霧の魔女と青銀の翼

祥々奈々

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ゴーストタウン

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 ノーベルの怪異現象とは季節外れの疫病の蔓延、噂は広まり商人はおろか冒険者やマフィアでさえ近づかない、街は静まり返り、ただ疫病の収束を待っている状況だ。
 交易の中継点、宿場町でもあったノーベルが封鎖状態になり遠回りしなければならなくなった商隊は野営を余儀なくされ、山賊や強盗に狙われる機会が増えた。
 その警護と世話係として迂回路周辺のマフィアや冒険者は活況を得ている、自作自演だという者もいたが実際に警護する側のマフィアにも死傷者が出ていた。
 それ以前にマフィア同士の抗争が激化により、小さなシノギに手間をかけている場合ではない。
 アリスとジャッカルが西の通りから街に入った、閑散として住民の姿は見えない。
 「まるでゴーストタウンだわ」
 「ノーベルの街は人口約千人、主な産業は商隊相手のホテル経営、関連する商品の卸しは幅広い、さらに娼館、酒に麻薬、まあ景気の良い街です」
 「違うわ、でした・ね、既に過去形よ」
 アリスの言うとおり街は蛻の空だ、街はあれど人はいない。
 瘧の蔓延を受けて人々は逃げ出していた。
 「それだけ疫病が怖いのね」
 馬から降りずに鞍の上で唇に指を当てた、見下ろした通りを風だけが渡っていく。
 「病気は誰でも怖いものです、剣でも銃でも殺せない」
 「私はあれから病気をしたことがないわ、みんな食べられちゃった」
 俯いて独り言のように呟いた。
 「あれから?食べられた?何の話です、アリス様」
 「こっちの話よ、これじゃ宿も見つからなさそうだし取り敢えず聖教会にでも行ってみる?」
 「誰か残っていれば良いのですが」
 ギイギイと鍵の掛かっていない扉が風に揺れている。
 「誰もいないというのは何か不気味ですね」
 「おやぁ、ジャッカルさんはロマンチストですねぇ」
 少し意地悪そうに笑った。

 視線を感じる、誰かに見られている。
 ホーガンはノーベルに東側の通りから入った、人の気配がないのは西側同様だが東の方が荒んでいる、死体こそ無いがまるで戦争の後だ。
 家々の扉や窓は破られて、隙間から見える室内は家具が倒されメチャクチャだ、飛び散ったような染みは血だろうか。
 「硝煙の匂いがするな」
 壁に開いている穴は銃弾の跡に違いない、やはり激しい戦闘があったのだ、誰が誰と争ったのか。
 数軒の家の中に入り探索してみた、生活感を残した家々はついさっきまで住人の暮らしがあった事を物語る、家具には上等の木材が使われ彫刻で飾られている、食器も無地ではなく上品な絵柄がある、クローゼットの中に残された服も上等だ。
 しかし金と馬車、そして肝心の馬がいない、やはり住人は逃げ出したのだろう。
 ノーマンの街は疫病で廃村となった、噂とは違う。
 ホーガンは空を見上げた、ずっと感じる視線は上からだ、澄んだ青空には雲以外何も見えないが神獣ムトゥスが此方を見ている気がした。
 「ここに霧の魔女と護衛役が集う、貴方を守るために、では一体何から守れば良いのでしょう、光と時間を超越するその目には何が映っているのですか」
 何も見えない虚空に語りかけても返る答えはない、遠い風の音だけが空にいた。
 
 数ブロックも進むと道に馬車の轍が目立つようになる、まだ乾いていない跡が重なり合う。
 「どういうことだ?商隊がいるのか」
 その方向は隣国と領地を分けるアンドス山脈アコンガ山、低地には常緑の低い山の連なる、だが岩だらけで道はない。
 聖教警察特務班としては調べてみたい欲求にかられる、しかし自分の役目は神獣の守護者を集める事だ、道草をしている場合ではない。
 「まずは聖教会支部だ、司教くらいは残っているだろう」
 ホーガンもまた聖教会ノーマン支部に馬を向けた。

 果たして感じた視線は虚空の彼方からだけだったのか、廃屋と思われた家々の中にも固く扉を閉ざした家があった。
 息を潜め気配を消して隠れているのは誰だ?
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