青春聖戦 24年の思い出

くらまゆうき

文字の大きさ
109 / 140

第109話 千野と夏合宿

しおりを挟む
憧れの先輩の引退から早くも1ヶ月。


新体制となった野球部は夏の合宿へと向かっていた。


長野県の山奥で灼熱の中で行われる合宿は例年脱落者を出す過酷な練習が待っていた。


祐輝は既に野球ができない。


無理に過酷な練習に参加する事はなかったが、グラウンドに着くとそこには千野が待っていた。



「おお!!」
「あ、千野さん!!」
「1000本ノックやってやるよ。」




祐輝は練習の手伝いをするつもりだった。


しかし千野の誘いを断る気が起きなかった。


たまらず「お願いします」と大きな声で話した。


千野は早速バットを持ってきてノックを始めた。


言葉の通り1000本捕球するまで終わらない。


先輩の女子マネージャーがカウントする。


合宿開始15分後の出来事だった。




「じゃあ行くぞ。 捕らなきゃ永遠に終わらねえからな。」
「はい!!」




周囲でけんせー達が怯えながら見ている。


他の選手達は通常練習を始めている。


そんな中で千野のノックが始まった。


強打者としてチームを勝利に導いてきた千野が放つ打球は凄まじかった。


気温はなんと40度。


立っているだけで気を失いそうな温度の中で祐輝はユニフォームを泥だらけにしてボールへ飛びついていた。


仲間達が休憩を取る合間も祐輝と千野だけはノックを続けていた。




「頑張れ祐輝!!」




けんせーが声をかけると祐輝は少し嬉しそうにしていた。


それに続く様に大熊達も祐輝に声をかけていた。


休憩が終わり、練習に戻る時も仲間達が祐輝の背中をグローブでトンっとタッチしていく。




「はあ・・・はあ・・・みんなありがとう・・・」




既にノック開始から1時間。


体力は限界にまで来ていた。


だが瞳だけは千野をじっと見ていた。


ボールケースに入っているボールを全て打ち尽くすと一度休憩をした。


女子マネージャー数人がボールを拾っている僅かな時間だけ水を飲んでいられた。


すると千野が隣に来ると肩をポンポンと叩いて笑っていた。




「お前に初めてあった日のタイマンを思い出すな。」
「同じ事考えていましたよ。」
「俺は久しぶりに気に入ったやつが入ってきたって嬉しかったよ。」
「自分も初めて尊敬できる人に出会えましたよ。」




あの日の事は忘れない。


祐輝の中で眠る何かが戦いたがった。


しかし千野はあまりに強かった。


そして男としてここまで尊敬できる存在にも初めて出会えた。


やがてボールを拾い終えると2人は互いに離れていった。


祐輝は自分の肩に赤いシミができている事に気がついた。




「血か!?」




確かそこは千野が触った場所だ。


長時間バットを振り続けている千野の手は皮が剥けて血を流していた。


そんな表情見せる事なく励まして、またバットを握っている。




「本当に惚れるなあ・・・大変なのは俺だけじゃないって教えてくれたんですね。」




自分だけが大変だと思っていた。


周りを見ると灼熱の中で仲間達が一生懸命に練習をしていた。


前を見ると千野がバットを握っていた。


祐輝は少し微笑むと湧き出る力を抑えられずにいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

処理中です...