【完結】彼女が本当に得難い人だったなんて、後から気づいたってもう遅いんだよ。

すだもみぢ

文字の大きさ
7 / 7

第七話 本当はね

しおりを挟む
 その頃、たまたまゼミ仲間での飲みがあった。仕事で参加できなかった早苗に俺が尋ねたことがあった。
 
「なあなあ、早苗。後藤って、亜里沙のこと絶対好きだったよな。まだ、気があるかなぁ?」
「あ、やっぱり気づいてた? 私もそう思ってたんだよねー。亜里沙には篠原くんいたから言わなかったけど」
「亜里沙と篠原が別れたこと、今日、後藤に言ってもいいかな」
「言っちゃえ、言っちゃえ」
 
 これも、ある種のお節介だし、亜里沙が不幸になる可能性を秘めていたかもしれない。
 しかし亜里沙はもういい大人になっていたから、初めて付き合った篠原と違い、自分で見極めることもできるようになっているだろうという信頼もあった。
 俺のリークに後藤の動きは早かった。即座に亜里沙に思いを打ち明けた。
 後藤と付き合い始めた亜里沙は、篠原の前で見せていたような、萎縮したような、遠慮するような笑顔を見せることがなくなった。
 俺にとってなにより嬉しかったのは「こんなに人を好きになることができるなんて」と惚気のろけた親友に早苗が幸せそうな笑顔を見せたことだ。
 早苗は早苗でずっと心配していたようだ。篠原を腐すことは友人の恋人をけなすことにもなるから、亜里沙が自分で気づかないことには篠原と別れろということもできずにいたようで。
 その早苗の気持ちに気づけなかった自分を俺は今でも悔やんでいる。

 後藤と亜里沙の二人はそのまま結婚することになり、後藤は亜里沙の姓を継ぐことも義父の会社に入ることもいとわなかった。
 婿となってきてくれたことを感謝もされているらしい。
 その後、亜里沙は自分でも家業の関連会社を設立し、我が家に遊びにきた時にドバイに移り住むことを報告された。
 自分が土産に買った勝沼ワインをコンビニで買った生ハムを片手にカパカパ飲む亜里沙は相変わらずだったから、彼女が遠くに行って離れてしまうことなど、俺も早苗もピンと来てなかった。
  
「ドバイってどんなとこなの? 館山よりお魚美味しいのかなあ」
「世界が違いすぎて、羨ましいとも感じないよな……」
「うん、私、日本でいいわ」
 
 走り回る俊太を追いかけながらきいた話に早苗と二人で頷きあったが、羨ましいとか妬ましいとか思わず、自分の幸せは何かを理解している早苗に「この人と結婚してよかったなぁ」と思った。
 

「俺も、そろそろ帰るか」
 
 ビールの残りを一息に飲み下し、自分も立ち上がる。幹事をしている友人には一応声をかけておこう。

「先に帰るな。」
「啓介、今日はありがとな」
 
 人数合わせのためにいた二次会。それに対してお礼を言われたけれど、気にするなと笑った。

「いや、こちらこそ楽しかったよ。会いたいやつにも会えたし、面白いものも見られたし」
「そっか? またなんかあったら顔出せよ。早苗にもよろしくな」

 俺が帰るのに気づいた人にはまたな、と軽く手を挙げて店を出た。
 即座にスマートフォンを取り出せば、帰る旨を手早くメールする。小脇に引き出物を抱えて、そのままタクシーをつかまえようと乗り場に急いだ。
 愛する息子と一緒に早苗ももう寝てしまっているかもしれない。そんな姿を思い浮かべながら急いで家路につこうか。


 篠原。お前が選んだことだろう? だから文句は言えないよな。
 お前は今、幸せなんだろう? だから亜里沙の幸せも祈れるよな。

 そう先回りして牽制することで、何かを言いたげだった篠原の口を塞いだ。
 愛する妻の親友であり、自分の大事な友人でもある亜里沙が篠原に逆恨みされないように。

 本当に守りたいなら、もっと明確に彼に言葉を伝えた方がよかったかもしれない。
 しかし俺は誰に対してでも自分が悪役にはなりたくない。
 自分でも自覚しているが、もともと小心だし心が狭い人間なんだ。
 だから、お前に面と向かって何かを言うことはしないだろう。きっとこれから先も。俺は笑顔でお前の結婚式にだって出られるよ。

 お前はずっと俺を蔑んでいたな。
 早苗のことも、お前の価値観からそぐわない女だと見下していた。
 それを俺は笑ってスルーしていたけれど、利用する時だけすり寄ってくるお前を、俺が疎ましく思っていないとでも思っていたか?
 どうせ鈍い男だ、とお前は腹の中で笑っていたんだろう? 笑われていたのはお前の方なんだけどな。

 本当はね、篠原。

 俺はお前が大嫌いなんだよ。
しおりを挟む
感想 4

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(4件)

高校生の母
2025.07.01 高校生の母

面白かったです٩(♡ε♡ )۶
篠原が後藤くんを知らないという
事は後藤くんはゼミ外の友人なのかな?
しかし、篠原のお嫁さんどういう
女性なんだろう(^_^;)篠原を手玉に
取れる女性なら良いのだけれど(笑)
もしくは性悪で(笑)

解除
2024.04.19 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2024.04.19 すだもみぢ

谷 亜里砂さん、感想ありがとうございます。
楽しんで読んでいただけたなら幸いです<(_ _)>

解除
2023.05.03 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2023.05.03 すだもみぢ

ふりったぁさん、感想ありがとうございます<(_ _)>
優劣をつけ、自分が優位側にいるようでいて、周囲からしたらその人は劣位にいたような認知の逆転現象というものは、意外と世の中あるように思えてます。
世間一般でいうところのモブな存在から吐かれる「表に現われない毒」は、きっとありとあらゆるところにあるのでしょう。その点を褒めていただき嬉しかったです♪

解除

あなたにおすすめの小説

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

フッてくれてありがとう

nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました! 「子どもができたんだ」 ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。 「誰の」 私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。 でも私は知っている。 大学生時代の元カノだ。 「じゃあ。元気で」 彼からは謝罪の一言さえなかった。 下を向き、私はひたすら涙を流した。 それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。 過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──

〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。

藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」 憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。 彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。 すごく幸せでした……あの日までは。 結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。 それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。 そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった…… もう耐える事は出来ません。 旦那様、私はあなたのせいで死にます。 だから、後悔しながら生きてください。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全15話で完結になります。 この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。 感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。 たくさんの感想ありがとうございます。 次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。 このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。 良かったら読んでください。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

いざ離婚!と思ったらそもそも結婚していなかったですって!

ゆるぽ
恋愛
3年間夫婦としての実態が無ければ離婚できる国でようやく離婚できることになったフランシア。離婚手続きのために教会を訪れたところ、婚姻届けが提出されていなかったことを知る。そもそも結婚していなかったことで最低だった夫に復讐できることがわかって…/短めでさくっと読めるざまぁ物を目指してみました。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。