kings field 蜂蜜とエリクサー

祥々奈々

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面影

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 アルカディアの街は犯罪集団の巣窟だ。
 麻薬に人身売買、傭兵集団、幾つものマフィアが乱立しては消える、その頂点に立つのが人食い男爵ラウド・ツェペェリだ、白角ボーンはこの男を良く知っている。
 どうして貴族の爵位を持っているのか、州長に金を積んだのか、さらにその上にボスがいるかだ。
 正面から一人で喧嘩を売るにはデカすぎる組織、消えたオルガを拉致るにしても当の本人に拒否られるかもしれない、チンピラの話では本人は希望してきたという、ダーク・エリクサーという神薬、いや麻薬だ、その効果を体験すれば娼婦として朽ち果てる寸前のオルガが縋り付いたのも頷ける。
 ボーンの知る限りでも十人以上の人間が消えていた、それ以上なのが死体だ、山奥に掘られた穴に積み上げられた死体を見た、年齢も性別もバラバラの黒く変色した死体、身体中の穴から黒い血を流していた。

 きっかけはアルバイト、何を勘違いしたのかマフィアの末端準構成員が舐めた態度で手伝えと言ってきた、もちろんぶちのめして叩き返してやった。
 殺しに関わるのは流儀に反する。
 死体の捨てるなんてことは猿でも出来る、馬車に積んで山に落として終わり、難しい事なんてない、仕事が忙しくて回らない事なんて普段ならあり得ない、処理する依頼が多すぎて人手が足りないのだ。
 「よおっ婆あ、調子はどうだ?」顔なじみの娼館だ、稀に用心棒の依頼があるが、ここのところは閑古鳥だった。
 「何だい、白角じゃないか、仕事ならないよ、さっさと帰んな」
 皺くちゃ婆あの顔色まで悪い、普段なら立ちんぼの娼婦と腕を組んだ客たちが入れ替わり立ち代わり行き来する通りが閑散としている、もちろん店の中も水を打ったように静かだ。
 「人がいねぇな、どうしちまったんだ?」
 「さあねぇ、みんな買われちまったよ、身受けさ」
 「身受けって、一度にか!?」一人数千万の身受け金を誰が用意した?
 「こっちも雇われ店長さ、詳しい事は知らされちゃいない、でも売る物がなきゃ客はこない、新しい商品が入るまで閉店するしかないねぇ」
 「オーナーはモントレー男爵だったよな、奴もニースの事件以来バックレちまったって聞いている、後釜は誰だ?ひょっとしてアルカディアか?」
 「たまげた!何でそれを知っているのさ、何処で聞いたんだい、まだ届も出していないはずなのに」
 「蛇の道は何とかだな、婆さんも雇われ店長なんて潮時だぞ、よりによってオーナーが人食い男爵だなんていくら何でも未来がねぇ」
 「ここで散々なくらい女の悲哀を見てきたさ、今更ビビリりゃしないけどね、娼館にだってプライドはある、世の中にゃ女の慰めが必要なのに愛されない男もいる、そんな奴らにとっちゃ娼婦は天使、それに天使にしかなれない女だっているのさ、だからこそ許せない」
 この話をする時の婆あには決まって頼みごとがある。
 「その話は耳タコだぜ、どうしてほしい、特価で請け負おう」
 「女たちはダーク・エリクサーで薬漬けにされてた、効果のあった子はいいさ、劇的に若くなる、でもね合わない子にはとことん冷たい神薬様だ、激痛と発熱、収まったときには余計に老けている、隣に青春を取り戻した子がいて、さらに適合するタイプがあるといわれりゃまた手を出しちまう、適正がある物に当たるのが早いか、身体が壊れるのが早いか、それとも金がなくなるか・・・・・・いずれにしろあれは神の薬なんかじゃない、悪魔の誘い水だ」
 「婆さんは飲まなかったのか?」
 「舐めんじゃないよ!一回しか飲んでないわい、クソが!!」飲んだのかい。
 「適性があって自分でついて行った奴は仕方ない、でもね、無理やり連れていかれた女もいた、オルガだ、引退間近まで耐えて今更エリクサーはいらないって手を出さなかったのに、何処だかの公妾館にいたとかで攫われちまった、もしまだ無事なら助けてやっておくれ」
 「オルガか、顔は知っている」
 「やってくれるなら、報酬は婆あのキスでどうだい」
 「ハッハッ、お釣りが必要だな」
 
 思った通り村の教会は中継地点だった、しかしオルガも誰も居ない、既にアルカディアに移動したあとだった、奴らがいう収穫は終わっていたのだ。
 このまま引くわけにはいかない、連れ去られた人たちがどうしているのか、この目で確かめる。
 元は美しい港街だった、領主は間抜けな奴だったが他の領地に比較して酷いことはなかった、海の恵と内陸を繋ぐ運河、海運と陸運の要の街として栄えていた。
 白角のボーン、その呼び名どおり、その角は十歳を過ぎた頃より伸び始めた。
 悪魔の生まれ変わりと恐れられて人里離れた廃屋に追いやられた、角の生えた人間など教会からみたら異端も甚だしい、見つかれは即火炙りにされる、家族が出来る最大限の優しさだったのだろう、でもボーンは自由だった。
 魚、獣、キノコ、山菜、山には何でもあった、何回か毒に当たりはしたが大怪我することなく年を重ねた、森には師匠となる人間も多くいたからだ、猟師や山師、冒険者などの技を幾らでも盗むことが出来た。
 採れない物、服や靴、鍋、金、盗むことを覚えた、これが一番才能があった、山と街、半々の暮らし、いつしかマフィアに目を付けられていた。
 マフィアの売り上げに手を出したのがマズかった、顔を見られて執拗に追われることになってしまった、人身売買を生業にするゲス共だ。
 ある日、奴らの目を躱して反撃の機会を狙っていた、後をつけると別な目標を狙っている、少し離れたところにある孤児院のガキ共だ、まだ十歳になったばかりの子供がお使いなのかダンゴになって歩いていた、不用心にも程がある、ここはそんなに平和なところじゃない、その集団に違和感を覚えた、後ろを歩く少女の腰に刀見えたからだ。
 その美形は一際目を引く、攫ってくれと言っているようなものだ。
 「まさか真剣じゃないよな、玩具だろ、なんの脅しにもならないぞ」
 思った通りチンピラは吸い寄せられるようにガキ共を拉致しようと囲んだ。
 「ちっ、バカが!」とんだ疫病神だ、チンピラとはいえ四人を相手にして無事では済みそうにないが見捨ててはおけない、ついてない、そう思って腰の短刀に手を伸ばす、その時ガキ共を囲んでいたチンピラの一人が悲鳴を上げた。
 「!?」「なんだ」尻もちを付いたチンピラは手を押さえている、鮮血が見えた。
 隙間から見えたのは光る銀鱗を手にした少女だった、その姿に恐れや興奮は見えない、呆気に取られているチンピラの四肢に躊躇の無い連撃、早すぎて見えなかった。
 恐ろしい剣技、それにもまして、その後少女は命乞いするチンピラの首を銀鱗で貫いて殺した、まるで当然の様に命を奪った、遠目にも震えてなどいない。
 自分でさえ他人を殺したことなどなかった、そんな覚悟はまだない。
 全員を殺し最後に少女は死体に向かって手を合わせる、東洋の宗教だと後から知った。
 チラリと少女がこちらを見た、しかし何事もなかったように少女は走ることもなく先頭を歩き行ってしまった。
 「なんてガキだ・・・・・・」
 あの時の事は未だに忘れられない衝撃となって脳裏に焼き付いている。
 氷のような冷たい視線、どんな人間になっているだろうか。

 そんなことを思い出したのは・・・・・・今まさにその少女の面影を残した女が早馬を駆って自分を追い越していったからだ。
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