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第31話 歴代最高の高みへ
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最終日の朝。
体は痛い。
いつまでの眠っていたいほどに起きる事がダルい体で何とか起き上がると健太とエルドがせかせかと部屋の片付けをしている。
眠そうに目をこすりながら祐輝も片付けをして荷物をまとめ、宿舎を出た。
最後の練習。
なんとしても高田コーチの特訓を終えて全体練習に入りたかった。
そして早朝から祐輝は1人チームから離れて外野に向かった。
高田コーチは何も指示していない。
先輩達が準備運動をしてキャッチボールを始める中で祐輝は誰よりも早く外野で走り始めた。
思い返せば血反吐を吐く様な合宿だった。
陸上部顔負けの特訓に相撲部顔負けの食事量。
健太の方が遅れていたのに全体練習に入るのは健太が先だった。
エルドは変わらず少し走ると倒れ込んで日陰で休んでいる。
誰も支えがいなかった。
唯一支えと勝手に感じていたのは遠くから腕を組んでいる佐藤コーチが自分を見守ってくれているという錯覚だけだった。
もっとピッチャーとして成長したい。
そのために高田コーチに認めてもらう必要がある。
呼吸を荒くして走り続けるが高田コーチから何の指示もない。
既に何時間走ったのか?
太陽は登りきっている。
昼頃だろうか?
昼食はまだか?
この合宿では常に多く食いを強いられた。
昼のお弁当でも蓋が閉まらないほどに白米が詰め込まれていた。
合宿最終日もいよいよ昼になった。
山盛り弁当をかき込んで少しだけ休むと祐輝は1人グラウンドに戻って走り始めた。
誰もいないグラウンド。
外野の芝生を懸命に走る祐輝は陽炎の先にあるピッチャーマウンドを見ながら走っていた。
エースとして。
この先出会う選手はどんな者達なのか?
今頃彼らも血反吐を吐く様な特訓をしているのだろうか?
戦ってみたい。
そう胸を躍らせて灼熱のグラウンドを走った。
「おお!! いいねえ!」
「佐藤コーチ・・・」
「その根性だよ。 それがお前をエースへと押し上げるんだ。」
「はあ・・・はあ・・・」
「辛いか?」
「はあ・・・は、はい・・・」
鬼の様に冷酷で厳しい高田コーチ。
普段は厳しい佐藤コーチがまるで仏の様に優しく感じる。
辛いか?
辛いに決まっている。
いくら走っても認めてもらえず、健太は全体練習でエルドは休んでいる。
灼熱と孤独の中走っているのだ。
「辛いです・・・」
「それが乗り越えるって事なんだぞ! 男として、野球人として。 大人として。 乗り越えなくちゃならない壁ってのはたくさんあるんだぞ!」
「はい・・・」
「後少し踏ん張らんかい! 歴代でも最高のエースにならんかい! うちの息子よりもずっと根性みせんかい!!」
止まらないのだ。
人と話をする時は目を見て話せと佐藤コーチから教わった。
しかし見れないし止まらない。
涙がどうしても止まらないのだ。
佐藤コーチは汗だくの祐輝の頭をガシガシとなでるとグラウンドのベンチへと歩いていった。
「おーらお前らいつまで休んでるんだ!!! 1年坊主が必死に壁乗り越えようとしてんだぞ!! 先輩ならさっさと練習やって祐輝を励ましてやらんかいっ!!!!」
どうしてか。
佐藤コーチと話していると元気が出るし、とっても温かい気分になる。
これが愛情なのか。
母の真美がかけてくれる優しい言葉ではなく、厳しくも愛のある言葉。
言い方は違うが深い愛情を感じる。
これだから。
体が痛いのにこれだから。
走れるんだ。
「うわあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
帰りのバスの時間が迫っている。
残り1時間。
休む時間なんてない。
とにかく走るんだ。
「お疲れでーす!!!」
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
「3分以内。」
「はあ・・・はい・・・」
「3分以内に往復できれば終わり。 最後の1時間全体練習ねー。」
最初で最後のチャンス。
死ぬ気で走ったが疲労が限界まで達している祐輝の体は3分という壁を越えられなかった。
何度も挑戦したがタイムは悪化する一方だった。
「3分2秒ー! 残念もう一回!」
合宿は終わり先輩達は片付けをしている。
間に合わなかった。
祐輝の1年の合宿は終わった。
「まだ終わってない・・・」
「祐輝。 ラスト1本だけな。」
高笑いをしながら特訓をしてきた高田コーチはこの3日間で見た事がない表情だった。
真剣な眼差しで祐輝を見ている。
先輩達は着替えを始めている。
しかし祐輝は最後の1本だけ走ったのだ。
「2分57秒! お疲れ。 お前良く頑張ったな。」
「うう・・・ひっ・・・うう・・・」
「お前ならなれるよ。 最高のエースに。 今までここまで頑張ったやつはいないからな。 先輩達も1年の頃はへこたれていた。 本当に頑張ったな。」
高田コーチは最後に力強く握手をしてくれた。
全体練習には間に合わなかった。
だが。
乗り越えたのだ。
そして祐輝の1年生の合宿は幕を下ろす。
体は痛い。
いつまでの眠っていたいほどに起きる事がダルい体で何とか起き上がると健太とエルドがせかせかと部屋の片付けをしている。
眠そうに目をこすりながら祐輝も片付けをして荷物をまとめ、宿舎を出た。
最後の練習。
なんとしても高田コーチの特訓を終えて全体練習に入りたかった。
そして早朝から祐輝は1人チームから離れて外野に向かった。
高田コーチは何も指示していない。
先輩達が準備運動をしてキャッチボールを始める中で祐輝は誰よりも早く外野で走り始めた。
思い返せば血反吐を吐く様な合宿だった。
陸上部顔負けの特訓に相撲部顔負けの食事量。
健太の方が遅れていたのに全体練習に入るのは健太が先だった。
エルドは変わらず少し走ると倒れ込んで日陰で休んでいる。
誰も支えがいなかった。
唯一支えと勝手に感じていたのは遠くから腕を組んでいる佐藤コーチが自分を見守ってくれているという錯覚だけだった。
もっとピッチャーとして成長したい。
そのために高田コーチに認めてもらう必要がある。
呼吸を荒くして走り続けるが高田コーチから何の指示もない。
既に何時間走ったのか?
