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魔女のひとり言
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空が白み始める頃に一軒の空き家を見つけた、民家には珍しく厚い石壁と煙突がある、
脇には大量の薪とコークスが積んであった。
鍛冶屋だ、作業場と住居が一緒になっている小さな工房、畑から遠い場所にあるところから農具ではなく猟師と山師の道具屋だろう。
近くに人間の足跡はない、忘れ去られた家屋のようだ。
中を覗くと埃の積もり方から人がいなくなって時間がたっていない。
鍵はかかっていたがローペンの指の前に数秒で陥落した。
「少し休もう、水と食料だな、キリア、小さく火を起こせ、煙はだすなよ」
「了解」
「猟師ご用達だったのだな」
「聖騎士は入れるわけにはいかんな、刃物がある」
「分かりました、我々は外にいます」
「妙な事は考えるなよ、俺達は魔女と違う、情けはかけない」
ローペンの前世は猛禽だったに違いない、何か探してくると言って出て行った一時間で鳥を数羽と山芋を仕留めてきた。
「何の鳥?見たことない鳥だわ」
大きく緋色の羽根を持った鳥、ふっくらとして脂が乗っていそうだ。
「私も初めて見る鳥です、特徴からするとキツツキの仲間でしょうか」
製鉄用の炉に火を入れてコークスを燃やす、白い炎は高温で煙を出さないから都合が良い。
「キリア様にはこれを」
包んであった布を捲るとキノコだ、冬に自生するものもある、これはニガリクリタケ、もちろん毒キノコ、通常の人間は食べてはいけない、瘟鬼と原始生活を送っていたころは随分とお世話になった。
「懐かしい!これ美味しいのよ、ありがとうローペン、さすが分かっているわね、でも手は良く洗ってね、胞子にも毒があるから」
「心得ています」
「キリア、酒があったぞ」
マルコスの手に埃を被ったボトルが握られていた、以前の主が残した物だろう。
「やったぁ!最高じゃん」
焼きあがった鳥はジャッカルたちにも差し入れた、アリスはまだ意識を戻さない、体重が少ない分毒が効いてしまう。
大事そうに抱きかかえている姿は娘を守る父親のようだ、命のかかる窮地でも捨てて逃げない理由を見た気がした。
食後に仮眠をとっているローペンたちの横で毒きのこを肴に年代物のウイスキーを舐めていた、ショートスリーパーな私は睡眠をほとんど必要としない。
夜が長いと……あっ、これから昼間だ、夜はもう過ぎた。
ここの主人はどんな人生を送ったのだろう、工房と寝所が一緒になっている平屋、生涯を一人で鉄と火に捧げたのだろうか。
壁に掛けられているのは斧や鎌の類がほとんどだ、武器となるような物は見当たらない。
「人を殺す道具は作らない、なぁんてことに誇りを持っていたとか……そんな職人だったならカッコよかったね」
夜が長いと自然に独り言が多くなる、夢想するままに言葉にしているとまるで誰かと会話している気になる、お喋りするのは嫌いじゃない、でも現実の世界では上手く出来ない、引籠りが長かったからというのは言い訳、それは私の性分、誰かを傷つけることが怖い、優しさじゃない、単に臆病で自分勝手なだけだ、誰かを正すために傷つけることだってある、ローペンがそうだ、マルコスがそうだ、嫌われることを恐れずに叱ることができる、それが本当の優しさで愛だ。
啖呵ばかりが威勢の良い私とは違う。
長い夜の最後は必ず自己嫌悪に着地する、答えを探してまた一から始める堂々巡りは続いてしまう、時間を無駄にしている、別な事を考えよう。
「神獣様、今はどこにいるのかな」
神獣様の頼み事。
「あの森を守れ、森を壊すって誰が?もっと具体的に言ってくれればいいのに、なぞなぞみたい」
つまみの毒キノコを取ろうと指を伸ばした先に別な指が攫って行った。
「これって美味しいの?」
「!?」
指の持ち主はアリスだ、鍵をかけたはずの部屋の中にどうやって!
「触っちゃダメ!これは毒よ!!」
パシッ 摘まんだ手から毒キノコを叩き落とす。
「ええーっ、だってキリア食べてるじゃん!」
「早く手を洗って!被れちゃう!」
ドタバタしているうちに男たちが目を覚ました。
「ぬ、貴様、どうやって入った!?」
そうこうしているとアリスの手に毒の症状が現れ始める。
「あっ、あれれれっ!なんで?なんで私だけ!?」
「早く!これで洗って!!」
汲んだ桶の水をぶっかけると腫れが治まってくる、瘟鬼食わせるよりも洗った方が早い。
「ふう!危機一髪だわさ!放って置いたら手の皮ずる剥けになるところよ!私の食べる物に触っちゃ駄目よ、たいてい毒なのだから!」
「あちゃー、手が真っ赤っかだわ、これってどういうことなの?」
ガタッ 騒ぎに気付いてジャッカルが飛び込んでくる、知らなかったようだ。
「アリス様!いつの間に!?」
「ジャッカルさん、お早う、今ちょっと取り込み中、ローペンさんだっけ、どうやって入ったか、それは貴方と同じ、ピッキングは得意なの」
腫れた手でポケットから針金を出して見せる。
「何が目的だ!?」
「思いがけず霧の魔女に会えたんですもの、それは舞い上がっちゃうわ、嬉しくて」
「復讐のためか!?」
「冗談!復讐なんてくだらない、そもそも恨みなんてない、謝るのはこっちだもの」
「それでは何が目的だ!?」
「私の中にある食べ残しの毒を剥がしてほしいの」
「食べ残し?」
「アリス・ドゥ・ラ・ゴードン、覚えている、貴方の中に巣食っていたのは灰血病、それは全て剥がして瘟鬼が喰ったわ、だから貴方は今生きているんじゃない、食べ残しなんてない」
「いいえ、私の中には悪魔がいる、人を殺しても何も感じない、むしろ快感さえある、どうかしているわ」
「えっ!?それって……」
「霧の魔女、あの時あなたが食べ残した悪魔の芽、それが私の中で芽吹いているの、それを刈り取ってほしい」
「貴様、シリアルキラー(快楽殺人者)か!?」
「さあ?どう呼ぶかなんて知らない、異常なのは確かね」
顎を上げて煽り気味に妖しく微笑んだ表情は堕天使、その中に小さな悪魔がいるのを瘟鬼は見ていた、そこには友達がいた。
脇には大量の薪とコークスが積んであった。
鍛冶屋だ、作業場と住居が一緒になっている小さな工房、畑から遠い場所にあるところから農具ではなく猟師と山師の道具屋だろう。
近くに人間の足跡はない、忘れ去られた家屋のようだ。
中を覗くと埃の積もり方から人がいなくなって時間がたっていない。
鍵はかかっていたがローペンの指の前に数秒で陥落した。
「少し休もう、水と食料だな、キリア、小さく火を起こせ、煙はだすなよ」
「了解」
「猟師ご用達だったのだな」
「聖騎士は入れるわけにはいかんな、刃物がある」
「分かりました、我々は外にいます」
「妙な事は考えるなよ、俺達は魔女と違う、情けはかけない」
ローペンの前世は猛禽だったに違いない、何か探してくると言って出て行った一時間で鳥を数羽と山芋を仕留めてきた。
「何の鳥?見たことない鳥だわ」
大きく緋色の羽根を持った鳥、ふっくらとして脂が乗っていそうだ。
「私も初めて見る鳥です、特徴からするとキツツキの仲間でしょうか」
製鉄用の炉に火を入れてコークスを燃やす、白い炎は高温で煙を出さないから都合が良い。
「キリア様にはこれを」
包んであった布を捲るとキノコだ、冬に自生するものもある、これはニガリクリタケ、もちろん毒キノコ、通常の人間は食べてはいけない、瘟鬼と原始生活を送っていたころは随分とお世話になった。
「懐かしい!これ美味しいのよ、ありがとうローペン、さすが分かっているわね、でも手は良く洗ってね、胞子にも毒があるから」
「心得ています」
「キリア、酒があったぞ」
マルコスの手に埃を被ったボトルが握られていた、以前の主が残した物だろう。
「やったぁ!最高じゃん」
焼きあがった鳥はジャッカルたちにも差し入れた、アリスはまだ意識を戻さない、体重が少ない分毒が効いてしまう。
