kings field 蜂蜜とエリクサー

祥々奈々

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紅茶の波紋

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 王妃ラテラの回復は順調に進んだ、王家の財力でエリクサー精製のための材料は直ぐに揃えられた、王妃から僅かな血を採取して蜂蜜種ミドゥスを基底材に神獣のエリクサーで培養する、王妃用の黄金のエリクサーは一週間ほどで完成した。
 真姫の住まう漂流島に自生しているギョウリュウバイはこの世界の物とは根本的に異なる、酸素と同様に存在する物質が生命に有益な効果をもたらしている、仮にそれを魔素と呼ぶ。
 この世界の生き物には取り込むことも活用することも出来ない物質、神獣用のエリクサーの効果を得ることが出来る生物は魔素を利用出来るミンコンドリアを持っている。
 この魔素部分を取り除いたエリクサーが人間用と言える、さらに効果を高めるためにミトコンドリアの型別に精製するのだ。
 この日デル・トウローは暫くぶりにマンさんと会うことが出来た。
 「無理を言ってすまなかったな、マンさん」
 「こっちが無理を言って頼んだことだ、貴方が気にすることはないよ」
 エリクサーによる王妃の完全回復は目前、重責を背負い挑んだ二人は王宮内のラウンジで紅茶を待ちながら固く握手を交わした。
 「マンさんが探してくれたミドゥス酒の品質が肝だった、よく探してくれた、あれが無ければ王妃様の回復はまだ先だったろう」
 「ただのミドゥスではなくマッドハニーのプロポリスから作ったミドウス酒など世界中のどこを探してもないと思ったが、以外にも隣国の養蜂家が自宅用に作っている情報があった、まあ口説き落とすのに金は使ったがな」
 「いい物だった、純度の高いエリクサーが出来たよ、精製を繰り返せば百本近く造れると思う、そこまでは責任をもって仕上げるよ」
 「よろしく頼む、なにより王妃様が若返った、若き日に戻ったようだ、先日フローラ様と並んだ時など姉妹にしか見えなかったな、ジョージ王もエドも目を丸くしておられる、微笑ましい事じゃ」
 「もう日に一本は必要ない、体調を崩しそうになった時に飲めばいいだろう」
 「感謝するよ、デル殿、エリクサーだけではなく水銀の罠まで見破ってくれた、ブラックコーラル号だけでは返しきれん恩だ、他にも何かあれば協力させてくれ」
 「いや、十分すぎる船だ、我々だけで遠洋まで行ける船などそうそうあるものではない、よく見つけたものだ」
 「ランドルトン侯爵発注の船、いわば仇敵の船だが造りは良いものだ、納入の当てが無くなって業者も困っていたところだ、正直随分安く買えてしまった、デル殿希望どおりの改修を含めても予算が余っている、遠慮はいらないぞ」
 「考えておくよ」
 紅茶が運ばれてくる、アールグレイの香、マンさんはミルクを好まないストレート、デルはミルクとシュガーもたっぷり入れている。
 「いつごろ出航するつもりなのだ?」
 「冬が来る前に、なるべく早くだ」
 「場所は分かるのか」
 「いや、はっきりとは分からない、まず俺たちがこっち側に出てきた海域にいってみるつもりだが、そこに出入り口があるのかどうかは分からない、偶然でもなんでもやってみなきゃ手掛かりがない、自分でも雲を掴むような話だと思っているよ」
 「行ったとして戻れるのか」
 「分からない・・・・・・でもティアをマヒメに、母親に合わせることが出来ればその後の俺たちはどうでもいい」
 「デル殿・・・・・・」
 「そんな顔をするな、別に死にたい訳じゃない、二人がなんていうか分からんしな、でももしか戻れたならエミーに会いたいな、いろいろ謝らなきゃならん」
 「そうだな、思いを残して行け、そうすれば帰れる」
 「それは東洋の教えかい」
 「儂が今考えた」
 「そうだな、生きていればまた会えるな」
 「エミーさんは今頃どうしているだろう、どこかで戦いに身を投じているのか、無事ならいいが、まあ彼を如何にかできる人間なんてそうはいない、儂は知らないよ」
 そうだ、弟が心配だ、自分の喜怒哀楽を感じることの出来ない弟は誰かの幸せのために簡単に命を投げ出してしまいそうだった、強すぎる力が踏みとどまることを覚えない、自分の優先順位が低い。
 自分の為に生きろと教えてあげなければならない、今の弟は他人の幸せを自分に置き換えることで命を繋いでいる、強さが仇となり危険を吸い寄せる。
 「エミー、エリクサーならお前にも感情は生まれるのかな」
 ティーカップの中で揺れる紅茶の波紋に懐かしい弟の影が映る、その顔は小さな波紋の狭間で笑顔に泣き顔に揺れていた。

