転生を断ったら最強無敵の死霊になりました~八雲のゆるゆる復讐譚~

ろっぽんせん

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不死者との邂逅

不死者バード

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・不死者バード
 昔々、バードという死霊魔法使いがいた。今日の死霊魔法のイメージを悪くした人物の1人とも言われており……霊を尊重せず、完全にひとつの道具として見ていた。しかし、そのおかげでわかったことも多い。霊がどれぐらいの時間で消えてしまうのか。霊と魔素の関係。霊が死霊系の怪物になるタイミング、その条件、それを基にした『魔王以外の手で』怪物を作り出す理論。強い霊と弱い霊の違い。彼が出した理論は今なお、死霊魔法、死霊術に置いて貴重な資料となっている。
 そんな彼なのでもちろん、ゼン神教会はしっかりと目をつけていた。彼は死後、リッチーになる可能性がある。彼がリッチーになったら大変な脅威になる……彼の死に目には教会関係者により取り囲まれ、その時代の誰よりも手厚い葬式が挙げられた。
 しかし、手厚く葬式が挙げられたにもかかわらず彼の魂は現世に留まった。そして、リッチーとは別……己の肉体の中に魂を入れる世界で初めての実験を行い成功させたのだ。この瞬間はじめて魔王の手を借りず怪物がひっそりと誕生した。この事実は世間では知られておらず……教会関係者はおろか、死霊魔法や死霊術を極めようとしている人すら知らないだろう。知っているとすれば、あずかり知らないところで怪物の種類が増えた事を知ることができる唯一の人物、魔王だけである。
 そんな不死者はいまどこにいるのか……色々な場所を転々としていたが、現在は森の中に家を建てそこにいた。不死者となると魔力や霊を補給するだけで身体を維持することができてしまう。時間を気にすることなく好きな時に好きなだけ、自分にうっとりすることができる。どういうわけか、不死者になった時、鏡に映らなくなってしまった時は本気で絶望したが、水になら自分の姿を映すことができることに気が付いてからは無限に時間をつぶすことができていた。バードが研究に明け暮れていたのは自分自身の美しい姿を永遠に残すためである。それも百年近く見惚れていれば、次は布教したくなってくるというものである。気が付けば、近くに集落ができていたので手始めにそこから己の美しさを布教しようと思った。
 バードの布教方法はいたって簡単である。人の前に姿を現す。それで見惚れてくれればそれでよし、見惚れてくれないなら噛みつけばよい。噛みついたついでに相手から血をすすり魔力を取り込む。更に魂と魂を触れ合わせればいい。魂には密度といえるようなものが存在しており、密度が濃い方から薄い方へと流れていく。バードの魂は色々な例を取り込んだおかげで他の人の数倍の魂の濃さを誇っていた。その魂で相手の魂をコーティングしてやれば操り人形が完成する。
 問題点としては、バードは元々は小人族であり……噛みつこうと思うと割と無理して背伸びをしなければならない。首筋辺りが一番、血管が通っており血もすすりやすく魂の接触もしやすいのだから無理をするほかないのである。
 そんなバードの朝はもちろん、遅い。少しの日の光もない夜になったら、ようやく活動を始める。普段ならそうなのだが……今日はそうもいっていられなかった。昨日は食事ができなかったのだ。どういうわけか、彼岸花畑に霊がひとつも存在していなかった。食事ができないからと言ってすぐに死んでしまうわけではないが、原因がわからないというのは恐怖でしかない。
「そういえば、昨日、死霊術士がやってきていたな……」
 一度、自分の魂にしてしまえばどれだけ離れていようがそれは自分、何らかのつながりがあり情報が入ってくる。リッチーと死霊術士のコンビが集落に滞在している情報ももちろん、バードに入って来ていた。ほぼ、確実にその2人が何かをしたのは間違いないだろう。何かのうわさを聞きつけて、自分を倒しに来たのかもしれないとバードは結論付けた。
「しかし……リッチーか僕の駒にするのもいいし、取り込んでしまえば暫く霊を食べなくてもよくなりそうだな。ふっ……しかし、お互い難儀だな。勝負は日暮れまでお預けになるとは」
 バードは自慢の赤毛を揺らしながら、日が暮れるまでゆっくりと休むことにした。睡眠不足はお肌の天敵……死体を魔力で動かしているだけなので老化や疲労とは無縁だが気分的に寝た方がなんとなく肌の感じが良い。折角、戦うのなら百パーセント美しい自分をメイドの土産として見せてやらないと失礼だろう。バードは独自の理論をもってベッドである棺桶の中へと入っていく。棺桶の中はは完全な暗闇であり、贅沢な素材を惜しげもなく使い強固に作ってあるのでもっとも安心できる場所である。
 がしゃーん!!!
 タイミングを見計らったかのように大きな物音が聞こえて来た。
「な、なんだ……まずい。今、出るわけにはいかなくなったぞ」
 もしも、この音が家の壁を壊した音だとしたら……今出ていくと日光に当たってしまうことになる。
「どういうことだ……死霊術士がいたとしても日中は何もできないはずだぞ」
 普通ならそうだ。死霊術士がリッチーを何か物の中へ入れたとしても家を破壊するほどの威力のあるアクションが出来るはずがない。一体何が起こっている?
 不幸な不死者バードは混乱しながら、外がどうなっているか知る術がなく、ただ大人しくすることしかできなかった。
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