もしも北欧神話のワルキューレが、男子高校生の担任の先生になったら。

歩く、歩く。

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15話 ※バスケットボールの試合です。

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 放課後、体育館では、異様な光景が展開されていた。

「櫻田高校バスケ部が誇る精鋭達よ! とうとう来たぞ、この時が!」

 練習試合に出るスタメンを前に、ばるきりーさんは声高らかに檄を飛ばしていた。
 バスケ部員達は皆整列し、精悍な顔つきでばるきりーさんを見つめている。部員達の目には絶対の自信がうかがえ、強敵相手に対し気持ちがまったく負けていない。
 そんな中にあって、浩二は一人脂汗まみれの顔でばるきりーさんの話を聞いていた。ちなみに浩二はスタメンだ。

「皆今日までよく私の考案したトレーニングプランに耐え抜いた! もはや君達の敵になる者などこの世に存在しない……諸君らは今! 最強のバスケチームに生まれ変わったのだ!」

 部員達は雄たけびを上げた。あとで対戦相手に聞いた所、この時の部員は皆鎧を着ている重装歩兵のようだったそうな。

「さぁ行け戦士たちよ! きゃつらを討ち取り、世界に我々が来た事を知らしめてやるのだ!」

 またしても部員達の雄たけびが轟く。そんでもって浩二の脂汗が倍プッシュで増えた。

「では僭越ながら、私から戦前の餞別をくれてやろう!」

 ばるきりーさんは槍を出し、浩二達を跪かせた。古代ノルド語で戦歌を歌い始める姿は、危ない宗教の教祖様その物である。
 もはや部活の様相を成していない櫻田高校バスケ部に、対戦相手は皆引いていた。うんまぁ、気持ちはわかるよと、一人正常な浩二は同情していた。なんかこう……ノリが違いすぎるもの。
 ばるきりーさんが歌い終わり、部員達が立ち上がる。心なしか全員の顔の彫が深くなって、陰影が強くついたアメコミ調の画風になっていた。体も筋骨隆々、ムッキムキ。一応言っとくと、この歌ドーピング効果はありません。単に歌で気合が入っただけだ。

「いざ立て強者よ! 己がその手に武器を取れ!」
『我らが心に槍を持て!』
「突き立てるがいい! 誇りの牙を!」
『我ら無敵の王者なり!』
「向かう覇道に!」
『敵はなし!』

 三度、雄たけび。櫻田高校バスケ部のボルテージは最高潮に高まっていた。

「これなんのスポーツ……?」

 ただ一人まともで居るはずの浩二が、異常なほど浮きまくっていた。

  ◇◇◇

 試合は300対ゼロで桜田高校の圧勝だった。
 もう一度言おう、300対ゼロで桜田高校の圧勝である。ちなみに言うと、バスケの試合である。バスケの試合なのである。相手は全国制覇の超強豪である!

 いやもう、見ていて相手が哀れになる内容だ。ヘルメスの指導で残像が出るほどの走力を得たSFショートフォワード、ハヌマーンに師事されゴリラ以上の身体能力を得たPFパワーフォワード、ヘラクレスとの特訓で同等のパワーを得たCセンターに、アルテミスの仕込みによって百発百中のシュート力を誇るSGシューティングガードと、こいつら人間じゃねぇと言わんばかりの能力を持った化け物連中の独壇場だったのだから。

 化け物連中の中では浩二はただの足手まとい……ではなく。

 釈迦との四十九時間に上る即席瞑想により、ジェ○イの騎士並みに鋭くなった感応力で、相手のパスをシャットアウト。華麗なスティールを繰り返し、PGポイントガードとして巧みなボール裁きで試合をコントロールした最大の功労者となったのだ。

 トドメのダンクシュートを叩き込んだ浩二は、強豪だった対戦相手を振り返った時、同情してしまったそうである。試合後、爽やかな顔で握手を求める櫻田高校の面々に対し、彼らの顔は葬式のそれに近かった。
 後日談だが、心を完膚なきまでに叩き潰された対戦校は、バスケ部その物が廃部となったらしい。なんでも部員全員が退部届けを出してしまい、一人も居なくなったからだそうだ。
 全国覇者を文字通り消し去って、櫻田高校バスケ部の覇道が、今ここに始まったのである。

「……バスケってなんだっけ?」

 死に体の対戦相手を見送り、浩二はそうつぶやいた。よもや哲学の領域に片足を突っ込む黄昏っぷりだが、一応浩二が原因で相手が潰れたのはお忘れなく。

「諸君よくやった! 私は……私は感動したぞ! 大胆かつ柔軟に!」
『先生!』

 号泣しているばるきりーさんと部員達は抱き合い、安っぽいスポ根ドラマを展開していた。そりゃまぁ、短期間でこんだけの怪物集団にしてしまった手腕はほめるべきなのだろうが……。

「……なんか納得いかなくねぇか!?」

 時間にしてたった十日ちょっとなのに、このパーフェクトティーチャー状態。ばるきりーさんに何の革命が起こったというのだろうか? はぐ○メタルを百匹倒してもこんだけのレベルアップは望めないはずなのに。

「どうしてだ? どうしてこんなに上がったんだ……どうして……」
「怖い顔してどうしたの、こうちゃん」

 琴音に肩を叩かれ、浩二は我に返った。

「ばるきりーさんすっかり変わっちゃったね、それもとってもいい方向に」
「それは、どうなんだろうな……」

 受け入れきれず、浩二は頬を掻いた。確かに、ついこの間までの方向に比べたら格段にいいだろう。自分の持てる技能を最大以上に活用して、生徒の目を引く魅力的な指導を行っているのだから。
 でも、だからこそ受け入れられないのだ。あのヘボ女神の急成長を見ていると、なぜだか無償に悔しくなってしまう。
 自分が小さく、惨めに感じる。奴を見ていると沸いてくる、置き去りにされているような感覚は何なのだろう。

「こうちゃん、ばるきりーさんだってやれば出来るんだよ」

 琴音は頬を膨らませた。

「大人だって、神様だって、成長するんだよ。何がきっかけなのかはわからないけど、ばるきりーさんは変わろうとした。それだけだよ」
「変わろうって、お前な」

 うろたえる浩二は、ばるきりーさんが近づく気配を感じた。
 さっと目をそらすと、朗らかな笑顔のばるきりーさんが前に立った。

「どうした浩二。随分うろたえていたようだが」
「なんでもない……」
「そうか。しかし、いい動きだったな。この試合一番の功労者だったぞ」

 ばるきりーさんは浩二の頭を撫でた。浩二は肩を跳ね上げ、思わず手を払いのけてしまった。

「子ども扱いすんなよ」
「すまん、ついやってしまった」

 ばるきりーさんは申し訳なさそうに手を引き、柔らかく微笑んで、浩二を見ていた。

「何かあったら言ってくれよ。君も琴音も私の生徒だからな、助けが必要な時は必ず助けるぞ」
「……期待しないでおく」

 浩二はそれだけ言い、踵を返した。
 相手がワルキューレだろうと、大人には頼りたくなかった。大人は等しく役に立たない、誰も助けてくれやしない。この世で最も、忌むべき存在なんだ。
 浩二は自分に言い聞かせ、体育館を後にした。
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