19 / 140
第19話 エースへの階段
しおりを挟む
ピッチャーというポジションは主役とも言える。
投球次第で試合は動く。
味方が攻撃で何点取ってもピッチャーが打たれ続ければ試合には勝てない。
そしてエースとはどんなピンチでも耐えて0点に抑えるもの。
祐輝は中村の背中を見ていた。
すました顔で投球してはまるで打たれずにアウトを3つ取ってベンチに戻ってくる。
「すげえな。」
「う、うん・・・さすが3年生。」
祐輝は健太と共に3年生の試合を見ている。
いつの日か自分があの場に立てるのかと不安にもなりながら立ってみたいという好奇心もあった。
佐藤コーチはチラリと祐輝を見た。
すると手招きしている。
脱帽して佐藤コーチの前に立った。
「中村の次。 お前行け。」
「えっ!?」
「洗礼を受けて来い。 大丈夫だ。 周りは3年生だ。 打たれても取ってくれる。 胸張ってこんかい!」
「はい!」
「雄太。 キャッチボールしてやれ。」
他人事の様に見ていた3年生の試合も次の守備が最終回。
エース中村は完投する事なく、祐輝に最後のマウンドを渡した。
突然の指名に緊張する祐輝は2年生の先輩雄太とキャッチボールする。
「大丈夫だよ。 自信持っていけ。」
「自信って言われても・・・」
「とにかくキャッチャーの構える所に思いっきり投げろ。 最初はそれで十分だよ。」
「はい。」
ベンチから少し離れた「ブルペン」というピッチャーが投球準備をするスペースでキャッチボールをして体を温めている。
ナインズの最終回の攻撃は終わり、最後の守備に入る。
佐藤コーチはベンチから体を乗り出して祐輝を指差してピッチャーマウンドへ行けと合図している。
祐輝はピッチャーマウンドに走った。
初めて見るマウンドからの景色。
周りを見るといつもは怖い3年生が笑顔で見ている。
「思いっきり投げてこい。」
「はい!」
そこは聖域の様に野球では神聖な場所だ。
グランド唯一土が盛り上がっている。
ピッチャーが投げやすい様になっている。
グランドでたった1人だけ。
人より高い場所にいるのだ。
守備に着く8人は3年生。
そのマウンドに1年生の祐輝は1人送り込まれた。
佐藤コーチからの洗礼か。
まだ変化球すら投げられない。
マウンドに立ってボールを握った。
前を見ると3年生のキャッチャーがうなずいている。
相手チームのバッターがバットを構えて祐輝の球を待っている。
大きく息を吸って。
大きく吐いた。
そして振りかぶり足を上げた。
その瞬間。
祐輝の中にあった緊張は消えて音すらも消えた。
キャッチャーだけがしっかり見える。
祐輝は力一杯投げ込んだ。
快音を鳴らしてキャッチャーミットに吸い込まれるストレートは周囲をどよめかせた。
「ナイスボール! そのまま投げてこい。 十分だ。」
1年生とは思えない力強いストレート。
相手のバッターも3年生だ。
最終回の守備。
アウトを3つ取ればナインズの勝利。
そして2球目。
キャッチャーは右バッターのインコースに構えた。
インコースとはバッターに近い位置だ。
反対にバッターから離れた位置をアウトコースという。
そしてインコースへの投球とは勇気のいる投球だ。
バッターに当ててしまうかもしれない。
そう思い、投球が甘くなり打たれる事も珍しくない。
2球目にして3年生キャッチャーはインコースを要求した。
「投げてみろ・・・」
祐輝は振りかぶって投げ込んだ。
シューッとボールが高速回転する音を出している。
バッターは祐輝のストレートに驚いて体を避けた。
「ボールワンッ!」
ピッチャーはキャッチャーに向かって3球ストライクを投げればアウトを1とつ取れる。
ストライクゾーンと言われる枠組みが決められており、審判の判断で枠組みにボールが通過すればストライク。
外れた場合はややこしいが「ボール」という判定を下される。
ボールは4球投げるとバッターは一塁に出てしまう。
ヒットを打たれた事と同じだ。
祐輝のストレートはボールとなったが強気な投球に3年生キャッチャーはうなずいていた。
「へっ。 楽しい・・・生まれて初めて思った。 野球楽しいな。」
父親の祐一と断絶関係になってでも始めた野球。
祐輝が初めて本当に楽しいと思った瞬間だった。
