kings felds漂流島

祥々奈々

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春愁の迷路

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 「!?」
 マヒメは目覚めるとベッドに寝ている自分と、シーツに涎の染みを作っているルイスの寝顔を見て全てを理解した。
 いつもなら砂浜でカモメに突かれて目覚めるところが今日は身体のどこにも痛みがない。
 二人がここまで運び手当をしてくれたのだと分かった、久しく忘れかけていた人の優しさを感じて自然に笑みが零れた、こんな気持ちになったのはいつぶりだろう。
 「思い、出す……ベリアル」
 ルイスの髪にそっと触れるとマヒメは静かにベッドを抜け出した。

 「起きろルイ、マヒメがいない」
 「ん……ああ?」
 ここのところ目覚めるとダーがいる、なんのルーティーンだ。
 「あれっ、気が付かなかった!」
 「あの怪我で動き回るのは早すぎる」
 知らぬ間に再び襲撃があったのかと二人は青くなった。
 本宅から飛び出して周りを見渡す、動いている者はいないように見えた。
 「おい、あれは!?」
 ダーが指さした先は海だ、白い筋が航跡を引いて波打ち際まで来ていた。
 「マヒメだ」
 「やっぱり襲撃があったのか」
 二人はエリクサーを掴んで走り出した。

 砂浜に着いた時、マヒメは人間の姿で何かを選り分けていた、走ってくる二人を見つけて大きく手を振る。
 「おは、よう」
 「マヒメ、また襲撃があったのか」
 「身体は大丈夫なの、酷い怪我していたのに」
 少しきょとんとした後、ニカッと歯を見せた。
 「大丈夫、二人、あり、がとっ、私、元気」
 どうやら無事のようだ、砂浜に選り分けられていたのはガラクタの山?
 「何だそれは」
 「拾って、来た」
 「何か探しているの」
 「二人、お礼、する」
 どうやら海底まで潜って探してきたようだ、襲撃ではない。
 「そんな、お礼だなんて、無理しちゃだめだよ」
 「それで、何か見つけたのか」
 「ぬふふふふっ」
 差し出したのは瓶、栓の開いていないワインボトルだ。
 「おうっ、これは酒じゃないか、それも相当な年代物だ」
 「人間、お酒、好き」
 とりあえず昨夜のダメージは無いようだ、信頼されたのかもしれない。
 「お酒、楽し」
 クルクル回るとそのまま高台の本宅に駆け上がっていく。
 「待って、マヒメ、手伝うよ!」
 「これは気に入られたかな」
 ピィンッ パシッ ガラクタの中に見つけた金貨を指ではじいてポケットにしまう。
 
 エリクサーの迷路を抜けると小さな畑があった、芋や葉野菜が植えられている、トマト
もある。
 「マヒメ様も野菜を食べるのですね」
 ルイスは収穫用の籠を持たされていた、新鮮なビタミンが満載だ。
 「私、食べない、これ、思い出」
 「思い出?何のことですか」
 「ここに寝てる、愛しい、人」
 マヒメが指さした場所には小さな墓標があった。
 「ベリアル、野菜、好き」
 うわ言の名前、マヒメの思い人。
 この畑の作物は既に亡くなっている彼への供物。
 「その方は人間だったのですか」
 「ベリアル、人間、沢山食べる、楽し、愛し」
 「マヒメ様はいつからここに?」
 「いつから?……忘れ、た、ずっと、昔」
 「言葉はベリアルさんから教えてもらったのですね」
 「そう、ベリアル、教えた、お喋り、楽し」
 ベリアルの墓標の表面は風化している、その石の横は彼女の席だ、一人掛けの小さな椅子が置いてある、返事を返さない相手に一人語りを何年続けてきたのだろう、切なさがルイスの胸を締め付けた。
 人と久しぶりに話をしてベリアルを思い出したからなのか彼女は嬉しそうだ。
 ルイスは前を歩いていくマヒメの後ろ姿を見ながら眩しそうに眼を細めた、こんな気持ちで女性を見たのはいつぶりだろう、視界の焦点が彼女にしか合わない。
 エリクサーの花の香りが海風に乗って丘の小道に満ちている、まるで現世の狭間にいるようだ、いつまでも彼女の背を見ていたかった。
 
 春愁の迷路が永遠に続けばいい。

 本宅の煙突から煙が伸びていた、いい匂いが漂ってくる。
 「よお、帰ったか、お二人さん、待っていたぜ」
 ダーウェンが包丁を握り調理をしていた、既に食卓には皿が並び、火にかけられた鍋から至福の湯気が昇っている。
 「ダー、君は料理が得意なのかい?」
 「ああ、一流料理店で皿洗いのバイトを暫くやっていたんだ」
 「皿洗い?シェフじゃないの」
 「盗むのは得意なんだ」
 ダーウェンはお玉を片手にウィンクして見せた。
 「プーッ、あははははははっ」
 マヒナがお腹を抱えて大笑いし始めた。
 「ありゃ、そんなに可笑しかったか、まあいいや」
 
