【完結】離婚しましょうね。だって貴方は貴族ですから

すだもみぢ

文字の大きさ
2 / 20

第二話 お気に入りの娘はローズマリー

しおりを挟む
「離婚だと……?」
「はい、そうです」

 帰ってきて真っ先に聴く言葉がそれとは思わなかった。
 狩りがすんで後の宴で酒を飲んで帰ってきていたのだが、それがすっかり醒めてしまった。
 自分の驚く顔に、きょとんとした顔のローデリアが、なんで驚いているのだろう、というような顔をしている。

「おかしいですわ。旦那様は伯爵家当主なのに、こんな簡単なことにもお気づきになってないなんて。お忘れですの? 貴族ですから、離婚しなくてはいけないのですよ? 常日頃、旦那様が私に教えてくださっていたではないですか」

 もう、しっかりしてくださいまし、と子供を叱るような顔をするあどけない表情の妻に何も言えなくて、ただ生唾を飲み込んだ。
 とりあえずお座りくださいましね、と妻にソファに座らせられて、彼女も隣に当たり前のように腰を落とす。彼女の躰は自分に寄り添っていて、たった今、離婚を切り出そうとした人の態度には思えなかった。

「私と旦那様が結婚して丸2年。その間に子供が授かれなかった貴族は離婚をして、そして新たな配偶者を求めることができます。私たちの間に子供ができなかったので、旦那様は伯爵家のために新しい方とご結婚なさってくださいね」

 子供ができなかったのは当たり前だ。なぜなら自分がローデリアを抱いたのは初夜の時だけ。その後は夜を共に過ごしたことすらなかった。
 日中は顔を合わせ、色々と話したり、仕事や貴族の心得を教えたりはしても、夜はそのまま遊びに行くことも、結婚当初からあったからだ。

「ポロドール……旦那様行きつけの娼館ですわよね? お気に入りの娘はローズマリーだとか」

 当たり前のように、自分の行動をすらすらという妻に、一瞬動きが止まる。この妻はどこまで把握しているのだろう。
 動揺を隠せないトーマスに対して、ローデリアはなんでもないことのように、続ける。

「テロドアの大旦那様に言われましたの。娼館遊びを止めさせろと」
「なっ 父上に言いつけたのか!?」

 今だに頭が上がらない父親に名前が出てきて、焦って声を上げてしまった。
 ローデリアと結婚したのも元はと言えばいまだ侯爵である父の命令だ。
 彼女が若く、子供を産める能力を求められてのことだったのに、彼女に手を触れずにいたことも、父に筒抜けだったようだ。

「嫌ですわ、旦那様ったら。ご友人と娼館に伺ったのでしょう? ご友人から大旦那様に話が流れたことに、どうしてお気づきにならないのです。私ははしたなく身内のことを触れ回ったりしませんわ。旦那様から教わったことは忘れませんもの。そうそう、ローズマリー嬢のことを教えてくださったのも大旦那様ですからね」

 可愛らしくふくれっ面をするローデリアに、口の軽い友人とその交友関係を把握する。そういえば、父親同士が仲がいい遊び仲間もいたのだった。

「結婚したばかりの妻を放置させて、娼館ばかり行かせるなんて、伯爵家の跡継ぎはどうする、と。二年経っても子供ができなかったら離縁させる、ときつーく私はお叱りを受けておりましたの。それもこれも、私に女としての魅力がないからですわ、申し訳ありません。旦那様は悪くありませんわ」

 ふるふる、と頭を振って、困った顔をするローデリアは、ローズマリーの妖艶さとは違う魅力に満ちている。
 二年前、彼女が自分と結婚した時は16歳で、まだまだ子供だった。しかし、二年経ち十二分にトーマスの食指が動く大人っぽさが現れてきていて。先ほどの緊張の生唾とは違い、今度は欲望の唾液が溢れて喉が鳴った。