投球次第で試合は動く。
味方が攻撃で何点取ってもピッチャーが打たれ続ければ試合には勝てない。
そしてエースとはどんなピンチでも耐えて0点に抑えるもの。
祐輝は中村の背中を見ていた。
すました顔で投球してはまるで打たれずにアウトを3つ取ってベンチに戻ってくる。
「すげえな。」
「う、うん・・・さすが3年生。」
祐輝は健太と共に3年生の試合を見ている。
いつの日か自分があの場に立てるのかと不安にもなりながら立ってみたいという好奇心もあった。
佐藤コーチはチラリと祐輝を見た。
すると手招きしている。
脱帽して佐藤コーチの前に立った。
「中村の次。 お前行け。」
「えっ!?」
「洗礼を受けて来い。 大丈夫だ。 周りは3年生だ。 打たれても取ってくれる。 胸張ってこんかい!」
「はい!」
「雄太。 キャッチボールしてやれ。」
他人事の様に見ていた3年生の試合も次の守備が最終回。
エース中村は完投する事なく、祐輝に最後のマウンドを渡した。
突然の指名に緊張する祐輝は2年生の先輩雄太とキャッチボールする。
「大丈夫だよ。 自信持っていけ。」
「自信って言われても・・・」
「とにかくキャッチャーの構える所に思いっきり投げろ。 最初はそれで十分だよ。」
「はい。」
ベンチから少し離れた「ブルペン」というピッチャーが投球準備をするスペースでキャッチボールをして体を温めている。
ナインズの最終回の攻撃は終わり、最後の守備に入る。
佐藤コーチはベンチから体を乗り出して祐輝を指差してピッチャーマウンドへ行けと合図している。
祐輝はピッチャーマウンドに走った。
初めて見るマウンドからの景色。
周りを見るといつもは怖い3年生が笑顔で見ている。
「思いっきり投げてこい。」
「はい!」
そこは聖域の様に野球では神聖な場所だ。
グランド唯一土が盛り上がっている。
ピッチャーが投げやすい様になっている。
グランドでたった1人だけ。
人より高い場所にいるのだ。
守備に着く8人は3年生。
そのマウンドに1年生の祐輝は1人送り込まれた。
佐藤コーチからの洗礼か。
まだ変化球すら投げられない。
マウンドに立ってボールを握った。
前を見ると3年生のキャッチャーがうなずいている。
相手チームのバッターがバットを構えて祐輝の球を待っている。
大きく息を吸って。
大きく吐いた。
そして振りかぶり足を上げた。
その瞬間。
祐輝の中にあった緊張は消えて音すらも消えた。
キャッチャーだけがしっかり見える。
祐輝は力一杯投げ込んだ。
快音を鳴らしてキャッチャーミットに吸い込まれるストレートは周囲をどよめかせた。
「ナイスボール! そのまま投げてこい。 十分だ。」
1年生とは思えない力強いストレート。
相手のバッターも3年生だ。
最終回の守備。
アウトを3つ取ればナインズの勝利。
そして2球目。
キャッチャーは右バッターのインコースに構えた。
インコースとはバッターに近い位置だ。
反対にバッターから離れた位置をアウトコースという。
そしてインコースへの投球とは勇気のいる投球だ。
バッターに当ててしまうかもしれない。
そう思い、投球が甘くなり打たれる事も珍しくない。
2球目にして3年生キャッチャーはインコースを要求した。
「投げてみろ・・・」
祐輝は振りかぶって投げ込んだ。
シューッとボールが高速回転する音を出している。
バッターは祐輝のストレートに驚いて体を避けた。
「ボールワンッ!」
ピッチャーはキャッチャーに向かって3球ストライクを投げればアウトを1とつ取れる。
ストライクゾーンと言われる枠組みが決められており、審判の判断で枠組みにボールが通過すればストライク。
外れた場合はややこしいが「ボール」という判定を下される。
ボールは4球投げるとバッターは一塁に出てしまう。
ヒットを打たれた事と同じだ。
祐輝のストレートはボールとなったが強気な投球に3年生キャッチャーはうなずいていた。
「へっ。 楽しい・・・生まれて初めて思った。 野球楽しいな。」
父親の祐一と断絶関係になってでも始めた野球。
祐輝が初めて本当に楽しいと思った瞬間だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる