kings field 蜂蜜とエリクサー

祥々奈々

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白角

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 東洋製の大型二連装床弩弓を回転式銃座に据え付けた、蒸気機関を動力にして射撃手一人で運用が可能だ、世界で一台だけの装備。
 そして射出する矢も多種の爆薬を装填することが出来る最新鋭のものだ、戦闘艦としては小粒だが局地的な戦いなら大型艦を屠ることも可能だ。
 新造二十メートル級クルーザー、ブラックコーラル(黒真珠)号、その名のとおり黒い船体に純白の帆を上げたパンダカラー、セール推進で航行している今は蒸気機関の動力はセールの調整や武装にのみ使われる。
 帆船は無暗に風を帆に受けると最悪転覆する、風向きや風力に合わせてバランスを取るために風を受け流す角度や面積を変える必要がある、これにはその船に精通し熟練した操舵員が必要になる、更に舵やセール操作も動力を使用するブラックコーラル号はパワステといっていい機構だ、それが返って手元に抵抗や状況を伝えない、船の姿勢やロープの張りからしか情報を得ることが出来ない。
 この船のデザイナーであるハント・スチュアートは操舵室のコクピットでそのハンドルを握りながら船との対話を繰り返していた。
 今は王宮の港を母港にして試験を繰り返していた。
 「お前は運がいい」手にしている操舵ハンドルに語り掛ける。
 あの時武装改修のために出航していなければ、あの怪物のような戦艦の砲撃でニースの港で燃え尽きていただろう。
 いまは王家禁軍艦隊の一列に埠頭を与えられて補充も整備も思いのままだ、どうもオーナーが変わったらしい、届け出が皇太子婚約者のバロネス・フローラ・ムートン様に変えられている、会ったことはないがこの武装クルーザーを一体何のために必要なのかは興味がある。
 バオッ ザザザザッ ギギギギッ 風向きが変わり船が軋みながら傾く 「おっと」
コクピットに集約された制御レバーで左右のセールを調整してバランスを取る。
 足は速いが姿勢制御には気を遣わなければならない、船の癖を習得し、セールレバーと推進力の制御を習得するまでには経験者でも相当な時間が必要だ。
 「このじゃじゃ馬め」
 ハントは思わずニヤケてしまう、流線形のスリムな船体の最大船速は早い、能力を引き出せる範囲は狭く、いわゆる操縦特性がピーキー(限定的な条件の中でのみ高性能を発揮する)だ、いい女は誰にでも靡くわけじゃない、そこがいい。
 「何の目的か知らないが俺も乗せて貰えないかなぁ、このままお前と別れたくないよ、なぁミス・コーラル、君もそう思うだろ」
 ザバババッ ハントに応えるようにブラックコーラルは青い水面に白い波を切り裂きながら進む。

 フェス・ド・ラ・クロワ侯爵は、その仮面を脱ぎ捨てノスフェラトゥ教団教祖アポサルとして自領ビージャの街を捨てて、弩級戦艦ザ・ノアにより海の彼方へと消えた。
 領主が消えた街は荒れる、権力で押さえられていた犯罪者がその欲を解き放っていた。
 「こんなことは許されないぜ」
 その男は下町のチンピラだ、ラメ入りのスーツに縦襟の白シャツが埃で汚れている。
 手にしているのは短い棒?だ、剣ではない、白い地肌の物質を削りだした一品物は切断こそ出来ないが非常に硬く、真剣の一撃を受けきることが出来る。
領内が騎士団や憲兵に抑えられていたころはヤクザ者が小刀でも帯びていればそれだけで逮捕される理由になるからだ。
 男の足元にはその木剣で打ちのめされた敵対する組織の男たちが転がっていた。
 「おい!娼館にいたオルガという娼婦を知っているな、彼女をどうした?教えて貰おうか!」
 その名をホーン・ボーン、組織には属さない一匹狼、子守から荒事まで気に入れば何でもこなす便利屋だ。
 「しっ、知らねぇ、俺たちは関係ねぇ」尻もちを付きながら口から血を流している男はノスフェラトゥ教団の下部組織、この地に撒いたダーク・エリクサーの種を刈り取るために残っていた選民だった。
 「お前たちが連れ去ったネタは上がっている、幸い今は領主が不在だ」
 「だから何だっ!?」
 「つまり俺がどんな振る舞いをしようとお咎めはないわけだ、意味分かるよな」
 白い棒を男の目の前に突き出す、棒の先端は尖り、突けば十分な殺傷力を持っていることを伺わせた。
 「うっ・・・・・・」
 「こいつで殴られると痛いぜぇ、選民は治るのが早いからな、逆に何回でも痛みを味わうことになる、試してみるか?」
 側頭両側から後ろに向かって伸びる白い角がクルクルに巻いた黒い癖毛を割って伸びている、ホーン・ボーンは骨の角、変形した頭蓋骨が皮膚を割って伸びているのだ。
 褐色の肌に黒く大きな目がギロリと見据える、容赦しないとその目が語っていた。
 「あっ、あの娘なら自分から船に乗ったんだ、拉致ったわけじゃねぇ!」
 「ほう、あの娘が消えたのは二日前、ノスフェラトゥの戦艦が大暴れして出航したのは一週間前、舐めた答えだ!」
 バヒュッ ドンッ ドンッ ドンッ 男の頭の周りに棒の先端がマシンガンの速さで穴を開ける 「ひえええっ」 男は頭を抱えて怯えた。
 「次は顔の真ん中に打つぞ、選民は死なないらしいな、試してみようか」
 ガバッと大きく振りかぶって渾身の右ストレートを突き出す、ガヒュッ 即死の一撃。
 「まっ、言う、止めてぇ!!」バキャッ 屈服した男の顔寸前で棒は軌道を変えて後ろ壁に突き刺さる、寸止めではない、打ち抜く覚悟で打たれていた。
 「拳は急に止まれないってな、運がいいぞ、お前、でも気を付けないと二回目はない、俺のドラゴン・トンファーは血が大好きなのだ」
 「わっ、わかった、言うから殺さないでくれ!」
 「いいだろう、聞いてやる」
 
 その日ビージャの街に巣くったノスフェラトゥ教団支部の一つが、ホーン・ボーン一人によって壊滅した、死人は出なかったが組員は半殺し、立てる者は一人もいない、そして組事務所となっていた廃教会は放火されダーク・エリクサーごと焼失した。
 男の供述では、娘はアルカディアにあるノスフェラトゥ教団の施設で同じく集められ、男女で適性検査を受けてカップリング、結婚相手を宛がわれるという、集団結婚だ。
 その目的はダーク・エリクサーの遺伝子をより強く受け継ぐ第二世代を作ることにある、彼の地の魔素を持ち、それを利用できる人間を誕生させること。
 それをアポサル・クロワは進化と呼んだ。
 
 燃える教会から立ち去るホーン・ボーンは折れ曲がった煙草に火を点けて深々と吸い込むと、一息で半分ほどまで煙草を短くして大量の煙を吐き出す。
 ピーィッ 指笛を鳴らして呼んだのはキャンと呼ばれるロバの大型種、チベットロバだ、頭が大きく一見大人しそうだがその性格は図太く頑固、気を許した者にしかその背を許さない、また馬に比べて速力は遅いが荒地での走破性と持久力は遥かに上回る、重い荷を背負い山道を登ることも苦にしない、その割に小食で乾燥地にも強く馬ほど管理する必要がないタフなやつだ。
この時代、馬は貴族や上流階級たちのもので、農家や庶民は移動手段にロバに頼ることが多かった。
 「待たせたな、キャン」
 跨ると急かすことなくポクポクとゆっくりと帰っていく、白角のボーンは二息目で煙草を吸い切ると残り火を指ですり潰した。
 少し大きめの黒いハンチング帽を叩いて斜めに被る、白角を隠すためだ。
 「さて、どうしたもんかな・・・・・・」
 思案気に街道の先を見つめて呟いた。
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