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第131話 祐一とリカ

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春も過ぎて社会人へとなる頃だ。


キックボクシングとトレーナーを続ける祐輝は順調に社会人としての階段を登っていった。


アルバイトから正社員になった祐輝は仕事にも力が入っていった。


キックボクシングもアマチュアの試合などに出ていた。


充実した生活の中でリカと実家で暮らす奇妙な日々は続いた。


しかしそんな時だった。


祐一は「出ていけ」と声を上げながら祐輝の前に立っていた。




「もうガキじゃない。 家庭を持つなら出ていけ。」
「そうだね。」




19歳になった祐輝はリカを連れて出ていく準備を始めていた。


しかし急に資金は貯める事はできなかった。


リカに関しては無一文だ。


祐一は「金出すから出ていけ」とまで言っていたが祐輝は断り続けていた。




「借りは作りたくない・・・」
「家にいさせてやっているんだ。 十分借りだぞ。 金出すからいくら必要なんだ?」




もはやこの2人に親子としての信頼なんてものはなかった。


他人同士とも言える冷え切った会話の中でも祐一は金を出すと言い続けていた。


しかし祐輝は最後まで断り続けてた。


だがそれは状況を更に悪くする内容だった。


祐一は連日リカに嫌がらせをする様になった。


仕事を終えて家に帰るとリカが部屋の済で小さく丸まって座っていた。



「どうした?」
「ごめんね・・・私邪魔だよね?」
「そんな事ないよ。」




静かに夜の新宿を見つめながら涙を流すリカは声を震わせながら「お父さんに消えろって言われた」と泣いていた。


祐一は祐輝がいない時間帯にリカの元へ来ると暴言を吐き散らかしていた。


だが祐一からすればよそ者が家に転がり込んだ様なものだ。


攻撃をしてくるのも当然なのかもしれない。


祐輝は静かにリカの肩をさすると遠くを見ていた。




「もう少しで引っ越せるから・・・」
「うん・・・」




今は耐えるしかなかった。


リカは安心したのか直ぐに眠った。


祐輝は1人で屋上へ向かった。


新宿の街を見下ろしてため息をついていた。





「本当にこれが正解なのかな・・・」




リカを守る理由は自分にとって何を意味しているのか。


だが不思議と放っておけなかった。


ただ街で出会っただけのリカにどうしてそこまで思い入れをしてしまうのだろうか。


不思議そうな表情を浮かべて夜空を見ていた。




「でもアヤノの惨劇はもう見たくない・・・関わってしまったのも運命なんだろうなあ・・・」




大切な友人だった。


いつの日か付き合おうと思っていたがけんせーの元へ行ってしまった。


だがそれでもアヤノが幸せならと我慢したが、それが間違いだった。


結果としてアヤノはもう手が届く場所にいなかった。


この透き通る様に美しい夜空の下のどこかでアヤノはまた、快楽に浸っているのだろうか。


祐輝はそう考えると虚しさと悔しさで震えた。




「もう誰かに任せる事はできない。 リカだって放っておけばアヤノと同じ事になる。 母ちゃんは女は強いって言っていたけど・・・俺はそうは思わない・・・」




そして祐輝は眠るのだった。
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