kings field 蜂蜜とエリクサー

祥々奈々

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街の幽霊

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 クロワ侯爵領地内を流れる河原近くに高い石に囲まれた実験場がある。
 パアァンッ 火薬の破裂音、銃だ。
 発射された弾丸は二十五メートル離れた的の真ん中を射抜いている、撃ったのはクロワ侯爵、そしてその手にしているのは・・・・・・拳銃だ。
 ワルサーP38自動拳銃、九ミリパラベム弾を八発装填出来るダブルアクション、初速三百五十メートル毎秒、有効射程は五十メートル、この時代には存在しないはずの武器。
 「相変わらず良い腕です」黒服フレディが称讃する。
 「腕じゃないさ、この銃の精度だよ、ただ弾丸は駄目だ、この世界で造ったものは粗悪だ、このままでは本体を壊してしまうだろう」
 薄煙を吐く銃口に向けてフーッと息を飛ばす。
 「十分な弾丸を持ち帰れなかったのは残念です」
 「かまわないさ、僕たちは世界征服をしたい訳じゃないからね、武器なんてどんな時代でもイタチごっこだ、どんなに強力な武器を用意しても直ぐに後発でより以上の武器が出てくる、それより恐ろしいのはやはり人間そのものだよ、そう思うだろフレディ」
 「仰る通りですクロワ様、無敵だと思われた英雄軍が一日の元に全滅する様は地獄、いえ神の御業そのものでした」
 「忘れることはできないな、見えない吸血蟻の恐怖と天空を舞うドラゴンの姿、阿鼻叫喚の坩堝、遠い昔のようであり昨日の様でもある、良く生きているものだ」
 「彼の地は今どうなっているのでしょうね」
 「神が均したのには意味があるのだろう、きっと新たな種を蒔かれたんじゃないかな」
 「新たな種ですか、それは人ではなく別な種であると?」
 「さあね、神になってみれば分かるかもね」
 パアッンッ 再びの射撃 カランッ 小さな音と共に薬莢が転がる。

 「ハウンドたちが期待の持てる体組織を集めてまいりました、ですが二人失ったようです」
 「死んだという事かな」
 「はい」
 「へえ、ダーク・エリクサーの書き換えが進んだ彼らは最早超人の域にあるというのに、それを屠る人間がいるとはこの世界も魔界だね」
 「ダーク・エリクサーによる選民、究極は不老不死に近い世界になる、あの街がそうだったようにそれは進化の終焉、姿かたちだけを見れば彼らと我々に大きな違いはない、そしてやはりこの世界にダーク・エリクサーに適合する人間は存在している」
 「我々と彼の地の人間は兄弟、悠久の中で往来し混じり合っていた」
 「その通りさフレディ、始祖たるイブの子供たちが我々なのだ、この世界にも選民の天上界があるべきだ、混血し汚染された血を書き換え純潔に戻す、その先に不老の世界が待っている、不老不死の成せる事の意味は何だと思う?」
 「意味でございますか、さて、多くの者は生にしがみ付くことを死への恐怖から逃れるためと考えるでしょう、ではなぜ死が恐ろしいのか、それは知らないからです、誰も死の先を教えてはくれない」
 「宗教では天国と地獄があると言っているね」
 「誰も見て帰ってきた者はいません、それは偶像、想像、願望の類、宗教でいう神は存在しない」
 「異端審問官がいたら僕たちは火炙りになるね、でもそうさ、精神世界なんてない、魂も物質だと僕は思う、不老不死の最大の恩恵・・・・・・それは知の存続、死によって失うことのない継続的な成長だ、世代交代により当初に掲げた崇高な目標は薄れ時代の風に流され目標を見失う、凡庸な才能はいらない、真実は超越者のみが知る権利を有する」
 「純血に塗り替えるのです・・・・・・この世界のイブ、存在するなら早くその姿を現しておくれ」
 クロワ侯爵はその瞳に遥かな神の山を映して天空を仰いだ。

