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最終話
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人族と魔族の会談から1ヶ月が過ぎた。
この1ヶ月間は、私も魔王の側近として様々な国へ赴き、人族と魔族が共存する為に動き回っていた。
国と魔族領の間に条約が締結され、お互いに平和が訪れていた。
『相互和平条約』という名で、あらゆる国と魔族領で締結した。
人族の国へ魔族が入国し始めた頃は恐れられていたが、1ヶ月も経った今ではすっかりと慣れ、話が弾んでいる様子があちらこちらに見えている。
魔族に対する恐怖心はほぼ消え、魔物が現れた際も討伐してくれるなど、感謝される存在となりつつあった。
「はぁ~……。」
「疲れているな、シェルア。」
「当たり前よ。慣れないことをしたんだもの。まぁでも、共存出来るようになって良かったわ。」
「そうだな。これも全て、お前のお陰だぞ。ありがとう。」
「私は自分の望みを叶えただけよ。」
「だがお前が勇者すら倒せる存在だと知らしめ、他国の王達を脅していたからこそ、交渉が可能になった。先日の会談でも、私よりもシェルアを見て怯えていたぞ?」
「私はエギュアス殿が人族と会談を行えるようにする為、国王や皇帝に少し話をつけていただけよ。脅しだなんて心外だわ。」
「くははっ!間違ってねぇだろ。だが、本当に感謝している。シェルアが動いたからこそ、魔族にも平和が訪れた。」
「……師匠の夢だったもの。」
「エルザームの?」
「ええ。エルザーム師匠は、人族も魔族も手の取り合える平和な世界を実現したいと言っていたわ。英雄ということを利用して、魔族との架け橋になれないかずっと考えていたの。そして処刑される前、『復讐はしないように』という言葉と一緒に、『私の夢を託す』と……。弟子の私が師匠の想いを継ぐのは当然だわ。それに私も魔族は善良な種族だって知っているもの。」
「そうだったんだな……。」
「エギュアス殿。少し行きたい場所があるのだけれど、許可してくれるかしら?」
「総軍団長として、か?」
「いいえ、私用よ。」
「そうか。行っていいぜ。止めても行くだろうが。」
「ふふっ。そこまで自分勝手じゃないわよ。ではまた後で。」
「ああ。」
私が向かった場所、それは元テイナーシュ王国国王と勇者ゼイスがいる禁固だ。
瞬間移動でその中に転移する。
魔法を使用不可にする結界が張られた禁固内に、いとも容易く移動したのだ。
中の音を聞かれないように結界を張っておいた。
「なっ!何故お前がここに居る!?」
「無様な姿ね、勇者ゼイス。」
「貴様のせいだろう!そもそも、魔法が使えないこの場所に、何故転移してこられるんだ!」
「確かに魔法を使用不可にする結界が張られているけれど、私が常に張っている結界でその効果を弾いているわ。魔法使いにとって、対策をしておくのは当然だけれど。」
「くっ……何をしに来た。」
「様子を見に来ただけよ。それと、今の外の様子を教えてあげるわ。1ヶ月前、人族と魔族による会談が行われた。そして条約が締結され、人族も魔族も共に暮らしているわ。言葉通り、『共存』しているのよ。」
「何だと…?!共存など、出来るはずがない!」
「事実よ。魔族や魔物に対する認識が変わったの。正しい知識が広まり、魔王が魔物を操っているわけではないということも伝えられた。既に時代は新しくなっているわ。勇者とは、名ばかりのものになってしまったわね。」
私はくすくすと笑う。
ゼイスは私を殴らんと立ち上がったが、もしもの場合に備えて手を拘束されたままだったので、その拳が私に当たることはなかった。
国王は隣の禁固だ。俯いて大人しくしている。
「少しは反省したのかしら。」
「反省も何も、貴様のせいでここにいるんだ!」
「全く変わる気が見られないから、あの心優しいリュディーガ国王も貴方を解放しないのね。元国王は主犯だから、解放なんて無理でしょうけれど。貴方に反省や後悔、謝罪しようという態度があったのなら、慈悲を与えてくれたかもしれないのに。」
「はあ?何言ってやがる。俺が反省や謝罪する必要ねーだろ!何も悪いことはしていないんだからな!」
