3 / 20
第三話 事業を手放しておきました
しおりを挟む
「離婚についてのことは法律家の方を交えてお話しましょうね。大丈夫ですわ、旦那様の希望通りになるでしょう。それよりも旦那様にいくつか報告しないといけないことがあるんですのよ」
あ、先にお食事にいたしますか? 気づかなくてごめんなさいね、と妻はどうしましょうというように両手で頬を挟んでいる。
済ませてきたからいい、と首を振ると、そうですか、とにこっと子供のようにあどけない笑顔を見せた。
「旦那様がお帰りにならない間、赤字になっていた事業を含めて、いくつかのものを売却いたしましたの。おかげでこの伯爵家の収入は、足を引っ張られていた事業から解き放たれて、上向きになっておりますわ」
「それはいい。よくやってくれた、ありがとう」
結婚して最初にしたことは、ローデリアに伯爵領の仕事を仕込むことだった。
元々数字に強かったこの妻は、すぐに仕事を覚え、どんどんと斬新な意見とアイディアを出し、伯爵夫人として采配を振るってくれた。
そのおかげで自分は安心して任せて出かけることができるようになったものだった。
「ところで、何の事業を手放したんだ?」
「水道事業と塩と酒の事業と直接領の耕作権ですね」
「なんだと、水道は手放してはダメだ!!」
彼女がこともなげに言った内容に驚いて、思わず立ち上がった。
そして執事に命じて、帳簿を持ってこいと命じた。
執事がなぜか動かず、もう一度命じようとしたところローデリアが「旦那様のおっしゃる通りに」と言うと、ようやく執務室に取りに行く。どうしたのだろう、耳が悪くなったのだろうか。
はっきりいって水道事業は儲からない。儲からないからこそ、領主である伯爵家がしなければいけないことだった。
落札した商人が儲からないと撤退した後に、整備されなくなった水道をもう一度維持管理するのは至難の業だ。朽ち果てた水道管の配置からを一からやり直しになったりしたら、膨大な金がまたかかるのだ。
かといって放置するわけにはいかない。水は人間が生きる上で絶対に必要なものだからだ。
その事は、テロドア侯爵である父から伯爵領を引き継ぐ時に、しつこいほど念を押されたものだった。
「なんでそんな勝手なことをしたんだ!」
「だって旦那様は私に一任してくださったじゃないですか。相談しようにも旦那様はお帰りにならないし」
ころころと笑う妻は、事の重大さがわかってないと頭を抱えたくなった。
「私は伯爵代理として委任された身ですから。旦那様がいない時にはなんでもできちゃうんですよ? ご安心ください。ちゃんと正しく入札にして、そして一番高くお金を払ってくれたところにお任せいたしましたから」
帳簿を確認するが、相場より高い値段で販売しているのにはほっとした。
しかし、落札している事業者の名前がまるで知らないところなので、大丈夫なのだろうか、と不安になる。
「とりあえず、ここから買い戻すようにしろ。いや、赤字経営で音を上げてから買い戻す方が得策かもしれないな……」
「水道事業など、放置でよいではないですか。旦那様は私に教えてくださいましたよね。大事なのは貴族の誇りである、と。旦那様は平民のことはお嫌いのようですから、粉引き用の水車も潰して、領民の私有地の区画整理を執り行ってる最中ですの」
「なんでそんなことをしているんだ?! 暴動が起きたらどうする」
「だって、旦那様には不要だったようですから。暴動なんか起きても大丈夫ですよね?」
「そんなわけはないだろう!?」
「私、知ってるんですのよ。旦那様は、このおうちが嫌いなのですよね? だから考えました。貴族である旦那様は大嫌いなこのうちから離れ、そしてお嫌いなお仕事もしないですむ方法を」
ローデリアは無邪気に笑っていた。
「私が、このおうちも、旦那様のお仕事も、もらってあげることにしましたの。喜んでくださいましね、旦那様」
あ、先にお食事にいたしますか? 気づかなくてごめんなさいね、と妻はどうしましょうというように両手で頬を挟んでいる。
済ませてきたからいい、と首を振ると、そうですか、とにこっと子供のようにあどけない笑顔を見せた。
「旦那様がお帰りにならない間、赤字になっていた事業を含めて、いくつかのものを売却いたしましたの。おかげでこの伯爵家の収入は、足を引っ張られていた事業から解き放たれて、上向きになっておりますわ」
「それはいい。よくやってくれた、ありがとう」
結婚して最初にしたことは、ローデリアに伯爵領の仕事を仕込むことだった。
元々数字に強かったこの妻は、すぐに仕事を覚え、どんどんと斬新な意見とアイディアを出し、伯爵夫人として采配を振るってくれた。
そのおかげで自分は安心して任せて出かけることができるようになったものだった。
「ところで、何の事業を手放したんだ?」
「水道事業と塩と酒の事業と直接領の耕作権ですね」
「なんだと、水道は手放してはダメだ!!」
彼女がこともなげに言った内容に驚いて、思わず立ち上がった。
そして執事に命じて、帳簿を持ってこいと命じた。
執事がなぜか動かず、もう一度命じようとしたところローデリアが「旦那様のおっしゃる通りに」と言うと、ようやく執務室に取りに行く。どうしたのだろう、耳が悪くなったのだろうか。
はっきりいって水道事業は儲からない。儲からないからこそ、領主である伯爵家がしなければいけないことだった。
落札した商人が儲からないと撤退した後に、整備されなくなった水道をもう一度維持管理するのは至難の業だ。朽ち果てた水道管の配置からを一からやり直しになったりしたら、膨大な金がまたかかるのだ。
かといって放置するわけにはいかない。水は人間が生きる上で絶対に必要なものだからだ。
その事は、テロドア侯爵である父から伯爵領を引き継ぐ時に、しつこいほど念を押されたものだった。
「なんでそんな勝手なことをしたんだ!」
「だって旦那様は私に一任してくださったじゃないですか。相談しようにも旦那様はお帰りにならないし」
ころころと笑う妻は、事の重大さがわかってないと頭を抱えたくなった。
「私は伯爵代理として委任された身ですから。旦那様がいない時にはなんでもできちゃうんですよ? ご安心ください。ちゃんと正しく入札にして、そして一番高くお金を払ってくれたところにお任せいたしましたから」
帳簿を確認するが、相場より高い値段で販売しているのにはほっとした。
しかし、落札している事業者の名前がまるで知らないところなので、大丈夫なのだろうか、と不安になる。
「とりあえず、ここから買い戻すようにしろ。いや、赤字経営で音を上げてから買い戻す方が得策かもしれないな……」
「水道事業など、放置でよいではないですか。旦那様は私に教えてくださいましたよね。大事なのは貴族の誇りである、と。旦那様は平民のことはお嫌いのようですから、粉引き用の水車も潰して、領民の私有地の区画整理を執り行ってる最中ですの」
「なんでそんなことをしているんだ?! 暴動が起きたらどうする」
「だって、旦那様には不要だったようですから。暴動なんか起きても大丈夫ですよね?」
「そんなわけはないだろう!?」
「私、知ってるんですのよ。旦那様は、このおうちが嫌いなのですよね? だから考えました。貴族である旦那様は大嫌いなこのうちから離れ、そしてお嫌いなお仕事もしないですむ方法を」
ローデリアは無邪気に笑っていた。
「私が、このおうちも、旦那様のお仕事も、もらってあげることにしましたの。喜んでくださいましね、旦那様」
366
あなたにおすすめの小説
短編 政略結婚して十年、夫と妹に裏切られたので離縁します
朝陽千早
恋愛
政略結婚して十年。夫との愛はなく、妹の訪問が増えるたびに胸がざわついていた。ある日、夫と妹の不倫を示す手紙を見つけたセレナは、静かに離縁を決意する。すべてを手放してでも、自分の人生を取り戻すために――これは、裏切りから始まる“再生”の物語。
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
【完結】16わたしも愛人を作ります。
華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、
惨めで生きているのが疲れたマリカ。
第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、
壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。
元婚約者様へ――あなたは泣き叫んでいるようですが、私はとても幸せです。
有賀冬馬
恋愛
侯爵令嬢の私は、婚約者である騎士アラン様との結婚を夢見ていた。
けれど彼は、「平凡な令嬢は団長の妻にふさわしくない」と、私を捨ててより高位の令嬢を選ぶ。
絶望に暮れた私が、旅の道中で出会ったのは、国中から恐れられる魔導王様だった。
「君は決して平凡なんかじゃない」
誰も知らない優しい笑顔で、私を大切に扱ってくれる彼。やがて私たちは夫婦になり、数年後。
政争で窮地に陥ったアラン様が、助けを求めて城にやってくる。
玉座の横で微笑む私を見て愕然とする彼に、魔導王様は冷たく一言。
「我が妃を泣かせた罪、覚悟はあるな」
――ああ、アラン様。あなたに捨てられたおかげで、私はこんなに幸せになりました。心から、どうぞお幸せに。
〖完結〗私を捨てた旦那様は、もう終わりですね。
藍川みいな
恋愛
伯爵令嬢だったジョアンナは、アンソニー・ライデッカーと結婚していた。
5年が経ったある日、アンソニーはいきなり離縁すると言い出した。理由は、愛人と結婚する為。
アンソニーは辺境伯で、『戦場の悪魔』と恐れられるほど無類の強さを誇っていた。
だがそれは、ジョアンナの力のお陰だった。
ジョアンナは精霊の加護を受けており、ジョアンナが祈り続けていた為、アンソニーは負け知らずだったのだ。
精霊の加護など迷信だ! 負け知らずなのは自分の力だ!
と、アンソニーはジョアンナを捨てた。
その結果は、すぐに思い知る事になる。
設定ゆるゆるの架空の世界のお話です。
全10話で完結になります。
(番外編1話追加)
感想の返信が出来ず、申し訳ありません。全て読ませて頂いております。ありがとうございます。
婚約する前から、貴方に恋人がいる事は存じておりました
Kouei
恋愛
とある夜会での出来事。
月明りに照らされた庭園で、女性が男性に抱きつき愛を囁いています。
ところが相手の男性は、私リュシュエンヌ・トルディの婚約者オスカー・ノルマンディ伯爵令息でした。
けれど私、お二人が恋人同士という事は婚約する前から存じておりましたの。
ですからオスカー様にその女性を第二夫人として迎えるようにお薦め致しました。
愛する方と過ごすことがオスカー様の幸せ。
オスカー様の幸せが私の幸せですもの。
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
婚約者とその幼なじみがいい雰囲気すぎることに不安を覚えていましたが、誤解が解けたあとで、その立ち位置にいたのは私でした
珠宮さくら
恋愛
クレメンティアは、婚約者とその幼なじみの雰囲気が良すぎることに不安を覚えていた。
そんな時に幼なじみから、婚約破棄したがっていると聞かされてしまい……。
※全4話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる