kings field 蜂蜜とエリクサー

祥々奈々

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過ぎ行く季節

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 故郷となった山小屋に厳重な鍵をかける。
 「デル兄、また来るよ」
 「いい土地だな、またな」
 「惚れちまったよ」
 「帰ってくるぞい」
 「また教えてくれ」

 「帰ってくるね、お父さん」

 デルとルイスの山小屋を後にして、岩人の里の帰途につく。
 黄金のエリクサーの精製方法については新しい情報が幾つかあった、エリクサーの頂点、ミトコンドリア・イヴ、彼の地の種族アールヴの血。
 長寿と再生、乗っ取ることなく既存のミトコンドリアと共生し、酸素、魔素を問わず酸化しないアデノシン三リン酸(ATP)を精製する、つまり排ガスが出ない高出力エンジンを積んでいるようなものだ。
 哺乳類の骨格筋中に含まれるATPは千分の四パーセント、しかしアールヴのミトコンドリアはその含有率を百分の四パーセント、実に十倍に引き上げる。
 彼の地の始祖アールヴ種は長命だが体格は小さく瞬発力に乏しく戦いには不向きな種族、真逆な種族がいる、巨人族オーガ種、三メーター近い巨躯、素手で羆を屠る剛腕だが短命。
 基本的には混血しない二種、稀に混血する条件がある、人種の血が混じったクォーターとの混血、特に母親がアールヴの場合だ。
 ミトコンドリアは母親からのみ遺伝する!
 オーガの筋力、アールヴの長命と回復力、そして人間の共感力。
 それが・・・・・・。
 
 彼の地の漂流島については謎が多い、いやほとんど分からない。
 天と地の邂逅の時、その道は開かれる、巨大な渦は漂流島への門を開く、その道を通らなければ行くことは出来ない。
 では渦はいつどこで出現するのか、肝心のそこが分からない。
 デルたちも偶然巻き込まれたに過ぎなかった、出現する条件はなんなのか、何処へ向かえばいいのか。
 手掛かりは一つ、デル達が最初に爆沈した海域と帰ってきた海域、おおよその座標が記されていた。
 ニースはデルたちが帰って来た海域が近い、そして季節も分かる。
 とりあえず行ってみるべきだ、そのための準備が必要だった、船と技術、そして知識と経験が。
 二つ目の手掛かりは彼の地からの帰還者、ノスフェラトゥのアポサル・クロワ、彼の地を知る帰還者、直接聞くしかないが・・・・・・存在するなら方法はある。
 「奴らは何処へ向かったのだろうな」
 「選民の国か、ノスフェラトゥとは不死を意味する言葉、再び彼の地に戻ろうとしているのかい?」
 「分からない、しかし彼の地が天国で不死の世界ならわざわざ帰還はしないのじゃないかな、この世界で不死の国を創りたいのだろう」
 「ダーク・エリクサーで不死になるものかのう、儂らは確かに適性があるちゅーとったが、飯を食わぬば死ぬし、切られても死ぬ、だいたいダーク・エリクサーを作るには適性がある人間の血が・・・・・・あれっ!?」
 「そうか!やつら材料となる人間を狩るつもりか!」
 「私もそう考えていた、この世界には魔素がない、きっと体内で魔素を生産できる適性を持った人間を探している、自分たちの餌にするために」
 「儂ら、あのまま繋がれとったら死ぬまで奴らに血を吸われとったんか」
 「やつら吸血鬼だねぇ」
 「定期的な摂取を続けなければ能力の維持は出来ないのだろう、若返りが不死となるのかは分からない、デル兄の資料では長命を叶える血はイヴだけだ、彼の地との渦に巻き込まれて、両世界を人が行き来しているなら可能性はあるね、イヴの血を引く人間がいる」
 「そんなに長命なら話題になりそうなものだけど、ついぞ七十を超える様な爺さん婆さんには会ったことがないねぇ」
 「確かにそうだ、俺も知らんな」
 「教団もそういう探し方をするのじゃないか、実年齢よりも若く、そして長命の人間、ヒージャではめったやたらに信者を募っていたけれど、より効率的に適性のある者を探してエリクサーを試すだろう」
 「そうか、教団はヒージャの街で適性がある人間の統計を得たのかもしれない」
 「手掛かりはそこにもあるのぉ、教団の動きから何か掴めるに違いないぞい」
 「騙して食い物にしようとするのも許せん」
 「若返りの薬なんて女にとっちゃ神薬そのものだ、入れ食いになっちまうよ」
 「麻薬よりたちが悪い」
 「エドとフローラの足元で非道で残虐な行為は許さない、それにデルとルイスを撃った奴も教団の近くにいるはず、見つけ出して必ず報いを受けさせる」
 エミーの言葉に怒りも高揚もない、だがその決意は氷のダイヤモンド、砕けることはない。

 岩人の里に半月ぶりに戻るとワイルドマルベリーが早くも新芽を開き始めている、薄緑の葉は柔らかく日の光を浴びると産毛が銀色に輝く、風に揺れる様は美しい。
 出迎えてくれたカーニャは少し日に焼けて逞しくなったようだ、隣にはトマスがいる、旧フラッツ領の引き継ぎを大急ぎで終えてきたのだろう。
 二人の笑顔が明るい、特別な感情を感じる。
 「ああ、期待通りだよ、向かい風が暖かい、ああっ、素敵だ」
 吹き抜ける春の風に乗って二人に芽吹いた恋心をエミーに届ける、若葉の成長は早い、光を受けて一晩で大きくなる、その芽がやがて木となり大木となる様を見て感じていたい、自分の中では育たない感情を感じたい。
 十分だ、こんなにもはっきりと共感できる、関わりあった人の幸せを作れば何人分でも共感できる、何度でも。
 自分の才能は捨てたものではないのかもしれない。
 カーニャに近づくと黙って首を抱いた。
 「エミーさん?」
 「ありがとうカーニャ、とても素敵だ」「えっ」「いいの、こっちのことよ」
 隣にいたトマスの首にも手を回して三人の輪を作る。
 「えっ、あ、あのエミーさん」「カーニャを頼むよ、幸せにしてやってくれ、トマス」「!」
 二人が顔を見合わせて照れた笑顔を浮かべた。
 「キッシッシ、エミーはお見通しってわけだ、いっそフローラ様と一緒に式を上げちまうかい」
 「式って!?日取りが決まったの!?」
 「そうらしいよ、もう直ぐ使者が来るってさ」
 「そうか・・・・・・近々なのか?」
 エミーの指が首元に伸びた、瞬時に空気が変わる。
 「おっと、エミー、あんたにも居てもらうよ」
 「出来ない、理由は三つある、一つは逃げたノスフェラトゥを追う、もう一つは船を動かすためのクルー探し、最後はやはり私がフローラと同じ場所には立つのは危険だ」
 「参列するのはエミーを知っている者だけ、いまさら隠しても意味はないよ、それは心配し過ぎさ、親友の門出だ、祝ってあげるのが筋だろ」
 「むうっ・・・・・・」理にかなっているのは婆の方だ。
 「まだ少し時間はある、敵を追うのもいいが式の時には戻っておいで、約束だよ」
 「分かった」
 「あんたには大事な役目があるんだ、頼んだよ!」
 「大事な役目?なんの事だ」
 「それは内緒!キッシッシッシ」
 意地悪気な含み笑いを残して婆はそそくさと行ってしまった。
 「そうとなればあまり時間はないねぇ、明日にもヒージャに行ってみるかい」
 「ああ、まずは情報だ」
 「それとトマスとカーニャに頼みがある、ティアと一緒にムートンのマナーハウスで式用の衣装を見繕ってくれ、フローラからの依頼だ」
 「フローラ様のクローゼットを勝手に覗くなんて出来ません」
 「大丈夫だ、ハリー執事やメイド長のアンヌさんには話が通っている、準備はしているだろう」
 「そういうことならお引き受けします」
 「ここ同様にムートンも良いところだ、私は行けないが皆によろしくと伝えてくれ」
 「分かりました」
 
 季節は駆け足で過ぎようとする、後ろを振り返る余裕を与えてはくれない。
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