「よく言うわ……。本当にお馬鹿さんなのね。なら、その身が朽ちるまでここにいなさい。もう会うことはないわ。態度を改めようともしないお前を見ていると、怒りが込み上げてくるもの。さようなら。」
「ああ。俺も一生会いたくないな。貴様なんぞにな!」
心を落ち着かせながら、私は国王の禁固へと転移する。
俯き、心が折れているようにも見える。
1ヶ月の間に、随分と変わったようだ。
「久しぶりね、元国王。」
「ん……?シェルア……か。」
「すっかり別人ね。」
「……余は…間違えたのだ……。今思えば、エルザームを殺すという行為は、そなたの義父を殺すということも同義…。余も家族を殺されれば怒りに満ちるだろう。自分の地位守りたさに、エルザームの意思も確認せずに処刑した。本当にすまなかった……。」
謝罪を口にする元テイナーシュ王国国王。
だが、その言葉を聞き、今まで押し殺していた感情が込み上げてしまった。
「そう思える心があるのなら、どうして……最初から師匠と話をしなかったの…!?革命を目指す平民達が現れたのも、全てお前が平民の税を貪って、仕事もろくにせず贅沢な暮らしをしていたからなのよ!?なんで……師匠を…。」
「すまない……。」
泣きながら国王の胸ぐらをつかみ、軽く叩く。
非を認め、謝罪を口にされたら、逆に『どうして……』という気持ちが抑えられなくなった。
反省することを望んでいるが、謝罪をされると怒りが込み上げる。
反省や後悔をしていようとも、していなくとも、心が許そうとしない。
私は我儘だ……。
師匠が処刑されてから、私は強くあろうとした。
師匠がいなくても、大丈夫だと。
そして総軍団長になって、人族と魔族が共存出来るようになって…。
だが、心の底ではずっと穴が空いていた。
塞がる事がないんだと、分かっているからこそ忘れようとした。
何かを成すために動き回り、その間だけでも過去を忘れる。
目の前で師匠が処刑された、あの日のことを……。
「……今更後悔しても遅いの。勇者は加担した身。だからこそ態度を改めれば解放される可能性がある。でも貴方は主犯。一生この場所から出られることはない。貴方にも、もう会うこともないわ。さよなら……。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その後、シェルアは『賢者』と呼ばれるようになった。
『英雄』の弟子は『賢者』となったのだ。
だが今も、魔族領の『総軍団長』兼『魔王の右腕』として存在感を示し、世界を平和に保っている。
ガネンやラディナ、キユハとは、友人として今も付き合いがある。
一方、聖女メーシアはシェルアに謝罪をした。
『聖女』という地位を剥奪されることはなかったが、教会本部から出ることを禁じられている。
メーシアの本音を知ったシェルアは、改めて友人として接するようになった。
エルザームの処刑計画に、関わっていたわけではないからだ。
後から知った、というだけだった。
勇者ゼイスは態度を変えず、リュディーガ国王から呆れられていた。
まずい飯に文句を言い、早く出せなど、その他暴言を吐き散らかしている。
元国王は一言も喋らなくなり、ついには食事すらとらなくなった。
せめて食事をとるよう促すが、自ら動くことはなく、そのまま禁固の中で1年も経たずに息絶えた。
とある日--
私は今、エルザーム師匠の墓の前にいる。
丘の上に立つ墓石は、国王となったリュディーガが建てた。
遺体も墓石の下に埋められている。
手を合わせ、目を瞑って祈る。
「師匠。魔族と共存出来るようになった今の世界は、とても平和で活気に満ち溢れています。師匠の夢は叶っていますか……?私は……正しいことが出来たのでしょうか…。」
その時、誰のものか分からない声が後ろから聞こえた。
『夢を叶えてくれてありがとう。シェルアは私の自慢の娘であり弟子だよ。今までお疲れ様。これからの人生、存分に楽しんで。ずっと見守っているから……。』
「……えっ…?」
振り返ったが、誰もいなかった。
風で葉が舞い上がり、太陽に向かって飛んでいくように見える。
私は何故か安心した。
心に空いていた穴が、無くなったかのように。
すっきりとした気持ちで、
「はいっ!」
そう返事をするのだった。
この1ヶ月間は、私も魔王の側近として様々な国へ赴き、人族と魔族が共存する為に動き回っていた。
国と魔族領の間に条約が締結され、お互いに平和が訪れていた。
『相互和平条約』という名で、あらゆる国と魔族領で締結した。
人族の国へ魔族が入国し始めた頃は恐れられていたが、1ヶ月も経った今ではすっかりと慣れ、話が弾んでいる様子があちらこちらに見えている。
魔族に対する恐怖心はほぼ消え、魔物が現れた際も討伐してくれるなど、感謝される存在となりつつあった。
「はぁ~……。」
「疲れているな、シェルア。」
「当たり前よ。慣れないことをしたんだもの。まぁでも、共存出来るようになって良かったわ。」
「そうだな。これも全て、お前のお陰だぞ。ありがとう。」
「私は自分の望みを叶えただけよ。」
「だがお前が勇者すら倒せる存在だと知らしめ、他国の王達を脅していたからこそ、交渉が可能になった。先日の会談でも、私よりもシェルアを見て怯えていたぞ?」
「私はエギュアス殿が人族と会談を行えるようにする為、国王や皇帝に少し話をつけていただけよ。脅しだなんて心外だわ。」
「くははっ!間違ってねぇだろ。だが、本当に感謝している。シェルアが動いたからこそ、魔族にも平和が訪れた。」
「……師匠の夢だったもの。」
「エルザームの?」
「ええ。エルザーム師匠は、人族も魔族も手の取り合える平和な世界を実現したいと言っていたわ。英雄ということを利用して、魔族との架け橋になれないかずっと考えていたの。そして処刑される前、『復讐はしないように』という言葉と一緒に、『私の夢を託す』と……。弟子の私が師匠の想いを継ぐのは当然だわ。それに私も魔族は善良な種族だって知っているもの。」
「そうだったんだな……。」
「エギュアス殿。少し行きたい場所があるのだけれど、許可してくれるかしら?」
「総軍団長として、か?」
「いいえ、私用よ。」
「そうか。行っていいぜ。止めても行くだろうが。」
「ふふっ。そこまで自分勝手じゃないわよ。ではまた後で。」
「ああ。」
私が向かった場所、それは元テイナーシュ王国国王と勇者ゼイスがいる禁固だ。
瞬間移動でその中に転移する。
魔法を使用不可にする結界が張られた禁固内に、いとも容易く移動したのだ。
中の音を聞かれないように結界を張っておいた。
「なっ!何故お前がここに居る!?」
「無様な姿ね、勇者ゼイス。」
「貴様のせいだろう!そもそも、魔法が使えないこの場所に、何故転移してこられるんだ!」
「確かに魔法を使用不可にする結界が張られているけれど、私が常に張っている結界でその効果を弾いているわ。魔法使いにとって、対策をしておくのは当然だけれど。」
「くっ……何をしに来た。」
「様子を見に来ただけよ。それと、今の外の様子を教えてあげるわ。1ヶ月前、人族と魔族による会談が行われた。そして条約が締結され、人族も魔族も共に暮らしているわ。言葉通り、『共存』しているのよ。」
「何だと…?!共存など、出来るはずがない!」
「事実よ。魔族や魔物に対する認識が変わったの。正しい知識が広まり、魔王が魔物を操っているわけではないということも伝えられた。既に時代は新しくなっているわ。勇者とは、名ばかりのものになってしまったわね。」
私はくすくすと笑う。
ゼイスは私を殴らんと立ち上がったが、もしもの場合に備えて手を拘束されたままだったので、その拳が私に当たることはなかった。
国王は隣の禁固だ。俯いて大人しくしている。
「少しは反省したのかしら。」
「反省も何も、貴様のせいでここにいるんだ!」
「全く変わる気が見られないから、あの心優しいリュディーガ国王も貴方を解放しないのね。元国王は主犯だから、解放なんて無理でしょうけれど。貴方に反省や後悔、謝罪しようという態度があったのなら、慈悲を与えてくれたかもしれないのに。」
「はあ?何言ってやがる。俺が反省や謝罪する必要ねーだろ!何も悪いことはしていないんだからな!」
「よく言うわ……。本当にお馬鹿さんなのね。なら、その身が朽ちるまでここにいなさい。もう会うことはないわ。態度を改めようともしないお前を見ていると、怒りが込み上げてくるもの。さようなら。」
「ああ。俺も一生会いたくないな。貴様なんぞにな!」
心を落ち着かせながら、私は国王の禁固へと転移する。
俯き、心が折れているようにも見える。
1ヶ月の間に、随分と変わったようだ。
「久しぶりね、元国王。」
「ん……?シェルア……か。」
「すっかり別人ね。」
