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シルバーバック
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瘧(マラリア)の治療にはトニックウォーターが効くらしい、民間療法で信じられてきた話だ。
これには真実が含まれている、この時代のトニックウォーターには苦み成分としてキナの木の樹皮から抽出した成分キニーネが使われていた。
抗マラリア薬となるこの成分は経口摂取でも効果が期待できる、ジンやラムといった酒をトニックウォーターで割るのは一般的で遠征する軍隊や冒険者の命を多く助けたが単価でみると酒よりもキニーネ入りトニックウォーターの方が高価であった。
この酒を飲んでいれば瘧にはかからない、そう信じられてきたが、一般の兵士や冒険者は何が効いているのか、キニーネという存在を知る者は一部だった。
キナの木は熱帯雨林の高所に自生している、樹高二十メートルを超える巨木、その樹皮を聖教会が一括して輸入管理を行っていた。
この時代に樹皮から抽出したキニーネ成分を結晶化させる技術は確立されていない、粉砕した物を神の粉として聖教会が特別に処方する薬であり高価で貴重な物とされていた。
一度疫病が発生すれば需要は一気に高まり薬の価値は上がる、時として麻薬以上の価格となることもあった、その利益を聖教会は独占していたのだ。
「キナ木の樹皮の価格が著しく高騰している、今は麻薬に近い値段だ」
エランは再び煙草を受け取ると深く吸い込む。
「何故だ?」
「原産国で瘧が流行しているようだ、需要に供給が追い付いていないはずだ」
「はずだとは?」
「価格は高くなっているが供給量は減っていない、品物はあるのだ」
「偽物か……」
「そうだ、低品質のものならまだいいが、似てはいるがまったく違う種類の樹皮であったりするのだろう」
「キニーネは聖教会の専売特許だろう、誰かが闇で流しているのだな」
「そうだ、つまらない金儲けか、それとも聖教会を堕とす策謀か、なんにせよ根は深いと俺は見ている」
話が終わるまでに二人は煙草五本を灰にしていた。
モンテ・ファミリーの構成員は三百を数える、多くは武闘派の傭兵派遣の人員、しかしその売り上げは安定しない、争いが無ければ仕事がないからだ、そんなファミリーを支えているのがマルコスの娼館経営、高級娼館の売り上げは断トツだ。
皮肉にも多くの荒くれ者の食い扶持を稼いでいるのは女たちだった。
軋轢は多い、娼館商売を蔑み憎みさえしている、それに食わされているのが我慢ならないのだ、それは無意識の嫉妬か尊心、それを消化する頭を持っていない。
今は他国との戦争はなく国内での争いは小規模、シノギは少ない。
立場の弱いはずの兵隊たちが暇を持て余して自社の運営する娼館で酒を煽ってだべっていた。
「おいっ、もっと酒を持ってこいや!」
「それに女だ!一人二人遊んで奴がいるだろ、ったくよぉ、気が利かねぇ」
横柄な態度で屯している、入口を潜ろうとした一般客と目が合うとギロリとメンチを切って威嚇する、折角の客が逃げていってしまう。
入口に立たせているボーイ達は客に威圧感を与えないように意図的に大人しめな外見の者を配置しているのにとんだ邪魔者だ。
ファミリーの契りを交わして年月が浅く部門ごとの力関係を知らない。
「おたくら!ここがモンテ・ファミリーでやってる店だって分かっているのかい?」
娼館を仕切るママが呆れて声をかけた。
「おおよ!俺たちは先月入隊したんだ、社員割引?優待っていうのがあるだろ、命張って仕事してるんだ、ちょっとは接待してくれよ、ママさんよぉ」
実践にはまだ一度も出ていない、つまり一銭も稼いでいない。
「接待?なに言ってんだい、そんなことは稼いだ後に言いな、あんたらの給料分働いてるのはここに居る女たちだ、ヒモになれるほどいい男でもあるまいし、ここでくだまいてる暇があるなら営業の一つに行きやがれってんだ、アホウども」
「なんだとこの婆あっ!」
見下された兵隊が剣の柄に手をかけて立ち上がろうとしたが立ち上がれない。
「なっ!?」
マルコスの巨大な手が兵士の頭をすっぽりと真上から掴んで押さえつけていた。
いつのまに立っていたのか、気配を感じさせない巨人は静かに指先に力を入れていく。
「傭兵部隊の新入りだって?隊長は誰だ、新人教育がまるでなっていないな」
メキメキメキッ 鉄の指が頭蓋骨を歪ませる。
「マルコスさん!」ママが安堵したように声をかけた。
「あがががっ、はっ、離せぇ!!」
「兄貴っ!!」「てめえ、何しやがる!」「何者だぁ!?」
弟分たちが刃物を手に立ち上がった。
「……」
刃物を向けられたマルコスは無言で掴んでいた手を離すと、掴む位置を首に変えた、巨大な掌と長大な指は兵士の首を一周しても余る、まるでゴリラの手だ、細身のキリアならウエストでさえ一周しそうだ。
「ガヒュッ……ッ」
マルコスは人体の首を柄にして胴体から足先までを一本の剣のように振り回した!!
