【完結】勇者と国王は最悪。なので私が彼らを後悔させます。

凛 伊緒

文字の大きさ
9 / 16

9話

しおりを挟む
「エギュアス殿。」

「急に……ってもういいや。今回は気付けなかったぜ。」

「そう。私もまた一段階、強くなれた気がするわね。」

「それ以上強くなったら、お前を止められるもんはいねぇだろうな。」

「世界は広いから分からないわよ?」

「よく言うぜ。それで、何用だ?」

「勇者ゼイス一行が、魔族領に入ったわ。それを伝えに来たの。」

「ほう?俺でも気付いていないのだが?」

「お粗末な不可視化の魔法を使って、『三軍』の監視をすり抜けたようね。というより、防壁を飛び越えた様子。」

「中々やるようだな。それで、今はどこにいるんだ?」

「真っ直ぐに魔王城へと向かってきているわ。でも正面の入口ではなく、窓を割って侵入しようというつもりかしら。私からアレーユに伝えておきましょう。」

「頼んだ。そういえば、シェルアは勇者パーティーとは因縁があるんだったな。」

「ええ……。」

「お前が戦って構わん。生かすも殺すも、お前の自由としよう。」

「ありがとう……良いのかしら?」

「無論だ。俺はまだ、勇者と会ったことすらないからな。攻撃してくるなら用事はしないが、今は何もされていない。奴らが侵入してきた時は、相手してやれ。」

「……感謝するわ。でも私は貴方と一緒で争いを望まない。実力差を分からせたら、友好を取るように働きかけるつもりよ。」

「それはありがたいな。だが勇者がお前を恨むようにならないか?」

「その時はその時よ。だけど師匠から復讐はするなと言われているし、殺すことはしない。」

「分かったぜ。だが俺と戦闘になったならば……。」

「そうなったら、私は目を瞑るわ。それに、私が手を下すわけじゃないから問題ないわよ。」

「了解した。今回の対応については、頼んでおく。」

「ええ。ではまた後で。」


私は瞬間移動にて、アレーユの近くに移動した。
驚きの声が聞こえたが、気にせずアレーユの元へ向かう。
王城内を巡回しているようだ。


「アレーユ。」

「こっ、これはシェルア総軍団長様!」

「いきなり来てごめんなさいね。少し頼みがあるの。」

「何でしょうか。」

「実は、もうすぐ西側から侵入者が来るわ。この場所で待機していれば、不可視化の魔法をかけた5人組と鉢合わせするはずよ。」

「不可視化…ですか。」

「私を基準にしないで。奴らの魔法はお粗末なものよ。貴女でも簡単に見破れるわ。けれど部下達には見えないでしょうね。」

「分かりました。侵入者は、私が軍団長として相手をしましょう。」

「頼んだわ。もしもの時は、私も参戦させてもらうわね。」

「承知致しました。」


そう短くやり取りをした後、私は自室へと戻り探知系の魔法にて、勇者パーティーの動向を確認する。
まさに今、窓から侵入した瞬間だった。
そして入口の方へ向かったかと思うと、攻撃魔法を撃ち、足止めをした。


「なるほど……考えたわね。確かにこれで増援は難しくなる。でもその通路を進めば、軍団長の一人、アレーユがいるわよ。ふふっ、ようやくね。ようやく、お前と戦える……。」


もしシェルアの周りに誰かいたならば、背筋が凍る思いをしただろう。
それほどまでに低い声と睨みつけるような眼光で、勇者ゼイスを魔法越しに見ていた。
そしてついに……


「アレーユが負けたわね…。いい勝負になると思っていたのだけれど、以前よりかなり実力を上げた様子。とはいえ、私やエギュアス殿の相手には欠けるわね。」


私は瞬間移動でアレーユの後ろに移動する。
歩いていき、影で隠れている私の姿が見えてくると同時に、勇者の顔が引き攣っていった。


「アレーユ。負けてしまったのね。回復魔法をかけるわ。」

「ありがとうございます。申し訳ありません。私の不覚にございます……。」

「下がって良いわよ。部下達を連れて、警戒にあたりなさい。これは命令よ。」

「承知致しました。総軍団長シェルア様。」


アレーユは部下を連れて走り去っていった。
この場には、私と勇者パーティーの6人のみとなる。
アレーユの部下に抑えられていた4人も、何事も無かったかのように立ち上がる。
メーシアが回復魔法をかけたようだ。