「……余は…間違えたのだ……。今思えば、エルザームを殺すという行為は、そなたの義父を殺すということも同義…。余も家族を殺されれば怒りに満ちるだろう。自分の地位守りたさに、エルザームの意思も確認せずに処刑した。本当にすまなかった……。」
謝罪を口にする元テイナーシュ王国国王。
だが、その言葉を聞き、今まで押し殺していた感情が込み上げてしまった。
「そう思える心があるのなら、どうして……最初から師匠と話をしなかったの…!?革命を目指す平民達が現れたのも、全てお前が平民の税を貪って、仕事もろくにせず贅沢な暮らしをしていたからなのよ!?なんで……師匠を…。」
「すまない……。」
泣きながら国王の胸ぐらをつかみ、軽く叩く。
非を認め、謝罪を口にされたら、逆に『どうして……』という気持ちが抑えられなくなった。
反省することを望んでいるが、謝罪をされると怒りが込み上げる。
反省や後悔をしていようとも、していなくとも、心が許そうとしない。
私は我儘だ……。
師匠が処刑されてから、私は強くあろうとした。
師匠がいなくても、大丈夫だと。
そして総軍団長になって、人族と魔族が共存出来るようになって…。
だが、心の底ではずっと穴が空いていた。
塞がる事がないんだと、分かっているからこそ忘れようとした。
何かを成すために動き回り、その間だけでも過去を忘れる。
目の前で師匠が処刑された、あの日のことを……。
「……今更後悔しても遅いの。勇者は加担した身。だからこそ態度を改めれば解放される可能性がある。でも貴方は主犯。一生この場所から出られることはない。貴方にも、もう会うこともないわ。さよなら……。」
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その後、シェルアは『賢者』と呼ばれるようになった。
『英雄』の弟子は『賢者』となったのだ。
だが今も、魔族領の『総軍団長』兼『魔王の右腕』として存在感を示し、世界を平和に保っている。
ガネンやラディナ、キユハとは、友人として今も付き合いがある。
一方、聖女メーシアはシェルアに謝罪をした。
『聖女』という地位を剥奪されることはなかったが、教会本部から出ることを禁じられている。
メーシアの本音を知ったシェルアは、改めて友人として接するようになった。
エルザームの処刑計画に、関わっていたわけではないからだ。
後から知った、というだけだった。
勇者ゼイスは態度を変えず、リュディーガ国王から呆れられていた。
まずい飯に文句を言い、早く出せなど、その他暴言を吐き散らかしている。
元国王は一言も喋らなくなり、ついには食事すらとらなくなった。
せめて食事をとるよう促すが、自ら動くことはなく、そのまま禁固の中で1年も経たずに息絶えた。
とある日--
私は今、エルザーム師匠の墓の前にいる。
丘の上に立つ墓石は、国王となったリュディーガが建てた。
遺体も墓石の下に埋められている。
手を合わせ、目を瞑って祈る。
「師匠。魔族と共存出来るようになった今の世界は、とても平和で活気に満ち溢れています。師匠の夢は叶っていますか……?私は……正しいことが出来たのでしょうか…。」
その時、誰のものか分からない声が後ろから聞こえた。
『夢を叶えてくれてありがとう。シェルアは私の自慢の娘であり弟子だよ。今までお疲れ様。これからの人生、存分に楽しんで。ずっと見守っているから……。』
「……えっ…?」
振り返ったが、誰もいなかった。
風で葉が舞い上がり、太陽に向かって飛んでいくように見える。
私は何故か安心した。
心に空いていた穴が、無くなったかのように。
すっきりとした気持ちで、
「はいっ!」
そう返事をするのだった。
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だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。
カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。
些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。
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