 夜の街に降り注ぐ月の明かりが西に傾き喧騒は遠く過ぎ去った。
 シンと静まった通りにフードで顔を隠した女が一人寂しく通りを歩いている、こんな時間に女一人でいるのは自殺行為、襲ってほしいといっているようなものだ。
 最近では辻斬り魔がでると通りから人影が消える時間は早まっていた。
 急ぐでもなく歩く女は細く儚い、善人が見れば心配で声を掛け、悪意を持った人間ならとっておきの鴨、レースベールの下の顔が美形なら猶更だ。
 欲望を抱えたハイエナがその匂いに釣られて集まってくる。
 「お姉さん、こんな時間に一人歩きとはいい度胸だね」
 暗がりから待ち構えたように黒づくめの男たちが姿を現した、その数は四人、女を四方から取り囲むように行く手を阻む、商売女では物足らない変態どもが久しぶりの獲物を前に欲望を隠すことなく滾らせている。
 「貴方たちはノスフェラトゥ教団の方かしら?」
 冷えた声だった、そこには微塵も恐怖などない、欲望に視野狭窄を起こしている男たちは気づかない。
 ベールから覗いた顔は間違いなく美人だ、その顔が悶えるのを想像した三人がだらしなく涎を零した 「ひっ・・・・・・」残った一人は逆に悲鳴を上げて後退った。
 「ノ、ノス?なんだそりゃ、聞いたことねえな、異教か何かか?異教は駄目だ、取り締まらなきゃいかん」
 「そうだぜ、ねえちゃん、俺たちと来てもらおうか、罰してあげよう」
 「まっ、待て、お前ら、こいつ変だぞ!」
 「ああーん、何言っているんだ、お前、ビビッてんのかよ、今まで・・・・・・」
 「違うのね、なら消えな!今回は見逃してあげるわ」
 声が変わると同時にスウッと女の背筋が伸びる、そこにひ弱そうな女はいない、鋭い眼光が嫌悪感に満ちている。
 「何言ってやがる、このアマァ!!」欲にくらんだ一人が女に手を伸ばした。
 ヒュッ 女の手が一瞬残像を残して閃くとバチィッンッ 何かが弾け切れた音。
 「ぎぁぁぁぁああああっ」男の手首から先が上下逆さまに捻じれている、靭帯が切れた音だ。
 バヒュッ 次のターゲットへのステップインが早くて見えない、ボキンッ 何かが折れた「がっあ゛っっっっっ」痛みが限界を超えると人は失神へと逃げ込む、脛の解放骨折、カーフキックだった「ヒイイイッ」逃げようと背中を向けた男の後ろ襟を掴むと小さな蹴りを踵へ飛ばす、男は足を空中に放り投げて背中からレンガの地面に叩きつけられる!バキンッ 肩甲骨が真っ二つに割れる。
 「ぎゃあああああっ」壊れた人形のように転がる。
 風に揺れるベールの下の顔は人形のように無表情だ、不気味さが溢れる。
 「ひゃああっ、ばっ化け物だぁ!!」一歩下がっていた男が暗がりに向けて逃げ出した、追うことはしない。
 ドスッ 「うげっ」 建物の影から断末魔の呻きが上がる。
 「・・・・・・」既に気づいていた、強姦魔四人とは別の気配、血の匂いがする。
 「いい匂いがする・・・・・・こんな匂いの人間は初めてだ、貴女の血の味、さぞや美味かろうな」
 暗がりから姿を現したのは赤いトレンチコートの男、血で染めたような赤黒、強姦魔の腹から斜め上に短剣が飲み込まれている ドッシャッ 無造作に死体を捨てると、ナイフについた血を啜った、コートの下も赤黒のスーツ、上等な革ブーツは染みなく磨かれて月明りを反射している。
 「どんなフレーバーがお好みなの?調香してあげるわ」
 素手にシルクのグローブ、色は黒だ。
 「我が名はJB、ジャック・バロン、求めるはイブの香り、それは未知の愛、至高の神を体現するものなり」
 両手に握られたのは両刃のニードルナイフ、突く事に特化した武器。
 「フフッ、悪魔の間違いね」
 前後に開いたスタンス、スリットの入ったスカートから白い蛇のような太ももが露になる、外形を変えずに筋肉が準備を整えている、細く長い指、筆を持つように顔の前に両手が構えた、東郷流徒手術。
 「今宵の月もノスフェラトゥの神に微笑んだようだ、我に供物を与えたもうた」
 ジャッ 後足を蹴ってステップイン、残像を残して間合いを消す、ギルのエリクサー効果は持続している、フェイントの左!JBが反射で右手を振り上げる、素人だ。
 開いた身体のテンプル(額)にコンパクトな右ストレートが最短距離で飛んだ。
 ガヒュッ 打ち抜いたはずの額は身体ごと後ろに反ってエミーの右を躱した。
 技術ではなく反射で躱したのだ、常人なら筋肉が千切れている。
 「くっくっく、分かったぞ、貴女が報告にあった幽霊女だな、なんという吃驚!そして幸運、寒空の下で酔客の臭い息を嗅いでいた褒美、存分に味わうとしよう」
 赤く薄い口がパックリと開いた、犬歯が長い。
 「そう、じゃあ幽霊女から貴方にふさわしいプレゼントをあげるわ!」
 また左フェイントからの右ストレート!更に早いコンビネーション。
 「既に見切っています!!」右ストレートを躱しての左カウンター。
ニードルナイフが幽霊女の顔に迫った。
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