転生を断ったら最強無敵の死霊になりました~八雲のゆるゆる復讐譚~

ろっぽんせん

文字の大きさ
45 / 48
不死者との邂逅

襲撃

しおりを挟む
・襲撃
 思えば最初から違和感があると言えばあった。どこの何に違和感を覚えているのかを言語化するのが難しかったので放っておいていたのだが、その違和感は朝、森の中にあるらしい家に向かう前のタンポポの言葉で明確に気が付くことができた。
「ヤクモさん、こちらの言葉はいつ覚えたんですか?」
「いや、覚えてないけど……いや、そうか」
 タンポポが不思議なことを聞くのでそれを否定しようと思ったが、ここの集落の言葉は不思議とわかる。死霊術士ギルドの面々、魂の交流を覚えてくれたエリザベス、サラの万能の言葉で言葉が通じる人が周りに増えたせいでなんとなく麻痺していたが俺の言葉は基本的に通じないし、俺は言葉がわからないのが普通なのだ。
「……前にタンポポに付き合って病院みたいな所へ行っただろう? その時に話の通じる奴に会ったんだ」
「あぁ、霊ですね。同じぐらいの知能レベルの霊はお話ができるんです。え、ということはその、ひょっとしてこの集落の人達は」
「怪物によって何かされていると考えた方が自然かもしれない」
 タンポポは目を閉じて腕を組む。しばらく、うんうん唸っていたが何か思い当たったのか口を開く。
「吸血鬼というリッチーと同格と言われている怪物がいます。死霊魔法の秘術によって死霊魔法使いが魔素から魂を守るために自身の身体に戻ったものです。物理攻撃が有効でもリッチーと同格と言われているのは……身体の全てを死霊魔法で操作できる所です。自身の何倍も大きな物をもって眼にも止まらぬ速さで動いたり、さながら物理戦闘が出来る魔法使いと言われています」
「この間たたかったあの剣闘士みたいな……いや、膂力とかを考えるとそれ以上になるのか」
「自身の傷も簡単に治してしまいますし、どういう理屈かは秘匿されているのでわかりませんが、魅了も使えるなんて話もありますし、更には噛みつかれるとゾンビやグールになってしまうなんていう話も」
 集落の人はすでに噛みつかれていると考えていいだろう。しかし、集落の人達は窓の外を見る限り日の光を嫌っているようには見えない。
「ゾンビやグールも日の光には弱いんだよな? 当たったらどうなるんだ?」
「じわじわダメージが入って最終的には溶けます」
 改めて外を見るがダメージを負っているようにも、溶けている様子もない。まだゾンビやグールになっていないかもしれない。折角の朝だ、急ぐ必要がある。
「よし、タンポポ少し急ごう」
 そうして、タンポポに鞄の中に入れてもらい、空を飛んで森の上を飛ぶこと体感10分ほどで家を発見することができた。すぐに突入しても良かったが、タンポポを守ることを考えるとタイミングを見る必要がある。
「ちょっと、中の様子を見てくる」
「はいっ……一応、不死者たちも死霊系に分類されるのでヤクモさんの姿は相手に見えるものとして考えた方がいいですよ」
「なら、顔だけ目立たないところから出しながら行くか」
 部屋の隅から顔だけ壁をすり抜けさせる。ダンジョンのように分厚い壁ではないのですぐに顔が壁からでて中を見ることができる。
「しかし、リッチーか。僕の駒にするのもいいし、取り込んでしまえば暫く霊を食べなくてもよくなりそうだな。ふっ。しかし、お互い難儀だな。勝負は日暮れまでお預けになるとは」
 お互いと言われてドキリとしたが、中にいた小さな影に気が付かれた様子はない。大きな独り言だったようだ。独り言を言っている小さな影は自分用に作ったのだろう小さな棺桶の中へと入っていく。その時ちらりとみえた顔は中性的な容姿に赤毛、赤眼の思わず見とれてしまいそうな美貌を持っていた。低い声さえ聞いていなかったら女生と間違えていただろう。
「棺桶に入ったぞ。こっちの世界の吸血鬼も棺桶で寝るんだな」
「ヤクモさんの世界にも吸血鬼がいるんですか!?」
「物語の中では大人気の存在だよ。あとでそれは話すから……とりあえず、今のうちにやっておきたいことがある」
 タンポポの眼が輝いたように見える。知識欲を刺激しまったことを少し後悔したが、しっぽや耳が世話なく動くのを見るとこれはこれでと感じてしまう。やりたいことがあるということで話を中断すると尻尾と耳がへにゃっとなるのも見逃さない。俺の世界の吸血についてはあとでたくさん話すとして……
「最近、わかったんだが木や植物に対しては色々細かく動かせるっぽいんだよ」
「そうなんですか?」
 おそらく、俺に細胞壁や細胞の概念があるからできていることだ。鉄や無機物に入った時はこの感覚はない。細胞壁や細胞のひとつひとつのつながりを関節のように捉えれば、ある程度なら形を変えられる。
「家、全体じゃなくていいから、この壁に俺を入れてもらえるか?」
「はい、もちろんですっ」
 タンポポの尻尾と耳の動きが復活する。呪文を唱えながら壁に血を付着させていく。指から血が出ているところは痛々しいのである程度の所で止める。
「え、でもこれじゃあ、壁全体とは言えないですし」
「これで十分だから」
 不思議そうな顔をするタンポポを説得して壁の中へと入れてもらう。血を少ししか付着させなかったからだろう、身体は思う通りに動かない。壁の中にいるというよりは何かに縛り付けられている感覚である。今までの感覚では絶対に動けないのだが……
「よっと……」
「なっ!? ヤクモさん!? 大丈夫ですか!?」
 ばきぃぃぃっととんでもない音がする。壁に穴が開いたのだから当然だろう。俺と俺じゃない壁の境目の細胞を切り離すようにイメージしてやれば案外簡単に抜け出すことができた。そして、家全体のバランスが崩れてガラスのような物も一斉に割れ始める。さすがにここまでは予想していない。出来るだけ早く動いてタンポポの盾となる。
「うん、これで吸血鬼も簡単には外には出てこれなくなったな……話し合いで解決できればいいんだが」
 隅かを壊した奴の話を聞くつもりはあるのだろうか……少し不安がよぎったが、俺はそれを否定するために必死頭を振ることしかできなかった。
「ヤクモさんっ。壁がぶるんぶるん動いていると怖いです」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...