kings field 蜂蜜とエリクサー

祥々奈々

文字の大きさ
49 / 109

適性

しおりを挟む
 旧フラッツ領バーモントのマナーハウスは静寂の血臭に包まれていた。
 男でまともに動ける者はいない、メイドたちは一部屋に押し込められて震えている。
 立ったまま壁に背を預けた赤いスーツの男はJBだ、その胸から伸びた短槍にJBは縫い留められていた、既に死んでいる。
 短槍の柄はリクナムバイタ・ヘキサグラフ、エルザの短槍だ。
 そしてJBの隣に足を放り出して座り込んでいるのがエルザだった、垂れた頭、力なく開いた口から血が糸となって伸びていた。
 朦朧とした意識の中で声が聞こえる。
 ・・・・・・エル・・・・・・!!エルザ・・・・・・しっかり・・・・・・
 「あ・・・・・・ううっ」呻声と共に苦し気に顔が歪んだ。
 「生きている!!」エミーはエルザの傷を確認する、どんな武器にやられたのか、四肢に削がれたような裂傷が幾筋もある、この状態でJBと遣り合った、凄まじい闘志。
 裂傷の数が多すぎる、出血が酷い、止血しなければもたない。
 エミーはバックの中に手を伸ばす、ギルが精製したエリクサーがある、もちろんエミー用だが果たして飲み込むことが出来るか、賭けるしかない。
 口で栓を抜くと無理やりに口を開かせて液体を流し込む、吐き出さないように鼻と口を手で押さえる、エリクサーは一本しかない。
 「ゴッモッ、オ゛ッエッ・・・・・・」無意識に首を振って液体を拒む。
 「飲め!飲み込め!!短槍のエルザ!!」
 「ゴォッ・・・」ゴクリッ エリクサーが喉を降りた!手を放して呼吸を解放すると咳き込みながら呼吸を貪る。
 「なに・・・・・・すんのさ」
 「エルザッ」
 エミーはエルザをお姫様だっこに抱えて走り出した。

 お腹が暖かい、なんだろう、いい匂いがする、花だ、どこだったろう、覚えがある。
 瞼に風景が浮かぶ、山だ、途轍もない威容を誇る山が見える、頂は雲に隠れて見えない、見たことはないのに記憶にある、懐かしい景色。
 前世の記憶ってやつか、それとも頂の上が天国?あそこまで登るのが神様の試練なのかもしれない、山の半分は雪だ、頂上はマイナス何度になるのだろう、死んでも凍死するのか?でも行ってみたいとぼんやり思った。
 雲の流れが速い、頂が晴れていく、蒼穹まで突き抜ける頂を臨んだ瞬間に意識が鮮明に天井の染みを見せた。
 バッ 見開かれた目がキョロキョロと左右を見渡して情報を集めている、思考速度がいつもよりも早い、視力が良くなったように鮮明だ。
 自分の置かれた状況、横にいるブロンズの少女、いや違った少年だ、途切れた記憶の先を推測して出た答え。
 「エミー、貴方が助けてくれたんだね、でもどうやってさ」
 「!?」エミーの予想と違いエルザの声は強かった。
 エミーが怪我人や病人の前にいるのは何回目だろう、フローラもカーニャも瀕死だったがエルザの回復は異常に早い、エミーの血で精製したエリクサーとの相性が良かったようだ、首筋が赤くなっている。
 「もう話せるほどに回復したの?やっぱり鍛え方かしら」
 「ああ、すごくすっきりした気分だ、傷は痛むけどね」
 痛そうにしながらも自分で身体を起こした、支えようとするエミーの手を遮る。
 ベッドの上に膝を立てて座り包帯の巻かれた手足を確認する、血が滲んでいない、腕の包帯を外すと傷口は瘡蓋となって塞がり閉じている。
 「ヒューッ、凄いな、ひょっとしてエリクサーを使ってくれたのかい?」
 「エルザ、貴方は適性が高いようだ」
 「適性!?奴らには逆のことを言われたな、”こいつには適性がない”ってさ」
 「誰にやられた?」
 「黒幕はビージャのクロワ侯爵家だね、ほとんどが黒スーツの男、フレディとかいっていたな、そいつにやられた、私も含めてね、チッ」
 心底悔しそうだ、殺されかけた恐怖よりも負けた悔しさが先立つ、執念と共に負けん気が強い。
 「どんな武器を?」エミーはエルザの傷を見ている。
 「初見のものだった、鞭を鋼の刃にして集めたみたいなやつだ、対処しきれなかった」
 エミーの指が首筋に伸びる。
 「それは多分・・・・・・ウルミンと呼ばれるインドの武器のことね」
 「知っているのかい!?」
 「師父東郷から聞いたことがある程度だけどね、ここで聞くとは思わなかった」
 「赤スーツの方は?」JBから引き抜いてきたエルザの短槍、リグナバイタ・ヘキサグラフをベッドに立て掛ける。
 「おおっ、相棒!無事だったかい、そういうことさ、赤スーツの野郎、最後に柄を掴んで離さなかったところへ鋼の鞭を食らっちまった」
 「ホランドたちは?」
 エルザの顔が厳しくなる。
 「攫われちまったようだ、生きていたとは思うけど半殺しだよ、エミー、奴らあんたが本命だと言っていたよ、そっちにもお客さんがあったのじゃないかい」
 「四人来たわ、ハウンドって名乗ったわね」
 「で、あんたがここに居るってことは・・・・・・」
 「三人殺して、一人は降伏させた、いろいろ聞けたわ」
 「まったくこの人は呆れたね、きっとこの間あたしらを襲った連中だろ、こっちはギリギリの相討ちだったっていのに一人で殺っちまったって!?」
 「私に有利な環境で意標を付いた、彼らは特別な技術を持っていない、ただ身体能力が並み以上というだけ、冷静にやれば負けない」
 「言ってくれるねぇ、で、どうするのさ」
 エルザが短槍の柄を取ってベッドから足を降ろした、その目は猛禽の目だ。
 「やれやれ、ギルの小屋にエリクサー残っていないかな」
 差し出した片手をエルザは強く握って立ち上がった。

