kings field 蜂蜜とエリクサー

祥々奈々

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王と王妃

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 看護チームの全員が注目する中でハーディ医師は黄金のエリクサーを自分の胃へと流し込んだ。
 毒見もかねて真偽を確かめるためだ。
 チーム・エドワードのマンさん、万次郎・マンセル氏の紹介、更には皇太子エドワードとバロネス・フローラ様の信任も得ているという男、デル・トウロー、どこか斜めで崩れた印象がある、二枚目ではあるが堅気ではない印象だ、とても医療に精通しているようには見えないことが看護チームの不信を煽っていたかもしれない。
 その疑念は直ぐに解消した、ハーディ医師の白髪が元の栗色を取り戻していく様を見せつけられたからだ、以前にエリクサーを経験した事のある者はより親和性が高くなる。
 「こっ、これは!魔法か!!」全員がテーブルから前のめりに注目する中、変化は進行していく、不老ではなく若返りだ。
 「いいえ、化学です、奇跡でも魔法でもなく現実の神薬です」
 デルは抑揚を交えず淡々と答えた、その言葉に全員の注目が集まった。
 「現世にエリクサーと呼ばれるものは一つではありません、神薬は人に合わせる必要があるのです、今ハーディ医師に飲んで頂いたのは私の娘用の物、誰が飲んでも一定の効果はありますが本来の効果を得るためにはその個人に合わせて調薬する必要があります」
 「なんということだ・・・・・・まさか生涯で二度もエリクサーを口にできるとは!これは正に本物だ!!」
 下がっていた瞼が上がっている、目が一回り大きくなっていた。
 
 現物の効果を見て看護チームはエリクサーによる治療を承認すると共に実行に向けて準備を始めた、残る関門は一つ・・・・・・キング・ジョージ・ラインハウゼン一世、王妃ラテラの夫であり国王だ。

 謁見は皇太子エドワード同様に国王ジョージが突然部屋にやってきた。
 デルは貴族時代に一度だけ国王を見たことがあった、その印象は今と変わらない、一言でいえば鋭く、決して折れない剣のような男、迂闊に触れれば一刀の元に両断されそうな迫力がある。
 王宮内にも関わらず長身痩躯に兵装を装備し帯剣もしている、王というより将軍だ。
 「貴方がデル・トウローか、膝を伸ばしてくれ」
 さすがに王様相手に視線を同じ高さには出来ないが、しかしティアはイケオジには臆さない、今にも王様に向かって突撃しそうなのをルイスが必死に抑えた。
 「話は聞いた、貴方はエリクサーの本物を所持していると、それは本当か!?」
 「はい、王様は信じてくださるのですか」
 「もちろんだ、私は若い頃に本物を飲んで命を救われた事がある、貴重なものだ、未だに現世にあることが信じられないがハーディ医師が言うなら間違いない、彼も一緒にエリクサーの奇跡を経験した一人だからな」
 「なんと!そうなのですか、すると王様はエリクサーの真実をご存じなのですか?」
 「エリクサーの真実とは何だ?何か秘密があるのか」
 ジョージ王子が経験した経緯は分からないが神獣用や人間用の種別があることは知らないようだ。
 「看護チームの報告を聞く限り今王妃様に直接飲んで頂くのは危険だと思います、ですが分量を調整して投与することは可能です、しかし・・・・・・気になることがあります」
 「気になる事とはなんだ、申してみよ」
 「はい、病の原因です、ただの疾病だとは思えないのです」
 「どういうことだ?」
 「恐らく毒です」
 「!?毒・・・・・・だと、毒を盛られたているというのか?この王宮の中に間者が紛れ込んでいるというのか」
 「今もいるとは限りません、なぜなら間者は目的を半場達成しています、場内に留まっている可能性は低いと思います、犯人逮捕よりも我々の優先順位は原因を特定すること、エリクサーといえど処方を誤れば悪化する病状に勝つことはできません」
 「うむ、道理だ・・・・・・分かった、貴方に預ける、人も付けよう、捜査と治療、両面で助力をお願いする」
 ジョージ王子は片膝をついてデルたちと目線の高さを合わせた。
 「この通りだ、これは王ではなく一人の男として頼む!妻を助けてやってくれ、頼む!」
 更に深く頭を下げた。
 「王様!・・・・・・」
 ジョージ・ラインハウゼン、戦乱の世に黒狼と呼ばれ下級貴族から成り上がった武闘派、諸国を纏め上げ若くして今の国を興して二十数年、最愛の妻が病に伏した今も紛争は絶えない国内の安定のために走り回っている、傍に居て手を握っていたい葛藤が目の下の隈を濃くしている。
 王といえど一人の男であり夫だ、愛と悲しみは同じだとデルは知った。
 
