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青銀の翼
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地下御廟には緊急脱出口が造られているのが常だ、狭いトンネルを進むと鉄格子の扉があり鍵がかかっていたが、マルコスの前では役不足、掴んだ両手が力むまでもなく壁から枠ごと外してしまう。
慎重に進むと裏山の洞窟に繋がっている様だ。
トンネルの出口には既にチェバンの兵士が待ち構えていた!用心深くも援軍は二班に分かれて入口と出口を固めていたのだ。
「曹長、トンネル内で物音が!」
「俺にも聞こえた!扉を破壊したな、侵入者だ、全員下がって物陰に隠れろ!出てきたところを銃撃して仕留めろ!」
ザザッ 号令と共に五人の兵士は担いでいた銃の狙いを洞窟の暗がりに向けて息を潜ませる。
今出てくれば銃弾に晒されるのは避けられない、ピンチだ。
ザアアッ 兵士たちの上を高速で何かが横切った、木々の枝がガサガサと激しく揺れて葉を舞散らす。
「!?」
「なんだ?何かいるぞ!」
ヴヴヴヴッ……くぐもる様な音が徐々に高音に変調していく、キイィィイイイ……
「あがあっ!?」
「これは?まさか!?」
人間の聴覚では認識出来ない音の圧力と振動、細胞が揺さぶられる!強烈な苦痛に兵士たちは銃を落として聞こえない耳を押さえて悲鳴を上げた。
ビリビリビリビビビッ バンッ!!
音波が弾けた!! バオッ 衝撃となって兵士たちを叩く。
「ギャウッ」
その音はスーパーヘビー級の一撃をテンプルに叩き込まれたに匹敵する、目には見えず、聞こえもしないステルス攻撃。
バタバタと意識を刈られた兵士が地に転がっていく、丸一日は目覚めない、意識が戻っても脳が直接受けたダメージの回復には数週間を必要とする。
その間眩暈や震えが止まらなくなる、銃を持つことは不可能だ。
夜の森に静けさが戻る、ザアッ 夜の闇を青銀の翼が切り裂いて虚空に舞い上がる、その後にはヒラヒラと美しい羽根が舞い落ちてきた。
「大丈夫だ、敵の気配はない」
ローペンが洞窟の出口から戻ってくる。
「そうなの?おかしいな、硝煙の匂いを感じたのだけれど……」
「慎重なのに越したことはない、いくぞ」
洞窟から出ると静かな森だ、奥は暗く明るい月明かりでも見通せない。
「!?」
キリアだけでなく戦いに通じた男たちはその場に残る殺気の残滓を感じ取っていた、不自然な違和感。
「さっきまで誰かいたな……敵が」
「気配がない、逃げたのか、それともこの先で待ち伏せていのか」
「今はこの場を離れることが先決だ、急ごう」
「キリア様、この先山道になります、大丈夫ですか?」
「駄目たって言ったらおぶってくれるの?」
「行けるところまで行ってから考えましょう」
「だったら聞かないでよ、坂道は苦手なんだから」
「辛くなったらいつでも言え、担いでやる」
マルコスの肩幅なら肩に座れそうだ、でも現実には止めておく、敵に襲われたら即応できない、自分が痛い思いをするのは自業自得だが、そのせいでマルコスが怪我をするのは耐えられない。
「どうする?逃げるなら追わないわ」
声をかけるとジャッカルは首を横に振った。
「いいえ、同行させてください、アリス様は貴方と会いたいと申しておりました、敵意は無いと思います、どうかお話だけでも聞いてやって頂けませんか」
「随分その娘に入れ込むのね、どんな関係?」
「いえ、私は異人のマーター(殉教者)、ほんの少し前にバディを命じられて同行しているだけですが、これが役割であり責任なのです」
「ふーん、理不尽なのね、何で殉教者なんてやっているの?」
「は?」
ジャッカルは不意を突かれたようにキョトンとなったまま固まってしまった。
殉教とは宗教のために死を選んだ事を意味する、すなわち殉教者とは既に神の名の許に生きながら死んでいる者だ、その理由は容易い、家族を人質にされている者がほとんどだ、ジャッカルも同様だった、首都の農園に妻と娘を奴隷として捕られている、しかしその待遇は夫であるジャッカルが殉教者として奉仕することで身体を売るようなことはせずに済んでいる、はずだ。
ジャッカルはもう会う事は出来ないだろう娘の面影をアリスに見ていた。
「貴方は……何も知らないのか?」
「何が?」
呆れた、こんな娘もいるものか、魔女は世間には疎いらしい。
若い頃のジャッカルなら怒りを全面に出して怒鳴っていただろう、しかし今は感情を露にすることは無意味だと知っている。
「魔女様、世間とは無慈悲で残酷なのです、私は特別ではなかっただけです」
「!」
魔女の湖面の緑を写したような瞳が泳いだ、怒りを消した積りが悟られた。
「御免なさい、失礼な事を聞きました」
魔女の中にはこんな者もいる、狡猾で残忍で命を弄ぶ、そんな気配は微塵も感じない、むしろ逆、優しく臆病で純粋、暴力と血を嫌い穏やかな事を望んでいる。
普通の女性だ、黒い霧の力を除けば。
「明るくなる前に山を越えるぞ」
マルコスが重戦車のごとく藪を掻き分けて道を造っていく、高級スーツがボロボロだ。
後を付いていくだけのキリアがそれでも遅れる、不思議に呼吸は乱れず汗もかいていない、ただ足が上がらないのは筋力不足なのだろう。
振り返ると明るい月夜にソーン・シティへ続く道が浮いて見えていた。
慎重に進むと裏山の洞窟に繋がっている様だ。
トンネルの出口には既にチェバンの兵士が待ち構えていた!用心深くも援軍は二班に分かれて入口と出口を固めていたのだ。
「曹長、トンネル内で物音が!」
「俺にも聞こえた!扉を破壊したな、侵入者だ、全員下がって物陰に隠れろ!出てきたところを銃撃して仕留めろ!」
ザザッ 号令と共に五人の兵士は担いでいた銃の狙いを洞窟の暗がりに向けて息を潜ませる。
今出てくれば銃弾に晒されるのは避けられない、ピンチだ。
ザアアッ 兵士たちの上を高速で何かが横切った、木々の枝がガサガサと激しく揺れて葉を舞散らす。
「!?」
「なんだ?何かいるぞ!」
ヴヴヴヴッ……くぐもる様な音が徐々に高音に変調していく、キイィィイイイ……
「あがあっ!?」
「これは?まさか!?」
人間の聴覚では認識出来ない音の圧力と振動、細胞が揺さぶられる!強烈な苦痛に兵士たちは銃を落として聞こえない耳を押さえて悲鳴を上げた。
ビリビリビリビビビッ バンッ!!
音波が弾けた!! バオッ 衝撃となって兵士たちを叩く。
「ギャウッ」
その音はスーパーヘビー級の一撃をテンプルに叩き込まれたに匹敵する、目には見えず、聞こえもしないステルス攻撃。
バタバタと意識を刈られた兵士が地に転がっていく、丸一日は目覚めない、意識が戻っても脳が直接受けたダメージの回復には数週間を必要とする。
その間眩暈や震えが止まらなくなる、銃を持つことは不可能だ。
夜の森に静けさが戻る、ザアッ 夜の闇を青銀の翼が切り裂いて虚空に舞い上がる、その後にはヒラヒラと美しい羽根が舞い落ちてきた。
「大丈夫だ、敵の気配はない」
ローペンが洞窟の出口から戻ってくる。
「そうなの?おかしいな、硝煙の匂いを感じたのだけれど……」
「慎重なのに越したことはない、いくぞ」
洞窟から出ると静かな森だ、奥は暗く明るい月明かりでも見通せない。
「!?」
キリアだけでなく戦いに通じた男たちはその場に残る殺気の残滓を感じ取っていた、不自然な違和感。
「さっきまで誰かいたな……敵が」
「気配がない、逃げたのか、それともこの先で待ち伏せていのか」
「今はこの場を離れることが先決だ、急ごう」
「キリア様、この先山道になります、大丈夫ですか?」
「駄目たって言ったらおぶってくれるの?」
「行けるところまで行ってから考えましょう」
「だったら聞かないでよ、坂道は苦手なんだから」
「辛くなったらいつでも言え、担いでやる」
マルコスの肩幅なら肩に座れそうだ、でも現実には止めておく、敵に襲われたら即応できない、自分が痛い思いをするのは自業自得だが、そのせいでマルコスが怪我をするのは耐えられない。
「どうする?逃げるなら追わないわ」
声をかけるとジャッカルは首を横に振った。
「いいえ、同行させてください、アリス様は貴方と会いたいと申しておりました、敵意は無いと思います、どうかお話だけでも聞いてやって頂けませんか」
「随分その娘に入れ込むのね、どんな関係?」
「いえ、私は異人のマーター(殉教者)、ほんの少し前にバディを命じられて同行しているだけですが、これが役割であり責任なのです」
「ふーん、理不尽なのね、何で殉教者なんてやっているの?」
「は?」
ジャッカルは不意を突かれたようにキョトンとなったまま固まってしまった。
殉教とは宗教のために死を選んだ事を意味する、すなわち殉教者とは既に神の名の許に生きながら死んでいる者だ、その理由は容易い、家族を人質にされている者がほとんどだ、ジャッカルも同様だった、首都の農園に妻と娘を奴隷として捕られている、しかしその待遇は夫であるジャッカルが殉教者として奉仕することで身体を売るようなことはせずに済んでいる、はずだ。
ジャッカルはもう会う事は出来ないだろう娘の面影をアリスに見ていた。
「貴方は……何も知らないのか?」
「何が?」
呆れた、こんな娘もいるものか、魔女は世間には疎いらしい。
若い頃のジャッカルなら怒りを全面に出して怒鳴っていただろう、しかし今は感情を露にすることは無意味だと知っている。
「魔女様、世間とは無慈悲で残酷なのです、私は特別ではなかっただけです」
「!」
魔女の湖面の緑を写したような瞳が泳いだ、怒りを消した積りが悟られた。
「御免なさい、失礼な事を聞きました」
魔女の中にはこんな者もいる、狡猾で残忍で命を弄ぶ、そんな気配は微塵も感じない、むしろ逆、優しく臆病で純粋、暴力と血を嫌い穏やかな事を望んでいる。
普通の女性だ、黒い霧の力を除けば。
「明るくなる前に山を越えるぞ」
マルコスが重戦車のごとく藪を掻き分けて道を造っていく、高級スーツがボロボロだ。
後を付いていくだけのキリアがそれでも遅れる、不思議に呼吸は乱れず汗もかいていない、ただ足が上がらないのは筋力不足なのだろう。
振り返ると明るい月夜にソーン・シティへ続く道が浮いて見えていた。
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