 ニースの港はラングドトンの乱で王家禁軍艦隊の沈船攻撃により封鎖状態にあった、大型船の出入りは不可能な状態にあり嵐が沈船を黄泉の深みへ引きずり込むのをまっている、救いの嵐がいつ来るかは分からない。
 ブラックコーラル号程度の中型船なら沈船を避けながら進むことも可能だろうが巨大な戦列艦などは航路を見出すことは出来ない。
 港の端、山の谷間に大きな洞窟がある、そこはクロワ侯爵により買い取られて許可なく誰も近づくことは出来ない一本道しかない。
 高い塀に囲まれた斜面には団地のように家屋と倉庫が並び立っている。
 時折荷物を満載した馬車が行き交う、秘密工場、何かを建造し準備している。
 エミーがエルザを助けた頃にハウンドの一人、エロースは瀕死の白髪鬼ホランドとバウンドインプを荷台に縛り付けたまま洞窟の入口、重く大きな鉄製扉を潜っていた、洞窟の中は巨大な造船所だ、そのドッグには既に相応しい大きさの蒸気動力の弩級戦艦が浮かんでいた。
 鉄板装甲の外板は白く塗られている、全長は百メートルを超えているだろう、船主に見える丸い台座に乗った巨大な筒は大砲だ、三本マストを備えてはいるが補助的なものだろう柱は低い、そしてブラックコーラル号のような水車は見えない、最新以上の推進方法、二軸スクリューを備えている。
 船尾には何もないフラットな甲板に鳥居のような木が組まれていた、そして鳥居を囲むように小型のバリスタが設置されている。
 船主に描かれた船名は ザ・ノア だ。
 低い甲板から降ろされている搭乗デッキにエロースはホランド達を積んだ荷馬車ごと乗り込んでいく。
 今はまだその白い船体からは息吹は聞こえない、その実の内にクロワ侯爵の理想と欲望を飲み込み、ダーク・エリクサーの熟成を待っている。
 始祖たるイブの登場を待っている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結保証】科学で興す異世界国家 ~理不尽に死んだ技術者が、「石炭」と「ジャガイモ」で最強を証明する。優秀な兄たちが膝を折るまでの建国譚~

Lihito
ファンタジー
正しいデータを揃えた。論理も完璧だった。 それでも、組織の理不尽には勝てなかった。 ——そして、使い潰されて死んだ。 目を覚ますとそこは、十年後に魔王軍による滅亡が確定している異世界。 強国の第三王子として転生した彼に与えられたのは、 因果をねじ曲げる有限の力——「運命点」だけ。 武力と経済を握る兄たちの陰で、継承権最下位。後ろ盾も発言力もない。 だが、邪魔する上司も腐った組織もない。 今度こそ証明する。科学と運命点を武器に、俺のやり方が正しいことを。 石炭と化学による国力強化。 情報と大義名分を積み重ねた対外戦略。 準備を重ね、機が熟した瞬間に運命点で押し切る。 これは、理不尽に敗れた科学者が、選択と代償を重ねる中で、 「正しさ」だけでは国は守れないと知りながら、 滅びの未来を書き換えようとする建国譚。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

異世界での異生活

なにがし
ファンタジー
役職定年を迎えた男が事故に巻き込まれケガをする。病院に運ばれ治療をしていたはずなのに、なぜか異世界に。しかも、女性の衣服を身に着け、宿屋の一室に。最低な異世界転移を迎えた男が、異世界で生きるために頑張る物語です。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

処理中です...