別れ話をしてみたら

side先輩

「他に好きなひとができました。だから別れてくだひゃい」

……噛んだな。

くだひゃいってなんだ、くだひゃいって。
可愛いな。

ヤバい、噛んだって思ってるんだろうな。
真っ赤な顔をしながら俺の顔を見つめてくる後輩であり恋人の聡(さとる)の顔を見つめ返した。

聡は考えていることが全て顔に出る。
さて。
なんで別れたいなんて言い出したのかな？
好きなひとなんて他にできているわけない。
だって、こんなに雄弁に瞳で僕のことが好きだって語っているから。

飼犬のコロに似ているな、というのが第一印象だった。
声をかけると、キラキラした目で見つめてくる。
見えない尻尾が見えるような嬉しそうな様子に和んだ。

僕のまわりにいる奴らは皆やかましくて、いつも適当に相手をしている。

聡との時間は、ほっと息をつける時間だった。

図書委員会で知り合って、一緒に当番をするうちに、可愛いな、から、好きだな、に変わった。

一緒に帰れることになったある日、聡に「付き合ってほしい」と言った。

するとテンプレのように、寄り道の相談だと思って「いいですよ」と答えた聡に、「じゃあ今から僕たちは恋人同士ね」と言ったらアワアワしていた。

「え、どこかに寄るっていう話じゃあ…」とか細い声で言うのを聞こえないふりをして、翌日にはわざと周りの奴らに付き合っていることを報告した。

最初は戸惑っていた聡だったが、だんだん僕のことを好きになっていっているのがわかった。
聡の熱のこもった視線は心地良かった。

キスやそれ以上もしてみたいけど、今の聡にはキャパオーバーだろうし、手放すつもりはないので、ゆっくり進んでいけばいいと思っていた。


それが突然の別れのお願い。

「図書館で見かけるひとが気になって…」

完全に嘘だとわかる泳いだ目をしながら言う聡。
お仕置きが必要だよね？