青春聖戦 24年の思い出

くらまゆうき

文字の大きさ
125 / 140

第125話 もう戻れない

しおりを挟む
体育教師は凛々しい表情で「じゃあやれ」とパイプ椅子に座ってじっと様子を見ていた。


するとけんせーは声を震わせて「もうやめよう」と話したが祐輝は聞く耳をもたなかった。


突き放して拳を振り抜こうとしたその時。


祐輝の腕を掴んだ体育教師が「後悔するぞ」と仲裁に入った。




「今の感情で暴れても後悔するぞ。」
「やれって言ったじゃないですか。」
「気が変わったんだよ。 お前の顔を見て俺は思ったぜ。 この拳は誰かのために振り抜いているってな。」




この体育教師の若い頃は地元じゃ誰もが彼の名を聞いて怯えるほどの不良だった。


何度も大暴れをした男で街での喧嘩も数えきれないほど行っていた。


祐輝の腕を掴む教師の力は50歳を手前にした中年の力ではなかった。



「まず落ち着いて話し合った方がいいんじゃねえか?」
「・・・・・・」
「それでも殴り合いたいならまた俺に言え。」




そして体育教師が2人を連れて次の授業のため教室へと歩いていったが、2人に会話はなかった。


やがて授業を終えて部活になっても仲間達までも口を開かなかった。


それも当然かもしれない。


最後の夏大会が出場停止になる所だったのだ。


仲間達は体育の授業でボールをぶつけていたのはふざけているつもりだった。


けんせーだけが嫌がらせでぶつけていた。


突如暴れ始めた祐輝に驚いた仲間達はけんせーを力の限り、殴る光景を見て愕然としていた。


沈黙の中で主将の大熊が「もう夏出られないかもな」と話していた。


あの体育教師が増田監督に話せば全て終わってしまう。


すると部室に増田監督が入ってきた。



「お前らどうした?」
「え?」
「練習しないのか?」



驚いた祐輝達は困惑しながらも学ランを脱いでユニフォームに着替えた。


体育教師は今日の出来事を何も話していなかった。


喧嘩を止めた不良生徒も今日の事を誰にも話していなかった。


暴力事件にならずに済んだのだ。


祐輝はその時感じた。



(もうガキじゃねえんだから・・・気をつけないと・・・)



確かにけんせーの行動はあまりに陰湿だった。


しかし祐輝の軽率な行動で野球部の全員が処分される所だった。


深く反省していたが、既に大熊達からの信頼は消えていた。


肩を怪我して野球のできない祐輝は完全に仲間から孤立した。


毎日の牛丼も唐揚げを誰が奢るのかというじゃんけん大会も全てなくなった。


皆が祐輝と目を合わせる事もなくなった。


だがその中においてけんせーは皆と騒いでいた。


まるで被害者の様に。


1人で帰る暗い夜道で祐輝の中で何かが変わり始めていた。




「友達なんていらねえ・・・結局裏切るんだ・・・一樹だって結局親のせいで離れていった・・・越田だって野球のために離れた・・・俺は1人なんだ・・・」




大切に思っていた仲間達は事の真実を聞いてはくれなかった。


そして祐輝も話すつもりもなかった。


間もなく夏の大会が始まるが、祐輝の心は冷たく冷え込んでいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...