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10話
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「ガネン、ラディナ…。」
私はガネンとラディナだけを残した。
話をしておきたかったからだ。
この2人だけは、いつでも私に優しかった。
ゼイスの目を盗んで、私を励ましてくれた友人。
それに、私と会ってからずっと俯いたままだったので、言いたいことがあるのだと思った。
「ごめんなさいね。敵対することになってしまって。」
「ううん、良いの。シェルアが決めた事だし、私に口を出す権利はないもの。それとね、謝りたかったの。いつも見て見ぬふりをしてしまってごめんなさい。追放されたくなくて……言い訳だって分かってる。分かってるけど……。」
「僕からも謝らせてほしい。ゼイスの行いに目を瞑っていた。」
「気にしないで。2人は悪くないわ。それにしても、新しい子が入ったようだけれど、大丈夫なの?」
「大丈夫かと言われれば、大丈夫だな。」
「そうね…。彼女は異空間収納を使えるからとゼイス様が連れてきたの。それに、攻撃魔法の威力も他の魔法使い達より高いから、今は何もされていないわ。」
「そう……それは良かった…。」
「優しいんだね…シェルアは。」
「……。」
「今後どうするつもりなんだ?ゼイスに知られた以上、国王には伝わる。それに、人族が魔族に味方したなんて事が広まれば、どうなることか……。」
「それについては、考えがあるの。」
「考え?」
私は人族が魔族に手を出さないようにさせると伝えた。
今の私の居場所はここだ。
私が魔王と共に、魔族領の人族に対する恐怖の象徴となる。
勇者すら勝てないということも分からせる。
そうすることで、人族への牽制を行いつつ、出来ることならば友好を選ばせるようにするのだ。
それが私の考えだった。
「友好……それが実現すれば、世界はもっと良い方向になるに違いないと思う。」
「僕も同意見だ。手伝えることはあるかい?」
「これは私が一人で決めた事よ。魔王エギュアス殿とも話し合って、これからの方針を考えるわ。ガネンとラディナは、今まで通りゼイスと行動を共にしていて。私と繋がっていることが知られてしまえば、国王に何をされるか分からないから…。」
「力になってあげられなくてごめんなさい…。私達が自分の身も守れないほど、弱いから……。」
「そんな事はないわ。気持ちだけでもありがたいの。2人に危険な真似はしてほしくないもの。そろそろお別れの時間よ。ゼイスから少し遠ざけた位置に転移させるわね。転移先が違う場所だったと伝えれば良いわよ。」
「「ありがとう。」」
「またいつか、ゆっくりお話しましょうね。」
私はガネンとラディナに笑いかける。
そして2人を転移させた。
ゼイスの行動を魔法にて監視していると、ガネンとラディナに合流した様子。
2人はゼイスを探していたと嘘の演技をし、それを信じ込んだようだ。
「あら?行商人が一人、ゼイスに気付いたようね。しかもあの行商人は口が軽いから、言いふらしてくれるはず。」
『勇者ゼイス様!もうお戻りになられたのですか?!まさか魔王を…。』
『いや、忌々しい魔法使いに邪魔をされたのさ。』
『魔法使いに邪魔…ですか?』
『そうだぜ。クソ魔法使いシェルアが、魔族側の総軍団長だった。やつが俺らをここまで転移させ、邪魔したんだよ!クソっ!』
『シェルアと言いますと、英雄エルザーム様の養子の方でしょうか。』
『ああ、そいつだ。』
『なんと!かの方が魔族側についたのですね。』
『全く、忌々しい野郎だ……!』
「--これで広まるわね。さて、1週間後には隣国で私の存在と師匠の事を公にしようかしら。その前に魔王殿に報告しておきましょうか。」
私は魔王エギュアス殿がいる玉座の間へと転移した。
今回は扉の前にしておいた。
急に現れた私に対し魔族の兵が武器を構えるが、顔を見るなり慌てて頭を下げた。
そして彼らは巨大な扉を開ける。
私は玉座に座る魔王エギュアス殿の元へ、一直線に歩いていく。
「やはりシェルアだったか。」
「ええ。これからは扉の前に転移するようにしようと思って。」
「何故だ?それだと扉から入って玉座まで歩く手間が増えると思うが?」
「それくらい構わないわ。それに、考えがあるの。」
「考え?」
「私が直接この場に転移してきた場合は、急用だと思ってほしいの。」
「確かに、それは良いかもな。扉から入ってくるか直接かで用件の重要さが分かるわけだ。」
「その通りよ。」
「それで、用件は何だ?まさか、それだけじゃないだろう?」
「当たり前じゃない。勇者達を隣国へと転移させたわ。」
「みたいだな。殺さなくてよかったのか?」
「前にも言ったけれど、私は復讐したいわけじゃないわよ。」
「そうだったな。だがお前が魔族側についたということは、人族達に知られると思うが。」
「そうね。噂となって広がるでしょう。そこで、1週間後に全てを公にするわ。国王による、師匠の事も……全て…ね。」
「分かった。好きにするといいさ。魔族領に危険が及ばないのならばな。」
「安心して。ここは今の私にとっての大切な守るべき場所だもの。危険に晒すような真似はしないし、そうなったとしても私がなんとかするわ。」
「それは心強いな。では好きに動くと良い。1週間後ならば噂も十分に広がっているだろうからな。」
「ええ。用件はそれだけよ。ではまた。」
私は転移で自室へと戻った。
そして、1週間後に備えることにした。
私はガネンとラディナだけを残した。
話をしておきたかったからだ。
この2人だけは、いつでも私に優しかった。
ゼイスの目を盗んで、私を励ましてくれた友人。
それに、私と会ってからずっと俯いたままだったので、言いたいことがあるのだと思った。
「ごめんなさいね。敵対することになってしまって。」
「ううん、良いの。シェルアが決めた事だし、私に口を出す権利はないもの。それとね、謝りたかったの。いつも見て見ぬふりをしてしまってごめんなさい。追放されたくなくて……言い訳だって分かってる。分かってるけど……。」
「僕からも謝らせてほしい。ゼイスの行いに目を瞑っていた。」
「気にしないで。2人は悪くないわ。それにしても、新しい子が入ったようだけれど、大丈夫なの?」
「大丈夫かと言われれば、大丈夫だな。」
「そうね…。彼女は異空間収納を使えるからとゼイス様が連れてきたの。それに、攻撃魔法の威力も他の魔法使い達より高いから、今は何もされていないわ。」
「そう……それは良かった…。」
「優しいんだね…シェルアは。」
「……。」
「今後どうするつもりなんだ?ゼイスに知られた以上、国王には伝わる。それに、人族が魔族に味方したなんて事が広まれば、どうなることか……。」
「それについては、考えがあるの。」
「考え?」
私は人族が魔族に手を出さないようにさせると伝えた。
今の私の居場所はここだ。
私が魔王と共に、魔族領の人族に対する恐怖の象徴となる。
勇者すら勝てないということも分からせる。
そうすることで、人族への牽制を行いつつ、出来ることならば友好を選ばせるようにするのだ。
それが私の考えだった。
「友好……それが実現すれば、世界はもっと良い方向になるに違いないと思う。」
「僕も同意見だ。手伝えることはあるかい?」
「これは私が一人で決めた事よ。魔王エギュアス殿とも話し合って、これからの方針を考えるわ。ガネンとラディナは、今まで通りゼイスと行動を共にしていて。私と繋がっていることが知られてしまえば、国王に何をされるか分からないから…。」
「力になってあげられなくてごめんなさい…。私達が自分の身も守れないほど、弱いから……。」
「そんな事はないわ。気持ちだけでもありがたいの。2人に危険な真似はしてほしくないもの。そろそろお別れの時間よ。ゼイスから少し遠ざけた位置に転移させるわね。転移先が違う場所だったと伝えれば良いわよ。」
「「ありがとう。」」
「またいつか、ゆっくりお話しましょうね。」
私はガネンとラディナに笑いかける。
そして2人を転移させた。
ゼイスの行動を魔法にて監視していると、ガネンとラディナに合流した様子。
2人はゼイスを探していたと嘘の演技をし、それを信じ込んだようだ。
「あら?行商人が一人、ゼイスに気付いたようね。しかもあの行商人は口が軽いから、言いふらしてくれるはず。」
『勇者ゼイス様!もうお戻りになられたのですか?!まさか魔王を…。』
『いや、忌々しい魔法使いに邪魔をされたのさ。』
『魔法使いに邪魔…ですか?』
『そうだぜ。クソ魔法使いシェルアが、魔族側の総軍団長だった。やつが俺らをここまで転移させ、邪魔したんだよ!クソっ!』
『シェルアと言いますと、英雄エルザーム様の養子の方でしょうか。』
『ああ、そいつだ。』
『なんと!かの方が魔族側についたのですね。』
『全く、忌々しい野郎だ……!』
「--これで広まるわね。さて、1週間後には隣国で私の存在と師匠の事を公にしようかしら。その前に魔王殿に報告しておきましょうか。」
私は魔王エギュアス殿がいる玉座の間へと転移した。
今回は扉の前にしておいた。
急に現れた私に対し魔族の兵が武器を構えるが、顔を見るなり慌てて頭を下げた。
そして彼らは巨大な扉を開ける。
私は玉座に座る魔王エギュアス殿の元へ、一直線に歩いていく。
「やはりシェルアだったか。」
「ええ。これからは扉の前に転移するようにしようと思って。」
「何故だ?それだと扉から入って玉座まで歩く手間が増えると思うが?」
「それくらい構わないわ。それに、考えがあるの。」
「考え?」
「私が直接この場に転移してきた場合は、急用だと思ってほしいの。」
「確かに、それは良いかもな。扉から入ってくるか直接かで用件の重要さが分かるわけだ。」
「その通りよ。」
「それで、用件は何だ?まさか、それだけじゃないだろう?」
「当たり前じゃない。勇者達を隣国へと転移させたわ。」
「みたいだな。殺さなくてよかったのか?」
「前にも言ったけれど、私は復讐したいわけじゃないわよ。」
「そうだったな。だがお前が魔族側についたということは、人族達に知られると思うが。」
「そうね。噂となって広がるでしょう。そこで、1週間後に全てを公にするわ。国王による、師匠の事も……全て…ね。」
「分かった。好きにするといいさ。魔族領に危険が及ばないのならばな。」
「安心して。ここは今の私にとっての大切な守るべき場所だもの。危険に晒すような真似はしないし、そうなったとしても私がなんとかするわ。」
「それは心強いな。では好きに動くと良い。1週間後ならば噂も十分に広がっているだろうからな。」
「ええ。用件はそれだけよ。ではまた。」
私は転移で自室へと戻った。
そして、1週間後に備えることにした。
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