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1章

第13話

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「お久しぶりですね、ゼルヴィーサ様。可能ならば、気配を消して後ろから声をかけるのはやめて頂きたいのですが。」
「そう言いつつも、驚いていないではありませんか。貴女のことですから、私が近付いてきていたことに、気付いていたのでしょう?」


結っていてもなお腰ほどもある長い青髪に、透き通った空のような瞳。彼の名前はゼルヴィーサ・ベレンア。ベレンア公爵家の長子であり、ライラの手帳に書かれていた通り真面目な方ね。
魔法の腕が現在の王国随一と言われていて、属性は水しか使えないけれど、魔力量は私より遥かに多いわね。水魔法の最上位魔法も使えるのだとか。
そしてゼルヴィーサ様は学園で4位の成績を収めている。私が3位だからかは分からないけれど、とてもライバル視してくるのよね…。しかしそれと同時に良き友人でもあるので、仲が悪いわけではなかった。


「確かに、気付いていないと言えば嘘になりますね。とはいえ、そもそも視線を送ってきていたのはゼルヴィーサ様ですよね?」
「はははっ、それもそうですね。まぁそれは置いておくとして…、貴女の妹はどのような魔法を使っているのですか?光魔法にも魅了系の魔法があるのです?それとも他に何か秘密が?」
「質問攻めにされても分かりませんよ…。」


正直に言って、分からないものは分からない。ゼルヴィーサ様は何か魔法を使っているのではと疑い、興味津々のご様子だけれど…。
そういえばメリーア様が仰っていた。

『ヒロインのライラは、誰もが振り向き庇護したくなるような愛らしさと美しさがあり、彼女の味方をしようと思ってしまう光のオーラを纏っている……、とゲーム内で書かれていたわ。』

……メリーア様の言葉通りにこの世界でもなっているならば、パーティーに出席している貴族達は自身の知らぬ間に、ヒロインライラのオーラに魅了された状態になってしまっているのでしょう。
これはきっと魔法などではなく、この世界の根幹たる力が関わっているように思えるわね…。


「……ゼルヴィーサ様には、ライラがどのように見えていますか?」
「それは彼女本人を、ですか?それとも……」
「勿論、違う方の意味です。そのご様子だと、何か見えているのでしょう?」
「…彼女の周囲には、何か魔力とは違うものを感じますね。魅了魔法の1種かと思っていましたが、少し近付けば魔力や魔法によるものではないと分かったので気になっているのですよ。」


やはり魔法や魔力ではない…。
しかしゼルヴィーサ様でも分からないとなると、人々を魅了させる理由を知る術は無きに等しいわね。『不思議な力』と結論付ける他ないのでしょう…。


「光のオーラ……とでも言うのですか。何か言い知れぬ力がありますね。」
「言い知れぬ力…。」
「これは私の推測ですが、彼女より魔力量が少ない者ほど影響を受けているように思えます。或いは自身の意思が薄弱な者もですね。」
「そう言われてみれば…。」


そう思って周囲を見渡すと、ライラに近寄っていない貴族は魔力量が多いか気が強い方々ばかり。それに意思が薄弱な者と言っても、普通の人も影響があるのでしょう。本当に芯の強い人のみが彼女の力に惑わされないようね。ゼルヴィーサ様の推測通りなのかもしれない。
とはいえ、ライラの纏うオーラのようなものが見えているのは極小数でしょう。味方を作る際は十分に吟味する必要がありそうね。
今こちらに向かって来ている“彼”は、どう考えてもこちらの味方にはならなさそうなのだけれど──
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