kings felds漂流島

祥々奈々

文字の大きさ
5 / 7

タブラオ・デリーバ

しおりを挟む
 その夜、三人は歌い、踊り、ワインを朝まで楽しんだ、かき鳴らすギターと床を打つ靴音、響く歌声、パルマがコンパス(リズムのパターン)に溶けて永遠の宴が漂流島の灯台のように灯り続けた。
 
 二日酔いのためにエリクサーを飲む訳にはいかないが、藁の助けも欲しいほどの頭痛でお昼を迎えた。
 マヒメは既に出かけたようでいない。
 「ぎぼち悪い……」
 「ああ、飲み過ぎた……」
 部屋の中は既に片付けられている、マヒメは二日酔いにならないらしい。
 「マヒメ、可愛いよな……」
 「純真で素朴で……天使だよ」
 「女神か天使か、どっちだ?」 
 「彼女の笑顔が続くなら、僕は死んでもいい」
 「ルイ、死急ぎはマヒメに嫌われるぜ」
 「それでもいい、無意味な僕の人生に意味が産まれる」
 「哲学的だなルイ、お前どっか良い家柄の生まれだろ?平民の考え方じゃない」
 「昔の話は忘れたよ、ダーだって本当のことは言ってないよね」
 「自慢出来る事なら話しているさ、惨めな負け犬の話なんて聞きたくないだろ」
 「ふふっ、そうだね、女神様の耳が汚れる」
 「うるせっ!言ってろ」
 「はははっ、おかしいよね、この間まで敵同士の船で殺し合っていたなんて」
 「人間は愚かだ、もっとも俺は船倉に繋がれていたけどよ」
 「僕も人は殺した事無いよ、端っこで震えていただけさ」
 「我らが天使を探しにいくか」
 「うん」

 砂浜にマヒメの服があった、また潜っているようだ。
 またワインを見つけに行ったのだろうか、さすがに二夜連続はきついと思っているところに、海面を破りマストの先が伸びてくる。
 「!まさか幽霊船?」
 身構えた二人の前に姿を現したのは沈没船だが一本マストのヨットだ、白骨兵士は見えない。
 牽いてきたのは、やはりレヴィアタン、マヒメだ。
 「マヒメ様!」
 二人も水に入り、ロープを掴むとヨットを係留するために引く、白蛇がマヒメに戻る。
 「マヒメ、これは」
 「二人、乗る、帰れ」
 「……」絶句した二人は声を失った。
 「魔物、強い、死ぬ、嫌」
 「まて、まってくれ、俺達なら大丈夫だ、死ぬことは怖くない、マヒメ、お前と一緒に戦わせてくれ」
 「だめ、人間、死ぬ、私、死ねない、辛い」
 「人間は遅かれ早かれ死ぬ、それは仕方ないことだ」
 「私、悲しい」
 ヨットは、まだ沈没してから時間が立っていないようだが、しかし帆も失くしおり航行のためには修理が必要だった。
 ダーウェンとルイスは暫く説得を試みたがマヒメは首を縦には振らない、渋々従いつつ時間をおいて説得を続けることにする。

 次の日からヨットの修理が三人の日々の仕事の中心になった。
 船底の修理のため大潮に木組の枠に船を乗せるのが大仕事だった、レヴィアタンの力を借りてなんとか乗せることが出来た。
 ダーウェンは船大工仕事が得意だ、経験があるらしい、何者なのか見当がつかない。
 船底の泥を掬い腐った木を張り替える、木材は幽霊船に吹き飛ばされた小屋の木を使った。
 目的はどうあれ、三人でする作業は楽しい日々に違いはない、日の出と共に蜂の世話に出かけて蜂蜜を採取して漉しておく、ルイスは刺されなかったがダーウェンは虫が苦手だ。
 「なんで俺ばっかり刺されるんだよ」
 「怖いと思う気持ちが伝わって蜂が怖がるから刺されるのさ」
 「蜂、小さい、ダー、弱虫、シシシ」
 「何だよ、二人とも酷いな、心配してくれよ」
 「身体はデカいのに、虫が怖いなんて変なやつだ」
 「そうだ、変、ダー、弱虫」
 「怖いものは怖いんだから仕方ないだろ!もう」
 背負子に蜂蜜を満載にしてエリクサーの花が咲く迷路の道を三人の笑い声が往復する。
 互いに思い合う気持ちが幸せを作る、消えない思い出が漂流していく。

 ヨットの修理は順調に進んだが帆の布は手に入らない、海底の沈没船の物はどれも腐っていて使い物にはならなかった。
 「マヒメ、気持ちは嬉しいが帆布ばかりは諦めるしかない」
 「だめ、私、探す、何度、潜る」
 マヒメの帆の探索は日を増して遠くまで時間がかかる様になっていた、元々海の聖獣なので長時間海中にいても疲れた様子はないが、二人は心配だ。
 マヒメの労力を思うと帆の布を早く調達しなければならない、自分たちに出来ることを考え島にある漂流物を探しに出ることにした。
 
 その朝もマヒメを見送ると島の海岸線を辿って漂流物を探す、多くは流木や魚や鳥の死骸、役に立ちそうなものは少ない。
 「だめだ、布なんて全然落ちていない」
 「布は沈んでしまう、最初から望みは薄いさ」
 「でも、やらないよりやった方がいい」
 「見つかりゃ御の字だ、これ以上マヒメに負担を掛けたくない」
 「でも、ヨットの修理が完成したら……」
 「……」
 二人に、その後の答えは見いだせない。
 
 「おい、ルイあれを見ろ」
 「!」
 もうじき島の尻部分に達しようという時、島の亀裂に挟まっている難破船を見つけた。
 慎重に崖を降りていくと、船底を見せて横たわるのは小型のガレー船だ。
 海賊船だろうか、砲撃による穴だらけだ、中を覗くと積み重なったガラクタの中に帆を見つけた、予備の物だろう。
 「やった、帆があるよ、使えるんじゃないの」
 「宝くじが当たったな」
 二人で引っ張り出すのは骨だったが、破らずに外に出すことができた。
 聖獣マヒメの島で、乗っていた兵士たちが亡者として復活しないよう海葬しておきたいが躯は見当たらない。
 「ダー、これを見て!」
 「ハルバート(鉾)だな、海兵じゃなく揚陸部隊を運んでいたのか、白骨相手には都合がいい、獲物無しじゃ戦いようがないからな」
 「僕はこれがいい」
 ルイスが拾い上げたのはアイアンクロー、手甲に装着する長く伸びた爪。
 「なんだそりゃ、戦奴隷用の際物武器だな、使えるのか」
 「僕専用みたいなもんさ」
 「自信ありげだな」
 ニヤリと笑ったルイスは、いつもと違って戦士の凄みがあった。
 「この荷物を陸送するのは時間がかかりそうだ、早く行こう」
 二人は逃げるための帆ではなく、戦うための帆と武器を得て砂浜に戻っていった。

 満月まで残り一週間、船旅のための乾物や、水を準備することに時間を費やした。
 拾ってきた帆は継接ぎながらも使えそうだった。
 ハルバートとアイアンクローはマヒメに見つからないように吹き飛ばされた小屋の残骸の中に隠しておいた、魔物たちに揚陸されればこれで島を守るつもりだし、ヨットから幽霊船への移乗攻撃も可能だ。

 海に出る事が少なくなったマヒメは、変わってエリクサーの精製に力を入れている、蜜蜂たちが集めてきた蜂蜜に、聖獣のレヴァイアタンの霊力を込めてエリクサーに仕上げる。
 代用品の魔獣や低級の聖獣の霊力では作れない本物のエリクサー。

 海の亡霊が欲して止まない復活の神薬。

 二人は不思議に思っていた、聖獣であるマヒメはエリクサーを飲まなくても外傷や病気の直りは人間とは比較にならないほど早い、死なない訳ではないが不死に近いとマヒメは言った。
 それなら数百本にも及ぶエリクサーは必要なくなる、もとより金など必要としないから売る目的でもない。
 亡霊をおびき寄せる餌かだろうか、復讐するべき相手がいるのかもしれなかった。

 ダブラオ・デリーバは二日に一回は開店している、三人ともすっかり上達して息の合った舞踊が繰り返される。
 酒の力を借りなくても互いのことが音楽と踊りを通して分かり合える感動を幾夜も味わった、途轍もなく幸福な時間。
 三人はかけがえのない家族になっていた、国を、海を、種族さえも越えて結ばれた魂。
 失うことは等しく哀しい、相手の幸せを願い、身を切ることも厭わない愛する者たち。
 そんな家族を得られたなら、その人の人生はそれだけで幸福だろう。

 そして失うことが出来ない愛のために別れる時もやってくる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

とある令嬢の断罪劇

古堂 素央
ファンタジー
本当に裁かれるべきだったのは誰? 時を超え、役どころを変え、それぞれの因果は巡りゆく。 とある令嬢の断罪にまつわる、嘘と真実の物語。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

処理中です...