kings field 蜂蜜とエリクサー

祥々奈々

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樹上の悪魔

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 フェイントに骸骨が引っかかった、体制を低く半回転、下方向外側からスカルの膝に回し蹴りの踵が突き刺さる、ボキャッ 膝があり得ない方向に向いて破壊される。
 前のめりに崩れるスカルに向かってカウンターの膝!!
 髑髏は真っ二つに割れて床に伏して動かなくなった。
 カラビットナイフのハンドスイッチを見せたところからがフェイクだ、最初から狙いは蹴り技、エミーにしてみれば削る必要がある相手ではなかった。
 「オルガッ、オルガッ!しっかりして」
 エロースが鉄格子の向こうにオルガを見つけた、針金と細いナイフを使ってピッキングで開錠する。
 意識が無い、上半身が血で濡れている、ナイフによる切創跡が深い、ダーク・エリクサーの効果なのか出血は止まっているが顔色は蒼白だ。
 「かなり血を失っている様だ」「変態髑髏に吸われたようだな」
 「息はある、脱出出来れば助かるよ」
 「他の房の人間はだめだ、全員ラリッちまってる、連れてはいけない」
 糸の切れた人形のようなオルガをエロースが背中に担ぐ。
 「ボーンの旦那、上手くやってくれたかね」
 「信じるしかない、行こう!」
 エミーが先頭になって囚人房の扉を慎重に開けた。
 煙の匂いが鼻をついた、本館の向こうの夜空が赤く燃えて騒がしい、ボーンが上手くやったようだ。
 後は馬だ、スムーズにこの場を離れるためには小屋にいる監視を殲滅しておく必要がある、エミーの腰からジグロの銀鱗が引き抜かれた。
 「少し隠れていて、片付けるわ」
 「気をつけて」
 監視小屋の外には兵士たちが赤く燃える空を眺めている、しかし確認に行こうとする者はいない、ほとんどの者が武装せずに手に持っているのは酒瓶だ。
 エミーはその列の前に堂々と歩みでていく。
 「おい、だれだ、何だお前!?」暗闇から突然現れた女に兵士たちの頭は混乱した。
 「こんばんは、良い夜ですね」
 「はぁ!?」場違いな返事に更に戸惑う。
 バオッ 空気を激しく切り裂く音と共に女が消えた!
 「あっ!」近くにいた兵士が首を押さえて蹲る、その首から大量の出血、動脈を切られている。
 「おい、なんだ!?がっ・・・・・・」二人目、同様に三人目で兵士たちの信号がようやく赤になる。
 「敵だ!侵入者だ!!剣を取れ!」
 「ウフフフッ、こっちよ、さあ、おいでなさい」
 女は妖しく手招きするとクルリと背を向けて木立の中へと兵士たちを誘う。
 「追え!逃がすな!隊長はどうした、誰か呼んでこい!」
 残った十人ほどがエミーの後をおって木立に駆け込むがその姿は既にない。
 「どっ、何処へ行った!?」「消えちまったぞ」「まさか、幽霊!?」
 ザザザザッ 木々の葉が舞い、枝が揺れた「なんだ!?」見上げた頭上に白い影が舞い降りてくる!ヒュンッ 小さな突きが正確に首の血管を切断している。

 「凄いのがいるものだ・・・・・・」
 感嘆の溜息を洩らしたのはアイアン・サムレイ、闘技場から抜け出して逃走を図っていた。
 「どうやら教団とは敵対関係にあるようだ、なら手助けしようか」
 仁王立ちで木立の入口を塞ぐ。
 エミーは茂みから茂み、枝から枝へ飛び込みながら一撃必殺の突きで兵士たちを翻弄する、バウンド・インプの戦法を更に立体的に広げている。
 「なんなんだっ、こんなの人間業じゃねぇ!鳥か?猿か?鼬じゃないのか!?」
 「悪魔だ!ダーク・エリクサーで殺された人間の怨念に違いねぇ!」
 「やめだ、こんなのやってられねぇ!」
 ドガッ 「ぎゃああっ」 出口に向かって逃げ出した兵士が吹き飛んだ。
 鉄の拳、甲冑をひしゃぎ潰す正拳突き。
 「ここからは出さん、観念しろ!」
 「せいやっ!」ゴキャッ 「せいっ!」ドゴッ
 「ひいいっ、こんどはなんだ!?」出口に逃げかけた兵士はつんのめって再び奥に向かって走り出すと白い幽霊の斬撃が待っている、パニックに襲われた兵士は暗闇を闇雲に走り自滅していく。
 「あなたは何者?」小声でも良く通る声が森から聞こえた。
 ガスンッ 最後の一人の首を折る。
 「儂はアイアン・サムレイ、ここで闘奴として囚われていた、教団に仇なす方とお見受けする、同行させてはくれまいか」
 「・・・・・・」女の意識が此方を見ているのが分った、殺気でも熱気でもない、澄んだ氷の様な気配、今までに感じた事のない気配だ。
 「命の保証はできないがいいか?」
 「元より覚悟の上、貴殿の名を教えて貰えるか?」
 「エミー、フレジィ・エミーだ」
 「承知した、学ばせてもらう」
 師父と同じ東洋の匂いをその闘奴から感じた。

 「エミー!!」監視小屋の方から呼ぶ声が響いた、ボーンの声だ。
 「迎えが来たようだ、いこう」
 
 木立からでるとボーンが馬車を引いてきていた、既にエロースはオルガを馬車に乗せている、エロースはエミーの後ろにいる男を見て驚きの声を上げた。
 「あっ、あんたはアイアン・サムレイじゃないか!?」
 「ぬっ!?お前はハウンドにいたエロースか!」
 両方が戦闘体制にその身を緊張させた。
 「待て、今はどちらも敵ではない、一緒にここから脱出する、私が許可した」
 「!?知り合いだったのかい」
 「違う、しかし腕は確かだ」
 「エロースは今教団とは敵対関係にある、それは味方と同意だろう」
 冷静で落ち着いた声がエロースとサムレイに向けられる、先刻までの戦闘を感じさせない、息の乱れも興奮もない声。
 「そうなのか?」以外過ぎるとサムレイの顔が語っていた。
 「どうでもいい!急げ、門が閉まる前に脱出だ!」ボーンの声には熱がある。
 
 火事による騒ぎが大きくなっている、潮時だ。
 ガラガラと目立たぬように火事騒ぎを横目に何食わぬ顔で馬車を走らせる、兵士たちの意識は食糧庫の酒に注がれていた、馬車を咎める者はいないまま出入りの門まで辿り着くが門は閉ざされていた。
 ボーンが顔を顰める。
 「ちっ、大門が閉まっている!どうする?小門を突破するか」脱出するだけならそれでも良いが追手を躱すことは出来ない、馬の走力は必要だ。
 大門を開く必要がある、幸い門の下の兵士は四人、しかし上にも弓を持った兵士が控えていた。
 「私がやる、大門が開いたら待たなくていい、そのまま走れ」
 「それでお前はどうする、逃げ切れないぞ」
 「私を侮るな、慣れている・・・・・・」
 「なにか出来る事はあるか、頼まれよう」
 「そうだな、エロースとオルガを頼む」
 「どこで合流する?」
 「この後私はニースに向かう、用があればブラック・コーラル(黒真珠)号を探せばいい」
 「ブラック・コーラル号だな、分かった!死ぬなよ!」
 「ふふっ」少しだけ笑みを浮かべるとスローダウンした馬車の御者台から飛び降りて塀伝いに大門へと走っていく、その足はあまりに速い、馬の速度を凌ぐのではとさえ思えた。
 「なるほど馬はいらないな・・・・・・」ボーンは呆れた。
 「ボーン!エミーはどうしたのさ、まさか一人で行かせたのかい?」
 「何なのだ彼女は、本当に人間か!?」
 「また無茶をする、いくらエミーでも門を閉ざしている閂の角材は持ち上がらない、私もいく!」
 「待て、その役は私が頂こう、今後のことを考えれば貴方は連中の前に顔を晒さない方が良い」
 「!」そうだった、教団はハウンドのエロースは死んだものと思っている、生きていると知れれば興味を持つ者がいるかもしれない。
 「事情は知らないが、ここは譲って頂きたい、男児が行かねば恰好がつかん」
 「分かった、恩にきるよ」
 「委細承知!」
 サムレイが馬車を降りた時、大門の上にいた弓兵の一人が下に落ちた、エミーが何かを投擲している!
 「あれは!手裏剣か、益々面白い!ぜひ詳しく話を聞きたい!」
 ダッダッダダダダッ サムレイの全力疾走、兵士たちの視線はエミーに注がれていた隙をついて鉄の拳が襲いかかった。
 「もう一人いるぞ!敵襲、敵襲だ!鐘を鳴らせ!!」
 カァンッ、カァッ エミーが二度目は叩かせないが、火事場の兵士たちがここでようやく気付いた。
 「大門が内側から襲われているぞ、敵だ、内側に敵だ!」
 殺気が一気に押し寄せてくる。
 大門の制圧に時間は掛からなかったが問題は閂だ、固く重い角材に鉄骨を入れて補強した閂は非常に重い、門番が三人以上で抜き差しするものだ。
 いち早くサムレイが閂に手をかけるがビクともしない。
 「ぬぅっ、ぐぐぐっ」額に血管が浮き出る!ミシリッ、角材が浮き上がった。
 「があああああっ!!」
 ギギギギギッ ドスゥンッ 外れた閂が床に転がる。
 さらに重い扉をエミーとサムレイで押し開く、ズズズッ 馬車一台通るには十分だ。
 「来い!!」エミーの合図でボーンが馬に鞭を入れた。
 「行け!!」馬車が大門を潜る、脱出成功、「エミー!」エロースの声、ハウンドにいた頃からでは想像できない声だった。
 「貴方も行ってください、私が時間を稼ぐ」
 血眼になった兵士がそこまで迫っていた。
 「良い考えがある、二手に分かれよう、儂は下を、お主は上から弓で狙え、よくよくになったら門をでて右に森がある、そこで追手を撒く」
 「分かった、それでいこう!」
 大門を閉めると上下に分かれて配置に着く、エミーが弓を引いた時には既にサムレイは格闘を始めていた、その周囲に向けて弓を速射、バヒュッ バヒュッ バヒュッ
 ガスッ ガスッ 貫かれた兵士が転がる。
 「監視塔を取られているぞ、弓兵がいる、気負付けろ!」
 迂闊には近づけなくなった、地上の兵士もサムレイの鉄拳を知っている、迂闊には襲ってこない、遠巻きに囲んで様子を見ている。
 エミーは射ることを止めない、凄まじい速さと正確さで矢を送り込む、慌てて兵士が射程外に逃れようと向けた背を射抜かれる。

 「戻れサムレイ!!」
 そう叫んだ時、聞きなれない音を聞いた。
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