大事そうに抱きかかえている姿は娘を守る父親のようだ、命のかかる窮地でも捨てて逃げない理由を見た気がした。
食後に仮眠をとっているローペンたちの横で毒きのこを肴に年代物のウイスキーを舐めていた、ショートスリーパーな私は睡眠をほとんど必要としない。
夜が長いと……あっ、これから昼間だ、夜はもう過ぎた。
ここの主人はどんな人生を送ったのだろう、工房と寝所が一緒になっている平屋、生涯を一人で鉄と火に捧げたのだろうか。
壁に掛けられているのは斧や鎌の類がほとんどだ、武器となるような物は見当たらない。
「人を殺す道具は作らない、なぁんてことに誇りを持っていたとか……そんな職人だったならカッコよかったね」
夜が長いと自然に独り言が多くなる、夢想するままに言葉にしているとまるで誰かと会話している気になる、お喋りするのは嫌いじゃない、でも現実の世界では上手く出来ない、引籠りが長かったからというのは言い訳、それは私の性分、誰かを傷つけることが怖い、優しさじゃない、単に臆病で自分勝手なだけだ、誰かを正すために傷つけることだってある、ローペンがそうだ、マルコスがそうだ、嫌われることを恐れずに叱ることができる、それが本当の優しさで愛だ。
啖呵ばかりが威勢の良い私とは違う。
長い夜の最後は必ず自己嫌悪に着地する、答えを探してまた一から始める堂々巡りは続いてしまう、時間を無駄にしている、別な事を考えよう。
「神獣様、今はどこにいるのかな」
神獣様の頼み事。
「あの森を守れ、森を壊すって誰が?もっと具体的に言ってくれればいいのに、なぞなぞみたい」
つまみの毒キノコを取ろうと指を伸ばした先に別な指が攫って行った。
「これって美味しいの?」
「!?」
指の持ち主はアリスだ、鍵をかけたはずの部屋の中にどうやって!
「触っちゃダメ!これは毒よ!!」
パシッ 摘まんだ手から毒キノコを叩き落とす。
「ええーっ、だってキリア食べてるじゃん!」
「早く手を洗って!被れちゃう!」
ドタバタしているうちに男たちが目を覚ました。
「ぬ、貴様、どうやって入った!?」
そうこうしているとアリスの手に毒の症状が現れ始める。
「あっ、あれれれっ!なんで?なんで私だけ!?」
「早く!これで洗って!!」
汲んだ桶の水をぶっかけると腫れが治まってくる、瘟鬼食わせるよりも洗った方が早い。
「ふう!危機一髪だわさ!放って置いたら手の皮ずる剥けになるところよ!私の食べる物に触っちゃ駄目よ、たいてい毒なのだから!」
「あちゃー、手が真っ赤っかだわ、これってどういうことなの?」
ガタッ 騒ぎに気付いてジャッカルが飛び込んでくる、知らなかったようだ。
「アリス様!いつの間に!?」
「ジャッカルさん、お早う、今ちょっと取り込み中、ローペンさんだっけ、どうやって入ったか、それは貴方と同じ、ピッキングは得意なの」
腫れた手でポケットから針金を出して見せる。
「何が目的だ!?」
「思いがけず霧の魔女に会えたんですもの、それは舞い上がっちゃうわ、嬉しくて」
「復讐のためか!?」
「冗談!復讐なんてくだらない、そもそも恨みなんてない、謝るのはこっちだもの」
「それでは何が目的だ!?」
「私の中にある食べ残しの毒を剥がしてほしいの」
「食べ残し?」
「アリス・ドゥ・ラ・ゴードン、覚えている、貴方の中に巣食っていたのは灰血病、それは全て剥がして瘟鬼が喰ったわ、だから貴方は今生きているんじゃない、食べ残しなんてない」
「いいえ、私の中には悪魔がいる、人を殺しても何も感じない、むしろ快感さえある、どうかしているわ」
「えっ!?それって……」
「霧の魔女、あの時あなたが食べ残した悪魔の芽、それが私の中で芽吹いているの、それを刈り取ってほしい」
「貴様、シリアルキラー(快楽殺人者)か!?」
「さあ?どう呼ぶかなんて知らない、異常なのは確かね」
顎を上げて煽り気味に妖しく微笑んだ表情は堕天使、その中に小さな悪魔がいるのを瘟鬼は見ていた、そこには友達がいた。
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