、だろう。次の、出会い、を、楽、しみ、にし、て、おけ。教師、の、ばる、きりー、さん』
声は、聞こえなくなった。
ラーズグリーズは槍をしまい、拳を握り締めた。
どうやら、教師の他にも、戦士としてやらねばならない事ができたようだ。奴があの二人を狙う以上、見過ごす事はできない。
「しかし、なぜだ」
なぜあの二人を付けねらうのか。自分がここに来た事といい、どうにも都合が良すぎる気がする。様々な事柄が、ある目的に向けて進められているのを感じるのだ。
無理かもしれないが、今一度主様に聞くべきだろう。ラーズグリーズには、知る権利がある。
ようやく教師としてスタートラインに立てた。ならば生徒を守るのは、教師としての最初の使命だ。奴がなんと言おうが関係ない。二人は、自分が守らなければならないのだ。
「そうそう、思い通りに行くと思うなよ……ヘル」
戦うべき敵が見え、ラーズグリーズは空を見上げた。
地獄の支配者は、どこにも見当たらなかった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件
暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
**俺、東大院生の実験対象にされてた。**同居している美人家庭教師のやばい秘密
まさき
青春
俺は今、東大院生の実験対象になっている。
ある雨の夜、アパートの前にずぶ濡れの美女が立っていた。
「家庭教師です。住まわせてください」
突然すぎる申し出に困惑しながらも、なぜか断れなかった。
桐島咲楽、東大大学院生。成績は天才、料理は壊滅的、距離感はおかしい。毎日転ぶ、焦がす、なぜか距離が近い。そのくせ授業は鬼のように丁寧で、俺のことを誰よりもよく見ていた。
偏差値42だった俺の成績は、気づけば上がっていた。でも、それより気になることがある。
咲楽さんが、研究ノートに何かを書いている。「被験者」という文字が、見えた気がした。
距離が近いのは、データのためか。褒めてくれるのは、実験のためか。でも、あの顔は。あの声は。
「データじゃなくて、私がそう思っています」
嘘をついているような顔じゃなかった。
偏差値42の俺に、東大院生の美女が押しかけてきた。ドタバタな毎日の中で、俺の心臓が休まる暇がない。これはドキドキなのか、心配なのか。それとも、もう恋なのか。
不器用な天才と、鈍感な高校生の、やばい同居生活。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる