霧の魔女と青銀の翼

祥々奈々

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内科と外科と整体師

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 ゴドー爺は奴隷商としては古株だ、モンテ・ファミリー同様に犯罪組織としては義理堅い、奴隷商だが商品を粗末にはしない、売り先も吟味して非人道的な扱いはしないと聞いている。
 多くは大規模農場の働き手となる、中には自分の土地を持ち奴隷身分から脱却したものもいるそうだ。
 仕入れ先は様々だ、多くは難民、飢饉のための人減らし、人間一人を金に変える理由に暇はない。
 ゴドー曰く人買いは非道だ、だが必要だ、必要悪ってやつじゃ、儂は人買いで人助けをしておる、もちろん金儲けのついでにな。
 「キリア嬢、なにやら最近妙な事になっているようじゃな」
 「妙な事?モンテ・ファミリーの件ね、流石に耳が早いじゃない」
 「蛇の道はヘビだ」
 「どう思う?」
 「どうって、犯人が誰かってことかい?儂はあんたを疑うほど耄碌しちゃおらんわ!」
 「違うわよ、今日の私の服、どう思う、似合っているかしら?」
 疑われていない事に正直ほっとした。
 「くっく、お嬢はやはり黒が似合うと思うがの、いい女には飾りはいらん」
 「ねえゴドー、あなた悪食って言われる?」
 「何を言うか!儂は誰より面食いじゃ、ただ細い女は好みじゃないな」
 「あら残念、じゃあ私は失格ね」
 「歳を取るとふくよかな女性を好くようになるもんさ」
 「慰めるのが上手ね」
 仕入れられた奴隷の収容施設、鎖や牢屋ではない、男女別に棟が建てられている。
 さすがに剣を携えた護衛が周りを固めていた。
 「ここじゃ、感染が広がると不味いから隔離した」
 「いい判断ね」
 「何人?」
 「二人じゃ」
 ゆっくりと扉を開くと粗末なベッドに患者と思われる異人が寝ていた、浅黒い肌に浮腫が出ている、梅毒とは違う、別な何かだ。
 「これはいつから?」
 「むぅ、おかしいな!?今朝はこんなじゃなかったはず」
 二人の息が荒い、うっ血して肥大した舌、ヒューヒューとなる呼吸音は腫れが気管支を狭めている、瞳孔散大、高熱に浮かされている。
 何が原因かは分からないが複数の臓器に合併症が併発しているのは確かだ。
 「助かるか?」
 変わった爺だ、縁もゆかりもない異人、幾らかの金は積んだだろうが私への報酬も含めれば最大限高く売れたとしても赤字確実だろう、ソーン・シティに巣くうのは悪魔ばかりじゃない。
 「げっ!げっ!うげっ!」
 突然一人が酷い痙攣を始めた、反り返った身体から断末魔の舌が突き出される。
 「!?」「何事じゃ?」
 急激な病状の進行、似ているのではないか、マルコスの娼婦に。
 魔女の中の瘟鬼が食指を動かしている、知らない病を知る事、何よりの御馳走。
 躊躇することはない、喰え、瘟鬼!

 「瘟鬼!シックファージ!!」

 整体師ローペン、その源流は東洋の柔術、関節技を中心とした戦闘術、スポーツではなく人体の破壊を目的としたサブミッションだ。
 壊すことを知る事は治す事に通じる。
 ここはローペンの整体院、施術室より道場の方が遥かに広い。
 二人が向き合っている、道着?なのか、上半身裸で下はタイトなスボン、裸足だ。
 道場といっても床は板ではない、石床だ、しかも凸凹している、ここで投げを打たれたら大怪我になるだろう。
 「君が勝ったら協力してあげよう」
 「なんの冗談かなエラン、お前が勝ったことなどないだろう」
 ローペンが前屈みに両肩を回す、異常なまで肩甲骨が上下する、背中に翼を持っていた。
 「勿論ハンデはもらうよ、僕はこれを使う」
 エランと呼ばれた男は木製のハンドナイフを手にしている。
 「時として武器を帯びると弱くなる、覚えておくといい」
 ピタッ 二人の猛禽が羽搏きを止めて正中を探りあう、刃を交えずとも攻防が始まっていた。
 ババッ 同時に石床を蹴った!!
 決まり手まで五手。
 「参った!」
 エランは手首を取られて膝を付いていた。
 「いつもより一手多かったですね」
 クルリと手首を握り直すとグイとエランを引き上げる。

 白衣に着替えたエランはキリアと真逆、刀傷、銃創専門だ。
 メスと縫い針を持つ優男、麻酔のない世界では人の痛みを共感できないから出来る事。
 「なるほど、病の進行を加速させる毒ですか」
 「心当たりがありますか」
 「ふーむ……ありませんね、聞いたこともない」
 「やはり、そうですか……そもそも毒とはそれ自体が作用するもの、病のアクセルとなるような物質が存在するとは思えない」
 「もしくは似たような症状が現れるものですね」
 「それなら幾つかあります、代表的なのは辰砂や雄黄、硫化アンチモンなどが有名ですが、いずれも取り扱いが難しい、それに被害者に知られずに致死量を摂取させるには時間がかかります」
 「娼婦は梅毒の症状が現れて九日で死んだ、キリア様の見立てでは死に様は梅毒、しかし彼女たちを殺した原因は毒ではと疑っている」
 「矛盾する事象、この街で謎解きが必要な殺しとは珍しい、でも巷にキリア譲のような奇跡が幾つもあるはずがありません、必ず物理的なリアルがそこにあります」
 「私もそう思う」
 「直接の原因ではないと思いますが、毒とは別方向で気になる事ならあります」

 エランは煙草をに火を点けると一口吸い込みローペンに渡し、ゆっくりと吐き出した後に話始めた。
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