青春聖戦 ２４年の思い出

第134話 崩れ行く人生

「妊娠した･･･」



それはリカが突然話した事だった。


しかし祐輝には心当たりがなかった。


眉間にシワを寄せていた祐輝を見たリカは「降ろす」と口にした。


祐輝はその言葉に怒りをあらわにした。




「簡単にそんな事言うな･･･」
「産めばいいの？」
「できちゃったなら産むしかないよ。　命は大切だからな。」





恐らく祐輝の子供ではない。


だが祐輝は気にもしていなかった。


というよりはリカに問いただす事が怖かった。


やたら降ろしたがるリカの態度のおかしさも気になっていたが聞く事はできなかった。


そして祐輝はリカと結婚した。


だがこの事で祐一の怒りは頂点に達した。




「出ていけ！！」
「リカに触るな。」




自社ビルの６階で暮らしていた祐輝とリカ、そして真美と千尋。


７階で愛犬と祐一が暮らしていた。


これは祐輝が中学生の頃に断絶関係となった事がきっかけだった。


妊娠をしたリカと未熟な祐輝をいきなり追い出す事はできない。


真美はそう考えていた。


そして真美はある決断をした。


祐輝と祐一を呼び出すと覚悟を決めた様な表情をしていた。


千尋は既に海外留学へ行っていた。


修羅場の様な空間で静かに始まった家族会議はまるで冷戦の様だ。




「あのね･･･祐輝とリカは７階に行きなさい･･･」
「なんだと？　出ていけと言ったはずだ。」
「妊娠しちゃったんだからもう無理よ。　産ませてからにしないと･･･」




祐一は不満で仕方ないといった表情だった。


しかし真美の説得もあり、祐一は静かにうなずいた。


だがこれは真美と祐一が２人で６階に暮らすという事だ。


祐輝は考えるだけで気を失いそうだった。


しかし真美の決意は固かった。




「あんたには幸せになってほしい･･･」




真美の言葉はいつも真実だった。


自らを犠牲にしてでも祐輝のためを思っていた。


自分の不甲斐なさに絶句している祐輝の背中を優しくさすっていた。


だが祐輝も苦しんでいた。





（女の子を大切にしなさいって教わった･･･でもこれは間違えている気がする･･･俺の子供じゃない･･･リカは怪しい･･･）




かつてミズキを大切にできなかった。


結果としてミズキを失った。


そして高校で出会ったアヤノも大切にできなかった。


アヤノは別人の様に快楽に狂う日々を送ってしまった。


祐輝は女性を大切にしようと決めた矢先に現れたのがリカという悪魔だった。


狡猾に祐輝の心に入り込むと住処まで手に入れた。


長野で一体何をしていたのか。


祐輝に襲いかかってきた中年男性は騙されたのではないか。


部屋で黙り込む祐輝の隣で心配そうに見つめるリカは何を心配しているのか。




「これでいいのかな･･･」
「え、何が？　産めって言ったじゃん！！」
「お、俺の子供じゃないだろ･･･」
「はあ。　もういい。　生きてるの辛い。　結局男なんてみんなそんな事言うんだ･･･」




ベランダを開けると手すりの座ったリカは「死ぬ」と小さく話すと今にも飛び降りそうになっていた。