太陽は登りきっている。
昼頃だろうか?
昼食はまだか?
この合宿では常に多く食いを強いられた。
昼のお弁当でも蓋が閉まらないほどに白米が詰め込まれていた。
合宿最終日もいよいよ昼になった。
山盛り弁当をかき込んで少しだけ休むと祐輝は1人グラウンドに戻って走り始めた。
誰もいないグラウンド。
外野の芝生を懸命に走る祐輝は陽炎の先にあるピッチャーマウンドを見ながら走っていた。
エースとして。
この先出会う選手はどんな者達なのか?
今頃彼らも血反吐を吐く様な特訓をしているのだろうか?
戦ってみたい。
そう胸を躍らせて灼熱のグラウンドを走った。
「おお!! いいねえ!」
「佐藤コーチ・・・」
「その根性だよ。 それがお前をエースへと押し上げるんだ。」
「はあ・・・はあ・・・」
「辛いか?」
「はあ・・・は、はい・・・」
鬼の様に冷酷で厳しい高田コーチ。
普段は厳しい佐藤コーチがまるで仏の様に優しく感じる。
辛いか?
辛いに決まっている。
いくら走っても認めてもらえず、健太は全体練習でエルドは休んでいる。
灼熱と孤独の中走っているのだ。
「辛いです・・・」
「それが乗り越えるって事なんだぞ! 男として、野球人として。 大人として。 乗り越えなくちゃならない壁ってのはたくさんあるんだぞ!」
「はい・・・」
「後少し踏ん張らんかい! 歴代でも最高のエースにならんかい! うちの息子よりもずっと根性みせんかい!!」
止まらないのだ。
人と話をする時は目を見て話せと佐藤コーチから教わった。
しかし見れないし止まらない。
涙がどうしても止まらないのだ。
佐藤コーチは汗だくの祐輝の頭をガシガシとなでるとグラウンドのベンチへと歩いていった。
「おーらお前らいつまで休んでるんだ!!! 1年坊主が必死に壁乗り越えようとしてんだぞ!! 先輩ならさっさと練習やって祐輝を励ましてやらんかいっ!!!!」
どうしてか。
佐藤コーチと話していると元気が出るし、とっても温かい気分になる。
これが愛情なのか。
母の真美がかけてくれる優しい言葉ではなく、厳しくも愛のある言葉。
言い方は違うが深い愛情を感じる。
これだから。
体が痛いのにこれだから。
走れるんだ。
「うわあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
帰りのバスの時間が迫っている。
残り1時間。
休む時間なんてない。
とにかく走るんだ。
「お疲れでーす!!!」
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
「3分以内。」
「はあ・・・はい・・・」
「3分以内に往復できれば終わり。 最後の1時間全体練習ねー。」
最初で最後のチャンス。
死ぬ気で走ったが疲労が限界まで達している祐輝の体は3分という壁を越えられなかった。
何度も挑戦したがタイムは悪化する一方だった。
「3分2秒ー! 残念もう一回!」
合宿は終わり先輩達は片付けをしている。
間に合わなかった。
祐輝の1年の合宿は終わった。
「まだ終わってない・・・」
「祐輝。 ラスト1本だけな。」
高笑いをしながら特訓をしてきた高田コーチはこの3日間で見た事がない表情だった。
真剣な眼差しで祐輝を見ている。
先輩達は着替えを始めている。
しかし祐輝は最後の1本だけ走ったのだ。
「2分57秒! お疲れ。 お前良く頑張ったな。」
「うう・・・ひっ・・・うう・・・」
「お前ならなれるよ。 最高のエースに。 今までここまで頑張ったやつはいないからな。 先輩達も1年の頃はへこたれていた。 本当に頑張ったな。」
高田コーチは最後に力強く握手をしてくれた。
全体練習には間に合わなかった。
だが。
乗り越えたのだ。
そして祐輝の1年生の合宿は幕を下ろす。
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