霧の魔女と青銀の翼

祥々奈々

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告白

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 「知らねぇなぁ、おい、誰かそんな指示出した奴いるのか?」
 現れたシルバーバック、マルコスの問いに傭兵部隊の若集頭であるジル・ド・レバンはしらばっくれる。
 使い捨ての新人を送って寄こしたのは単なる嫌がらせだとマルコスも分かっている、しかし、彼らは刃物を持っていた、マルコスでなく店のボーイや使用人たちとトラブルになれば死者が出てもおかしくない、そんなことになればいくらソーン・シティといえどタダでは済まない、悪くすれば数日は営業出来なくなる、その分のシノギが減ってしまう、敵対する組織との抗争ならまだしもファミリー内での軋轢によるイザコザで営業停止などあってはならない。
 「傭兵部の新人の教育は十分ではないようだ、風営部で預かり教育しようか?」
 ジル・ド・レバン若頭はマルコスよりも一回り年上だ、その髪には白髪が目立つ、顔には多数の傷は箔をつけるために自分でやったらしい、身体は小さくはないがシルバーバックの前では霞んで見える。
 「はっ、風営部が兵隊に何を教えようっていうのだ、女に膝まづくような技は傭兵には必要ないぜ」
 「男も女も関係ない、マフィアにも礼節はある、それを失くせばただの山賊、組織など維持出来ない」
 「何が言いたいマルコス!?テメエ若い頃散々面倒見てやったのに少しくらい稼ぎが良いからってデカイツラしてんじゃねえぞ」
 「個人の問題ではないのです、今風営部が傾けばマスター・ファミリーへの上納金が払えなくなります、ファミリー同士のバランスが崩れれば再び大きな抗争となるのは必至、小さな火種も風によっては大火となる」
 「肝っ玉の小せぇ野郎だぜ、かまわないぜ、戦争大歓迎だ」
 「無償の戦争など……馬鹿のすることだ」
 「なんだと!貴様ぁ、言わせておけば!だいたいお前が吹っ掛けたんだろうが!お前が飼っている魔女にやらせたのだろう、バレてんだよ」
 「魔女とは何の話だ?」
 「傭兵部の十人が寝込んじまってる、高熱と咳が酷い、瘧(おこり)の症状だ」
 瘧とはマラリアを意味するがこの時代に知っている者はいない。
 「瘧の原因が魔女だと何故分かる?」
 「黒衣の女が宿舎に入るのを見た奴がいる」
 「寝込んでいる連中なのか」
 「それは違う、奴らはもう話せない、危篤状態だ」
 「なに!?何故相談しなかった、発症してからどの位たつ?」
 「今日で八日だ、それがどうした」
  九日殺し、不吉な言葉が頭を過る、まだ間に合うか。
 マルコスはジル・ド・レバンの罵声を背中に浴びながら傭兵部を後にした。

 「私はある魔女を探しています」
 結局残った二人は聖教会への帰依を約束した、今仲間の死体を埋めるために穴を素手で掘っている。
 アリスはその姿を監視しながらジャッカルに向い話始める。
 「その魔女は聖教会が裁いているような偽物ではありません」
 「!?偽物ですか」
 「そう、今日のお婆さんだって本来の意味では魔女ではないでしょう、ただの物知りな人です、魔法を使えるはずない」
 「そう思われるのでしたら何故審問官という職をアリス様はお選びになったのですか?」
 「でもね、いるの、いるのよ、本物の魔法使い、魔女はいるわ」
 「本物の魔法、私も見たことはありません」
 「私はある……経験したの、私自身で」
 「経験?」
 「私ね、小さい頃に大病していて天国まであと一歩だった、死ぬ直前に魔女が現れた、まあ両親が雇ったのだけれど、その魔女は本物だった、一夜で私の病を治してしまったの」
 「それは……魔女ではなく聖女だったのでは?」
 ジャッカルは言葉を慎重に選ぶ、娘が何を期待して昔話を始めたのか真意を測りかねていた、殉教者に出来ることなどたかが知れている。
 「いいえ、あれは確かに魔女、私の命は救ってくれたけれど代わりに父の命を奪い、私の中に悪魔の種を残していった」
 「魔女に殺された!?復讐ですか」
 「それも違う、殺されて当然、だって娘を助けてくれた恩人なのに世間体を理由に殺そうとしたんですもの、返り討ちにあっても文句なんて言えないわ」
 「では何故探すのですか?」
 「騎士様!この位でいかがでしょうか?」
大きな穴が二つ掘られた、素手で掘っていた半グレの手はグズグズになっていた。
 「うふっ、墓穴掘り終わったようね」
 「それじゃあ、お仲間を入れてあげて」
 「はっ、はいぃ」震えながら二人は仲間三人を穴に落としていく。
 アリスは膝を付くと両手を組んで祈りを捧げている、その姿は天使だった。
 「終わりました!」
 「ご苦労様、じゃあね、バイバイ」
 ピュピュンッ レイピアの穴が額に開くと自ら掘った穴に落ちて行った。
 初めから生かす気などなかった、墓穴を掘らせるために使ったのだ。
 「残酷だと思う?」
 「私は意見する立場にありません」
 「魔女を探している理由はこれよ、あの日魔女が残した種は芽吹いてしまった、私の中で悪魔が育つ前に刈り取って貰わなければいけないの」
 そう笑った顔は天使にも悪魔にも見える人間離れした美しさがあった。
 「私ね、善人だろうと子供だろうと殺しても何も感じない、怖いなんて一欠けらも思わない、異常だわ、きっと悪魔のせい」
 「その魔女の名前は分かっているのですか」
 「本当の名前は知らない、でも死んだ母様がこう呼んでいたの」

 「霧の魔女と」
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