ゴオッと唸りを上げて空中を振り回す、バキャッ ゴシャッ 振り回された男の足が仲間に激突して弾き飛ばす!!
理不尽なほどの腕力と握力!人間の握力世界記録は百九十二キロと言われるがマルコスの握力は同等かそれ以上だ。
「ぎゃわあっ」「ばっ、化け物!!」
「馬鹿な三下だよ、シルバーバックの店で悪態つけばこうなるに決まっている」
シルバーバックとはゴリラの群れのリーダー、群れの女や子供を外敵から守る強き雄、身長は百九十を超え、何より肩幅が異様に広く厚い、内包する肺活量も常人の域を遥かに超える、通常男性が三千五百㏄、スポーツ選手で七千㏄、怪物シルバーバックは一万五千㏄を超える。
棒切れを振り回すように人一人を片手で軽々と振り回す。
「こっ、こいつがシルバーバック!?話と違う!!こんなの人間じゃねえ」
腰を抜かした弟分が小便をちびりながらへたり込んでいる。
ポイッと投げ捨てられた兵士は振り回されて身長が十センチほど伸びた。
「話が違うとはどういう事だ?」
分厚い壁の上から短髪髭面の雄が顔を覗かせている、そんな不自然な光景を新入りは恐怖で震えながら目にすることになった。
これには真実が含まれている、この時代のトニックウォーターには苦み成分としてキナの木の樹皮から抽出した成分キニーネが使われていた。
抗マラリア薬となるこの成分は経口摂取でも効果が期待できる、ジンやラムといった酒をトニックウォーターで割るのは一般的で遠征する軍隊や冒険者の命を多く助けたが単価でみると酒よりもキニーネ入りトニックウォーターの方が高価であった。
この酒を飲んでいれば瘧にはかからない、そう信じられてきたが、一般の兵士や冒険者は何が効いているのか、キニーネという存在を知る者は一部だった。
キナの木は熱帯雨林の高所に自生している、樹高二十メートルを超える巨木、その樹皮を聖教会が一括して輸入管理を行っていた。
この時代に樹皮から抽出したキニーネ成分を結晶化させる技術は確立されていない、粉砕した物を神の粉として聖教会が特別に処方する薬であり高価で貴重な物とされていた。
一度疫病が発生すれば需要は一気に高まり薬の価値は上がる、時として麻薬以上の価格となることもあった、その利益を聖教会は独占していたのだ。
「キナ木の樹皮の価格が著しく高騰している、今は麻薬に近い値段だ」
エランは再び煙草を受け取ると深く吸い込む。
「何故だ?」
「原産国で瘧が流行しているようだ、需要に供給が追い付いていないはずだ」
「はずだとは?」
「価格は高くなっているが供給量は減っていない、品物はあるのだ」
「偽物か……」
「そうだ、低品質のものならまだいいが、似てはいるがまったく違う種類の樹皮であったりするのだろう」
「キニーネは聖教会の専売特許だろう、誰かが闇で流しているのだな」
「そうだ、つまらない金儲けか、それとも聖教会を堕とす策謀か、なんにせよ根は深いと俺は見ている」
話が終わるまでに二人は煙草五本を灰にしていた。
モンテ・ファミリーの構成員は三百を数える、多くは武闘派の傭兵派遣の人員、しかしその売り上げは安定しない、争いが無ければ仕事がないからだ、そんなファミリーを支えているのがマルコスの娼館経営、高級娼館の売り上げは断トツだ。
皮肉にも多くの荒くれ者の食い扶持を稼いでいるのは女たちだった。
軋轢は多い、娼館商売を蔑み憎みさえしている、それに食わされているのが我慢ならないのだ、それは無意識の嫉妬か尊心、それを消化する頭を持っていない。
今は他国との戦争はなく国内での争いは小規模、シノギは少ない。
立場の弱いはずの兵隊たちが暇を持て余して自社の運営する娼館で酒を煽ってだべっていた。
「おいっ、もっと酒を持ってこいや!」
「それに女だ!一人二人遊んで奴がいるだろ、ったくよぉ、気が利かねぇ」
横柄な態度で屯している、入口を潜ろうとした一般客と目が合うとギロリとメンチを切って威嚇する、折角の客が逃げていってしまう。
入口に立たせているボーイ達は客に威圧感を与えないように意図的に大人しめな外見の者を配置しているのにとんだ邪魔者だ。
ファミリーの契りを交わして年月が浅く部門ごとの力関係を知らない。
「おたくら!ここがモンテ・ファミリーでやってる店だって分かっているのかい?」
娼館を仕切るママが呆れて声をかけた。
「おおよ!俺たちは先月入隊したんだ、社員割引?優待っていうのがあるだろ、命張って仕事してるんだ、ちょっとは接待してくれよ、ママさんよぉ」
実践にはまだ一度も出ていない、つまり一銭も稼いでいない。
「接待?なに言ってんだい、そんなことは稼いだ後に言いな、あんたらの給料分働いてるのはここに居る女たちだ、ヒモになれるほどいい男でもあるまいし、ここでくだまいてる暇があるなら営業の一つに行きやがれってんだ、アホウども」
「なんだとこの婆あっ!」
見下された兵隊が剣の柄に手をかけて立ち上がろうとしたが立ち上がれない。
「なっ!?」
マルコスの巨大な手が兵士の頭をすっぽりと真上から掴んで押さえつけていた。
いつのまに立っていたのか、気配を感じさせない巨人は静かに指先に力を入れていく。
「傭兵部隊の新入りだって?隊長は誰だ、新人教育がまるでなっていないな」
メキメキメキッ 鉄の指が頭蓋骨を歪ませる。
「マルコスさん!」ママが安堵したように声をかけた。
「あがががっ、はっ、離せぇ!!」
「兄貴っ!!」「てめえ、何しやがる!」「何者だぁ!?」
弟分たちが刃物を手に立ち上がった。
「……」
刃物を向けられたマルコスは無言で掴んでいた手を離すと、掴む位置を首に変えた、巨大な掌と長大な指は兵士の首を一周しても余る、まるでゴリラの手だ、細身のキリアならウエストでさえ一周しそうだ。
「ガヒュッ……ッ」
マルコスは人体の首を柄にして胴体から足先までを一本の剣のように振り回した!!
ゴオッと唸りを上げて空中を振り回す、バキャッ ゴシャッ 振り回された男の足が仲間に激突して弾き飛ばす!!
理不尽なほどの腕力と握力!人間の握力世界記録は百九十二キロと言われるがマルコスの握力は同等かそれ以上だ。
「ぎゃわあっ」「ばっ、化け物!!」
「馬鹿な三下だよ、シルバーバックの店で悪態つけばこうなるに決まっている」
シルバーバックとはゴリラの群れのリーダー、群れの女や子供を外敵から守る強き雄、身長は百九十を超え、何より肩幅が異様に広く厚い、内包する肺活量も常人の域を遥かに超える、通常男性が三千五百㏄、スポーツ選手で七千㏄、怪物シルバーバックは一万五千㏄を超える。
棒切れを振り回すように人一人を片手で軽々と振り回す。
「こっ、こいつがシルバーバック!?話と違う!!こんなの人間じゃねえ」
腰を抜かした弟分が小便をちびりながらへたり込んでいる。
ポイッと投げ捨てられた兵士は振り回されて身長が十センチほど伸びた。
「話が違うとはどういう事だ?」
分厚い壁の上から短髪髭面の雄が顔を覗かせている、そんな不自然な光景を新入りは恐怖で震えながら目にすることになった。
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