 「王妃に投与されたのはエリクサーなのだな」
 「はい、潜入させているエス(諜報員)からの情報です、間違いないでしょう、我らの物とは違う黄金色の液体、水銀で毒された王妃がそれにより回復なされたばかりでなく著しく若返ったそうです、その効果を見る限りエリクサーの称号に相応しいかと思われます」
 ビージャのクロワ領、執務室に侯爵クロワ、黒服フレディ、主席カオス、そしてハウンド・エロースの四人はいた。
 「王妃の変化はそれだけですか?」侯爵は緩く手を組んで不審気に首を傾げる。
 「性格的な変調は見られないようです、相変わらず表舞台には出ようとしないようです」
 「おかしいですね、エリクサーによる書き換えが進めば個人差はあれど積極性、ある種の攻撃性のような変調が若返りと共に現れるはず、外観の変化が現れているなら当然行動や思考に変化が伴うはずなのですが」
 「王妃ラテラはセオドラ・ランドルトンよりも曲者です、なにか企んでいるかもしれません」
 クロワ公爵は話を切り替えるように足を逆に組み直す。
 「それにしてもミストレス・ブラックパールの時限爆弾が見破られるとは意外です、実はね、あれは私が用意してやったものなのだよ、なかなか物知りがいるようです」
 ソファに深く腰を埋めて座っている、上品に仕立てられたスーツに無駄のないボディラインが影となって線が浮き出させる。
 「ミストレスと王家を敵対させて内乱に持ち込めたものを、所詮は適性がなかったということでしょう」
 「その気ばかりが攻撃的になったというだけで知恵も戦術も二流、身体能力に至っては凡人以下の仕上がり、役立たずでしたね」
 カオスが両手を広げてみせる。
 「落としやすい獲物は小物ばかりということでしょう、選民の統計が纏まれば少しは確率もあがるでしょう」
 「カオス様、王家に持ち込まれたエリクサーは誰が何処から持ち込んだのでしょうか、この世界にエリクサーと名乗れて効果も伴うものが幾つもあるとは思えません」
 三人がソファに座っているのに対してエロースは一人立ったままだ。
 「王宮外の人物が持ち込んだようだ、というよりも王宮内で精製したらしい、相当数があるとみていい、我々以外に技術と知識を持つ者がいるということだ」
 カオスはソファに浅く腰掛け背筋を伸ばしている、座ってはいるが緊張を隠さない。
 「興味をそそられる話です、幽霊女と共に新たな標的になりますね」
 黒服フレディが話しかけるのと同時にパンッと軽くクロワ侯爵は手を叩いて見せた。
 「うん、きっとそうだ、こう考えてはどうでしょう、エリクサーを精製した者は王妃を助け、その報償としてニースのブラックコーラル号を受け取る」
 「!」
 「そして何故船が必要なのか、ですね」フレディの目が笑う。
 「そうだ、彼らも僕らと同じ、彼の地からの帰還者じゃないのかな」
 全員がクロワ侯爵の思いがけない一言に驚きの顔を向けて一瞬固まる。
 「なんと!!では再び彼の地へ向かうために船が必要になっていると」
 「それは分からない、行こうとしているか逃げようとしているのか、どちらにしても聞いてみようじゃないか!」
 「希少サンプルの白髪鬼ホランドとバウンドインプは既にザ・ノアの隔離室においてダーク・エリクサーの血管投与の段階に入っております、結果が出れば大量に個別精製を行えるようになるでしょう」
 「よろしい、この領にもやがて王家の手が回る、新天地となる拠点を築かなければならない、ザ・ノアの出航準備を急ぐことにしよう」
 「これからは各地に拠点を築き選民による統治を進める、気の長い話だが書き換えが完了すれば我々の生は無限、非選民の五十年の生涯など一瞬だ、十世代も変わるころにはこの世界全体を彼の地の如く選民の世界としてみせようじゃないか」
 「御意!!」
 クロワたちはダーク・エリクサーの小瓶を掲げてその栓を抜いた、吸収されたエリクサーがミトコンドリアを侵食し書き換えていく、その記憶が異次元へと夢を誘う、その景色は恐ろしくも美しく生命に溢れていた。
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