青春聖戦 24年の思い出

くらまゆうき

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第135話 産まれてくる子供

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リカの自殺を食い止めた日を堺に祐輝は一切意見を言わなくなった。


そして月日が流れ、出産の時を迎えた。


入院するリカは個人部屋を求めていた。


費用がかかるが決して譲る事はなかった。




「はあ・・・」




リカが入院すると祐輝は長らく感じる事のなかった解放感に包み込まれた。


7階の部屋をまるで子供の様に走り回っていた。


そして屋上に行くと甲高い声を上げて歓喜していた。




「本当にこれでいいのか・・・」




だがリカという女の恐ろしさはこんなものではなかった。


やがて陣痛が始まり、病院へ駆け込むとリカの悲鳴が聞こえていた。


祐輝は心配そうにその時を待っていた。


やがて新たな生命の唄が病院に響いた。


祐輝は看護師に案内されるまま、新たな生命を抱きかかえた。




「元気な男の子ですよ。」




一生懸命泣いている子供を見た祐輝の中で駆け巡ったのは真美譲りの愛だった。


本当に我が子なのかはわからない。


だがこの世界へ産み落とされた小さな生命の声を聞いていると見捨てる事はできなかった。




「俺の子だ・・・」




祐輝は息子を「玲」と名付けた。


そして我が子とリカはしばらく入院すると家に戻ってきた。


リカが酷く散らかしていた部屋も新居の様に綺麗に片付いていた。


玲を迎える準備を整えていた。


しかしリカはその日を堺に更に凶暴性を覗かせていた。


家に帰ると服を脱ぎ捨てて風呂に入っていった。


風呂場から「ミルクあげて」と声を上げている。


祐輝は玲を丁寧に抱きかかえるとミルクを飲ませた。


小さな口で一生懸命にミルクを飲む玲の愛おしさは祐輝の心を支えていた。




「俺の息子だ。」





リカは風呂から出てくると早速ベランダに出てタバコを吸い始めた。


玲には目もくれていない。


ミルクもおむつも全て祐輝が行った。


次の日になり、仕事から戻った祐輝が家に帰ってくると泣き叫ぶ玲がベットに置かれていた。


おむつからは排泄物がはみ出していた。




「一回も変えてないのかよ・・・」




祐輝は急いでミルクを作るとおむつを変えていた。


抱きかかえると優しくミルクを飲ませていた。


すると安心したのか玲は直ぐに眠った。


そんな日々が続いた。


大好きなキックボクシングにはもう行けなくなっていた。


行けば玲は何時間も放置されてしまう。


祐輝の楽しみはまた一つ消えた。


キックボクシングの実力は確かで間もなくプロとして試合ができそうだった。


しかしここにチャンピオンの夢は消えた。





「大丈夫・・・お前がいてくれれば・・・」





眠る玲の寝顔を見つめる祐輝は必死に生きていた。


リカを受け入れたばかりに。


だが産まれてきた玲は懸命に生きている。


自分が逃げるわけにはいかない。


そう自分に言い聞かせて今日も生きていた。
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