「旦那様に子供を作る能力がないという可能性が無きにしも非ずですが、そちらは私以外の女性でお確かめ下さらないといけませんし。貴族として一番大事なことは後継ぎを作ることなのですから、だから離縁いたしましょうね」

 しかし、ローデリアはそんな夫に気づかない。
 輝く笑顔で、そのようなことを言われても。

「君はそれでいいのか!?」
「え? もちろんですわ。お断りになることもありませんよね? だって…………」

 そういうと、妻はきっぱりと言い切った。

「旦那様は貴族ですから。常に家のことをお考えになって行動されませんと」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

短編 政略結婚して十年、夫と妹に裏切られたので離縁します

朝陽千早
恋愛
政略結婚して十年。夫との愛はなく、妹の訪問が増えるたびに胸がざわついていた。ある日、夫と妹の不倫を示す手紙を見つけたセレナは、静かに離縁を決意する。すべてを手放してでも、自分の人生を取り戻すために――これは、裏切りから始まる“再生”の物語。

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

元婚約者様へ――あなたは泣き叫んでいるようですが、私はとても幸せです。

有賀冬馬
恋愛
侯爵令嬢の私は、婚約者である騎士アラン様との結婚を夢見ていた。 けれど彼は、「平凡な令嬢は団長の妻にふさわしくない」と、私を捨ててより高位の令嬢を選ぶ。 ​絶望に暮れた私が、旅の道中で出会ったのは、国中から恐れられる魔導王様だった。 「君は決して平凡なんかじゃない」 誰も知らない優しい笑顔で、私を大切に扱ってくれる彼。やがて私たちは夫婦になり、数年後。 ​政争で窮地に陥ったアラン様が、助けを求めて城にやってくる。 玉座の横で微笑む私を見て愕然とする彼に、魔導王様は冷たく一言。 「我が妃を泣かせた罪、覚悟はあるな」 ――ああ、アラン様。あなたに捨てられたおかげで、私はこんなに幸せになりました。心から、どうぞお幸せに。

〖完結〗私を捨てた旦那様は、もう終わりですね。

藍川みいな
恋愛
伯爵令嬢だったジョアンナは、アンソニー・ライデッカーと結婚していた。 5年が経ったある日、アンソニーはいきなり離縁すると言い出した。理由は、愛人と結婚する為。 アンソニーは辺境伯で、『戦場の悪魔』と恐れられるほど無類の強さを誇っていた。 だがそれは、ジョアンナの力のお陰だった。 ジョアンナは精霊の加護を受けており、ジョアンナが祈り続けていた為、アンソニーは負け知らずだったのだ。 精霊の加護など迷信だ! 負け知らずなのは自分の力だ! と、アンソニーはジョアンナを捨てた。 その結果は、すぐに思い知る事になる。 設定ゆるゆるの架空の世界のお話です。 全10話で完結になります。 (番外編1話追加) 感想の返信が出来ず、申し訳ありません。全て読ませて頂いております。ありがとうございます。

婚約する前から、貴方に恋人がいる事は存じておりました

Kouei
恋愛
とある夜会での出来事。 月明りに照らされた庭園で、女性が男性に抱きつき愛を囁いています。 ところが相手の男性は、私リュシュエンヌ・トルディの婚約者オスカー・ノルマンディ伯爵令息でした。 けれど私、お二人が恋人同士という事は婚約する前から存じておりましたの。 ですからオスカー様にその女性を第二夫人として迎えるようにお薦め致しました。 愛する方と過ごすことがオスカー様の幸せ。 オスカー様の幸せが私の幸せですもの。 ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

婚約者とその幼なじみがいい雰囲気すぎることに不安を覚えていましたが、誤解が解けたあとで、その立ち位置にいたのは私でした

珠宮さくら
恋愛
クレメンティアは、婚約者とその幼なじみの雰囲気が良すぎることに不安を覚えていた。 そんな時に幼なじみから、婚約破棄したがっていると聞かされてしまい……。 ※全4話。

処理中です...