「シェルア……貴様っ!」

「お久しぶりですね、勇者様?」

「総軍団長だと?!」

「もう貴方には、敬語も敬称も必要ないわね。私は既にあの国の者ではないし、お前に楯突いたとしても家族すらこの世にいない私には、奪われるものはもうないのだから。」

「何だと?」

「魔王エギュアス殿は私の実力を認めてくれたのよ。お馬鹿な誰かさんと違ってね。」

「言わせておけば次々と……。」

「今の私は、魔族領『総軍団長』シェルア。お前とはそもそも敵対している。立ち向かって来ると良い。それとも逃げるか?」

「はあ?手前如きに、俺が逃げるとでも?初級魔法しか使えないカス魔法使い相手に、背を向けるとでも思っているのか!?はあぁぁぁ!!」


剣を振り上げながらこちらに向かってくるゼイスに対し、私は瞬間移動で他のパーティーメンバー達の前に立つ。
そして拘束魔法で動きを封じた。


「その魔法は動くと痛いわよ。茨だもの。棘が刺さってしまうから、極力動かない方が身のためね。」

「貴様……今どうやって俺の前から移動した…!?」

「瞬間移動だけれど、分からなかったのかしら?」

「なっ……瞬間移動だと!?何故貴様如きが、上級魔法を扱える!?」

「あら?いつ私が『初級魔法しか使えない』、なんてことを言ったのかしら。」

「何だと……?」

「Aランク程度、私は初級魔法で倒せるの。お前に花を持たせてやるためだけに、私はわざわざ動きを止める攻撃のみを使っていた。私の攻撃魔法を見たことは一度もないわね。見せてあげる。『炎弾』。」

「舐められたもんだな。初級魔法の『炎弾』くらい、防御出来……うわあぁぁ!!」


私の魔法により、ゼイスは吹っ飛んだ。
ゼイスの後ろで拘束していたパーティーメンバー達には、結界を張っていたので被害はない。
そして起き上がれずに苦痛に顔を歪ませている。


「貴様ぁっ!」

「惨めね。自信満々だったくせに。実力差は身をもって分かったでしょう。お前達全員を、瞬間移動で隣国まで送ってあげるわ。命までは取らないでおくとしましょう。」

「くっ…!」

「それと、一つ教えてあげるわ。私は魔王エギュアス殿と一対一で戦えるの。自分達の弱さを、然と覚えておくことね。ではまたいつか。」


私は勇者パーティー全員を転移させた。
否、2人だけ残していた……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

クゥクーの娘

章槻雅希
ファンタジー
コシュマール侯爵家3男のブリュイアンは夜会にて高らかに宣言した。 愛しいメプリを愛人の子と蔑み醜い嫉妬で苛め抜く、傲慢なフィエリテへの婚約破棄を。 しかし、彼も彼の腕にしがみつくメプリも気づいていない。周りの冷たい視線に。 フィエリテのクゥクー公爵家がどんな家なのか、彼は何も知らなかった。貴族の常識であるのに。 そして、この夜会が一体何の夜会なのかを。 何も知らない愚かな恋人とその母は、その報いを受けることになる。知らないことは罪なのだ。 本編全24話、予約投稿済み。 『小説家になろう』『pixiv』にも投稿。

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

お飾りの聖女は王太子に婚約破棄されて都を出ることにしました。

高山奥地
ファンタジー
大聖女の子孫、カミリヤは神聖力のないお飾りの聖女と呼ばれていた。ある日婚約者の王太子に婚約破棄を告げられて……。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

処理中です...