【完結】離婚しましょうね。だって貴方は貴族ですから

すだもみぢ

文字の大きさ
8 / 20

第八話 味方がいない

しおりを挟む
 何をどこまで奪われているのかが、もうわからない。
 もしかしたら、もう全てが彼女の手の中に握られている気がする。
 確実に自分のものと思えるのは、この命くらいなものなのだろうか。
 ただただ、可愛いだけと思っていた妻が、今はひどく恐ろしくてならなかった。

「旦那様が帰宅なさっているのだから、今のうちに法律家の方を呼びましょう」

 と、なぜかウキウキしているローデリアが急いで馬車を出して、懇意にしているという法律家を呼びだす。
 滅多に帰ってこないのが当たり前な夫……そういう扱いをされる自分というのも、恥ずかしいを通り越して情けなくなった。

 いや、法律家を呼びだされるというのはちょうどいいだろう。
 これを機会に全部彼女がしでかしたことを法律家の前で暴いて責め立てれば、ローデリアは行いを後悔して、怯えて泣いて許しを乞うはずだ。

 まだ大丈夫。
 そして、自分がまた叱ってやればいいだけだ。



***



「離婚、ですか?」
「はい、離婚です」

 やってきた法律家の前でもローデリアは元気よく繰り返す。
 ローデリアはぴったりと私に寄り添い、見た目仲睦ましそうに見えるのだろう。怪訝な顔をして法律家の視線が自分たち二人を行き来している。

「伯爵様もこの離婚に対して同意を得ているのですか?」
「いや、私は……」
「もう、旦那様ったら、貴族なのですから、認めなくてはダメでしょう? 二年経っても子供ができなかったのだから、離婚して新しい方を探さないと」
「でもそんなのはこれからの努力でいかようにでもなるかもしれないだろう?」

 自分たちのやり取りを見て、法律家はどういうことだろうと困惑しているようだった。
 そこに様子を見ていた執事が手を挙げて発言を求める。

「僭越ですが、よろしいでしょうか」

 使用人がこの手の事に口を挟むことは少ない。珍しいこともあるもんだな、と「あぁ」と頷いた。

「この二年間、旦那様は家にまるっきり寄り付きませんでした。奥様から離婚を求められるのも当たり前だと思います」

 その話を聞いて、ここにきて法律家の目が光る。

「あら、違うわ。私が離婚を求めるのではなく、旦那様が離婚を請求なさるのよ。そうでしょ? 旦那様」

 すかさずローデリアが否定をしつつ、ね?と笑顔で俺の顔を覗き込んでくる。
 これが嫌味の笑顔であった方がよほど楽だった。
 ローデリアの笑顔は邪気がない分、始末が悪い。

「お前、余計なことを……!」

 法律家の心証が悪くなっていいことなんか1つもない。
 余計な口を挟んだ執事を睨めば、それ以上に冷たい目で睨み返された。

「現在の我々の雇用主は奥様です。トーマス様の命令を受けることは今後、拒否させていただきます。もし必要とあれば、奥様にお願いなさってください」

 執事だけでなく、後ろに控える使用人たちの冷たい視線が痛かった。

 その時になって自分は初めて気づいた。
 この家の全てが彼女の支配下にあるということを。

 内装の設えが大分変わっているのは気づいていたが、それが工事を伴うほどの随分と大がかりなものであることだと、その時点でようやく気が付いたのだ。
 こんなこと、自分が主の家で行うなら、執事が自分に報告もなくさせるわけがないではないか。

 ずっと前から、そうなっていたのだ。自分が知らなかっただけで。

 屋敷に帰ってきても冷たい目線で取り囲まれ、自分に味方をする使用人たちが一人としていない。
 こんなことになっていることすらにも、自分は今まで、まったく気づかず!

 法律家は聞き取り調査を始め、結婚してから夫婦生活がなかったどころか、ロクに自分が帰宅していなかったことを、執事は元より使用人一同が、それを証言した。

「奥様と使用人の意見をまとめると、結婚後、伯爵様はほとんど家に寄り付きもせず、家の管理や事業などは全部奥様に丸投げし、そして子供ができないことを盾に離婚を求めているということですか?」
「私はローデリアと離婚したいなどと一言も言っていない!」
「旦那様、貴族なのですから、跡継ぎのことは何よりも大事ですよ?」
「話がややこしくなるからお前は黙っていろ!」

 離婚の話よりも、もっと大事な話がある。
 先ほど見ていたこの伯爵家の帳簿類をどん!と法律家の前に積み上げる。

「それよりも、私の預かり知らぬ間に、私の財産が随分と妻の名義になっている。これは立派な犯罪だ。私の名義に戻すように君の知恵を借りたい」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

短編 政略結婚して十年、夫と妹に裏切られたので離縁します

朝陽千早
恋愛
政略結婚して十年。夫との愛はなく、妹の訪問が増えるたびに胸がざわついていた。ある日、夫と妹の不倫を示す手紙を見つけたセレナは、静かに離縁を決意する。すべてを手放してでも、自分の人生を取り戻すために――これは、裏切りから始まる“再生”の物語。

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

元婚約者様へ――あなたは泣き叫んでいるようですが、私はとても幸せです。

有賀冬馬
恋愛
侯爵令嬢の私は、婚約者である騎士アラン様との結婚を夢見ていた。 けれど彼は、「平凡な令嬢は団長の妻にふさわしくない」と、私を捨ててより高位の令嬢を選ぶ。 ​絶望に暮れた私が、旅の道中で出会ったのは、国中から恐れられる魔導王様だった。 「君は決して平凡なんかじゃない」 誰も知らない優しい笑顔で、私を大切に扱ってくれる彼。やがて私たちは夫婦になり、数年後。 ​政争で窮地に陥ったアラン様が、助けを求めて城にやってくる。 玉座の横で微笑む私を見て愕然とする彼に、魔導王様は冷たく一言。 「我が妃を泣かせた罪、覚悟はあるな」 ――ああ、アラン様。あなたに捨てられたおかげで、私はこんなに幸せになりました。心から、どうぞお幸せに。

〖完結〗私を捨てた旦那様は、もう終わりですね。

藍川みいな
恋愛
伯爵令嬢だったジョアンナは、アンソニー・ライデッカーと結婚していた。 5年が経ったある日、アンソニーはいきなり離縁すると言い出した。理由は、愛人と結婚する為。 アンソニーは辺境伯で、『戦場の悪魔』と恐れられるほど無類の強さを誇っていた。 だがそれは、ジョアンナの力のお陰だった。 ジョアンナは精霊の加護を受けており、ジョアンナが祈り続けていた為、アンソニーは負け知らずだったのだ。 精霊の加護など迷信だ! 負け知らずなのは自分の力だ! と、アンソニーはジョアンナを捨てた。 その結果は、すぐに思い知る事になる。 設定ゆるゆるの架空の世界のお話です。 全10話で完結になります。 (番外編1話追加) 感想の返信が出来ず、申し訳ありません。全て読ませて頂いております。ありがとうございます。

婚約する前から、貴方に恋人がいる事は存じておりました

Kouei
恋愛
とある夜会での出来事。 月明りに照らされた庭園で、女性が男性に抱きつき愛を囁いています。 ところが相手の男性は、私リュシュエンヌ・トルディの婚約者オスカー・ノルマンディ伯爵令息でした。 けれど私、お二人が恋人同士という事は婚約する前から存じておりましたの。 ですからオスカー様にその女性を第二夫人として迎えるようにお薦め致しました。 愛する方と過ごすことがオスカー様の幸せ。 オスカー様の幸せが私の幸せですもの。 ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

婚約者とその幼なじみがいい雰囲気すぎることに不安を覚えていましたが、誤解が解けたあとで、その立ち位置にいたのは私でした

珠宮さくら
恋愛
クレメンティアは、婚約者とその幼なじみの雰囲気が良すぎることに不安を覚えていた。 そんな時に幼なじみから、婚約破棄したがっていると聞かされてしまい……。 ※全4話。

処理中です...