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第二話 お気に入りの娘はローズマリー
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「離婚だと……?」
「はい、そうです」
帰ってきて真っ先に聴く言葉がそれとは思わなかった。
狩りがすんで後の宴で酒を飲んで帰ってきていたのだが、それがすっかり醒めてしまった。
自分の驚く顔に、きょとんとした顔のローデリアが、なんで驚いているのだろう、というような顔をしている。
「おかしいですわ。旦那様は伯爵家当主なのに、こんな簡単なことにもお気づきになってないなんて。お忘れですの? 貴族ですから、離婚しなくてはいけないのですよ? 常日頃、旦那様が私に教えてくださっていたではないですか」
もう、しっかりしてくださいまし、と子供を叱るような顔をするあどけない表情の妻に何も言えなくて、ただ生唾を飲み込んだ。
とりあえずお座りくださいましね、と妻にソファに座らせられて、彼女も隣に当たり前のように腰を落とす。彼女の躰は自分に寄り添っていて、たった今、離婚を切り出そうとした人の態度には思えなかった。
「私と旦那様が結婚して丸2年。その間に子供が授かれなかった貴族は離婚をして、そして新たな配偶者を求めることができます。私たちの間に子供ができなかったので、旦那様は伯爵家のために新しい方とご結婚なさってくださいね」
子供ができなかったのは当たり前だ。なぜなら自分がローデリアを抱いたのは初夜の時だけ。その後は夜を共に過ごしたことすらなかった。
日中は顔を合わせ、色々と話したり、仕事や貴族の心得を教えたりはしても、夜はそのまま遊びに行くことも、結婚当初からあったからだ。
「ポロドール……旦那様行きつけの娼館ですわよね? お気に入りの娘はローズマリーだとか」
当たり前のように、自分の行動をすらすらという妻に、一瞬動きが止まる。この妻はどこまで把握しているのだろう。
動揺を隠せないトーマスに対して、ローデリアはなんでもないことのように、続ける。
「テロドアの大旦那様に言われましたの。娼館遊びを止めさせろと」
「なっ 父上に言いつけたのか!?」
今だに頭が上がらない父親に名前が出てきて、焦って声を上げてしまった。
ローデリアと結婚したのも元はと言えばいまだ侯爵である父の命令だ。
彼女が若く、子供を産める能力を求められてのことだったのに、彼女に手を触れずにいたことも、父に筒抜けだったようだ。
「嫌ですわ、旦那様ったら。ご友人と娼館に伺ったのでしょう? ご友人から大旦那様に話が流れたことに、どうしてお気づきにならないのです。私ははしたなく身内のことを触れ回ったりしませんわ。旦那様から教わったことは忘れませんもの。そうそう、ローズマリー嬢のことを教えてくださったのも大旦那様ですからね」
可愛らしくふくれっ面をするローデリアに、口の軽い友人とその交友関係を把握する。そういえば、父親同士が仲がいい遊び仲間もいたのだった。
「結婚したばかりの妻を放置させて、娼館ばかり行かせるなんて、伯爵家の跡継ぎはどうする、と。二年経っても子供ができなかったら離縁させる、ときつーく私はお叱りを受けておりましたの。それもこれも、私に女としての魅力がないからですわ、申し訳ありません。旦那様は悪くありませんわ」
ふるふる、と頭を振って、困った顔をするローデリアは、ローズマリーの妖艶さとは違う魅力に満ちている。
二年前、彼女が自分と結婚した時は16歳で、まだまだ子供だった。しかし、二年経ち十二分にトーマスの食指が動く大人っぽさが現れてきていて。先ほどの緊張の生唾とは違い、今度は欲望の唾液が溢れて喉が鳴った。
「旦那様に子供を作る能力がないという可能性が無きにしも非ずですが、そちらは私以外の女性でお確かめ下さらないといけませんし。貴族として一番大事なことは後継ぎを作ることなのですから、だから離縁いたしましょうね」
しかし、ローデリアはそんな夫に気づかない。
輝く笑顔で、そのようなことを言われても。
「君はそれでいいのか!?」
「え? もちろんですわ。お断りになることもありませんよね? だって…………」
そういうと、妻はきっぱりと言い切った。
「旦那様は貴族ですから。常に家のことをお考えになって行動されませんと」
「はい、そうです」
帰ってきて真っ先に聴く言葉がそれとは思わなかった。
狩りがすんで後の宴で酒を飲んで帰ってきていたのだが、それがすっかり醒めてしまった。
自分の驚く顔に、きょとんとした顔のローデリアが、なんで驚いているのだろう、というような顔をしている。
「おかしいですわ。旦那様は伯爵家当主なのに、こんな簡単なことにもお気づきになってないなんて。お忘れですの? 貴族ですから、離婚しなくてはいけないのですよ? 常日頃、旦那様が私に教えてくださっていたではないですか」
もう、しっかりしてくださいまし、と子供を叱るような顔をするあどけない表情の妻に何も言えなくて、ただ生唾を飲み込んだ。
とりあえずお座りくださいましね、と妻にソファに座らせられて、彼女も隣に当たり前のように腰を落とす。彼女の躰は自分に寄り添っていて、たった今、離婚を切り出そうとした人の態度には思えなかった。
「私と旦那様が結婚して丸2年。その間に子供が授かれなかった貴族は離婚をして、そして新たな配偶者を求めることができます。私たちの間に子供ができなかったので、旦那様は伯爵家のために新しい方とご結婚なさってくださいね」
子供ができなかったのは当たり前だ。なぜなら自分がローデリアを抱いたのは初夜の時だけ。その後は夜を共に過ごしたことすらなかった。
日中は顔を合わせ、色々と話したり、仕事や貴族の心得を教えたりはしても、夜はそのまま遊びに行くことも、結婚当初からあったからだ。
「ポロドール……旦那様行きつけの娼館ですわよね? お気に入りの娘はローズマリーだとか」
当たり前のように、自分の行動をすらすらという妻に、一瞬動きが止まる。この妻はどこまで把握しているのだろう。
動揺を隠せないトーマスに対して、ローデリアはなんでもないことのように、続ける。
「テロドアの大旦那様に言われましたの。娼館遊びを止めさせろと」
「なっ 父上に言いつけたのか!?」
今だに頭が上がらない父親に名前が出てきて、焦って声を上げてしまった。
ローデリアと結婚したのも元はと言えばいまだ侯爵である父の命令だ。
彼女が若く、子供を産める能力を求められてのことだったのに、彼女に手を触れずにいたことも、父に筒抜けだったようだ。
「嫌ですわ、旦那様ったら。ご友人と娼館に伺ったのでしょう? ご友人から大旦那様に話が流れたことに、どうしてお気づきにならないのです。私ははしたなく身内のことを触れ回ったりしませんわ。旦那様から教わったことは忘れませんもの。そうそう、ローズマリー嬢のことを教えてくださったのも大旦那様ですからね」
可愛らしくふくれっ面をするローデリアに、口の軽い友人とその交友関係を把握する。そういえば、父親同士が仲がいい遊び仲間もいたのだった。
「結婚したばかりの妻を放置させて、娼館ばかり行かせるなんて、伯爵家の跡継ぎはどうする、と。二年経っても子供ができなかったら離縁させる、ときつーく私はお叱りを受けておりましたの。それもこれも、私に女としての魅力がないからですわ、申し訳ありません。旦那様は悪くありませんわ」
ふるふる、と頭を振って、困った顔をするローデリアは、ローズマリーの妖艶さとは違う魅力に満ちている。
二年前、彼女が自分と結婚した時は16歳で、まだまだ子供だった。しかし、二年経ち十二分にトーマスの食指が動く大人っぽさが現れてきていて。先ほどの緊張の生唾とは違い、今度は欲望の唾液が溢れて喉が鳴った。
「旦那様に子供を作る能力がないという可能性が無きにしも非ずですが、そちらは私以外の女性でお確かめ下さらないといけませんし。貴族として一番大事なことは後継ぎを作ることなのですから、だから離縁いたしましょうね」
しかし、ローデリアはそんな夫に気づかない。
輝く笑顔で、そのようなことを言われても。
「君はそれでいいのか!?」
「え? もちろんですわ。お断りになることもありませんよね? だって…………」
そういうと、妻はきっぱりと言い切った。
「旦那様は貴族ですから。常に家のことをお考えになって行動されませんと」
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