 三人で夕方までかかって料理を準備した、テーブルに乗りきらないほどの皿が並び、グラスには海底で眠りを貪っていたビンテージワインを叩き起こして満たした。

 「カンパーイ!」
 マヒメはワインが好きなようだ、口の中で噛み、鼻から空気を抜いて味と香りを楽しむ。
 「ほう、マヒメはワインの楽しみ方を知っているようだ」
 「それもベリアルさんから教わったの」
 「そう、彼、教えた、いろんな事」
 「ベリアル?マヒメの彼氏のことか」
 「たぶん、畑の横にお墓があったよ」
 「ルイ、ダー、ベリアル、同じ匂い、ナイスガイ」
 「ナイスガイ?はっは、嬉しいじゃないか、初めて言われたぜ」
 
 あまり食べ物を口にしないマヒメがこの日はよく食べて飲んだ。
 ダーウェンの料理の腕は確かだった、魚と野菜を煮込んだスープ、ジャガイモを潰して捏ねたニョッキにトマトのソース、焼きガニ、どれも美味かった。
 三人で五本目のヴィテージを抜いたころには嘘がつけないほどに酔っていた。

 「ふーッ、何か気持ち良くなってきた」
 「ルイ、お前見かけによらず酒強いなー」
 「うーっ、嬉し、楽し」
 「もうずっとここで暮らしたいよ、帰るところもないし、マヒメ様ぁ、僕をここに置いてくれませんかぁ」
 「だめっ、海の魔物、危ない、二人、死ぬ、だめ」
 「ヒッ、そんなぁ、僕割と強いんですよー、役に立ちますからぁ、村にいた時だって魔物退治して報酬貰っていたんですからー」
 「じゃあ、英雄じゃないか、なんで使い捨ての船員やっていたんだよ」
 「ダー、よく聞いてくれました、酷い話だよ、助けてあげたのに……村の奴らは僕を撃ったんだ、僕が……」
 「僕が?」
 「なんでもない……」
 「なんだよ、はぐらかすなよ、気になるじゃないか」
 「なんでもない、ちょっと酔った」
 「まあいいさ、言いたくないことだってある、でもマヒメ、ルイの言った事にも一理あるぜ、昨日みたいな事があるなら俺たち役にたつぜ」
 「だめ、昨日、新月、魔物、弱い」
 「満月、魔物、強い」
 「次の満月まで三週間だぞ、奴らがまた来るのか」
 「魔の海、漂流、もう少し」
 マヒメが薄く笑いながらグラスの端をなぞりながら呟く。
 「なあ、マヒメ、どうせなら魔の海を抜けるまで別の島にでも避難しとけばいいんじゃないか」
 「ダメ、私、離れない、守る」
 「守る?エリクサーをか、でもマヒメはそんなに必要ないだろ」
 「ダー、聞き過ぎたよ、だいたい君はどうなのさ、ほんとは冒険者でもないんだろ」
 「藪蛇になったか、お察しの通りだ、俺は確かに元子爵で海軍の士官だったが、気に入らない上官をブッ殺してムショ行きの囚人が本当のところだ」
 「殺したの?」
 「男が戦う理由はいつだって⦅コレ⦆のために決まっている」
 ダーウェンは小指を立てて、またウィンクした。
 「もう、どこまでが本当なのか分かんないよ」
 「ルイ、教えてやるよ、謎めいた男の方が女にはもてるんだぞ」
 「二人、ナイスガイ、いい男、好き」
 「ようし褒められついでに、一曲やるか」
 「一曲?ダーは何か音楽出来るの」
 「マヒメ、サバス バイラール セビィージャ?⦅セビジャーナス踊れるかい?⦆」
 「!!クラーロ⦅もちろん⦆」
 マヒメが立ち上がり目を輝かせた。
 「やっぱりな、そのギターを見た時からベリアルの出自が想像出来たぜ」
 「じゅあ、僕がカンテ⦅歌⦆とパルマ⦅拍手⦆打つよ」
 「おっと、ルイもバイラオール⦅男性の踊り手⦆だったか」
 「当然さ、僕の出身地の踊りだよ」
 「ようし、タブラオ・デリーバ(漂流)開店だ」
 「エストィ ムィ コンテンットォ!!⦅すっごい嬉しい⦆」
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