 王妃、ラテラ・ラインハウゼン、カーニャほどには衰弱していないが足腰が弱り一人で立つことはままならない、公務を休むようになって一年になる。
 王妃は移民であり貴族などではなかった、下級貴族だった夫ジョージと知り合った時は十五の時、元は滅亡した隣国からの流民だった娘をジョージはどうしてもと家の反対を押し切って見せた、息子エドワードが身分違いの男爵令嬢を見初めて突っ走ったのもジョージの息子なら当然、流石我が子だと感嘆していた。
 エドワードが語らないが結婚を急いだのは王妃の病状も理由のひとつだろう、成人し結婚した姿を見せたかったのだろう。
 挨拶にきた婚約者フローラ・ムートン、ブロンズの髪のスレンダーな娘、良い意味で貴族らしくない感覚をもっている、自分と似ているとラテラは感じた、自分が元気ならば良い関係を築けたかもしれない。
 ベッドの上で出迎えるのが申し訳なく情けなかった、暗殺の危機に晒され、あまつさえその身に銃弾を受け一時は危篤状態にあったという、それも王家を原因とする権力争いの余波だ、巻き込まれたムートン家は家長を失い令嬢の命も危険に晒した、文句の一つも言いたいに違いない、その王家に覚悟を決めて嫁いでくれる、家族になる娘を抱いて謝りたかった。
 しかし、もう叶わないだろう、自分はもう長くない、それは分かる。
 「王妃様、この者はデル・トウロー、新たな調薬師でございます、今日より看護チームに加えます、よろしくお見知りおきを」
先日から医師ハーディにもう一人知らぬ顔が付いてくるようになった、ジョージからも話を聞いていた、デル・トウローという男は医師には見えないが調薬師だという。
「遠い所をありがとう、西部の出身かしら?」
「えっ!?そうですが何故分かったのですか?」デルは驚いた。
「トウローは珍しいネーム、昔西部にトウローという子爵家がありました、もしやそちらの出身では?」王妃は明晰だ、特に記憶力には目を見張るものがあった、国内外の貴族や主要財界人まで、その家族親者の年齢氏名までを把握している、歩く住民台帳と呼ばれていたほどだ。
「はっ、そ、その通りです、私はトウロー家の次男でした」デルの額に冷や汗が流れる、衰弱しているとはいえやはり王妃、黒狼を支え戦国を戦い抜いた女傑もまた狼だ、その牙を失ったわけではない。
「そう、トウロー家は残念な事をしました、王を恨んでいますか?」
「いえ!とんでもない!私は幼くして東郷という異人の元で孤児として暮らしましたがその生活は素晴らしい物でした、一度は路を外れましたが今再び東郷の知識を国の為に生かすチャンスを頂いた事に感謝こそすれ恨むことなどありません」
デルは平伏した、自分の出自を覚えている者が王宮にいるとは思わなかった、それが治療対象の王妃なら尚更だ。
「そうですか、エドやヤマさんたちの紹介でもあります、私も貴方を信じます」
「最善を尽くしご奉仕いたします」
「そこでひとつお願いしたいことがあります」
「はい、何なりとお申し付けください、王妃様」
「私が死んだ時の事です、速やかに王宮を出てこの件は隠蔽してください」
「王妃様、そんな死ぬなどとお止めください」ハーディ医師が直ぐに言葉を挟んだ。
 「ハーディ、これは現実的な対処の問題なのです、諸侯の中には王家の足を引っ張る材料を虎視眈々と狙うものがいます、王によって取り潰された貴族が治療に関わったとなれば余計な疑義をかけられます、そしてそれはエドやフローラにも向けられるでしょう、それは避けなければなりません」
 力ない声がこの時は強かった、思いの深さが伝わる。
 「承知しました王妃様、ですがその心配は無用だった事にしてみせます」
 デルはこの時初めて王妃ラテラを直視した、顔色は悪いが目の力は死んでいない、治ると直感した。
 「自信が御有りなのですね」
 「はい、私には海の神、ティアマトがついております、天命の石板に記された王妃様の寿命にはまだまだ先がございます」
 白い陶磁のカップと並べられた黄金のエリクサーを小さな女の子が銀のテーブルに乗せて、はにかんだ笑顔と共にラテラの元にやってきた。
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